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2000年度海外作品感想

 毎度お目汚しで好き勝手な感想を書かせて頂きますぞ。作者(見てないか)やら翻訳者の方にも何ら媚びることなくハードに鋭く(本当か、それ(~_~;)核心部分を突いた感想を、週一ペースで何とかアップしたいというのを、今年のモットーとして運営してゆこうと新年に誓いましたことをここにご報告致します。いやはや我ながら回りくどいっすね(~_~;)。んじゃまあ、2000年版もいざ発進!

題名:悪魔の涙 THE DEVIL'S TEARDROP 著者:ジェフリー・ディーヴァー
出版:文春文庫 2000年9月1日第1刷 訳者:土屋 晃
価格:本体848円+税 極私的評価:★★★★

 ひっくり返し方が腑に落ちたって言うか、『コフィン・ダンサー』より一本筋の通ったハードなコンゲームって感じですな。決着付いてからの残りページに「おやっ」。読み進んで「やられたっ」。読み手は巡らされ計算し尽くされた仕掛けに瞠目するのみである。ここまで用意周到な社会病質者のチャンピオンを創造した書き手の勝ちである。ただ、ゲーマー同士の対決みたいに血が通ってないとの批判が出るでしょうが、そんな些細な瑕疵に文句を付けてはいかんぞよ。確かに『静寂の叫び』の頃よりさらにエンタメ性を高める筆裁きに、叙情性の欠如を取るか面白さを取るかの選択肢になってしまっているのが、勿体なくもあり…一概には言えない部分でもありますけど。

 ライムに続いて創造されたキャラであるキンケイドに関して、ライムの亜流的な性格付けがちょいと引っ掛かった部分がなきにしもあらず。それでも主人公に子供たちを付加してキャラを膨らませて物語的に有機的に絡んできた部分はマルかな。ひっくり返した部分でも子供たちを巻き込んで着地したし、おまけにもう一つのロマンスまで運んできたのだから、読ませどころを心得ているディーヴァーの職人芸とでも申せましょうか。んで、奥さんとの揉め事はどう解決したのかな? ってな部分で引っ張って、そのままシリーズ化の期待大ってとこですかね。んでもって、ライムとサックス、キンケイドとルーカス。余りある類似点が、登場人物をクロスオーバーさせたディーヴァーの苦肉の策って考え過ぎ(^_^;)。

 技巧派であり過ぎるディーヴァーへの批判っぽい感想が結構あちこちの読書系サイトで見られる今日この頃。ま、当たってる部分は確かにあるけれど、これだけサービス満点の作家なんてそうそう出て来ませんよ、と言っておきたい。ま、エンタメと割り切った作品群と一線を画した骨太の新作も読みたいものだと、一発作者にeメールでも送ってみましょうか(^_^;)。変化球に頼らなくてもまだまだ剛速球を投げられる主戦投手であると、読者は期待してるのよ。ライム物の次回作『The Empty Chair』で作者の今後の路線も見えてくるでしょうから、ペーパーバック見つけたらさっさと買って読んでしまおうかな。(2000年12月読了)

題名:臨界テロ CRITICAL MASS 著者:スティーヴ・マルティニ
出版:集英社 2000年10月10日第1刷発行 訳者:雨沢泰
価格:定価2625円(本体2500円) 極私的評価:★★★

 おや、珍し。リーガル・サスペンスの雄、スティーヴ・マルティニが放つハイテク国際軍事スリラーであります。そりゃあ、法廷ものばかりだったら読者に飽きられるでしょうけど、いきなりこれですか(^_^;)。確かにスケールだけだったらワールドワイドで主人公以外にも悪党が際立つ出色キャラでありますが、道具立てが大作り過ぎて本職の軍事スリラー作家には叶わない部分が散見いたしますぞ。軍事スリラー部分の踏み込みの浅さが、そのまま、本来得意のリーガル作品との差になって出て来てしまうのよね。ま、主人公の片割れが女弁護士ってとこにマルティニらしさを垣間見ますが、巻き込まれ型キャラとしては中途半端な活かされ方だし、いたぶられる一方で今時のヒロインらしく反撃してくれないと、物足りなかったりするのよね。

 研究所の職員がここまで活躍する展開ってのも、何だかなあ(^_^;)。一本気で正義感あふれる好青年ぶりに読んでいてこっちがテレてしまうぞよ。作者のヒューマンな作風が多少足枷になってるのかもしれません。その点、悪漢の存在感が続編でも出たらヒートアップしそうな予感を孕んで、なかなか美味しいエピローグではありました。新作はポール・マドリアニ君ものらしいけど、またこっち方面へ乗り換える気があるのなら、悪党ベルダン一押し! 此奴であっと驚く冒険スリラーを書き上げてくれませんかね>編集者からも突つかれてるでしょうから。

 軍事ハイテクスリラーとて、所詮は人間が上手く書かれていなければ、傑作たり得ないのは自明の理。法廷を取り巻く面々をあれだけヴィヴィッドに書き分けられるマルティニという作家の懐の深さを見せてくれた本作から、冒険小説派である我々読者方面への扉は開かれたばかり(『沈黙の扉』なんて作品もありましたが)と言ってもよろしかろう。何せこっち系の作品ならば、多方面への取材は欠かせぬゆえ時間が掛かるのでありますよ。手練れの作家の本気度を測れるであろう次なる冒険小説を期待して待つことに致しましょうか。ひょっとしてもう出てたりして(^_^;)。Amazon.com チェックしてみようっと。(2000年12月読了)

題名:コフィン・ダンサー The Coffin Dancer 著者:ジェフリー・ディーヴァー
出版:文芸春秋 2000年10月10日第1刷 訳者:池田真紀子
価格:本体1857円+税 極私的評価:★★★3/4

 リンカーン・ライムをデンゼル・ワシントンが演じるなんて許せん! アンジェリーナ・ジョリィも違うよな〜、やっぱし(-_-メ)。ゆえに映画の方は見ようとも思いませんが、ビデオ版のパッケージを見るとはなしに見てしまったのよ>ライムがベッドの上で上体起こしてるんだぜ。そんなんありかいぃぃ! やっとこ顔の表情を動かせる程度じゃなかったの? って、まあ、映画版の方にばかり文句たれてますが、閑話休題。リンカーン・ライム・シリーズ第2弾は、職業的殺し屋の登場で、一味違ったアームチェア・ディテクティブが展開されるわけで、一方ではアクションスリラー。一作で二度美味しい作品構造なのがウリ。そんでもって、ダンサーの造形がなかなかクールでハードでまことにイケてるキャラなのね。アームチェア=動けないライムとどう戦わせるのかが、興味の焦点になって来るのでありますな。必然的にワトスン役のアメリア・サックスの出番とクロスオーバーするわけだ。猟犬のように犯行現場を嗅ぎ回るサックスの八面六臂の活躍。違う方面でもライムをリードしちゃうし…ねえ(^_^;)。

 職人芸が足を引っ張った感がなきにしもあらず。科学捜査の最先端部分を見せつけながら、凝りに凝ったプロット作りを提供しようと無理無理に作った後半戦どんでん返しが、最初の路線で引っ張ってくれた方が力強さがグイッと一本筋の通った冒険サスペンス小説をイメージさせたのではないかと思わせる裏返し方(^_^;)。物語的な軽さが浮き上がってしまい、ライム絡みの人間模様と相まって、すれっからしのミステリ・マニアを納得させる出来には到達していないと言い切ってしまおう。読者サービスなんて二の次で、ディーヴァー本人の拘りで硬派路線を歩んで貰いたいものである。ま、面白すぎるのが罪な小説ってのも珍しいけど…(^_^;)。

 第3弾『The Empty Chair』があちらでは発売されているようですが、これ以上進むライムとサックスの関係が、かなり危ういキーワードになってるようで期待度大ってとこでしょうか。どうやらライム一行が旅先でトラブルに巻き込まれるとのこと。私見ではライムの介護士トムの物語上の役割が今以上に重要になってくると読んでおるのですが、さて。Amazon.comに発注してペーパーバックで読んでしまおうかとも思ったのですが、原書で読み終わる前に翻訳出ちゃうというジレンマが我が理性を呼び起こし、しっかり来年の翻訳を待つということに落ち着きました(^_^;)。空っぽの椅子ってことは、車椅子にいるはずのライムがいないってことだよな。う〜む、意味深なタイトルっすねえ。そうそう、最後にこの値段で出版した文芸春秋を誉めておきましょうかね。(2000年12月読了)

題名:痩せゆく男 THINNER 著者:リチャード・バックマン
出版:文春文庫 1993年8月30日 第8刷 訳者:真野明裕
価格:本体602円(税別) 極私的評価:★★★

 積ん毒山脈から掘り起こしたきっかけは、CSで見た映画版『痩せゆく男』なのであります(^_^;)。そうじゃなきゃ半永久的に眠りについたままだったに違いない。キング作品でもバックマン名義の作品って余り読む気がしないのですよ、何故か。キングである部分を逸脱してまで描かれた作品であること。キングであってキングでない部分が意図的に微妙に異なったテイストで、過剰な饒舌さすらもある地点でY字型に枝分かれしている部分が感じられるからなのよね。『デスペレーション』(キング)と『レギュレイターズ』(バックマン)の関係と言っていいか。パラレルワールド的な密接さではあるけれど、違うんだな、これが。バックマン名義ではホラーまで行かないスーパーナチュラルな部分を突き詰めているような感じか。

 話自体はよくあるジプシーの呪いってヤツね。弁護士、警官、裁判官に掛けられたってとこが現代的で面白いのだが、主人公が痩せてゆく過程の描写が圧巻なだけで意外に退屈な展開だったりする。中盤戦以降マフィアのボスが介入してきてからが俄然ヒートアップするのでありますぞ。マンハント。追いつ追われつの大活劇。こういう展開がバックマン流なのかな。ジプシーの呪いvs白人の呪い(^_^;)。民族差別の構造と呪いの構造をクロスオーバーさせて白人社会への諧謔ともなっている部分に、ふ〜むと考えさせる部分もあったりして、しかもクスクス笑える部分もあったりする。ここら辺のさじ加減の絶妙さがキングの上手さなんですねえ。

 痩せゆく男の呪いは解かれるのか。結末は皮肉な幕切れになるのですが、ハッピーエンドとはいかないところがミソですな。ジプシーの呪いに白人社会が打ち勝ったどころか痛み分け、もしくは事実上の敗戦投手ってか>ウィリアム・ハリック(^_^;)。ジネリの退場の仕方やら、ジプシー娘ジーナをもう少しストーリーに有機的に絡めてくれたならと、そこここに不満は残るのだけれど、アメージングなストーリーを紡ぎ出してくれたキング=バックマンには脱帽であるな。さあて、お次は超大作『スタンド』に取り掛かりましょうか。(2000年11月読了)

題名:ファントム PHANTOMS 上、下巻 著者:ディーン・R・クーンツ
出版:ハヤカワ文庫 2000年5月15日 15刷 訳者:大久保寛
価格:本体各660円+税 極私的評価:★★★★

