墓場の亀太郎
亀太郎のおやじが、お茶碗の中でイイ感じに風呂に浸かっている。
『ババンババンバンバアーン、ハビバノンノ、ババンババンバンバアーン、ハアー、ビバビバ。イ〜イ湯うだあな〜アハハン。イ〜イ湯うだあな〜アハハン。ゆーげーがあてーんじょかーらーぽたりとせーなーかーにー、おーう、チベたあああああいいいっっっってなもんだ』
『おや、とうさん、ゴキゲンだねえ』
『いやいや、お陰さんじゃよ、亀太郎。お主がおらんかったら、ワシもこんな「朝寝・朝酒・朝風呂」なんて、とても出来ないんじゃよ。ありがとうよ』
『とうさん、生臭い、いや、水臭いじゃないか。とうさんあっての僕だよ。こちらこそ、いつも、ありがとう』
『そう言ってくれると有り難いのう。時に、ワシがこの姿になったのは、もう何年ぐらい前になるのかな?』
『ううん、そうだねえ、とうさんが死んで、とうさんの魂が僕の玉袋に乗り移ったのは、もう十五年ぐらい前になるかなあ。あの時はクリビツだったよ。僕の玉袋にいきなり手足が生えて、動き出したんだからね。玉袋には、目が無いから、柱のカドとか、あちこちに、どか、ばき、とかぶつかって、とっても痛かった』
そう、墓場の亀太郎のおやじは、一度は死んでしまったのだが、息子の亀太郎の玉袋に乗り移り、第二の生を謳歌している所だ。
本家の『目玉のおやじ』とは一線を画し『金玉おやじ』と周りに言われている。
『とうさん、そろそろ、風呂から上がった方が良いんじゃないの?ふにゃふにゃになっているよ』
『お、ワシとした事が。すまんの。今、上がるよ』
べちゃ。
『あ、頭が、重い・・・・・』
『とうさん、それはちょっと、ふやけすぎだよ』
『ナニ、そのうち、縮む』
『うちわで扇いであげるよ』
『すまんのう』
『ところで、僕、とうさんの風呂桶で、味噌汁は飲みたく無いんだけれど』
『・・・新しいの、買えよお・・・』
『とうさん、妖怪アンテナがあっちゃこっちゃ向いているよ』
『つっこみ所、満載かい、ワシは』
『大ジョッキにとうさんを入れて「まりもー!」とかやっている人がいたよ』
『それ、飲むンだろ。お、扇いでもらったから、段々、縮んできたよ』
『とうさん、まるで、手術前の、ベトちゃん・ドクちゃんを見ているようだよ。頭二つで。フラフラしてる。きっと、どちらか切り取られるンだね』
『よしなさい』
家にある『妖怪ポスト』には、毎日、様々なメールが押し寄せる。
ブロードバンドの世の中になっても、亀太郎の元には、妖怪から被害を受けている善男善女からの投稿が後を立たない。
『ほほーう。見ろ、亀太郎』
『ナンですか、とうさん?』
『一般ホスト、募集、とあるぞ。何、一時間、八千円からかあ。これ、亀太郎、・・・ワシ、行っていいかなあ?』
『とうさん、玉袋だけでは、女性を喜ばせられないと思いますよ』
『いやな、ワシが言っているのはな、お話をして、女性を満足させてしまう、という事じゃ』
『とうさん、玉袋とお話をして満足する女性はいないとオモワレますよ』
『ふうん、じゃ、いい。ヤメヤメヤメ。次いこ、次』
『あ、とうさん』
『どうした、亀太郎』
『イラクの方で、鬼畜米英にヤラレている人から、きゃつらをナンとかしてくれ、というメールが入ってますよ』
『・・・それ・・・』
『ナンですか、とうさん』
『・・・フツーに考えて・・・玉袋が、行った所で、・・・・ナンとかなる問題か?・・・エエ、オイ、コラ・・・・』
『そうですね。きっと、玉袋も、渡航禁止ですからねえ』
『ハイ、次、次』
『えーと、次のお便りは、葛飾区のペンネーム「アナル二世」さんからです。ロデムとかを手下に控えてそうですね。「皆様、今晩は。実は、私、妖怪につきまとわれて、困っているんです」あ、とうさん、来ましたよ。これこれ。これです。妖怪につきまとわれて、困っている人。えー、続きを読みますよ。「いつも角でいきなり出て来て、私をびっくりさせる彼、ぬらりひょん。彼にはいつもびっくりさせられるんです。エエーッ、そんな事までえ?っていう感じです。このあいだなんか、コートをいきなりはだけて、彼のいきりたったモノを見せられちゃって、もう、大変でした。大声で叫んだら、つるんっと消えてしまったんですけれど』
『なあ、亀太郎』
『はい?』
『これは、妖怪ぬらりひょんのシワザ、というより、只の露出狂、という気がするのだがな』
『ああ、さすがは、とうさんだ。いや、僕も、そう思っていましたが、つるんっと消える、っていうのが、どうも、妖怪っぽい気がして』
『ふむ。はいはい』
『あ、また気の無い返事をして。とうさん、ちょっと、弛んでますよ』
『妖怪アンテナも寝ちゃうよ。もういいや、次、次』
『次行きますよ。「亀太郎さん、こんばんわ。この間、酔って帰ったせいもあるんですけれど、行く道、行く道、壁なんです。どかばきべこばこ、とかぶつかって倒れるンですけど、倒れた後、良く見ると、何処にも、壁が無いんです。もしかして、車道に出る前に、ぬりかべが、私を助けてくれたんじゃあ無いかと思っているんですけれど」ですって。只の酔っぱらいですかねえ。全く、千鳥足になるまで酔う人の気がしれませんよ』
