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怪しい話U−133

「ネット研修」

 そもそもは、んなことできるわけないじゃんということから始まった話も幾つかあります。

 例えば人事院が一般職の国家公務員の研修に2005年度から、パソコンを使ってインターネット上で学ぶ「eラーニング」(電子学習)を採り入れたりすることにしたなんてこともその一つかと。

 全省庁職員を対象にした研修の類はこれまで、郊外の研修センターに通ったり、短期間の合宿を行ったりという形で行われてきたのですが、このコストが馬鹿にならないということが主なeラーニング導入の理由とされているようです。

 もちろん、個々の省庁でも研修センターでの合宿や短期の集中講座という形で職員のスキルアップを行っていたのですが、私がパソコンの講師役なんかをやっていた時代には経費がほとんど認められていませんでした。

 まあ、この場合の経費というのは、教材費と言い換えてもいいのですが、一人当たり2000円くらいのテキストや教材を使いたくても実質0円でなんとかしてくれという事が多かったです。

 結果的に、テキストを自作して研修所で必用部数コピーして配布というパターンが定番だったのですが、世の中には著作権というのがありまして、市販されているテキストから抜粋して無断で使えば違法行為になることは言うまでもありません。

 その意味で、辞職する直前は、ほとんどテキストの執筆に明け暮れていたといえば明け暮れていたのですが、多少なりとも予算が付けば外部講師に委託という事も可能でした。

 したがって、素朴な疑問として、従来、どれくらいの手間や経費がかかっていて、それがeラーニングを導入することでどのくらい削減されるのか非常に興味があるのですが、そのあたりは公表されていないようです。

 基本的なeラーニングの仕組みは、インターネットやLANなどのネットワークを通じて配信された教材を、個人個人の端末パソコンで受け取るという仕組みで、民間企業の研修では1997年くらいから実施しているところがありました。

 ちなみに、別に配信しなくても、ネットワーク上に教材を特定の(PDFなどの)ファイル形式で置いておき、自分の空き時間などにアクセスして必用な教材ファイルをダウンロードして利用するという方式もあります。

 教材も、著作権を放棄していなければ無制限にファイルをコピーする行為そのものが著作権の侵害ということになりかねませんから、何らかのコピーガード(複製を防止する)機能が必用となります。

 また、例えばコンピュータの研修なんかのときに顕著だったのですが、教材の寿命が2ヶ月くらいなので、常にバージョンアップしていないと時代遅れの知識を広める危険性がありまして、その意味でも紙で教材を配布するタイムロスを考えるとネット上にファイル形式で常駐させ必要に応じて上書きしておくという形式にはメリットがあります。

 職員が研修内容に関して疑問があるときには、担当にメールで質疑をすることも可能な時代ですし、よくある質疑応答に関しては別途データベースを立ち上げてFAQとして蓄積していくことも可能なんですが、こうなると研修担当官がかなりオールマイティにコンピュータを使いこなせないと対応できません。

 つまり、実務をある程度理解し、法律的な知識があり、(特にデータベース関係の)コンピュータ操作も一定以上の水準でマスターしていることといった能力が研修担当官に要求されるということです。

 もちろん、外注という手もあるのですが、その場合は守秘義務やらコストの問題といった別の壁が登場してくるかなと。

 農林水産省で、職員の研修や講習会に少し関わっていた頃に問題となっていたのが、会場を押さえて講習会を開いても、その時に抜けられない仕事が入っていると泣く泣く断念するしかないという人が少なからずいたこと。

 実際、当時は、1日の勤務時間をやりくりすれば1週間の内に30分から1時間くらいの時間を捻り出す事はできるという職員が多かったのですが、特定の日に半日とか丸1日、場合によっては数日といった単位で仕事を空けることができないという職員も多かったです。

 従って、その辺りのニーズに応える為にCD−ROMなどに教材を収録したものも利用していたのですが、これに関しては職場の昼休みを使ったり休日に自宅の個人PCでこなしていたようです。

 意外なことに、農林水産省の一部(笑)では、パソコン関係のスキルアップに関して、eラーニング(の様な事)に1999年くらいから対応していたのですが、後ろで策謀していた私の退職後にどうなったかは知りません・・・きっと誰かが上手くやって次の世代に対応していることでしょう(大笑)。