 映画版が本年度中にひっそりとロードショーされたため、新装版として表紙絵が変わって再版されていましたねえ。初版が1988年だから12年前の作品(米国版は83年)でありますが、舞台がほとんど隔離された山間のリゾートタウンゆえさほど古さは感じさせません。当時読んだ時はこれほど凄いホラー作品は滅多にないと大興奮した作品でもあり、個人的にクーンツ萌えに罹った記念すべき一作でもあります。それまでのクーンツって今ひとつパッとしないホラーの書き手の一人としての認識でしかなかったけれど、80年代にこれを読まされたら「おお」と唸るしかありませんぜ、旦那(^_^;)。それほどのインパクト。

 今回ビデオ版で見た内容はほぼ原作に忠実であったけれど、時間の関係で結構端折ったエピソードやら結末の違いとかいろいろ再読して確認できたのが収穫ではあるね。ファントムの具体的なイメージが今ひとつはっきり出来なかったのだけれど、クーンツ自ら脚色に当たってる関係からこの映画版『ファントム』像こそが、クーンツがイメージしたファントムなんでしょう、きっと。何やら棘の生えた女性器のように見えなくもないけれど、クーンツ自身のトラウマだったりして(^_^;)。閑話休題。

 語り口の上手さがこのあとのクーンツ大ブレークを予感させてくれます。怖がらせるテクが抜群なんだわ。散らばったエピソードが集約されてベクトルが一方向に定まったとき、恐怖が一気に町中を包み込む。文字通り町中の人間を喰っちまうファントムの、ホラー史上に残るモンスターとしてのスケールに瞠目すべし。こんなヤツ相手にしてどうやって生き残るのか>主人公たち。手に汗握る殺戮の宴に恐怖しながら脂の乗りきったクーンツを味わってみては如何? ホラーを毛嫌いしてる方にも格好の入門書的存在でもあります。(2000年11月読了)

題名:アンダードッグス UNDERDOGS 著者:ロブ・ライアン
出版:文春文庫 2000年10月10日 第1刷 訳者:伏見威蕃
価格:本体733円+税 極私的評価:★★★

 ところによりポップでリアルでシュールなのは良いけれど、独り善がりな人物造形が難読さ加減に繋がっているのは否定できないかも(^_^;)。ま、面白ければそれでいいんですけど、ね。タイトルから想像していた内容も『負け犬野郎ども』と言うより、文字通り『地下の戦争の犬たち』って感じか。古くはスティーヴン・ハンターの『真夜中のデッドリミット』の主人公と同じトラウマ。シアトルの忘れ去られた地下街を物語の舞台に選んだとき、この作者、この作品のことをふと思い付いたのであろうか。追う者と追われる者が地下迷宮を疾走するお話。実は、『不思議の国のアリス』を下敷きにしてファンタスティックに展開しているらしいのですが、恥ずかしながら細かなところは訳注で言われてみなければ分かりませんがな(^_^;)。小生とて知識として知ってはいるけれど、んじゃ『アリス』を実際読んだことあるって人、手を挙げてっ言われちゃうと…ねえ。

 有機的に登場人物が絡み合ってないところがマイナス。各章ごとに人物が入れ替わり立ち替わり出て参りますが、エピソードの配合が唐突なんだよなあ。こういうのって積み重ねで読者に分かって貰おうとするじゃない、普通。この作者の場合、そうじゃないのよね。でも、部分的に突出した面白さがアンバランスではあるけれど、アピール度高いよって人もいるかも、ね。そうそう、地底の怪人どもが不思議の国っぽくてナイスでした。ファンタスティックな部分はいいのだけれど、現実を引き摺ってるリアリティの部分で我に返っちゃうと余計アンバランスさが強調されちゃうんだよなあ。ミリナーなんてもう少し書き込んでくれたらもっとぶっ飛んだいいキャラに仕上がるのに…個人的には、もう一皮剥けてくれるとロブ・ライアン買いにするんだけど、現状では旬より一歩手前の作家って位置付けでいいか(^_^;)。

 文春文庫のこの帯に騙されましたよ>『2000年最大の収穫、冒険サスペンスの傑作』。そんな収穫だったら文庫封切りにするかっての。昔はほとんどハズレがなかったんだが、最近の文春文庫って当たりとハズレの落差が激しいような気が…(^_^;)。読み手も選ぶ時代になりつつある昨今、やっぱり美味しい本は自分で探すが近道のようで。せっせと乱読して当たり見つける努力が必要でありますな。気が利いた装丁に気を引かれたらそれが当たりって自分なりの方程式を組んでいたのに、今回は少しばかりハズレました。そこそこ面白い本は当たりとは言わないのであります(^_^;)。実が熟した頃にもう一度読んではみたい作家ではありますけど、ね。(2000年11月読了)

邦題:ガラスの暗殺者 REQUIEM FOR A GLASS HEART 上、下巻 著者:デイヴィッド・L・リンジー
出版:新潮文庫 平成十二年三月一日発行 訳者:山本光伸
価格:上下各590円 極私的評価:★★★1/2

 絶え間ない違和感は何なのだろう。ゆるゆると進む物語展開に苛ついたのも事実。女主人公がダブルで苦悩しているゆえ、さらに苛つくこと請け合いであるぞよ。描写がぬるいのである。事態は緊迫しているのに彼女たちの緊迫度が希薄なのである。そんなんで良いわけ? サスペンスが物語から迫り出して来ないのが大いなる不満。リンジーってもっとハードな作風だったよねえ。というわけで、上巻は少しばかりスパイスの利いたハーレクインでございっ(^_^;)。そうなると下巻の展開も期待薄? さて。

 キーワードは『3P』なのだ(^_^;)。クルパティンとイリーナ、そしてケイト。クルパティン、チン、ボンターテの組み合わせもそうだし、文字通りのの3Pはイリーナとケイト、そしてチンの組み合わせから始まった。目眩く3Pの世界ってか(^_^;)。下巻から一気に展開する官能世界。そこから浮かび上がる愛憎劇が、暗黒の連関から逃れようとするイリーナと逃すまいとするクルパティン、FBIのケイトを巻き込んで、擬似恋愛から本当の愛を探り当てるオーバードライブの掛かったハーレクイン世界へ突入するところが凄いっ! ガラスの心を持つ暗殺者への鎮魂歌。ガラスは最期に砕け散る定めなのであろうか。

 ここまで心身共に潜入捜査に捧げてしまう捜査官の感情の揺れ動きに、グッと来てしまう読者もいるに違いない。もしくはガラスの心を持つ暗殺者の哀しき運命に…下巻からは感情移入して読めるようになると、リンジーの操る女性キャラの造形の見事さに脱帽してしまうのである。ラストの物悲しさがしみじみと心に侵入してくる。主人公の孤独さを浮き彫りにして、エピローグで救済を与えたもうた愛の形は最後までハーレクインでありました(^_^;)。表紙絵の女性は上巻がイリーナで下巻がケイトなんだろうなあ。ハードな愛の物語に浸りたい方にはお勧めしておきましょうか。(2000年11月読了) 

邦題:バッド・チリ BAD CHILI 著者:ジョー・R・ランズデール
出版:角川文庫 平成十二年九月二十五日初版発行 訳者:鎌田三平
価格:本体800円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 お下劣さの中に凛とした男同士の友情の臭いを嗅ぎ付けた方は、ハップとレナードの関係を正しく把握していると申せましょう(~_~;)。○ンタマについたダニに負けずR指定まっしぐらに突き進むレナードのダイ・ハードなゲイ生活は、ロマンス満載のハップと好対照でありますが、ハップはハップでターミネーター真っ青のリスとの対決で大汗掻いてるという、この訳分からなさ加減が絶妙なのよね。ハップが収容された先の病院で訳あり看護婦とのハードなエッチ丸出し生活ゆえ、後半戦、恋人がいなくなったレナードの方が聖人君子に見えちゃうトンデモ展開にランズデールのバランス感覚を垣間見たぞ(~_~;)。壊れそうで壊れないミステリ構造を何とかキープしているのも、ベテラン作家ゆえの控えめな脱線が奏功しているのである…かもしれない。

 『罪深き誘惑のマンボ』は既読なのだが『ムーチョ・モジョ』は未読ゆえ、ゲイとストレートがどうして友情を保てるかについての深い意味は読みとれませんでしたが(~_~;)、男同士の友情ものって結構普遍的なテーマだし、このシリーズが成功しているのもそこら辺にカギありだな。ジム・ボブ・ルークってキャラも『凍てついた七月』からの乱入キャラなんだけど、これがまたナイスでクレージーなクールガイで、相当キレてるよなあ。ランズデールのキャラの造形って彫りが深くてエッジが逆立ってて触るとケガする荒削りさって感じ。

 とんでもターミネーターぶりを発揮してくれたビッグ・マン・マウンテンもなかなかいい味出してたけど、冒頭のリス君には敵うまい。森から出てくるあらゆる動物が狂犬病でターミネーター化して襲いかかって来たらこれまた凄いことになってたかも(~_~;)。ラストの超弩級竜巻ですべてのお下劣を流し去れると思ったら大間違いで、まだまだこのシリーズはハイテンションで突っ走る模様であります。ダニから電気ショックまで、男は○ンタマなのだっていう大命題を押っ立てて、○ンタマの座ってる男の方が最期は勝つっていうシンプルな物語が心地よくトリップさせてくれました。それにつけてもハードボイルドしてるよな>ジム・ボブ・ルークってば(~_~;)。(2000年11月読了)

題名:屍体配達人 THE PROFILER 上、下巻 著者:ブライアン・フリーマントル
出版:新潮文庫 平成十二年九月一日発行 訳者:真野明裕
価格:本体各667円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 中国人のアンダーグラウンド組織である三合会を題材に選んだのはフリーマントルらしからぬミステークであったぞ。こやつらの残虐性は日本でもお馴染み。そういえば、日本でも神社の境内に中国人男性の局部だけが放置されカラスにつつかれるというとんでも猟奇事件がありましたが、こちらも中国人組織の影がちらついてましたねえ。週刊文春で連載している『中国人の犯罪』シリーズもこれまた驚愕の新事実続出でこっち方面に興味のある方は必読でありますな。あちらで死刑宣告された犯罪者が続々と新宿歌舞伎町に流れ込んでいるという不条理。「なぜこいつが…」搾取される側の中国人ですら絶句するのだそうである(^_^;)。閑話休題。

 それほどまでに国際化した中国人犯罪組織の引き起こした日常茶飯事的事件を、プロファイルしてことさらに騒ぎ立ててユーロポールで扱うほどの大事件にしてしまう状況が、我々日本の読者には鼻白んでしまう部分もなきにしもあらず。それでもフリーマントルのあくの強さは健在で、クローディーンの四面楚歌ぶりはほとんどチャーリー・マフィン状態(^_^;)。人間関係をじっくり読ませる構造になっていて、猟奇殺人は言ってみれば添え物的な展開はちょいと勿体ないってか。徐々に明らかにされて行くサングリエの嫌がらせの秘密も勿体ぶった割には、意外に底の浅い秘密であったし…ねえ。

 先に出版された『屍泥棒』より前の時制で、クローディーンとロセッティやらフォルカーの出会いが興味深く読めました。この両作品未読の方には、読む順序はどっちかというと本書→『屍泥棒』の順の方がしっくり来るかも。先にユーロポールの人間関係がより鮮明に見えてくるでしょう。彼女たちは三位一体で事件に当たる特捜チームみたいな感じになってますが、だいたいプロファイラーって現場に出て捜査指揮までしちゃう存在なのでしょうかねえ(^_^;)。近未来という設定になってますが、あくまで警察権は各犯罪成立国内にあると見るべきだから、現実にユーロポールが出しゃばってきたらこういう摩擦が現実に起こりそうではあるね。その辺の先取り感覚がフリーマントルならではと言えるかもしれません。

