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燔祭の丘書影

燔祭の丘(はんさいのおか)
講談社ノベルス
発行 2011.01.05
定価:本体1320円+税



講談社ノベルスサイトに
シリーズ完結記念特別インタビュー
などなど
情報満載!


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建築探偵桜井京介の事件簿 of the World

建築探偵桜井京介の事件簿本編15巻ノベルス版
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みめいのいえ くろいめがみ ひすいのしろ はいいろのとりで げんざいのにわ
びぼうのとばり かめんのしま げっしょくのまど きらのひつぎ しつらくのまち
こちょうのかがみ せいじょのとう ゆにこーんのまゆ かげのやかた はんさいのおか


建築探偵桜井京介の事件簿短編・番外編(上段)・関連本(下段)
短編・番外編の画像クリックで各巻のコメントがでます
さくらやみ せんてぃめんたる・ぶるー えんじぇるす あう゛ぇまりあ
まじょのしんだいえ あべらしおん やかたをいく ひやしんすのいえ さくらのその


ノベルス版シリーズの表紙写真について
風来舎 写真工房


コメント一覧
 『未明の家』 顔見せ編

 主な舞台となる建物/伊豆熱川の黎明荘
 謎と事件/奇妙なスパニッシュ建築の構造の意味、そこで死んだ老人は他殺か事故か
 目立つゲスト/遊馬朱鷺 大胆不敵な腐女子

 1994年に刊行した第1作。このときはシリーズになるかどうかもわかっていませんでした。デビューして本が出るのも3冊目という、歳は食っていたがほとんど新人です。早稲田の大学院に在学中の若い友人に案内してもらい、私が大学に通っていた頃には建っていなかった新しい研究棟を見物した日のことを思い出します。いまになって読み返すとセリフ回しとか、どこかぎこちなくて照れます(特にノベルス版)。これを書いた頃はまだ自分は京介の身の上も蒼の本名も知らなかったのだなあと思うと、我ながら変な気がしてしまいます。これほど長いつきあいになるとは。

『玄い女神』 過去となった青春カレー風味編

 主な舞台となる建物/群馬県山中の恒河館
 謎と事件/過去のインドでの密室殺人と現代の連続殺人
 目立つゲスト/狩野都、京介の初恋の人(?)

 舞台は当時何度か泊まりに行った群馬県霧積温泉付近ですが、作中で大きな意味を持つインドの風物は自分のひとり旅の記憶によります。ヴァラナシの雑踏、行き交う物売りや物乞い、山羊に牛に猿、ひるがえるサリーの鮮烈な赤、遺体を焼く薪の火の色、煙の色。ガートの灼けた煉瓦の上に一日ぼーっと座っていても飽きなかった、あの空虚でありながら濃密な時間の記憶が私の青春だったようです。今でも旅は私の創作の原動力ですが、若いときに読んだ本の影響力が人生に大きくものをいうように、若い日の無目的な旅は小説の取材という目的を持ってする旅とは全然違いますね。

『翡翠の城』 日光旅情編

 主な舞台となる建物/山中の別邸碧水閣
 謎と事件/ある女性の記憶に刻まれた惨劇の情景の謎、洋館の意匠に関する謎
 目立つゲスト/工藤刑事 視覚イメージはルパン三世

 日本における和洋折衷建築への興味というのが、建築探偵シリーズの大きな流れのひとつなのですが、そういう意味ではこの作品も自分には忘れがたいもののひとつです。奥日光から金精峠を越えたところに実在する湖畔の宿の奥にもうひとつ湖水を作り、そのほとりに架空の大建築を建てたのですが、書き出す前に明治にさかのぼってそういう建物を建てる一族の歴史をまず年表に作り、系図を書きました。土地は実在の場所を選び、そこにふさわしい建物を仮構してその歴史を可能な限り細かく決めてから執筆に取りかかるという、「建築探偵」に限らず私の創作スタイルが固まったのはこのあたりからのようです。

