脇役論
序文
ウケる少年漫画のキャラクター配置とはヒーロー・ヒロイン・ライバルに加えてメガネ
くんの存在が必須である事はかの歴史的名著「サルでも描けるまんが教室」で言及されて
います。
その中でメガネくんはヒーロー、ヒロイン、ライバルの三角関係に加えてヒーローの周り
を飛ぶ衛星のようなものと定義されていましたがそのメガネ君タイプの脇役でありながら
ヒロインの立場に成り代わりあまつさえ主役を凌駕するほどの人気を得た脇役のタイプを
その代表的キャラであるポップを中心として何人か名台詞とともに紹介し、その魅力につ
いて考察してみたいと思います。(取り上げてる作品が古いので未読の方はネタバレ注意)
ポップ(ダイの大冒険)
・名台詞
〜バッカヤロー〜
何故これが名台詞なのかと怪訝に思う方もいらっしゃるかもしれません
これは彼の口癖で物語序盤から度々出てきますが彼の見せ場の数々で実に効果的な使い方
をされているのです。
印象的なのは魔王バーンに対峙し、絶体絶命の状況でなおも抗うポップに対しせせら笑う
魔王に対し放った名台詞のシメとして、そして最終決戦後キルバーンの作動させた黒の核
晶をダイと共にトベルーラで破棄せんとする時にダイがポップを突き放し自分一人が犠牲
になる事を選んだダイに対して・・・
一見すると只の粗暴な言葉に見えますが場面々々において色んな意味合いで使われています。
上記で言う名台詞を引用すると
「あんたらみてえな 雲の上の連中に比べたら
おれたち 人間の一生なんて どのみち一瞬だろう!!?
だからこそ 結果が見えてたって もがき抜いてやる!!!
一生懸命に生き抜いてやる!!!
残りの人生が50年だって 5分だって同じ事だっ!!!
一瞬…!!! だけど…閃光のように…!!!
まぶしく燃えて生き抜いてやるっ!!!
それがおれたち人間の生き方だっ!!!」
これだけでも充分名台詞足りえますが最後に「よっく目に刻んどけよ!!! このバッカヤ
ロー−ッ!!!」」の部分を1Pまるまる使って叫ばせています。
このセンテンスだけなら少々間抜けな響き(良くでなくよっくな部分とか)にも聞こえま
すがこれは青過ぎる臭い台詞を書いた作者の照れ隠しでは無くポップのキャラクターを如
実に表す良い表現だと思います
この作品の中でポップはいわゆる普通の人間代表(魔法はつかうけど)で常に読者の目線
に最も近いキャラとして描かれ続けてきました
(正確に検証した訳ではありませんがおそらく作中最もモノローグが多いのが彼でしょ
う)最終決戦までに彼は戦力的にも人間的にも成長しますがポップはポップとして本質的な
部分は変わっていない事を読者に伝える為にどうしても必要だった部分だと思います。
(よっく〜がなければ子供たちはポップとの距離感を感じてしまうのでは)
・ツンデレ
マアムやヒュンケルの方がツンデレ属性は強いんですが、ダイがデルムリン島を出発す
る時にギリギリで船に乗り込んだポップが現在流行のツンデレキャラのテンプレート的台
詞の雛型ともいえる台詞を発しているんです。
「か・・勘違いしないでよっ あんたが心配で来たんじゃないんだかんねっ 先生の仇が
討ちたいだけなんだからー」(意訳)
ツンデレという名称自体は最近出来ましたが昔からサンデー系ヒロイン(特に高橋留美子
作品)ではポピュラーなヒロイン像だったツンデレを男性キャラに装備させツンデレは男
の方が萌えるという事実を少年誌上で列海王より十年近く前に証明した三条・稲田両先生
の慧眼には感服します。(青年誌では海原雄山が始祖だと思われます)
無論現行の萌えのルーツと呼ばれる手塚治虫作品でもヒゲオヤジ、ロックといったキャラ
もそうですし、ブラックジャックの大学時代の恋愛エピソードなんか正に王道のツンデレです。
とはいえ創作時点でポップを今でいう萌えキャラとして意図的に創作した(この事は単行