『ま、長い人生、そんな時もある。これはね、当人に聞いてみりゃあ、いいよ。おーい、ぬりかべーい』
『はい、師匠、ナんですか?』
『早いネ』
『妖怪ですから』
『ええと、これ、お前か?』
『ええと、僕では無いンですが、ちょっと、この地区の担当に確認してみます』
『確認、って、スグ、分かるの?』
『はい、壁にケータイ内蔵してますんで・・・もしもし、おう、俺だよ。えーとね、千葉で誰か、最近営業したか?ああ、一杯いるのね。じゃあ、そうか、別の事業所とか、かぶって無いか?いや、ウチら意外のが進出してない?ああ、そう、大丈夫、オッケイ、いや、すまないね、それだけだけどな。じゃあ、おつかれさまあ。えーと、師匠、ウチの千葉支店で、先月、やってますよ。助けてます。もっとも、夜中の千葉は車の通りが緩いので、武石インターあたりでしょうけどね』
『なに、お前、支店、もってんの?』
『あ、日本全国津々浦々、海外にもありますよ』
『すごいね、どうも』
『こないだ、ドイツの支店は閉鎖しましたけど』
『あれもお前かよ』
『最近は、バーチャルな壁が繁盛してますよ。「バカの壁」やら「死の壁」やら』
『あれもかい。ハハア、やるねえ。養老サンにとりいって、壁産業、大儲けだ』
『ええと、壁、建てるだけで、儲かりは、しないのがミソですな。儲かってンのは、アイツらですよ。エコ娘、小出しじじい、ぶっかけばばあ、ねずみ算おとこ』
『なんか、悪い事しかしてなさそうだなあ』
『妖怪ですからねえ』
『おーい、亀太郎。とりあえず、エコ娘、呼んでこい』
『はーい。えーこでーす』
『早いね、どうも』
『妖怪ですから』
『手前、最近儲かってるそうじゃあネエか』
『おほほほほほほ。金玉おやじがナニ言ってるのかしら』
『とうっ』
『わあああっ。頭の上に乗っからないでよ』
『人を金玉おやじよばわりした罰だ』
『まんまじゃないの』
『ったく自分だけ儲かりやがって』
『あら、これからの妖怪は地球規模で物を考えなくてはいけないのですよ』
『ま、確かに、住みにくいね。六月だというのにこの暑さだ』
『妖怪でそうなんだから、人間もそうでしょ』
『気が触れたのが今日も渋谷駅で駅員撃ってたよ』
『ね、そうなのよ。これ以上環境が悪化してキチガイが増えたらますます住みにくいでしょ?』
『ま、そこいらでパンパン撃たれても迷惑だしな。で、お前は何をやってんの?』
『文明以前には、もう、戻れないという考え方をベースにね。便利な物、快適な環境、それらを維持した上で、なおかつ地球環境を考える、という役目だネ』
『・・・ムシの良い事言ってんじゃネエぞ・・・』
『まあまあ、最後まで聞いてよ。環境問題ったって、イロイロ問題があるのよね。エアコンに使うフロンが南極のオゾン層を破壊しているとか、二酸化炭素が増えると地球温暖化になるとか、酸性雨がアマゾンの木々を枯らしているとか、灰色の未来SFがもう、まんま、実現しているというか』
『えーと、灰色の未来SFって、「日本沈没」とかか?』
『SF作家のネタで「日本以外全部沈没」とかいうのもあったね』
『あれもヒドイ話だ』
『でまあ、それらを、出来るだけ、先延ばしにするには、っていうのが役割としてあるのよ』
『人が悪いんだったらテポドンでも落として皆殺しにすれば良いじゃない』
『マア、ね。でも、折角ここまで快適な社会を作ってきたのよ。不具合は多々あるけどネ』
『地球の延命措置かあ。でも、そこまで、悪いの?』
『悪いから私が企業に対してイロイロ注文つけているのよ』
『ハハア。そこで金儲けしてんだな、お前』
『儲かってしょうがない。イヤイヤ。大体が、金玉おやじごときが、エコに対して、何か言えるの?大体』
『・・・とうっ・・・』
『わああああ、だから、頭の上に乗らないでよ』
『人を金玉おやじよばわりした罰だ』
『人じゃ無いじゃない』
『ウルサイウルサイ。いいか、ワシはな、こう見えても、「地球に優しい玉袋」なんじゃ。いくぞ。スーパーに玉袋をもって行くと無駄な包装をしないのでエコです』
『ナニ入れるんだよ』
『この製品は再生玉袋を使っております』
『再生すんなよ。大体、何の製品だ』
『この玉袋は電気の消費量が従来の十分の一になっています』
『電動かよ』
『人と環境に優しい玉袋』
『ブラブラしているだけじゃねえか』
『玉袋はイラクから撤退せよ!』
『え、まだ戦争やってんの』
『小2、玉袋で同級生を殺害』
『全然優しくネエじゃねえかよ。玉袋が武器になってきてるよ。大体どうやんの』
『口に入れて窒息死』
『鼻で息出来るよ』
『え?あ、本当だ。じゃ、鼻の穴にも入れて窒息死』
『潰れるよ』
『・・・とおっ・・・』
『そう何度も頭には乗させないよ』
『うわあっ』
・・・・・べちゃ・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そばで亀太郎が悶絶していました。
続く・・・のか?