『灰色の砦』 青春現時点、京介深春遭遇編

 舞台となる建物/W大近くの木造下宿、輝額荘
 謎と事件/下宿関係者の中で相次ぐ事故死と殺人、過去の事件
 目立つゲスト/学生大家の麻生ハジメ

 私の早稲田在学中は、構内でリンチ殺人が起きたり政治セクトによるキャンパスの封鎖があったりしたので、そうした記憶から大学内で殺人事件が起こり、それを京介を含む学生たちが推理して解決するという話をを一度は構想したものの、時代背景がずれるので不自然だろうとそれは断念。輝額荘は大学近くに実在した木造の下宿館をモデルにしていて、クラスメートが四畳半で生活していました。東京に家があって親元を離れたことのない私は、それがとてもうらやましく、部屋に空きがあれば家を出てそこに住みたいと思っていました。結構人気の下宿で、常に空き待ち状態だったのです。結局経済的な理由もあって断念したのですが。

『原罪の庭』 蒼京介出会い編

 舞台となる建物/東京白金の美杜家邸宅の庭に建つ温室
 謎と事件/過去の殺人死体損壊事件の犯人と動機
 目立つゲスト/やっぱり門野貴邦
 
 作者屈指のお気に入りキャラ、怪老人門野初登場。オヤジくらいの年齢の神代さんが、老人に若僧扱いされて翻弄される、というのも好みのパターンらしいです。それからなぜか昔から温室というものが好きで、イギリス、ロンドン郊外の植物園キュー・ガーデンの大温室、パーム・ハウスの美しさはいまも忘れられません。白塗りの鋳鉄がガラスを支える内部空間に、毎日決まった時間に霧の雨が降り注ぐのですよ。ガラスと鉄骨によって造られる建造物というのは、人類の建築史においても大きな曲がり角のひとつだったのだな、ということを、小説を書いていて気がつきました。ガラスの透過性(一種の非物質性)と支持構造の露出という点です。素人考えだから的はずれかもしれないけど。

『美貌の帳』 いよいよ第二部開幕です編

 舞台となる建物/伊豆山中のプティ・ホテル、エルミタージュと、隣接する和風邸宅
 謎と事件/伝説の女優を巡る死と火災の真相
 目立つゲスト/神奈備芙蓉

 大好きな建物(現在の東京都庭園美術館)に加えて、大好きなシャンソンと芝居をモチーフにしました。「卒塔婆小町」の老婆から美女への変身ぶりも、「群衆」を初めとする素晴らしい歌も、神南備芙蓉のモデルである美輪明宏さんの舞台で実見できます。実在の、建物ではなく人間をこれほどはっきりとモデルにした作品というのは、私の中ではたぶんこれだけ。もうひとつの和風建築は、日光の田母沢ご用邸がモデルです。明治以降に建てられた近代和風建築は、意匠的には純然と和風でも、構造や水回りなどに洋風の影響が見られて興味深いです。

『桜闇』 最初で最後の短編集

 一番最初に書いたのが、京介がイスタンブールに旅をしたときの想い出と事件を、謎々の形で蒼に語る「ウシュクダラのエンジェル」。見えない人テーマ+疑似密室で、わりかし気に入ってます。その他にも短編のほとんどは現実に存在する建築物を舞台にしていて、事件は殺人は抜きだけどミステリ的な濃度は高い、と作者は思っています。ラストの「桜闇」は高校生の京介にあることが起きまして、一部読者(含む宮部みゆき様)の顰蹙を買いましたが、ご勘弁。

『仮面の島』 ヴェネツィアの冬は寒いよ編

 舞台となる建物/サンタ・マッダレーナ島のヴィラとヴェネツィアの街
 謎と事件/過去の贋作名画を巡る謎と、現代の事件
 目立つゲスト/スフィンジェと呼ばれるスウェーデン女性

 イタリアの中でもヴェネツィアというのは独特の街です。この話はその街自体を舞台にして、そういう場所にふさわしい物語を紡ぎたいという動機で書きました。ヴェネツィアといえば仮面ですが、仮面舞踏会の連想から、ポーの幻想短編「赤き死の仮面」をもうひとつのモチーフにしました。マッダレーナ島は架空ですが似た雰囲気の島は見られますし、本島内で登場する風景や場所はほとんど実在しますので、本書を片手に散策を楽しんでいただけます。観光客の絶えた冬のヴェネツィアは神秘的な霧に包まれ、ときには高水に洗われて陰鬱ながらミステリアス。でもとにかく底冷えがするので、寒がりの方にはお勧めしません。