本の作者コメントや担当編集が初期でポップを殺させようとしたのを必死で説得したエピ
ソードから明らかです。)のは当時としては画期的だったと思います。
さて上記でいう王道とはツン部分が自分の好意や相手への思いやりを隠す為でかつデレ部
分が読者にはバレバレでも相手には中々伝わらないもどかしさ、つまりツンデレと鈍感
コンボを指しますが今作のポップとダイ君はそれとは少し違っています。
ダイ君はポップのデレ部分を早々に見抜き自分の好意を素直に相手に伝えそれを受けて
ポップは「バ・バ・バ・バッカヤロー」とツンデレるのです。
更にダイ君はそのポップ好き好き光線を自分に惚れてる女の子や敵の前でもためらわず発
射しまくります。
そうダイ君は最近ツンデレの対抗勢力として台等してきた素直クールなのです。(クール
部分はあまり無い様に見えますがポップの事を語る時は大抵冷静です)
つまりダイ×ポプは現在の2大勢力であるツンデレと素直クールを10以上も前に先取りし
なおかつそれを組み合わせるという時代を先取りし過ぎたカップルだったのです。
*ちなみに素直クールとは欲望剥き出しのデリカシーの無い相手に対しても冷静に自分の
好意を淡々と伝える(例:ヤりてぇっ→私もだ)飢狼伝(作:夢枕獏 絵:板垣恵介)の
堤城平のようなタイプを指すそうです。
・オヤジキラー
そんなダイ君とラヴラヴなポップですが彼にはオヤジキラーという一面もあります。
先ず最初にポップの魅力を引き出したのはニセ勇者一味の魔法使いまぞっほでした。
百獣魔団の猛攻に際し逃げグセを発揮したポップに過去の自分の姿を重ね合わせた彼は
ポップに自分の役割を気付かせその心中に勇気の種を落としてくれます。
この彼の落とした種が物語が進むにつれぐんぐん成長して行った事を考えるとある意味こ
の物語の最大の功労者かもしれません。(このあたりミスターサタンの先取りとも言えますね)
*まぞっほは実際クライマックスで黒の核晶を凍らせて世界を救う手助けをしてるんです
が読みきり時の敵キャラがクライマックスでなお重要な役割が与えられるとはインフレが
避けられないジャンプ系バトル漫画において正に奇跡のような存在ですね。
そしてその百獣魔団団長のクロコダインがおっさんキャラのポップ萌え第一号でした。
当初はダイにしか興味がありませんでしたがポップの精神性に触れるにつれどんどんポッ
プに傾倒していったのが容易に見て取れます。
記憶を失ったダイ君を見捨てて去っていった(芝居)を見た時の狼狽ぶり等も愛情の裏返
しでしょう。
まあこのおっさんポップが自分より強くなってからはリンガイアのハゲ隊長やチュウに
もフラフラしてたので(チュウにはわざわざプレゼントまで)”自分より弱いけど高潔な
魂を持ってる人”フェチなのかもしれませんが
キルバーンもポップを拉致して2人っきりになろうとしてたしハドラーやバーンも敗北を
感じ取った時に真っ先にポップの名を呼んでいました。(ハドラーはアバン先生に抱かれ
ながらでしたが)
かように数々のオヤジと浮名を流すポップですが他にも竜騎衆との決戦時に助けにきた
ヒュンケルの態度(これはツンデレ同志のカップルですね)やシグマからもプレゼントを受
け取っている事等を見てもメルルの付け入るスキが全く無いモテっぷりです。
・成長性
さてあんまりしつこいとそろそろヒいてる人もいるかもしれないので一般的な話題にも
触れておきます。
やはりポップの最大の魅力は物語の進行と共にありありとその成長が見て取れる処だと思
います。
単行本で30巻を超える長期連載にも係らずその成長が頭打ちにならず終盤まで成長し続
けなおかつ読者の目に不自然に映らず描ききったのは凄い事です。
しかも当初かなりヘッポコでのび白が異様にあったとかではなく初登場時からメラゾーマ
が使える実力者として出ているにも係らず
