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怪しい話−892

「デパート伝説」

 デパートの伝説といえば、食品売り場には巨大な鼠が必ず生息して、夜間に照明がおちた頃には我が物顔でちょろちょろしているとかいうのがあります。

 これには、どのような高級デパートでも不可避の現象のようで、専門のネズミ取り業者と契約していないデパートは無いとかいう噂も流れています ・・・ 噂ですけどね(笑)。

 幽霊絡みのデパートの伝説といえば、やはり(昭和47)1972/05/13の大阪市千日デパート火災(死者118人)の後日談で、単に火災絡みのデパートの伝説ということでは(昭和7)1932/12/16の日本橋白木屋百貨店(元・東急日本橋店)の火災ではないかと。

 白木屋の火災は、歳末大売出しとクリスマスセールが重なった時期で、開店前の点検でクリスマスツリーの豆電球の故障を修理しようとしたとき、誤って電線がソケットに触れて火花が飛び散り、それが着火して火事になったとされています。

 ちなみに、昭和に入って初めての高層建築物火災としても知られていますが、この火災は、8階建てのビルの(4階以上を)約14,000平方メートル焼失し、当時の価格で5,009,000円の被害が出たそうです。

 で、都市伝説になったと言ってもいいのが、”この白木屋火災で、女性が日常生活でズロース(まあ、パンツのことだ)を着用するようになった”というもの。

 これは、綱にすがって脱出しようとした女性の何人かが、風で裾がめくれ上がるのを押さえようとして片手を離したため、体重を支えきれなくなって墜落死したのがきっかけという解説が付きます。

 で、真顔で、白木屋の火災でパンツを履くようになったって本当ですかと聞かれることがあったんですが、あっさり書くと”それは嘘です”・・・・ だいたい、そんな統計資料があるわけないでしょう(笑)。

 つまり、和服から洋服への切り替わりが目に付くようになった頃に印象的な火災が起こったことから記憶にリンクされてしまったということらしく、その後も農山村の明治生まれの女性の大半は主に腰巻きですごしています。

 パンツといったところで無料で配られていたわけではなく、そんなに日本は豊かな国じゃなかったんですよ。

 冷静に考えれば、当時、デパートで買い物なんてことを楽しめた女性というのが社会のどの階層に属していたかを考えれば絶対数では当時の女性の中で少数派になることくらいわかりそうなものではないかと。

 では、いつごろ?といわれれば、これが着物姿ではいられなくなった頃ということで、学校では制服ということも関連してか比較的普及が早かったようなのですが、一般にはいわゆる戦時色が強くなりモンペで動き回り始めた頃のこととなるようです。

 整理すると、和服には腰巻き、スカートやズボンにはズロースという理解でよろしかろうということで、次第に女性が社会進出して男性に混じって働くようになって洋装が普及したからズロースに切り替わったということと、ズロースは腰巻きの代わりになるが、腰巻きはズロースの代わりにならないということが大きかったんじゃなかろうかと。

 少なくとも、関東大震災の時などに、河川に逃げて溺れ死んで打ち上げられた数百人を越える女性の死体の状況から腰巻きではなくパンツの着用をという話が出ても普及しなかった国ですし、この白木屋火災は、焼死が1人、墜落死が13人、傷者が67人の規模ですから、この程度のデパート火災の一つや二つで切り替わるわけがないでしょうに。

 どちらかと言えば、東京朝日新聞が5ヶ月後の(昭和8)1933/05/07の社説で「日本婦人はズロースなく門戸開放にすぎる」とか書いているのですが、マスコミなどの啓発キャンペーンはあったみたいです。

 ちなみに、「日本婦人は ・・・」というのを現代語訳すると「日本の女性は(腰巻きが主流で)パンツを履いていなが、これはあまりにあけすけで見えちゃう(から駄目だ)」ということになる。

 別の説では、寺田寅彦氏が、(昭和8)1933/01に、「火事教育」(白木屋火災に関しての随筆)を書いて、これで女性がパンツを履くようになったとか和服から洋服へ切り替わったという話がありますが、これも当時の日本の貧しさを考えれば無理があるなと。

* 寺田寅彦氏:「天災は忘れたころにやってくる」の警句でも知られる、物理学者・俳人・随筆家。

 誤解を恐れずに言えば、「火事教育」を読むことのできた女性が全女性のどれくらいいたか考えれば、これも影響を与えることができた対象はかなり限定されるだろうと私は思います。

 したがって、女性がズロースを履くようになったのは、時代の流れによるものであり、一つの事件によるものではないということ。

 で、千日火災に関しては、火災で焼け死んだ人に路上で再会して、”またお店に来てね”といわれて少し歩いてから、あれあの娘はあのときの火事で死んだじゃないかとか、今なお幽霊話に事欠かないようです。

 千日火災に比べると、白木屋火災というのはズロース伝説が主で、幽霊話が皆無みたいなのですが、まあ、着物がめくれ上がらないかしらと気にしながら死んだとすれば幽霊になる余裕はなかったのかもしれません。

 さて、デパートの伝説というか怪事件といえば、エレベーター抜きには語れないところがあるわけですが、長くなってきたので別の機会にゆずりたいなと(笑)。

(2004/04/13)


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