『月蝕の窓』 後で考えれば・・・編

 舞台となる建物/那須に建つ明治の洋館
 謎と事件/明治から戦後を通じて、ひとつの家系に絡む愛憎の物語と、偽られた記憶を巡る事件
 目立つゲスト/松浦窮

 モデルとなった栃木県那須の青木邸は、ドライブの途中立ち寄ってみたら解体工事中で、しかしそこのプレハブにひとりでいた建築家さんがミステリ好きで、とお話のような偶然から内部を見学させてもらいました。いまは道の駅の施設として美しくよみがえっていますが、私の中にはその荒廃のたたずまいが焼き付いています。結果的にシリーズのターニング・ポイントとなった作品ですが、それは作者にも予想外のことでした。このときに書きたかったのは、忘れられた過去の虐待の記憶がよみがえるという、一度読んで強い印象を受けたノンフィクションの内容が、後で、実はその記憶は架空のものだった、カウンセラーの誤った指導が虚偽記憶を作り出したという大逆転を起こした、実際に起きたことをミステリの柱に据えたいというそれだけだったのです。

『センティメンタル・ブルー』 蒼の物語その1

 中編4本からなり、神代家で暮らし始めた蒼の子供時代から高校編、さらにその後まで。最後の「センティメンタル・ブルー」は、京介が那須にいる『月蝕の窓』のときは、蒼も東京で大変でした、というお話です。高校編で蒼の親友となる結城翳君が初登場いたしました。その登場編「ベルゼブブ」ではかつての高校紛争の時代が背景として浮上するのですが、そこには私の経験と記憶がそのまま重ね合わされています。

『綺羅の柩』 マレーシアにもタイにも行きました編

 舞台となる建物/マレーシアのカメロンハイランドに実在する月光荘
 謎と事件/ジム・トンプソン失踪事件の真相推理と、現代の殺人
 目立つゲスト/輪王寺綾乃

 日本ではシルク・ブティックの名前として知られるジム・トンプソンは、実際作中のような状況で謎の失踪を遂げ、いまなお真相は不明のままです。一種の歴史ミステリとしてその謎の答えを出してみたい、というのが執筆のひとつの動機でした。マレーシアのカメロン・ハイランドまで取材に行きましたが、ジャングルウォークは想像以上に過酷。でもその結果私が行き着いた結論は、案外妥当なものではないかなと自負しています。綾乃は『月蝕の窓』から二度目の登場で、もうひとり意外な再登場キャラがいます。

『失楽の街』 建築探偵東京大都市編
 舞台となる建物/同潤会江戸川アパートをモデルにした鉄筋アパートメント
 謎と事件/東京23区を巻き込む爆弾事件
 目立つゲスト/テロリストたち

 萩原朔太郎の詩が好きでした。同潤会アパートメントに興味がありました。全然関係のないふたつの材料を、もうひとつ「東京を舞台にした建築探偵的都市小説」という構想の器に入れて、ぐるぐるぐるっと掻き回してみたらこんなお話になりました。シリーズの中では異色作かも知れません。執筆の頃は江戸川アパートの保存運動が断念され、取り壊しが迫ってきた時期で、つてがあって何度も内部を見学させてもらいました。中庭に建つ堂々とした銀杏の大木は忘れられません。もうひとつ、神代さんと絡む群馬の不良刑事(『翡翠の城』に登場したキャラの再登場)がごひいきです。

『angels』 蒼の物語その2

 学園ものを書きたい、どの登場人物も捨てキャラではない、ひとりひとりが個性を持ったミステリを書きたい、タイムリミット付き閉鎖空間のフーダニットを書きたい、という動機から生まれました。自分の出身高校(都立文京高校)をモデルにした学校の平面図を作り、キャラ別に動きを細かく設定した時間割を作り、ずいぶん手間がかかりました。蒼もまた特権的な主人公ではなく、ひとりのキャラです。