強さの表現が頭打ちになって外見的特徴の変化で強さを表すしかなくなったり、最終決
戦で自分の努力の成果を発揮するのかと思ったら練習もしてない今までの対戦相手の技を
パクリまくって勝ったり、SEXしただけで強くなったり、努力したシーンがまるで無いの
に新シリーズになったら何故かパワーアップしてたり、強さばかり追い求めて精神的成
長をおざなりにし過ぎてむしろ連載当初からどんどん性格が悪くなってたり、三日かそこ
いらの修行で以前ボロクソに負けた相手に圧勝したりあまつさえそれらを全て才能の一言
でかたずけるという到底普通の読者には納得できない成長よりも圧倒的に説得力があります。
ちなみに上記の例に特定のモデルとかは別に無いです。無いんだったら。
結局一般向けじゃねぇ
コンドルのジョー(科学忍者隊ガッチャマン)
・名台詞
〜ちっ 相変わらず役にたたねえバードミサイルだぜ〜
科学忍者隊は物語序盤は戦闘よりも平和維持活動を優先していた為バードミサイルを使
用するには南部博士の許可が必要でした。
沸点の異常に低いジョーはリーダーであるケンの制止をふりきりやたらとミサイルを撃ち
たがる困ったちゃんでした。
そしていざバードミサイルを撃つと鉄獣メカにはさっぱり効きません。所詮火の鳥の
前フリですし
そこで表題の台詞になる訳ですが普段あれだけバードミサイル大好きっ子をアピールしと
いていざとなったら突き放す。そういわば彼はデレツンなのです。(しつこい)
でもそんな事をいいながらやっぱりその後の回でもバードミサイルのボタンを押す役は誰
にも譲らず相変わらず無許可で押したがる彼はステキ
*本当はジョーにはカッコイイ感動的な台詞は沢山あるんですがどうしても物語の根幹に
関る重要なネタバレがついて回る為こっち方面をチョイスしました。
・知名度
かなり古い作品なのでおそらくガッチャマンを見た事の無い人の方が多数だと思います
がおそらくほとんどの人がコンドルのジョーという名称を目にし或いは耳にした事がある
筈です。
作中ガッチャマンと呼ばれるのは主役である大鷲のケン只一人なのですがガッチャマンと
聞いて先ず思い浮かべるのは100人中95人はジョーの方でしょう。
シリーズを通して観た事がある人なら判るでしょうがそれ程圧倒的な存在感をもっている
のです。
製作者も視聴者も皆ジョーのファンでありその影響力は凄まじくヒーロードラマの第一人
者宮内洋氏が演じるヒーローのほとんどはジョーを念頭において役作りしている事は見る
人がみれば明らかですしガッチャマン以降の漫画、特撮作品において正義感溢れる熱血主
人公に対しミステリアスな雰囲気を持つクールでニヒルなライバルキャラという王道的な
キャラ配置の始祖といえるでしょう。
かように知名度で完全に主役を喰ってしまっているジョーですが彼が主役としてシリーズ
が作られていたら果たしてガッチャマンがあれほどの名作足りえたでしょうか。
リーダーという立場から何度もジョーと衝突しつつも誰よりもジョーを信頼し熱い友情で
結ばれていたケンが決して影の薄い主人公だったわけではなくむしろこの二人の関係が
あったからこそコンドルのジョーの名が多くの人々の記憶に刻まれる事とんったのでしょう。
無論紅一点の白鳥のジュン、最年少の燕の順平、縁の下の力持ち的存在の梟みみずくの竜
といった他のメンバー達も只の脇だったわけでなく5人のうち一人が欠けても物語が成り
立たないいわば5人揃っての主役といえるでしょう。(脇役として紹介したのにこの結論
でいいんだろうか)
ロビンマスク(キン肉マン)
・名台詞
〜卵とおしんこも付けてな〜
マリポーサ戦前にキン肉マンの「勝ってくれたら牛丼の大盛りを奢るぜ」に対し言った台詞
英国紳士の彼らしからぬ、むしろコブラとかに出てきそうなアメリカンジョークっぽい響
きに銭形警部が「あなたの心です」などとキザったらしい台詞を吐いた時のような違和感