 そう言えば、クローディーンの大人の女性としての部分をことさら詳細に描写する部分は女性読者には拒絶反応があるやもしれませぬ。確かにリアリティを追求すればここまでヒロインを追い立てるでしょうが、男性からすれば「おやまあ」って感じですな。チャーリー・マフィン・シリーズには無かったフリーマントルのキャラの立て方ではあります。等身大のヒロインの苦悩を読者にも等しく分け与えようという作者のサービスということにしておきましょうか(^_^;)。

 ついでに『屍泥棒』の感想もあれこれ。12話からなる短編集ですが、これがまた惜しげもなく面白アイデアを次々と短編に仕上げてます。一話一話が立派な長編になる素材なだけにたまらなくスリリングではあります。逆に言うと、書き込み不足の部分もなきにしもあらず(^_^;)。こちらでも苦悩するクローディーンとその鮮やかなプロファイリングに感心させられてしまうのでありますよ。ちょいとスカーペッタを思い浮かべてしまうところもありますなあ。グロさも適度に織り交ぜられていて大人の読み物ということで…すべての人にお勧めとはいかない作品ではあるね。(2000年10月読了)

題名:骨の袋 BAG OF BONES 上、下巻 著者:スティーヴン・キング
出版:新潮社 2000年7月30日発行 訳者:白石 朗
価格:上巻2800円、下巻本体2700円(ともに税別) 極私的評価:★★★★

 下巻冒頭で邪悪の扉が開き、上巻から辿るこれまでのキングの重厚長大さがそろそろ我慢の限界だなと飽和状態にあった我が脳幹に新鮮な酸素が送り込まれる。膨らみ始めた骨の袋がホラーとしての骨格に肉を付け始めたのだ。ゾクゾク。キングはこうじゃなくっちゃ。怒濤のオーマイガー展開に度肝を抜かれつつ壮絶なるクライマックスへ。離脱不能の一気読み。静謐なるゴーストラブストーリーと卍巴で主人公ともどもキングの仕掛けたシックス・センスの渦に飲み込まれてしまう。骨の袋の中身がすべて。あちらの世界とこちらの世界とを結ぶ二人の存在=血の絆こそがキーワードであったのか。ううむ。超自然への恐怖はないと断言してしまおう。キングが創造したホラー世界の中の骨肉の憎悪にこそ身の毛を逆立てて下され。邪悪な意思こそが恐怖の源泉だということを。

 こういう小さな町の大きな邪悪さを書かせたらキングの右に出る者はいない。小さな悪から大きな悪まで…悪意のデパート。善良な顔をした小市民たちからやがてじわじわと滲み出す悪意の残滓。前巻で提示された亡き妻への疑惑が絡まって、謎が謎を呼ぶ死者たちの歴史ショーへと誘われる主人公たちと、現実を浸食されかけた事実に慄然とする幽霊奇談。セーラ・ラフス=湖畔の別荘の秘密。笑うセーラの顔は何色に染まるのか。もう一つの愛をも呆気なく破壊してしまうキングの底意地の悪さに辟易しながらも(^_^;)、ひたすら健気な女たちに感動してしまう部分も、もう一つのキングなのだなあと思うのだ。静の上巻、嵐の下巻。作家的成熟度が今がピークのキングを味わい尽くすべきである。だから読むべし。そろそろ訪れつつある秋の夜長に徹夜するも良し、虫の音にあちらの世界を想像しつつホラー・ファン以外にもお勧めなのだ。

 米国売れっ子作家出版事情なる内幕モノめいたサブストーリーもなかなか興味深いものがあるぞ。キングだから書けた部分もあるに違いない。だってここまで実名出して嘘八百は書けないでしょ(^_^;)。本書はキング自身が交通事故に遭う直前に出版されたそうですが、その後のキングを暗示しているようでどうにもイヤな予感が…ところが前にも増して旺盛な執筆活動を続けているようでファンはホッと一息というところでしょうか。やれやれ。この著者近影を見る限りこの男、やっぱり変だよなあ(^_^;)。こういう男だからこそこういう物語を紡ぎ出せるのであろうか。納得。饒舌さ加減は年を経るとともにお喋り婆さながらにあちらこちらを飛び回る姦しさ。そこがいい、と人は言うでしょうが、個人的にはこの諄さ何とかしてくれいと思い始めておりまする(^_^;)。それでも、分厚けりゃ分厚いほど面白さが保証される希有な作家ゆえ、この人の大作は読まねばなりませぬ。さあてお次は何が飛び出すびっくり箱を我々の前に披露してくれるか、お楽しみはこれからも続くのである。(2000年9月読了)

題名:凍る夏 SUMMER OF FEAR 著者:T.ジェファーソン・パーカー
出版:講談社文庫 2000年8月15日第1刷発行 訳者:渋谷比佐子
価格:本体1048円(税別) 極私的評価:★★★2/3

 殺人鬼ミッドナイト・アイよりも心が凍り付く、登場人物たちの内面如夜叉な愛と憎悪と欲望。これが凄い。連続殺人鬼そっちのけでパズルの間違って入った一片を取り除く作業に勤しむのだからして、本物の犯人が業を煮やして介入してくるわけだ(^_^;)。いやはやそういう訳のわからなさが混沌に拍車を掛けて、警官だろうが犯罪記者だろうが少女だろうが友達だって信じられないし、被害者が死んだはずだよ、お富さんになっちゃうトンデモ展開に口をあんぐりだよなあ、これ(^_^;)。面白いですけど。

 こっちでドタバタやってて、一方で、死に至る病で病床で伏せる愛妻との交流が哀切極まりなく、やがて哀しい結末を迎えるであろう前に…あろうことか殺人鬼が魔の手を伸ばす。ハラハラ展開はクソ暑い夏に読んでこそ背筋をヒヤリとさせてくれる冷血度。殺人鬼どころか警官すら凄まじいのよね。猟奇殺人自体が隠れ蓑になってるプロットゆえ致し方ないけれど、ショック療法的ミステリの書き方風が鼻に吐くかどうかで評価は定まるでありましょうねえ。

 愛憎の三角関係からしてメロドラマのようになるところを救っている主人公の愛の行方が、そして登場人物すべてが持つ愛の形が、パーカー操るところの小説的マジックなのだ。ただのミステリで終わらない読後の感傷世界。希望を残すラストがドライ過ぎずウェット過ぎず…ああ、ここまで読んでその気になった方は、まあ、読んでみて下され。過ぎゆく夏の想い出を二人は築くことが出来たのであろうか。(2000年8月読了)

邦題:黒の襲撃者 A WHISPER OF BLACK 著者:クレイ・ハーヴェイ
出版:扶桑社ミステリー 2000年7月30日 第1刷 訳者:島田三蔵
価格:本体705円+税 極私的評価:★★1/2

 アメリカの田舎者の一本気さって言うか、はっきり言っちゃうと愚鈍さが馬鹿正直に描かれていて、陳腐ではあるけれど、陳腐さを超えたキッチュな面白さがギャグっぽく読み手に訴え掛ける面白さ。 そんなの著者はぜ〜んぜん予期してなかったと思うけど(~_~;)。前作『ヴァーンスの死闘』よりパワーアップしたアホらしさ横溢で、前作で死んだはずだよ、お富さん=エクトール・ディアスが復活しちゃうトンデモ展開。ここでもう、マジに読もうって読者は皆無でありましょう(~_~;)。どこまでぶっ飛んでくれるのか。それだけ。

 作者の経歴ゆえ銃器関係の描写がマニアにはウケるでしょうが、帯にある『S・ハンターに迫る銃撃アクション!』には異議ありだな。ストーリーテリングの冴えがあってこそ生きるディテイルの確かさなのに、突出した銃器描写と陳腐なストーリーでは雲泥の差である。ただキャラクターの立て方が作者独特の味わいがあって、凄腕の女殺し屋ハーモニー・カーヒルが抜群の存在感なのだな。ラストの銃撃戦のオチが主人公の鈍臭さに比べると生き生きしてる違和感(~_~;)。タイラーよりカーヒルの方が魅力的なのよね。

 まだ続くんだろうなあ>ヴァーンス・シリーズ。次もこの調子なら、本当にギャグにしかならないぞ(~_~;)。これだけ脳天気な登場人物だらけのバイオレンス・ギャグ満載アクション作品はそうは存在しないので、マジに書き続けて頂きたいのだが、そろそろハーヴェイも自分の作品の本当の評価に気付くでしょうから、S・ハンターを目指して大化けするかもしれません。でも、ファンは彼のあるがままのキッチュさを愛すゆえ、分水嶺に差し掛かった今の路線の継続を密かに望んでたりして(~_~;)。実はワシもその一人なのだが…。(2000年8月読了)

邦題:囚人捜査官 HEAT 著者:スチュワート・ウッズ
出版:角川文庫 平成十二年七月二十五日初版発行 訳者:峯村利哉
価格:本体819円(税別) 極私的評価:★★★2/3

 『警察署長』やら初期のウッズと比べると、イメチェンしたライトな感覚満載の90年代半ばの作品群の一つではあるね。いろいろ聞いてはおりましたが、今まで埋もれていたその手の作品を発掘してきた角川のお手柄ではある。我々オールド・ウッズ・ファンは、ウッズであってウッズでない作品に複雑な感慨を抱くのであるが、よりエンタメ系へ進化した作家の選択に肯きこそすれ否定はしない。表紙絵通りに中身も劇画タッチであっても、ウッズの職人芸が随所に活かされた面白ハード・サスペンス作品に仕上がっているのだ。アクションシーンの切れ味は、むしろ映画向きと言ってもいいかも。こぶ平の解説も実に急所を突いていて、キレのない落語なんかよりこっち方面の才能を感じちゃったぞ。意外性を感じる発見(~_~;)。こいつはオレたちの仲間だって、ね。

 スリリングな潜入捜査官ものって、ハラハラ度が高いほど読み進むのが苦痛になるジレンマ(~_~;)。いつ捕まってリンチに遭って海の底に沈められるのか。来るべき悲惨な末路が脳裏に浮かび、ペシミスティックに拒絶反応に結び付く我が個人的性向が生理的にこっち方面の作品を忌避してきた理由なのですが、ウッズの健全さが安心感を与えてくれる部分があって、ストーリーでハラハラしながら、でも大丈夫的な予感を巻き起こしつつクライマックスまで一気読み。 この辺が長所でもあり短所でもあったりする。サスペンス度は高いけど、先が見えちゃう物足りなさ、かな。

 それでも面白いのは、イカすラブ・アフェアあり、アップ・ツー・デイトなカルト教団の内幕やら濡れ衣を晴らすべく潜入捜査の裏側で画策するジェシーの苦悩をしっかり書き込んでいて盛り沢山な読みどころ。理屈抜き。クソ暑いときに読むにはこれぐらいが丁度良いのさ。ラストは予想通りでしたが、これはこれでカタルシスを得られる大団円ちゅーことですわ。物足りないのは濡れ衣を晴らすべくジェシーが片を付けなかった部分かな。実にアメリカンなテイストの作品ゆえ賛否相半ばすると思われるけれど、『ゴルゴ13』あたりのサスペンスが気に入ってる方にはお勧め。ジェシー役には、こぶ平お勧めのニコラス・ケイジが意外に似合ってるかもしれませんね。(2000年8月読了)