『Ave Maria』 蒼の物語その3

 蒼が歳より幼いのではないか、という読者からの指摘に頭を悩ませたあげく、彼がなぜ大人になれないかというと、『原罪の庭』で明らかにされた「かつて彼がしてしまったこと」が、シリーズ・ミステリのお約束として前作のネタバレを回避するために不問に付されているせいではないのか、と思い当たり、それを解決するにはもう一度徹底的に、蒼を自分のしてしまったことと直面させるべきではないかということになってしまいました。というわけで『原罪の庭』の真相触れまくっています。

『胡蝶の鏡』 実は三題噺編

 舞台となる建物/ハノイに昔あった西洋館 現在もある博物館
 謎と事件/過去の日本人青年射殺事件の真相と、戦争がもたらした家族の中の傷
 目立つゲスト/公安のおばさん 

 『桜闇』に収録した「塔の中の姫君」以来のヴェトナムものです。ヒロインが再登場し、恋愛結婚の向こうのきびしい現実が物語となります。あの国にもずいぶん何度も行きました。その間にめざましい経済発展を遂げ、でもなんとなく私の好きになった部分(フランス的なお洒落さとアジアの田舎びた素朴さの希なる融合)は減ってきてしまったなあと思って、以来ご無沙汰のままです。伊東忠太については日記の資料が電子化されたらしいので、文庫にするときには、夢野胡蝶之助に関してなど、手が入れられるかなと思っております。

『聖女の塔』 長崎の舞台は使い回し編

 舞台となる建物/長崎県の離島と東京都下のカルト教団のビル
 謎と事件/人類における宗教の発生、信仰、そしてカルト、が絡む事件  目立つゲスト/謎の聖女

 カルト関係の本をやたらまとめて読みました。人間はカルト愛というか、カルト欲というか、そういうものを普遍的に持っているものだ、という結論に達しました。同人活動もカルトの一種だもんね。もとは良いもの無害なものが、悪に変化し犯罪化するのはわりと簡単なんだよ。性悪説ではないけれど、それが人間の本質さ。日本におけるキリスト教の受容と変貌は、長いこと私の関心を持つテーマのひとつでした。執筆時は明治の教会堂を訪ねて、長崎県内を集中的に旅しました。五島列島の北半分とか、まだ行けていないところはたくさんあるのですが、まったく日本も広いです。舞台とした波手島も架空の島ですが、一度で使い捨てるのはもったいないと思って、『美しきもの見し人は』(光文社カッパノベルス)にも登場します。

『一角獣の繭』 蒼が**しそこねて編

 舞台となる建物/避暑地の別荘、中華風味
 謎と事件/相似したふたつの建物で時を隔てて起こる殺人事件
 目立つゲスト/中性的な美少女

 長野県の上高地に惚れて、「よし、ここを舞台にするぞ!」というのがとにかく最大の執筆動機でした。混雑時の真夏を避けて、5月6月10月11月に何度かトレッキングをしました。そうしてひとつ決めると、そこにふさわしい材料が寄ってきます。桂の木の落葉はカラメルそっくりの香りがするとか。蒼の恋にはもっと非難が来るかと覚悟しましたが、意外やほぼ無反応。最後にあっさり振られたからかな?

『黒影の館』 ようやくここまで来ました編

 舞台となる建物/北海道の山の中にこんなものあるわけねーだろ的な大邸宅
 謎と事件/トリカブトを使った毒殺と毒殺未遂。ひとつは神代さんが犯人にされかかる
 目立つゲスト/魔少女モイラ 

久遠家の玄関ホールで輝く巨大なステンドグラスのブルーは、なんだか実際この目で見たような気がしてしまいます。ひねくれているのか素直なのかわからないアレクと、まだ青臭い神代さんは書いていて楽しかったもののひとつです。それからこのときも勝手に材料が寄ってくる現象が多くて、特に執筆中にミレーの「オフィーリア」が来日したのには、シンクロニシティか、とびっくり。

『燔祭の丘』 誠にお待たせしました編

 どの作品も書いている最中は、楽しいと感じられることは滅多になくて、頭を掻きむしるような思いをしているはずなのですが、過ぎてしまうと自分的に気に入った部分ばかりが思い浮かぶようで、なんだかナルシスティックでお恥ずかしい。しかし、このシリーズラストの作品については、まだ書き上げて時間が経っていないせいか、いろいろとアラが目に付いて、それほど甘い気分にはなれないというのが正直なところです。

(2011.02.03執筆)


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