を感じつつも妙にカッコイイ印象が残ります。
その後も休載後のハンモックネタ等この頃になるとシリアス一辺倒だったキン肉マン(ゆ
で理論へのツッコミ処とかは置いといて)にウィットにとんだユーモアを持ち込んでくれ
た彼の功績は大きいと思います。
・リーダーシップ
キン肉マンの作品としての方向を決定づけた最初の超人オリンピックの最大のライバル
であり、悪魔超人戦以降正義超人軍のリーダーとしてインフレに脱落することなく最終シ
リーズまで皆を引っ張ってきたロビン
又彼は作中で唯一キン肉マンと二回以上闘った男でもあります。(ギャグ漫画時代のキン
骨マン除く)
正直王位争奪編でのラーメンマンやブロッケンJrの強さは凄く後付け臭いんですがほぼ
全シリーズで名勝負を繰り広げ(タッグ編はパートナーがウォーズでなければ
ネプの正体暴きにこだわらなければ結構良い勝負になった筈)その強さに非常に説得
力があります。
特に個人的にVSマンモスマンは肉シリーズベストバウトだと思っています。
初登場以降かませ人生まっしぐらな弟子に比べて成長性も主人公以上です。
緑山(本気!)
・名台詞
〜本気さんが付けてくれるならポチだってミケだっていい〜
本気に生まれてくる子供の名付け親になって欲しいと頼んだ時の台詞。 相手を完全に
信頼していないと出ない台詞ですね。
*ちなみにこの後すずめに”つぐみ”と命名されたんですが本気は後に子分の子供に十
(ブタ)なんて名前をつけたので本当に付けかねない
・チンピラ
萌えキャラという点なら羆組の南条の方が適任だし緑山はさほど人気があったとは思え
ないんですが単行本1巻で15.6歳くらいだった本気にボコられてたチンピラだったの
が31.32巻でほぼ主役だったのが印象的だったので取り上げました。
*最近では弱虫でも初期に画面の端っこにチラチラ写ってたけど台詞すらなかったような
キャラが単行本が30巻近く出る程年数が経ってから突然重要キャラになったりするので
立原作品は油断出来ない
集優会(多分集英社とは関係有りません)解散後、風組を破門され職にもあぶれている所
を本気に拾われ井上と共にチキンクラブ(ちなみにこの店の改装費用は本気が育てていた
子供の名前をもじった馬を買った配当から出ています。やってられませんね)で働いてい
た処復活した集優会にハメられ井上を守る為一人やくざに戻ることとなった緑山
只のチンピラだった彼が常に本気ならどうするかを考えて行動する内にどんどん貫禄が付
いてきて下のものにも慕われ、姿を見せずに尾行していた人物を誰だか言い当てる超能力
まで身に付けていきます。
この頃の本気はすずめの初潮を知ったり子供の名付け親を頼まれたりしてオタオタして
たのでかえって緑山の方が落ち着いて見えたくらいです。
いわゆる”良い人化”したキャラは他にも雷音組の草だった新井や錦組の佐伯もいるん
ですが単行本二冊分も使っている事からも特に作者の思い入れが強いキャラだったのかも
知れません。
*作者コメントによると立原先生はいじめられっこだった時期があり悪役に名前を使った
事もあるそうですがいつか本当の友人にとの思いを強く持っていたそうです。
これらの良い人化したキャラはそんな作者の想いが具現化したのかもしれません。
後記
俺フィーの騎馬拓馬.、極楽大作戦の横島忠夫等も取り上げる予定でしたがこの辺で
紹介した脇役達の共通点はハッキリとした成長が見て取れる事です。
その成長は強くなった結果をポンと出す記号的な物でなく、その過程をキチンと読者に納
得のいく形で提示しているキャラを集めてみました。
残念なのは最近の作品からこの手のキャラが見つけられなかった事
強いていえばじゃぱんの河内とブリアクの五反田なんですが二人ともいまやリアクション要員
これからもっと魅力的な脇役パターンが出現する事を願って終りたいと思います。