題名:烈風 SECOND WIND 著者:ディック・フランシス
出版:早川書房 2000年7月15日 初版発行 訳者:菊池光
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★

 イレギュラーに刊行されたここ数冊のフランシスに不穏な雲行きを察したのは、やはり古くからの読者であろう。待望の最新作が遺作になってしまう不安。御歳80歳だそうですが、それでも本国ではファンがこの秋の新刊予定を首を長くして待っているそうで、とりあえず日本のファンもホッと一息というところでしょうか。でもねえ、巨匠健在と素直に誉められないところが切歯扼腕、内心忸怩たる我が感想(^_^;)。どんな作家も晩年はパワー落ちるんだもの、致し方ありませぬ。好々爺たる老フランシスの晩年には、悪夢を掻き立てるような悪辣無比なキャラを創造するには満ち足りすぎてしまったのでしょう。小粒の悪党に、申し訳程度のひっくり返し。嵐の孤島に潜む陰謀にしては牧歌的で、悪者系の牧場主が出てくるのも強引だよなあ。んでもって、気象キャスターと個人的な付き合いを望むほど、そんなに英国競馬界では天気予報が大事なんでしょうか。

 ストイックな気象キャスターというキャラに相変わらずだよなあと長嘆息(^_^;)。でもこれが無かったらフランシスじゃないし…いやはや難しいところで。出てくる主人公の名前と職業を変えたらいつも同じじゃんと言いっこなしよ。今回のペリイってキャラも私は好きですけどね。フランシスなら大いなるマンネリすら愛す我ら二十数年来の読者には問答無用で出たら即買いなのである。たとえそれが評価するに足らざる作品でも彼の貴重な足跡として追体験しなくてはいけませぬ。

 今回は序盤の冒険小説的アプローチに素直に感心してしまおう。文字通り烈風の中、台風の目の中心を飛ぶ描写なんぞ英国系冒険小説作家ならではの迫真力である。ド迫力である。ご老体が書く文章ではないでしょ。そんな中、あくまで冷静な気象予報士のペリイを操るフランシスの筆裁きは神の目に近付きつつあるのかもしれません(^_^;)。強さと優しさを兼ね備えた類い希なるキャラの創造を止めた時、彼は静かに退場してゆくのです。新作が翻訳されるであろう来年を待ちたいと思います。(2000年8月読了)

題名:海賊オッカムの至宝 RIPTIDE 著者:ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド
出版:講談社 2000年7月28日 第1刷発行 訳者:宮脇孝雄
価格:本体2300円(税別) 極私的評価:★★★★

 現代版『宝島』である。単なる宝探し小説ではなくて海洋冒険小説なのだ。だから滅法面白い。海賊黒ひげやらキャプテン・クックなんて名前にゾクゾク来る方なら楽しめること請け合いでっせ(^_^)。死の罠に守られた財宝は現代の最先端テクノロジーの前に屈して我々の前に姿を現すのか。それとも十七世紀の叡智が究極のアナログ仕掛けでデジタル二十世紀技術を凌駕するのか。いや〜ワクワクするでしょ。この仕掛けが一筋縄じゃ行かなくて壮絶な知恵出し合戦。行く手を阻む『呪い』が大きな謎となって、海賊の残した石盤にあった『運なくば死す』なんて生やさしいモノじゃなくて、『触れた者は皆死ぬ』ってのが正しい(^_^;)。すべての謎が収斂する驚愕のラストまで一気に加速するスピードは比類なし。インディ・ジョーンズ級のアクション釣瓶打ちだもの。この夏、暑さを忘れて海洋冒険小説にドップリ浸るのも一興ではないかな。

 血塗れオッカムの捕虜となり財宝を守るための仕掛け『水地獄』を設計施工した天才建築家マカランの存在感が圧倒的である。彼の死とともに封じ込まれた悪魔の仕掛け…そして。トレジャーハンター軍団の挑戦。暗号解析。遠隔計測。歴史学&地質学。死の病。格闘小説みたいに次また次と難題が降りかかる。加えてプロローグの血の歴史が綴る悲劇から、主人公のトラウマと影を帯びた性格形成が読み手にグッと説得力を与えるのであるな。行け行けドンドン的なストーリーにしっかりアクセントを加えております。マリン・ハッチ博士は彼のトラウマを克服できるのでしょうか。ここも読みどころ。財宝発見と密接に関わってるのよね〜。おっと本当に財宝はあったのかな(^_^;)。見つけた者は億万長者になったのでしょうか。比類なる価値を持つという『聖ミカエルの剣』の行方は? ね、読みどころ満載でしょ(^_^)。

 プレストン&チャイルドって『レリック』やら『マウント・ドラゴン』みたいなどっちかというと荒唐無稽SF系の作家コンビだったけれど、マイクル・クライトンの大いなるライバルに名乗りを上げたような感じですな。ハイテク・スリラー分野でまた楽しみな作家が増えたはまことに目出度いっす。こういうの好きな方は好きだもんね。止められない止まらないスリリングさは『レリック』当時も結構ビビッと来るものあったけど、この作品で化けたってところかな。ぜ〜んぶ、これフィクションなんだけど、最初はほとんどノンフィクション読んでるような錯覚に陥るリアリティは格別でありますな。お勧め。(2000年8月読了)

題名:暗黒の河 RIVER OF DARKNESS 著者:ジェイムズ・グレイディ
出版:新潮文庫 平成十年五月一日発行 訳者:池央耿
価格:本体857円(税別) 極私的評価:★★★3/4

 国家が暗黒の河を行く船であるならば、工作員たちの墓標は暗く淀んだ河の底に人知れず沈んだまま…。イラン−コントラ事件に端を発する政治的混乱が工作員たちの墓標を暴き始める事態になれば、サルベージされる闇の深さ=ジャドの暗躍した秘密工作が、回想シーンを効果的にカットバックさせながら、数々の悪夢として浮かび上がる構図なのだ。だからこそ逃げ回るジャド。破壊工作マシンから人間に戻った彼の弱さが人間臭くて共感させられるのだな。ジャドの安全弁は作家である旧友ニックであったわけだ。自国の論理を強引に押し進める様はさながら強姦魔のようではあるが、これが暗黒の河たるアメリカの真の姿なのだな。末端部分に血が通い始めると人知れず流された血の歴史が疼き出す。

 錠前破りの天才かつ凄腕CIA工作員。国際的謀略の裏を知りすぎた男=末端部分は切り落とさなければならない。図らずも渡ってきた暗黒の河を遡る羽目に陥ったジャドと、ディープな米国の暗黒史とリンクした彼の脳裏に刻まれた記憶の凄まじさ。淡々と抉り出すグレイディのジャーナリスティックな筆致は、さながらノンフィクションを読んでいるようでCIAの業の深さに思いを馳せるのだ。生身の迫真力とでも言っておきましょうか。ちょいと気に掛かるのは、追跡役の海兵隊少佐ウェズが後手後手に回り、物語的には活躍部分が冴えない展開になってしまったことか(^_^;)。まあ、ラストはすべてが彼の右人差し指に掛かってくるのであるが…。

 トップスパイの運命なんて所詮儚いもの。闇に生き闇に死す。人間の部分を切り捨てたはずの国家優先の秘密工作。そういう時代であったのに…ところが今や人的情報収集(ヒューミント)が諜報世界をリードする皮肉。スパイ衛星がセンチ刻みで走査してしまうハイテク時代に暗黒の河も埋め立てを喰らいつつある現実(^_^;)。国際謀略小説の舞台は、どんどん第三世界へと拡散してゆく時代なのでしょうなあ。船戸与一が直木賞受賞の際にそんなこと言ってたっけ。舞台は狭まっている。しかし深度はさらに奥へ。作家の力量が試される分野であることよ。(2000年8月読了)

題名:怒りの日 DAY OF WRATH 著者:ラリー・ボンド
出版:文春文庫 2000年3月10日 第1刷 訳者:広瀬順弘
価格:本体905円+税 極私的評価:★★★3/4

 序盤戦は冗長でかったるいけれど、やがて来るであろうカタストロフの予感を漂わせてここはじっと我慢である。何たって『WRATH』は直訳すると『激怒』でありますからして、必ずや核の徒花を咲かせてしまう悲惨な展開を期待しつつ、まさか世界が燃え尽きる日が来るわけもないであろうから、どこでどうバランスを取るのか、そこら辺が読みどころか。

 『テロリストの半月刀』のいわば続編でもあるので、ピーター・ソーンとヘレン・グレイのラブ・アフェアのその後もファンには気に掛かるところ。結ばれそうで結ばれないもどかしさで前半戦引っ張る引っ張る(^_^;)。ラリー・ボンドもこういう男女の機微を描けるようになったのは目出度いことではあるぞ。軍事スリラーおたくばかりでなく一般読者にもこの方面で門戸を開いたことは…おっと前作でもこんなこと書いたっけ(^_^;)。でもさあ、米国軍人さんとFBI女捜査官との恋愛模様ってフィジカル的には想像するだに凄まじいのだが、体で考えるタイプの悩み具合は逆に微笑ましかったりする。

 展開的には映画『ピースメーカー』そのままで、個人的にはピーター・ソーンにジョージ・クルーニーに投影しつつ、ヘレン・グレイにはニコール・キッドマンは似合わないなあとぶつぶつ言いながら読み進むと一気呵成の怒濤のアクション釣瓶打ち! この序破急の呼吸がよろしい。映画ではすんでの所で核爆弾を確保するが、さて本書ではいかなる展開が待ち受けているのであろうか。それは読んでのお楽しみってことで。しっかし、ロシアの核って今後も簡単に流出するであろうなあと長嘆息。(2000年7月読了)

題名:テロリストの半月刀 THE ENEMY WITHIN 上、下巻 著者:ラリー・ボンド
出版:文春文庫 1997年7月10日 第1刷 訳者:広瀬順弘
価格:本体各524円+税 極私的評価:★★★1/2

 テクノ軍事スリラーの旗手、ラリー・ボンドが冷戦後の混乱期を経て表向き平和な国際社会に突き立った一本の矢=テロリズムに目を向け、そして暴き出した国際謀略の面白さをエンタメしてるわけですが、アップトゥデイトなテロのハイテク面に鋭く迫る彼ならではの問題作と言えるでありましょう。全米無差別テロなんてやりたかったら、はいどうぞ的な無防備さであったなんてかなりショッキングでしょ。それを日本に置き換えたらゾッとするもの。テロのバックグラウンドは米国人の論理剥き出しっぽくて鼻白むけど、組織立ったテロのリアルさは類を見ない迫力であるぞ。まさしく内なる敵。

 主人公のピーター・ソーンとヘレン・グレイって次作『怒りの日』でも登場してくるので、その馴れ初めなど読ませどころも満載で、小説家的にも成長した部分を垣間見せてくれるのはグッドです。ロマンスなんて鼻も引っ掛けない軍事アナリストだった彼がベストセラー作家に躍進した理由もここら辺にありだな。次作にまで引っ張って行きますが、二人の恋愛模様が結構ほのぼの系で殺伐とした物語にはフィットするのですよ、これが。

