『不動点』

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ことば−8


とある休日の夜、実家へ届け物をするために車で出掛けました。実家までは1時間少々の行程なのですが、自宅を出てからの30分間は信号も多く距離的には3割ほどしか進みません。ところが後半の30分は信号も少ない田舎道ということで、距離的には全体の7割ほどを消化できます。帰り道は当然この逆で、実家を発って30分間ほどはドンドン走れるのですが自宅が近くなるほどに信号の数が増え、時間の割には距離を稼げなくなります。この日は休日の、しかも夜間でしたので道も空いているだろうし、のんびり走ろうと思い車を出しました。

駐車場を出る時に時刻を見ると午後9時12分でした。往復とも、いつもの走り慣れた道を通りましたが、思った通り道はガラガラ。途中で道端に停車し、3〜4分間ほど実家に電話などしつつ気楽に車を走らせました。実家に到着し玄関前に車を停め、サイドブレーキを引いた時に何気なく時刻を見ると午後10時12分でしたので丁度1時間で到着したことになります。

この日は用事としては5分もかからないのですが、ご無沙汰続きだったこともありすぐに辞するのも忍びなく、出されたお茶とお菓子を頂き一時間ほど世間話を楽しみました。そしてお互い眠気がささぬ間にと辞去したのは11時近くになってからでした。全くの偶然だったのですが、車を動かし始めた時に時刻を見ると丁度午後11時12分だったのです。「今日は12分に縁があるわぃ」などと独り言を呟き、実家を後にしてからは、中間点辺りの道端で缶コーヒーを買うために1分弱停車しただけで、来た時と同じ道をひた走り自宅まで帰りました。

そしてまたもやと言うべきでしょうか、自宅に着いて駐車場に車を入れ、サイドブレーキを引いた時の時刻が午前0時12分だったのです。その時は何も思わなかったのですが後刻休もうと床に就いた時、以前読んだ本に書かれていた「不動点」のことを思い出しました。この場合の不動点は「(往路の)9時何分過ぎかも分からないし(復路の)11時何分過ぎかも分からないけれど、往復した道の特定の地点を通過したのは確実に同じ分・同じ秒であった」、その特定の地点のことです。

でもこの場合、往復ともの所要時間が同じ1時間とは言え、行く道の途中では目的地に近い処で電話のために3〜4分間停車し、帰りの道中では中間点辺りで缶コーヒーを買うために1分弱の停車をしているのです。それにも拘わらず「行程上の一定の箇所を2時間違いの同じ分・同じ秒に通過する」というのはちょっと不思議な感じがしませんか?


不動点は数学の定理です。数学は生まれる前から苦手なので上手く説明は出来ませんが、これは見方を変えてみると至極当然のことなのです。例えば自宅から実家に向かって自分が出発するのと同時に、もう一人の自分が実家から自宅に向かって出発するものとします。各々が一時間丁度で目的地に到着するならば、途中で停車しようが渋滞に遭おうが、同じ道を移動する限り、必ず行程上の何処かの地点で両者はすれ違うはずです。このすれ違う「点」が当に不動点なのです。


往路と復路が同じ道であれば必ず不動点は存在するはずで、だからどうだということはないのです。が、偶然にも移動の始めと終わりの各時間が正確に12分であったため、改めて不動点の存在を意識しました。眼にも見えず認識すらし得ないが、逃れられない枠組みのように存在する数学上の定理としての不動点。それに限らず人間を含む万物は、自由なようでも結構色々なそんな定理に囲まれ暮らしているのではないか・・・、という気もします。その夜はそんな見えもせず感じもしないものの存在を体感したような気がして、暫し眠りに就くのが遅くなりました。


※ 他の不動点の例 ※

同じ絵柄の印刷してある紙(例えば紙幣とか)を2枚用意し、重ね合わせて透かして見ます。紙幣ならば「1000円」という文字や「人物像の目や口」もピッタリ重なって見えることを確認後、一枚をくしゃくしゃに丸めて、もう1枚の広げて置いた紙幣の上に置きます。はみ出さないように置きさえすれば、どの部分に置いたとしても最低一ケ所は、重ね合わせて透かして見た時に重なっていた部分(点)の真上に来ているのです。どの部分かは分かりませんが、どんな置き方をしても、どの部分に置いても必ずそうなります。これが不動点です。(私、これは理解出来ます)

また絵柄の印刷してある紙を縮小コピー(紙幣はダメですよ)して、元の紙の上にはみ出さないように置きますと、どんな置き方をしても必ず1点だけ重なる場所があります(あるらしいです)。これも不動点です。(私、こっちは理解不能です。どなたか、分かり易く説明してくれる人はいらっしゃいませんか?)

そうそう。不動点定理を使えば、ある一瞬(瞬間毎に)、地球上で必ず少なくとも1カ所は無風の地点が存在することなども証明出来るらしいですよ。興味のある方はご研究されてはいかがでしょう。


【出典:(特になし)】




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