 しばしば、eラーニングのメリットとして双方向のやり取りができるということを上げる人がいるのですが、これは絵空事といえば絵空事で、1人の教官が数百名単位の受講生を教えるという形式が前提にある限り、物理的な限界があります。

 一昔前に、問題になっていたのが、教材に記載があったり、少し調べれば分かるような内容まで、”問い合わせた方が早い””聞いた方が早い”ということで受講生側が辞書代わりに教官側を使いたがる事例には事欠きません ・・・ 字が読めないんですかと何度言ったことか(笑)。

 FAQをデータベース化してその中に問い合わせ内容は記載がありますと言っても、”調べるのがめんどくさい”と公然と口走る人が珍しくなかった時代もあったわけです・・・もちろん、現在は職員のリテラシーが向上してこの辺りのことは改善されているでしょうが。

 また、データベースを魔法の装置かなにかと勘違いしているのか、端からDB(データベース)とは何かという事が分かっていないのかは微妙ですが、”あ、そういうことはDBができれば全て解決します!”と安請け合いする素人職員も昔は珍しくありませんでした・・・酷い時代があったわけですが、これも現在は改善されていることでしょう。

 逆に言えば、eラーニングには自動的にFAQの類が集積されるDBの構築が不可欠で、そこで蓄積された内容を順次、テキストなどに反映させていく仕組みが必用ということで、外部発注した教材を配信するだけならば、導入したのは良いけれど最終的にトータルコストが高くなってしまう可能性もあるかなと。

 後、ランニングコストやバージョンアップを考えると、素直に現行の研修体制を維持した方が結果的に安上がりだったという可能性もあるかな〜(このあたりは微妙)と。

 ちなみに、人事院のeラーニング型研修は、人事院のイントラネットを活用し、中央省庁とその出先機関の幹部も含めた職員約30万人を結ぶという壮大な構想の下に運用されていくそうです。

 研修内容の理解度テストも実施する予定だそうで、省庁ごとの受講率を調査し、公表することも検討しているというのですが、恐らくそうとうな反対意見があるだろうなあと。

 中でも、名前を匿名とするとしても、テストの得点の類は絶対に公表を了承しないんじゃないかなと・・・税金を使って研修を行い、その習熟度をテストという形式で計測するのは当然の事だと私は思ったのですが、当時は研修内容に関してテストを行うことに反対意見がかなり多かったです(笑)。

 少なからず”研修=同期の飲み会か懇親会”と考えている(それはそれで悪くないと思いますが)人達もいるわけで、研修会が顔繋ぎの場であるという説には、ま、一理あるかなと。

 通信教育などでも、スクーリングといった形で実際に受講生が一同に会する機会なんてのを設けていることが珍しくありませんし、ネットでもオフ会は珍しくありませんから、何を目的とするかということはeラーニングでも最初に明確にしておく必用があるんじゃないかなと。

 もっとも、従来型の研修も並行して行うとなれば、従来型の研修のためのスタッフとは別にeラーニング型研修のためのスタッフが必用となるんじゃないかなという気がしますが、このコストも意外と馬鹿になりませんが?

 国家公務員といっても、水産庁や防衛庁のように船に乗って遠洋に出ている職員もいれば、外務省のように外地勤務が前提の職員を抱えている省庁もあるわけで、国内に限定しても沖縄から北海道まで点在しているわけですから、東京まで日帰り出張が不可能という地域も実在します(というか、そういう辺鄙な処で勤務していたことがあります)。

 eラーニングは万能ではなく、メリットもデメリットもあり、単にスキルの向上ということではメリットの方が多いのですが、そこにどのくらいまでのコストの発生を認めるのかというあたりでできることとできないことが物理的に決まっていく傾向があります。

 ま、今となっては関係有りませんが、人事院が言い出すより5年以上早かったんだからいいとこ突いてたと妙な感慨に耽ったのでした・・・御存じのように、この手の時間差の伴う自画自賛が私は大好きです(笑)。

(2004/12/31)


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