 ただ、テロの裏側の論理がイマイチ作り物めいて見えるのが難点か。ヒズボラやらテロリストどもにはなかなかリアリティがあるのだけれど、イランにあんな武闘派将軍がいるとはとても思えないぞ。映画化されれば結構イケてるエンターテインメント作品になりそうですが、制作費が高く付きそうで二の足踏んたりして(^_^;)。どうも、ピーター・ソーンはジョージ・クルーニーのイメージで見ちゃうのよね。そいつは次作『怒りの日』で分かるでしょうけど、もろ『ピースメーカー』だったりする。多分ネタ的にはラリー・ボンドの方が先だと思うのだけど…まあ、気にしないで読めば『怒りの日』もかなりなサスペンス大作ではありますぞ。(2000年6月読了)

題名:処刑宣告 EVEN THE WICKED 著者:ローレンス・ブロック
出版:二見書房 1996年12月25日 初版発行 訳者:田口俊樹
価格:本体1845円(税別) 極私的評価:★★

 かなり低調なスカダー・シリーズの一冊。読み進むのに苦労するほどの出来で、どうしちゃったんだ>ブロック。プロットは捻ってはあるけれど無理が目立ち、粗を探せばあちこちに…。いくら殺伐としたアメリカ人でも、そんな動機で殺人を繰り返すかっての。んで、殺人のリリーフ登板なんてやり過ぎだよね〜! 老境のブロックにシンクロしたスカダーが作家の精力減退に付き合っちゃったって感じか(^_^;)。エレインとラブラブ状態で、歳取ってNYの影の部分から日の当たる場所に安住しつつある安定感が足を引っ張ってるのよ。かろうじて残した暗黒面への取っ掛かりはミック・バルーだけというのでは、あのアル中探偵スカダーはどこ行っちゃったのって、文句の一つも付けたくなるってもんさ。

 次回作『皆殺し』へと続くスカダーのインターミッションと考えれば、さほどシリーズ読者には不満が残らないかなどと自分を慰めてみたりする部分もあったりして(^_^;)。スカダーのほのぼの私生活を作者と共有したい方には微笑みを、ハードボイルドな探偵小説を追求する向きには怒りの矛先を…。ま、価値観によっていろいろ読めたりする不思議な作品とでも言っておきましょうか。

 個人的にはブロックは間違った袋小路に迷い込んだと思ってるのですが、このまま60歳70歳のスカダーがよたよた出てくるのかと思うと、気が滅入るシリーズに差し掛かりつつある危惧も感ぜざるを得ない周辺事情ではある。作者にはまだ当分50歳代で止まっていて欲しいものであるな。ということはエレインだって40歳台も半ば近いってことだぜ。やれやれミステリで爺むさい恋愛模様なんてまだワシ読みたくないんですけど(^_^;)。いろんな意味で『皆殺し』以降のスカダーから目が離せないっす。(2000年6月読了)

題名:極北のハンター HUNTER 上、下巻 著者:ジェイムズ・バイロン・ハギンズ
出版:ハヤカワ文庫 2000年5月31日発行 訳者:田中昌太郎
価格:上、下各本体720円+税 極私的評価:★★★3/4

 言っておきますが、ノベライズじゃございません。オリジナルの超弩級アクション・スリラー大作(荒唐無稽度100%ですけど(^_^;)!! しかもスタローンによる映画化はすでに決まっているそうで、つーことは、映画ファンじゃなくてもふむふむと思うよな。この人の手に掛かったら恋愛モノですら筋肉に青スジ立ててグイグイ迫ってくるでしょうから、そういう映画の原作本かと読めば納得。もしくはそれ以上。主人公ナサニエル・ハンターの静かなるマッチョぶりに、スタローンじゃ勿体ないと思わせるサムシングを感じたならば、それは作者の勝ちってことでしょう。手を出し兼ねてる方には映画『プレデター1、2』とクーンツの『戦慄のシャドウファイア』を足して3で割って極北の地アラスカに放り出したらこうなったと紹介しておきましょう(^_^;)。

 理屈はいらない。設定部分でのインチキ臭さを乗り越えちゃえば、あとは冒険小説愛好家のパラダイスへ。ハンティング・チームの指揮官が高倉ってのは、絶対この作者、映画の『ザ・ヤクザ』で健さん見てるよなあ(^_^;)。軍人のくせに背中に日本刀背負ってるんだぜ。お前は『忍者部隊月光』かって茶々入れたくなりますが、なかなか渋くていいキャラなのよ。ボビー・ジョーもイケてるでしょ。女だてらにバーレット狙撃ライフルを手足のごとく扱うプロの狙撃者ってんだから。『やつ』を傷つけられるのはそのライフルだけっていう足枷がスリリングなスパイスとなって、加えて仄かな恋愛模様が冒険行に彩りを加えてくれる。極めつけは『飼い狼』のゴースト。ゴースト対やつの死闘もプロの精鋭部隊の面々を青醒めさせるほどのド迫力。だから凄い。

 プロ対プロ。プロの兵士&トラッカーと、言ってみれば生まれついての殺し屋=ナチュラル・ボーン・キラーたる『やつ』の存在もまた一種のプロであり、白熱の追撃戦から生まれる緊迫感たるや知力体力の限りを尽くした頭脳戦から導き出されたものでもあるところがもう一つの読みどころでもある。確かにスーパーマンなんだが、斬られれば血も出る生身のスーパーマンであるハンターの人間としての尊厳と『やつ』のサバイバル本能の対比が文明批判の香りを乗せつつも死闘小説としてのスタンスを残す作家的拘りが心地よい。そこら辺の謀略なんぞ吹っ飛んでしまう幾多の死闘こそが本編の白眉であり、素直にハンターのトラッキング技術に感心させられてしまうのも、巧みに取り込んだ自然描写の冴えである。ジェイムズ・バイロン・ハギンズ。侮れない作家である。(2000年6月読了)

題名:死者の長い列 A LONGLINE OF DEAD MEN 著者:ローレンス・ブロック
出版:二見書房 1995年10月25日 初版発行 訳者:田口俊樹
価格:本体1845円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 何とも不思議な味わいなのである。ミステリの枠を超えた悠久の時の流れを感じるNYの街角。いやが上にもその後の展開を期待させるところが、おやっ、いやに長いのである。すべてが前置きなのよね。いや本題と言うべきか。三分の二までは三十一人の会という集会に始まって別の集会はお馴染みAAの会。集会の話がメインなのである。そこから一歩も出ない構造に、周辺部で出たり入ったりのTJとミック・バルーがそこでブラックボックスの役割をしているのですな。静のエネルギーがそこに流れ込み動のエネルギーに変換されるわけだ。物語はそこで弾ける。皆がいずれは並ぶであろう死者の長い列をそれぞれが振り返る。死の連環。物語の上をそれこそアメーバ状に広がり、やがて死すべき者は死に、生ある者は猶予され、死を選択しない者は永遠の煉獄へと収斂する。

 スカダーがいきなり55歳になっちゃったのには驚いた(^_^;)。前作でもそんな歳だったっけか。いつしか作者の分身になったローレンス=スカダーがそこにはいる。老境のスカダーが考えるのは、死者の長い列に自分が並ぶ日のこと。暴力係数が極端に減りつつあるけれど、思索的なスカダーの味わいもまた格別。エレインとの地味な日常が意外に俗っぽいのも、仕事上での迷路に入りつつあるスカダーと微妙なバランスを取ってるようで、それはそれで良いのです。最新作『皆殺し』でああしてこうしてそうなっちゃうのを知ってて読むのもまあ、味わい深いものがあるね(^_^;)。昔の映画を見ていて、とうに死んだ俳優が演技する様を眺めるのと共通する感覚ね。

 スカダーの日常を巡る出来事からいつしか巻き込まれる事件というパターンが確立しつつあるけれど、探偵免許を取る意思はあるのにそのまま流されるスカダーの浮き草的性根が象徴するシリーズの流れとも言えるかな。彼は触媒なのね。だんだん、事件そのものよりも彼の周辺の『事件』の方が物語の中心に据えられちゃうんじゃないかって勘ぐったりするのだけれど、そう思わせておいてあっと驚かせてくれるブロックの職人ワザに期待しつつ、さて次の未読作品『処刑宣告』の事件はどっちの『事件』なのかな。そうそう、文庫封切り版で未読だったアル中探偵だったスカダーの『聖なる酒場の晩歌』を仕入れて参りましたので、こっちも近いうちに読むことになるでありましょう。(2000年6月読了)

題名:タイムライン TIMELINE 上、下巻 著者:マイクル・クライトン
出版:早川書房 2000年5月25日 初版発行 訳者:酒井昭伸
価格:上下各本体1700円+税 極私的評価:★★★1/2

 この人から最新テクノロジーを取り上げたら単なる二流冒険小説作家に過ぎないかもしれない(^_^;)。ネタ的には結構使い古されていて何を今更である。それが許されるのは最新理論で完全武装したクライトンだからに他ならないぞ。確かにツボを押さえた作家的手腕は評価され得るけれど、登場人物はステレオタイプだし、彼らが辿る道筋も朧気ながら仄見えてしまうし…。それでも読んでしまうのは、取り上げるネタが最先端科学を先取りしながら優しく噛み砕いて読者に提供しようとする姿勢なのでありますな。でもねえ、分かったようでよく分からない量子テクノロジー&パラレルワールド時間旅行なのよね。理科系の人なら理解出来るのかもしれませんが…(^_^;)。

 なぜ中世の欧州の一地点なのか。選んだ理由の説得力は弱いよね。テーマパークならそれこそジュラ紀へ戻ってジュラシック・パークにしちゃってもいい訳だし(^_^;)、私なら日本の戦国時代に飛んでいって織田信長の人となりををこの目で確かめてみたいぞ。ま、それはそれとして、クライトン描くところの中世の騎士の生々しい血塗られた迫力には瞠目致しました。彼らの蛮勇をここまで正面から取り上げてくれると、息遣いまで感じ取れる中世の空気を感ぜざる得ないぞ(^_^;)。科学的見地から引っ張り出した剣戟&音の無い世界etc。クライトンならではの中世風俗流行検証が、読者にこれまでの欧州中世チャンバラ剣豪小説にはない奥の深さをじっくり味わせてくれます。いわば未体験ゾーン。斬れば血が飛び散る中世ディズニーランドってか(^_^;)。

 ただ、超大物作家の翻訳権独占でこの値段なのは評価しなくてはいけないでしょう。最近の早川書房にしては良心的と言ってもいいか。まあ、売れると分かってるから薄利多売戦術なんでしょうけど…(^_^;)。文芸春秋だったら一冊2500円に値段設定してるかも(^_^;)。それにつけても久々に見た生頼範義画伯の装画の迫力は良いなあ。『エンディミオンの覚醒』以来かもしれない。興味のある方は早川書房のホームページに『タイムライン』専用コーナーが設けてありますので、そちらをご覧になるのもいいかも知れません。(2000年5月読了)

題名:死者との誓い THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD 著者:ローレンス・ブロック
出版:二見書房 1995年1月25日 初版発行 訳者:田口俊樹
価格:本体1845円(税別) 極私的評価:★★

