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「霊 薬」 霊験あらたかな薬が霊薬で、難病に効くとされる事が多い ・・・ が、それゆえに偽薬や薬効が不明で素性が怪しい薬ともなんとも言えないようなものも多いジャンルである。 こうした霊薬は飲むだけで仙人になれる仙丹(せんたん)あたりがモデルというかルーツになっているのかもしれませんし、仙人や神仏、鬼、魔物に教えられたと由来を述べるケースもあります。 が、日本人の場合は諸外国と比べて薬が大好きな人が多いようで、血圧を下げる薬に上げる薬、そうした薬を飲むと胃が荒れることがあるので胃薬、その胃薬を飲むとガスが腸に貯まることがあるので整腸剤 ・・・とわかったようなわからないような処方をされても怒らないで、飲んでいる薬の数が多いことを自慢の種にするのだから困ったもんだなと。 仙術から枝分かれしたとも言われる漢方の基本は、症状に応じて薬の配合を変えることで、一本調子で薬を出し続けることは藪のやることとされ、葛根湯医者という陰口があったように、昔は疑う人が多かったようです(笑)。 具体的な霊薬ということになると、天末人油や天粉などが思い浮かびますが、もう少し手が込んだものに霊天蓋が知られています。 人肝もポピュラーですが、人の肝臓や胆嚢を加工したものは手を変え品を変え流通していたようですが、いわゆる熊の肝(きも、といいながら実際は胆嚢の加工品が多かった)のように動物の内臓を薬用とする事も昔からポピュラーです。 漢方や食養生では、おなじみの考え方ですが、悪いところを食べるという手法があり、肝臓が悪ければ肝臓を、目が悪ければ目を食べる事で不足分を補うとするわけです。 ちなみに、知恵が足りないから脳味噌を食べるといいのかといえば、脳味噌は精力増強の方へ働くそうで、人の生存本能から考えれば 残念なようなもっともなような(笑)。 一応、中国でも生命力の強い動物のものほど御利益があると考えた人が多いらしく、熊や虎などを含めて蛇や猿、鹿、蠍などなど野生動物のほとんどがいろいろな理屈を付けて食卓に上ったり薬に加工されていて、日本のように仏教信者が多く、表面的には殺生と肉食をタブーとしていた国で漢方の発想をそのままというわけにもいかなかったようです。 日本における人肉食に”薬食い”が少なくなかったルーツはやはり漢方(の発想)に求めるのが妥当だと思いますが、手に入りにくい物(レアもの)ほど効能が高いと思いたがる人間の今も昔も共通した心理が少なからず影響しているかなと。 普通の人はタブー(禁忌)として食べないものを食べることで神秘的なパワーが働いてこの苦境から逃れる事ができるという、一種の強烈な暗示効果によって病気が改善した例もあったことでしょうから、霊薬という分野が延々と続いたという事も当然考えられます。 こうした試行錯誤の一つの成果が薬膳なわけですが、これに関しては長くなりますからまた別の機会に触れるとして、今回は霊薬の話に戻ります。 人間を含めた自然素材を原料とする霊薬が多い中で、水に念を込めた霊水というジャンルもあれば、お札を燃やした灰などを加工した霊薬のジャンルもあります。 これらは、原料が枯渇しにくいため、常に一定の収入を保証してくれる反面、”病は気から”という名言を証明する物証となっているとも言えます。 怪しげな文字や図形を和紙に墨で書いたものに火を付けて灰とし、その灰を水と一緒に飲めば万病に効く(あるいは特定の難病に効く)という話は現在でも流通していますし、符術の一つのジャンルになっています。 事の真偽はともかくとして、紙と墨で難病が治ってしまうと困ってしまう人達も昔からいたためかどうかは知りませんが、何度と無く迷信、邪宗の邪教として歴史の裏側へ押し込められています。 人の心理の奇妙なところで、隠せば隠すほど、禁止すれば禁止するほどそうしたことをやりたがる人というのは出てくるとしたもので、結果的に玉石混淆の状態で、思い出したように表側へ吹き出してくる事があります。 こうした技術体系の幾つかは、表面的には禁止されているものの、効能が高い場合には裏側で伝授されている事もあるようで、時代の変革期などにたがが外れて表面化するのかもしれません。 あるいは、ガン患者のように、金も優秀な人材も湯水のように投入して対策を講じているはずなのに、逆に増加傾向が止まらない現状が、怪しげな黒焼きでもなんでも試してみようという人が絶えない原因とも言えます。 ちなみに、天末人油というのは、人を野焼きにするときに、途中の節を抜いた竹を遺体に突き刺しておいて油や体液の類を集めたもののことで、天粉といえば、頭蓋骨などの人骨を砕いて粉にしたもののようです。 戦争が恒常的に行われていた時代は、戦地で遺体や重傷者から肝を抜く行為も横行していたようですが、こうした荒っぽい臓器の採取は(○型肝炎などを含めて)伝染性の疾患が霊薬を媒介にして拡散した可能性を示唆しています。 米国の人気TV番組だった「Xファイル(THE X-FILES)」でも、大手鶏肉加工場の企業城下町でCJD患者が出て、その原因が実は・・・というブラックな回(File224 OUR TOWN)がありましたが、肉食によって動物から動物へ病気が移るという現象そのものは珍しくないのかもしれません。 * CJDに関しては、ヤコブ病の回を参照のこと。 今回、霊薬としたものを、さらに加工して流通する事もあったようなのですが、今となっては詳細は不明ですし、現在の霊薬である抗生物質の方がはるかに霊験あらたかではないかと私は思います。 抗生物質の効能を、ある種の黴を食べて菌を殺すと考えれば、迷信と科学の間の垣根に意外と低い処もあるような気がしてくるんですが駄目でしょうか(大笑)。 というか、抗生物質が無くなったら成立しなくなる治療というのはかなり多いのでは無いかと思うのですが、それ以外の薬でも意外と原料は何かなんてことは気にせずに飲んでいるものが多いような気がします。 原材料が何かわかりもしないのに、成分を列挙されたり化学式で表示されると、”なるほど〜”と学生時代に化学が苦手だったくせに(さもわかったような顔で)うなずいている人と、お札の灰を飲んでありがたがっている人との間に(薬効の差はもちろんあるとして)どのくらいの差があるのか私には良くわかりません(笑)。 (2005/11/07) |