 ミステリとしては評価対象外かもしれませんなあ。スカダーが辿る死者との対話がメインで、掘り出された事実も小悪に毛の生えた程度。あくまでスカダー周辺小説としてのみ機能するってこと。長いことシリーズ続けているとこういう小品もポロッと出てくるものですが、ローレンス・ブロックとて例外じゃないのだ。一般ミステリファンではなく、お馴染みさんしか相手にしてないような手練れ作家の陥穽。一種の真空ポケットにはまり込んだ作家的迷宮とでも言いましょうか。ただ、周辺を地均ししておけば、次回作以降に期待がもてるのは周知の事実(本当か、それ(^_^;)。傑作との誉れ高き『死者の長い列』へと繋がったと考えれば、ま、個人的には納得なのよね(まだ読んでないけど(^_^;)。

 スカダーの揺れ動く中年の恋愛模様はいささかうざったいが、こういう優柔不断なスカダーこそファンに媚びてる証拠と取れなくもない。彼の過去を知ってるファン以外肯定しないでしょ>こういう方向への主人公の振幅の大きさ。エレインと前作で固まった方向性がまたしても危ういバランスの上に成り立って、ハーレクインみたいに爛れた愛情がハーレクインほど肉体関係描写を避けつつ、リサ・ホルツマンとの関係も持ち越してしまう老境に近付くスカダーなのだ。やれやれ(^_^;)。これでいいのか。いいのだ。本当に? う〜む。

 死ぬまでに一度でもNYに観光で訪れたら一度はスカダーの佇んだ街角を辿ってみたい。毎度のことながら、そう思わせてくれるブロックのNY描写が素晴らしい。二見書房も扉にNYの市街地図を載せてくれたなら、さらにシリーズの興味が倍加すると思うのだが、如何でしょう>二見書房殿。ま、自分でどっかからダウンロードして来て、プリントアウトして眺めながら読み進めてもいいのだけれど…。そうそう、TJがまた一歩大人に近づいているって感じがいいね。物語への関与の仕方がナチュラルで、こういうところがブロックのうまさなんだなあ。脇役が光ってる作家ってのはファンも着いて行くのですよ。(2000年5月読了)

題名:獣たちの墓 A WALK AMONG THE TOMBSTONES 著者:ローレンス・ブロック
出版:二見書房 1993年11月25日 初版発行 訳者:田口俊樹
価格:本体1845円+税 極私的評価:★★★

 遡って読んでます>マット・スカダー。なんとも陰惨な話だけれども、ブロックの筆裁きで洗練されたニューヨーカーのサイコ殺人ものにブラッシュアップされているといってもよろしか(^_^;)。物語の中に多彩な視点をはめ込むことによって血生臭さを分散する工夫がなされていて、しかも、エレインと結ばれる記念すべき作品でもあり、その一方で、しっかりNY印の暗黒面を垣間見せてくれることを忘れない。甘ちゃんで終わらないブロック侮れぬわい。いとも簡単にサイコキラーに変身する犯罪者をさらりと描き出すテク。こいつなら人殺しも違和感なしにマッチングするキャラクターと、それすらも包含してさらに深い闇を抱えるNY=獣たちの墓に足を踏み込むスカダーの虚無感の対比がシリーズ読者を惹き付けて離さない魅力でもあるのだな。

 サイド的な面白さってのが、スカダーがニューヨーカーだっていつ何時も忘れさせない小道具を、ブロックがさりげなく書き込んでくれる点ですね。ヤンキース、メッツ、ニックス然り。当時の風俗&風物詩的なサムシングが自然に彼らを包み込んでいるのね。登場人物もシリーズならではの多彩さで、本作ではTJ初登場だし、コングズなんてのもなかなかイカしたキャラだもの。そう考えてみると、ブロックって作家はサービス精神旺盛なエンターテイナーと言ってもいいかもしれませんぞ。ストーリー自体に新味はないし、事件そのものより人物を読ませるシリーズということが、より強調されているのかな。

 ミック・バルーはアイルランドに出張中だし(^_^;)、馴染みはエレインとジョー・ダーキン、ジム・フェイバーってとこか。出たり入ったりシリーズ物の定石をうまいこと生かしながら、メインストーリーの中に彼らもちゃんと織り込んでくれるのがよろしい。スカダー含め皆ちゃんと年を取り、読者と同時進行で物語が進む連帯感みたいなものも本シリーズのリアリティを支える大事な要素になってるようであります。老境の入り口に立つスカダーの次なる事件は、『死者との誓い』ということになりますか。(2000年5月読了)

題名:ザ・ポエット(上、下巻) THE POET 著者:マイクル・コナリー
出版:扶桑社ミステリー 1997年10月30日 第1刷 訳者:古沢嘉通
価格:本体各610円+税 極私的評価:★★★1/2

 連続警官殺人を発掘するまでが少々冗長な感じですが、助走区間が長ければそれだけ遠くへ飛べるということ。その辺の呼吸はさすが手練れのコナリー、仕掛けをご覧じろ。アウトサイドイン。主人公である新聞記者をFBI組織の中に放り込むウルトラCで、読者をブラックボックスへ誘いつつ『ザ・ポエット』に肉薄する。最新作『わが心臓の痛み』から流れて来た読者には一気読みの面白さなのです。センセーショナリズムに陥らずに、シリアルキラーを焙り出す課程を、警察組織外の人間がつぶさに見せてくれる知的興奮。素人探偵がプロを凌駕する一瞬に立ち会えるのは、こういう優れたミステリならではなのさ。

 警察ミステリ永遠の命題とも言えるFBI対地元警察との軋轢も織り交ぜながら、突き進むマンハント。狩る者が狩られる者へ。一方通行ではないサスペンスが輻輳する。キャラが立ち上がる中盤戦以降、物語の陰影が俄然濃くなるのです。小出しに明らかにされる謎がクロスキラーの存在を浮かび上がらせ、さらにFBI捜査チーム内の恋愛模様が混乱に拍車を掛ける。盛りだくさんなコナリー意欲作ではある。ただ、犯人の心の闇へ踏み込む検証が疎かになってしまっている部分が物足りないと言えば物足りない。

 決定的なのは、ラストのひっくり返し方に多少難ありってとこかな。無理矢理な布石がどう見ても無理矢理だし(^_^;)、作家的手腕は高度なのですが、如何にもワザに溺れた結末に見えてしまうのだ。技巧的過ぎて違和感あるよね、やっぱし。一歩手前の寸止めで勝負してもよかったのに…。ま、そこまでは十二分に楽しめたサイコ・スリラー作品でありますので、未読の方は読んで損なしとフォローしておきましょう(^_^;)。現代ハードボイルドの旗手たるマイクル・コナリーならではの主人公像が、結構ハードボイルドしてるところも読みどころの一つでありますぞ。(2000年5月読了)

邦題:皆殺し EVERYBODY DIES 著者:ローレンス・ブロック
出版:二見書房 1999年10月25日初版発行 訳者:田口俊樹
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★2/3

 個人的には『マット・スカダー』シリーズの愛読者とは言い難く、しかもどこまで読んだか失念して最近数作は手に取りもしてなかった体たらく。面白いって分かってるのに避けてきたのは如何なる理由によるのかワシにも分からん悪循環。多分『倒錯の舞踏』までは読んでるはずなんだが…う〜む(~_~;)。まあ、中抜きで最新作読んでもバチは当たるまいってとこで。

 友人でもありギャングスターでもあるミック・バルーが今回の主役。スカダーはしっかり脇役しておりましたが、相変わらずの存在感。この探偵のメンタリティと作家の確固たる小説作りの方向性がぴったりハマって、内省的と言われながらも大人の感傷が登場人物の行動律を支配しているのだな。練り込まれた台詞とギャングだろうが探偵だろうが警官だろうが、皆人生賭けて生き延びようとしている等身大の苦しみがバイオレンスシーンの陰からこぼれ落ちるのだ。

 筋自体は他愛のないギャング同士の抗争事件なのだが、読みどころは他にある。スカダーの流されつつある感性。年寄った肉体に比例する枯れ具合=死は怖くないという達観が支配するNYの街角トワイライトに作家ローレンス・ブロックの老いを見るのか、それがスカダーに反映されているペシミズムに大いに関係あるのであろうか。このまま消えて行っても誰も悲しまないで惜しまれずに静かに退場する。そんな理想に向けて第2の疾走を始めるスカダーの予感が、ファンを新たなステージに運んでくれそうだ。(2000年5月読了)

邦題:わが心臓の痛み BLOOD WORK 著者:マイクル・コナリー
出版:扶桑社 2000年4月30日 第1刷 訳者:古沢嘉通
価格:本体2095円+税 極私的評価:★★★★

 『ボッシュ』シリーズではないノン・シリーズ。心臓移植を受けた元FBI捜査官がリハビリ中に頼まれたある事件の行方。まずこの設定が一発で読者を作家の術中に填め込むコナリーの熟達の筆裁き&アイデアでありますね。単なるコンビニ強盗のはずが次々に明らかにされる新事実。手に汗握る展開。行動科学課がどう動くかが克明にリサーチされていて、作家の取材力にも素直に感心してしまうのだ。プロファイリングと科学的捜査。しっかし実際に事件を解決に導くのは人間なのだって。原題の『BLOOD WORK』を訳者古沢氏が『わが心臓の痛み』に日本版タイトルを決めたのだろうが、実にしっくり来るウェットさと、そこに原題から来るまさしく『BLOOD WORK』が読者の喉元にナイフを突きつけるどんでん返し。コナリーさすがである。

 導き出された異常犯罪の衝撃。引退捜査官マッケイレブの心臓を直撃するショック。後半戦一気のジェットコースターは、読者を乗せたまま渾身の決着戦へと怒濤の寄りを見せる。凄いぞ、これ。主人公のメンタリティに食い込む苦悩の正体が人間の生への根元にまで遡って、それを弄ぶ異常殺人鬼との究極の対決。悪魔的な人間の側面を切り開いて見せたコナリーが住む米国は、犯罪先進国であることを十二分に思い出させてくれます。今、日本の十代の犯罪もこの境地に限りなく近づいている恐るべき現実と相まって、現代犯罪の新たに分類せざるを得なくなった動機の多様性に思いを馳せるのである。21世紀の犯罪小説はどうなってるんでしょうか(~_~;)。

 単純な疑問なんですが、女性の心臓を男性患者に移植しても、容量の問題とかその辺はうまいことクリア出来ちゃうんでしょうかねえ。ま、医学的な問題は置いておいて、臓器移植の本場ならではの先進医療のモラルハザードやら何やらクリアはしているけれど、その裏側みたいなモノも垣間見れて興味深い。そこら辺を逆手にとって物語を膨らませたコナリーの目利きを誉めるべきでありましょう。ボッシュものじゃないので敬遠してましたが、こんなことなら先にもう一つのノン・シリーズ『ザ・ポエット』を読んでおけば良かったかな。緊迫感を孕んだ読書ってのは麻薬的な快楽であることを身を持って知ることでしょう。(2000年5月読了)

題名:幽霊が多すぎる Too Many Ghosts 著者:ポール・ギャリコ
出版:創元推理文庫 1999年8月20日初版 訳者:山田蘭
価格:本体760円+税 極私的評価:★★★

 心優しきストーリーテラー・ポール・ギャリコのほのぼの系本格推理作品であります。死人が一人も出て来ません。それでも本格ものってことは、お分かりですね。そう、幽霊が多すぎる謎を探偵役のアレグザンダー・ヒーローが快刀乱麻に暴いて見せます。なんせ心霊探偵ですから、幽霊騒ぎはお手の物ってとこだな。1959年作ゆえ古くさいのは仕方ないとして、主人公の颯爽とした凛々しさは、今や混沌の時代と化したアメリカでは稀にしか見られない珍種のようでもあり、殺伐とした世紀末ミステリの読者には一服の清涼剤となる作品ではあります。ゆえに生温さも同時に、そこはそれ我慢しなくてはならない訳でして、巻末で作家・我孫子武丸が絶賛しておりますが、大人の童話的ミステリが今の時代さほど受け入れられるとは思わないのよね。ノスタルジックにたまに読むにはいいけれどってスタンスだな、個人的には。それ以上でも以下でもない。

 トリックのための小説に陥ってしまってるのは本書でも顕著であるぞ。だからこそ本格モノは卒業したはずなのだが、ああ、また読んじまったなあ。幽霊=トリックであるからして当たり前ではあるが、それにしてもハードなサイコサスペンス漬けの読者にはかなり生温いぞ。『ハンニバル』を読んだばかりの読者には、なんて心優しい作家なのだろうかって感動するよりブーイングが先立つかもしれませぬ(^_^;)。ほのぼの系の恋愛模様も生温系がお好きな方には心地よいかも。そういう意味では、古き良き時代のアメリカの良心が息づいている作品と言えるでありましょう。私ゃ自ら求めは致しませんが…。

 しっかし、こういう作品に日の目を見させてくれた創元推理文庫には感謝しなくてはいけないでしょうな。売れ筋を追求するばかりの大手出版社を上に仰ぎ見ながら、我が道を行く姿勢は我々読者の側が賞賛しなくてはならないでしょう。復刻版でも隠れた傑作がポロリと出てくることがありますので、ゆめゆめ油断することなく本屋通いを励行致しましょう。絶版になって買えなくなっちゃったら悲しいもの。これという本はまず押さえる。これが鉄則。おおっと、買い込み過ぎて『未読王』さんみたいになっちゃったらちょいと問題ありですが…(^_^;)。そう言えば、フェラーズの『猿来たりなば』は未読のままだっけ。(2000年5月読了)

邦題:パルプ PULP 著者:チャールズ・ブコウスキー
出版:新潮文庫 平成12年4月1日発行 訳者:柴田元幸
価格:本体590円(税別) 極私的評価:☆☆☆(マイナス星のことよ〜ん(~_~;)

 宇宙一ド阿呆な私立探偵の物語。ブコウスキーの創り出したニック・ビレーンに乾杯!ってグラスをぶつけ合ったらガチャ〜ンと割れて、破片が額に突き刺さったまま流血しながらゲタゲタ笑って過ごせるほど剛毅な人なら、本書は格好のバイブルになるに違いない(~_~;)。ミッキー・スピレーンへの逆オマージュっぽく意地悪くブコウスキーが自身の分身として産み出したんであろうことは想像できるのだが、それにしても非道過ぎるもんね(良い意味も含んでますので悪しからず(~_~;)。ほんまパンクな爺だぜ>ブコウスキー。

 依頼人が死に神で、調査相手が宇宙人で、その上、本人ものべつズボンのチャックは下りたままってんだから凄い探偵さんだわ。相手によって卑屈にもならないし相変わらずのポーカーフェイス。単なる馬鹿だって話もあるが、ニック・ビレーン=腰の据わった男だぜ(~_~;)。ぶわっはっはは。先に出版されてる学研版も図書館で見ましたが、文庫版のゴッホ今泉画伯のポップ極まりないイラストが効いてるのよね。中身にバッチリ合ってる絵柄がナイス。よくぞゴッホ今泉を起用したと思うね。こいつは企画制作の安原某のお手柄なのであろうな。

 パルプ・フィクションを変に昇華させないでまんま『パルプ』のまま放り出してくれたブコウスキーの凄みを味わうべきなのであろう。恐るべし! でもお馬鹿さん、うぷぷぷぷ。唯一不満なのは赤い雀の顛末が後味よろしくないところか。こういう終わり方では身も蓋もないじゃん。ニック・ビレーンにはそれなりのポップな結末が欲しかったなあ。ま、死んじゃったブコウスキーには無い物ねだりってことになっちゃいますが…(~_~;)。こういうのもやっぱしハードボイルド小説って言うのかなあ。(2000年4月読了)

邦題:森の死神 La Mort des bois 著者:ブリジット・オベール
出版:ハヤカワ文庫 1997年6月15日発行 訳者:香川由利子
価格:本体720円+税 極私的評価:★★★1/2

 サイコキラーものとしては平凡な作品ですが、突出した仕掛けが本書を支えるスパイスになっているのだ。ヒロインが全身麻痺で目も見えず口も利けず、リンカーン・ライムより雁字搦めの肉体的な背景を利用したうまさがキラリと光るのよ。三十過ぎの一人の孤独な障害者として女として等身大の心の揺れ動きを女性ならではの細やかさでオベールは活写するのです。小生、親戚筋に脳性麻痺児がおりますので、余計身近に感じてしまうのかも知れません。動かない手足で何を考えているのだろうってよく考えるのですが、本書ではエリーズの頭脳はフル回転していて唯一動く左手の指先だけでコミュニケーションを図るのです。相手が連続殺人犯だとは知らないまま…。

 サイコキラーが誰かという謎を引っ張ったまま、最後の最後でどんでん返しを仕掛けてくれますが、これには少々無理があると言えなくもない。こういう強引な仕掛けは悪しきアメリカ映画の影響なのであろうなあ(~_~;)。なんせ著者の実家はフランスでアメリカ映画を上映する映画館を経営してたというのだから、筋金入りの力ワザ・ストーリー信奉者であることは想像に難くない。フランスらしくエスプリの効いた捻りを期待する向きには失望する部分がなきにしもあらず。登場人物の家族構成をこう簡単にひっくり返すのは反則スレスレだと思うよ、やっぱし。

 それにしても、オベールという作家の懐の広さよ。彼女の作品のジャンルのクロスオーバーにはいつも感心させられます。最新刊『闇が咬む』ではゾンビものだし、本格物、ハードボイルド、冒険小説、ホラーなんでも来いって姿勢が実に頼もしいではないか(器用貧乏と言えなくもないが(~_~;)。しかも各ジャンルの作品でもひと味隠し味が強烈に染め上げている点を見逃してはならない。くせ者オベール、侮り難し。この人がキャンペーン来日した際には、当時映画化されていた国産ホラーに興味津々だったって聞きましたけど、『貞子』みたいな強烈なキャラで何か描いてくれないかなあ(~_~;)。(2000年4月読了)

邦題:一瞬の死角 Sudden Prey 著者:ジョン・サンドフォード
出版:ハヤカワ文庫 2000年2月29日発行 訳者:真崎義博
価格:本体920円+税 極私的評価:★★★2/3

 安心して読めるサンドフォードの手練れのワザ。ご存じ『ダヴンポート』シリーズ最新作である。最近ではハードカバーで出版が続き、早川書房も商売っ気出しやがったかと怒り心頭でしたが、売れ行きが芳しくなく仕方なく文庫オリジナルに戻したと見るのは勘繰り過ぎか(~_~;)。ただ、今回のダヴンポートは市警副本部長としてまとも過ぎる部分が、破天荒さでリードして来たシリーズの面白みを少しばかり削り取ってしまったかに思えたが、相変わらず、犯人役の造形で非凡なところを見せるサンドフォードの面目躍如たる強盗殺人ファミリーの登場で、ダヴンポートを食っちゃうほどのキャラの厚みを見せてくれました。マッチョばかりでなくヒロインもなかなか健闘していたし…。

 今まではストーカーの発展系の凶悪殺人鬼がメインだったけれど、今回のナチュラル・ボーン・キラー型犯人はシリーズが長く続くと必然的にシェイプアップされて来てパーフェクトな犯人像が提供されたことに納得のシリーズ第8作目である。余分な贅肉を削ぎ落としたらこうなるラシェズ=強盗殺人マシンなのだ。ネイティブな犯罪者vsプロのゲーマー(警官でもあるけれど(~_~;)・サンドフォード。恋人が狙われても部下が射殺されても、根っこにあるのは正義感よりゲーム感であるところが相変わらず凄いっすねえ。

 このハードさはさすがアメリカン・テイスト。コーヒー以外はどっぷり濃厚なのね。ランキン『リーバス警部』シリーズを続けて読まされた後の口直しにはもってこいのハードアクション巨編でありました。登場する火器の物量も凄まじいものがあるぞ。そんな中にも裂薬弾付きボウガンをさりげなく登場させるなどスパイス部分にも気を配るなんてプロだねえ(^_^)。悪党版『明日に向かって撃て』みたいに散華したラシェズとその仲間たち。サスペンスフルな夜を楽しみたい方にはお勧め。(2000年4月読了)

原題:氷の帝国 Ice Reich 著者:ウィリアム・ディートリッヒ
出版:徳間文庫 1999年5月15日初刷 訳者:中山宥
価格:本体686円+税 極私的評価:★★★

 しっかし、解説書いてる関口苑生は徳間の回し者かね(^_^;)。『正真正銘の傑作』なんて言い切っておきながらこのざまを見よ。冒頭の第一行目から薄っぺらな感動をやっとこ覚えるラストに至るまで、ただの一瞬だって目が離せないわけではなく、全編が間延びしたまま稀に緊張感が垣間見れる程度の、そこそこしか評価しきれない冒険の物語といってよいだろう。おおっと、正直すぎましたかね(^_^;)。なんせマクリーンやらバグリィ、イネスあたりの正統派冒険小説で育ったひねくれ本読みには、この程度では生温くて物語の粗ばかりが目立ってしまうのだ。

 舞台が南極だって聞いただけでワクワクするかって? クライブ・カッスラーの爪の垢でも煎じて飲んだ方がよろしかろう。殺人ビールスから南極産の藻の一種を服用しただけで生還できちゃうなんて、な〜んてご都合主義かしらん。登場人物も皆ステレオタイプ過ぎて感情移入しようにも醒め切ったまま「だからどうした!」で終わっちゃうのよ(^_^;)。バツ2女がヒロインってのに個人的には乗れなかったのが、最後まで波長が合わなかった最大原因なのかもしれませぬ。こういうヒロインに抵抗無ければ気に入るかもしれない。そう思わせるサムシングは確かにあります。こっち方面ニューカマーな読者には結構ウケるかもしれませんね。でもまあ、冒険小説を書こうって作家は、なんだかんだ言っても王道を行くマクリーンとバグリィをよ〜く研究して貰いたいもんだな。

 手垢の付いたナチスものでも南極を舞台にした第二次世界大戦秘話ってのがミソなのであって、もう少し南極の大自然の脅威が前面に出てもよろしかろうと思うのだが、その辺がボチボチでんな(^_^;)。血腥いシーンを意図的に避けようとしている作家としてのメンタリティにも物足りなさを感じてしまう。お子さま冒険小説じゃ今時流行らないぞ。半分は史実に基づいた作品ということですが、古い資料をひっくり返してこういう埋もれた事実を掘り起こした新人作家としての姿勢には拍手を送っておこう。まあ、バグリィがこのネタで描いていたら★5個は確実なんだけど、ね(^_^;)。(2000年4月読了)

原題:ポップ1280 POP1280 著者:ジム・トンプソン
出版:扶桑社 2000年2月29日 第1刷 訳者:三川基好
価格:本体1429円+税 極私的評価:★★★1/2

 読み進むうちに自分の中の暗黒と対面する。ニック・コーリー保安官の行動律に、自分との共通点を見出そうとする分裂症的思考形態を導き出す作業。S・キングの呆れるほどの饒舌さはないけれど、『デスペレーション』&『レギュレイターズ』と共通する神の視点を追い求めるトンプスンは数十年前からキングの先を行っていたのである。解説の吉野仁が詳しく解題しているのでそちらを参考にして貰うとして、キリスト信仰裏返しの暗黒面をこうやって模索していた彼が当時受け入れられなかったのは時代がそうさせていたのであろう。パルプ・ノワールとは一線を画す作品。そこまで深読みしなければ狂気のパルプ・フィクションのまま終わっていたでありましょう(~_~;)。

 だけどねえ、このチープなテイストには呆れ返るやらひっくり返るやらだなあ。出版社がブームに乗って無理矢理発掘したら裏にとんでもないものが隠されていたって感じか。んじゃなきゃ今まで出版されずに埋もれているはずもない。パルプ・ノワールって全部が全部こんなノリじゃないと思うけれど、あっちでの出版当時って、こんなにポップな表紙じゃなくて、如何にもって感じのアメリカンなチープ・イラストが飾ったんだろうなあ。今頃トンプスン再評価の動きって一体何故なんだろうか。日本では最初数年前の『内なる殺人者』だったよねえ。人間のダークサイドを抉る渇いたユーモア感覚。信仰との表裏一体、ノワールの体現者。カルトな暴力小説の作り手としてのトンプスンの作家的姿勢が現代でこそ共感を呼ぶカリスマたりえるのであろうか。

 薄馬鹿がもっと薄馬鹿を支配し、まともなヤツと思われていた普通の馬鹿をさらに支配下に置く底なしのアリ地獄構造。足下に覗くのは暗黒である。暴走するトンプスンが暴き出した白日夢のような人間の暗黒面。足下から崩れていく現実の崩壊感を味わいたいなら、トンプスンを読み給え。あなた方の回りにゾロゾロいる薄馬鹿の存在に気付くやいなや、現実の恐怖がすぐそこまで来ていることを知る。一歩先、トンプスンの世界がそこにはある。んじゃ、次は『サベッジ・ナイト』に取り掛かってみようか。(2000年4月読了)

原題:黒と青 BLACK AND BLUE 著者:イアン・ランキン
出版:ハヤカワ・ミステリ 1998年7月31日発行 訳者:延原泰子
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★★

 本邦初登場となったスコットランド警察のリーバス警部の記念碑的作品。現地での出版順は『血の流れるままに』に続くわけで、相変わらずのペシミストぶりがエジンバラの暗鬱さに拍車を掛けてくれ、我々ひねくれミステリ読みには絶好のスパイスになっているのだな。三冊続け読み。こうなると立派なリーバス・マニアである。スコットランド警察でも天然記念物みたいな刑事。決して無能ではないが、スーパー推理を働かせるわけでもなく、地を這うような捜査こそが彼の答えなのだ。フィクションの中でのリアリズムの追求。そんでもって、リーバスが周囲をうんざりさせればさせるほどますます四面楚歌状態に陥るわけで、一点突破の力任せで八方破れ捜査方法に何とまあと驚き呆れるながらも、いいぞ、行け行けと嗾けながら読み進むって寸法だ(^_^;)。こういうキャラを作り上げたランキンのお手柄でですな。

 人間関係のリアリズム。歪みっぱなしの警察機構を歪みすぎて真っ直ぐに戻っちゃった感じのリーバスが引っかき回す快感(^_^;)。こういうひねくれ人間キャラの作り込みはさすが英国人作家であるね。奥が深い。心の闇の部分をジェントルな物腰の奥に秘めた陰湿さは一筋縄ではいかない男たちの証。オブラートでくるまれた部分を一枚一枚リーバスがはがして白日の下に晒す。警察官僚どもを敵に回しつつも猟犬たり得るには、一匹狼的設定が不可欠だもんね。ランキン自身の思惑以上に暴走するリーバスが引きずり出すもう一つの真実の裏側。次から次とヤマの連続で毎度ながらのモジュラー型が警察小説には一番しっくりくるように思うのだ。これだけ殺伐とした物語なのに米国ほど拳銃が使われないのもなかなかよろしい。拳銃=短絡的ではないけれど、犯罪にも一種グレードがあるもの。

 他二冊よりも本作がリードしている部分は、実在の『バイブル・ジョン』を題材にツイストして複合的な面白さを追求してるからに他ならない。曲者ランキンが作り上げたジョニー・バイブルと本家バイブル・ジョン&リーバスの巴戦となった息詰まる追跡劇は本編の白眉でもある。誰に軍配が上がったかは未読の方にはお教え出来ないが、思わずニヤリのラストシーンである。三作とも共通するテイストは、曖昧なものは曖昧なままに。スカッと解決する事件なんてものはそうそうありはしないんだよっていうほろ苦さが、米国流ガンクレージーな決着に慣れ親しんだ読者には逆に心地良かったりするのだ。『黒と青』はリーバスの顔色そのままでした(^_^;)。(2000年4月読了)

原題:首吊りの庭 THE HANGING GARDEN 著者:イアン・ランキン
出版:ハヤカワ・ミステリ 1999年12月15日発行 訳者:延原泰子
価格:本体1600円+税 極私的評価:★★★3/4

 図書館から借りてる関係で仕方なく『黒と青』を飛び越してこっちに来ました。う〜ん、人事異動で登場人物のポストが微妙に変化してるのが気に障る程度。相変わらず、リーバスは警察内での後ろ指され隊っぽいポジションで読者の苦笑を誘うのだ(^_^;)。ちょっかい出された特捜班じゃないけれど、まあ、これだけ性格悪けりゃ嫌われるわな。そう納得させちゃうランキンの筆の冴え。今回もタイトルから類推できるように、モジュラー式に次々降りかかる事件もぜ〜んぶ最後まで決着付けましょうって感じ。一人娘のサミーにまで襲いかかった悲劇。復讐心に燃えるリーバス警部はどこまで突っ走るのか。この男のメンタリティなら警官より父親の取るべき行動を優先させるだろうことは想像に難くない。

 『首吊りの庭』ってタイトルから連想させる登場人物の事件への関わり方が無理矢理っぽかったのがマイナスだな。歴史の闇に潜む底知れぬ謎をリーバスに捜査させる必然性もさほど感じず、『ヤクザ』絡みの組織犯罪もチンピラ同士の抗争に毛が生えた程度だし、ランキン言うところの『ソウカイヤ』ってそんな地位が高かったっけ(^_^;)。ま、小指の欠けたクリカラモンモン見たら、そりゃスコットランドの警官じゃなくても吃驚するわな。聞きかじりで書いちゃったランキンいじめはこのぐらいにして、本作で評価されるのは揺れ動く父親と警官であることの狭間で苦悩するリーバスの人間像が掘り下げられたことでありましょう。相変わらずロックに逃避もしくは耽溺してるけど…(^_^;)。

 意外に知られていないけれど、スコットランドでの殺人事件発生率がロンドンのそれを遙かに上回るって事実。殺伐とした世相を安易に反映した作品に貶めていないのは、一種モラトリアム人間であるリーバス警部の韜晦に満ちたユーモア感覚とサブキャラの隠し味が効いてることですかね。シボーン嬢の携帯カイロの件なんてクスクス笑わせてくれて、グロテスクな事件の緩衝剤にはピッタシだもの。ランキンが選んだヤクザの苗字が『マツモト』って言うのも、彼が唯一読んだ日本産ミステリの作家から頂いたってのが妙に可笑しいぞ。松本清張もあの世で苦笑してるに違いない(^_^;)。(2000年4月読了)

原題:血の流れるままに LET IT BLEED 著者:イアン・ランキン
出版:ハヤカワ・ミステリ 1999年4月30日発行 訳者:延原泰子
価格:本体1400円+税 極私的評価:★★★

 スコットランドのエジンバラの町には強面の警部殿がうまいこと棲み分けているようで、数々の難事件でもバッティングすることもなくそれぞれ迫真の警察小説に仕上がっているわけだ。言わずもがなのジャーディン『スキナー・シリーズ』に対比される、イアン・ランキンが生み出したリーバス警部の屈折ぶりが本シリーズの売りではあるね(^_^;)。一匹狼にしてへそ曲がりで大いなる頑固一徹。スキナーが剛球一直線のオーバーハンド・ピッチャーなら、リーバスはさしずめキャッチャー泣かせのナックル・ボーラーなのであります。早川書房の訳分からん仕打ちで出版順序を入れ違えている『黒と青』を後回しにして、しっかり本書から読み始めたのですが、各々独立している作品なので登場人物の変遷を辿れるってだけで、さほど目くじら立てなくても後に続く方はどれから読んでもOKのようですな。と思っていたら、やっぱし順番通りに読んだ方がいいよってな展開が、後回しにしてた『黒と青』の方に出て来てしまったなあ(^_^;)。いやはや。

 リーバスを巡る人間関係に思わずニヤリとさせられてしまうのは、一匹狼も所詮は雇われ公務員である警察官である限りは、いけ好かなくて無能で汚職まみれの上司が「こう」と言ったことは「こう」としなくてはならないところでありますな。愚痴をこぼしつつ好きな音楽に逃避するリーバスに「うんうん」と感情移入して読んでしまうのは、中年ミステリ愛好家の悲しい性なのでありますぞ(^_^;)。ま、そこから権謀術数乗り越えて一匹狼らしく噛みついていく様は、フリーマントルのチャーリー・マフィンと相通ずる曲者らしい反撃ぶりで喝采を送ってしまうのだ。ちょいと生臭すぎる描写も警官たちの生活臭がそこまで匂い立つようで、そこはそれ、哀愁の町エジンバラにしっくり来るリアリティ溢れる街の裏側を垣間見せてくれるのだ。本当、リーバスには陽光燦々より陰鬱なスコットランドの曇りのち雨の風土がピッタリですな。

 タイトルそのまま。事件は解決らしき様相を見せつつも血の流れるまま終結いたしましたが、読んでいて欲求不満が募るのも事実。もっとすっきり決着付けてよって文句の一つも付けたくなるよねえ。政治的決着に流され曖昧なままに着地してしまった部分は、大いなる矛盾に満ちたこの世の中は小説の中も同じさっていうランキンのほろ苦いメッセージと読めないこともないね(^_^;)。個人的には最終章は無い方がすっきり余韻を残して、よりほろ苦さを強調するようにも思えるけど、さて既読の方はどう思われたでしょうか。(2000年4月読了)

題名:シティ・オブ・アイス CITY OF ICE 著者:ジョン・ファロウ
出版:早川書房 1999年12月15日 初版発行 訳者:嶋田洋一
価格:本体2300円+税 極私的評価:★★★2/3

 カナダの警察機構と住民構成。学校の地理の教科書じゃ通り一遍しか教えてくれなかったけれど、ここでは英国系と仏系が混成で仏系が優勢であることは一応、基礎的な予備知識としては持ってるわけ。そこから先は、こういう小説にでも頼らなければ垣間見ることもない世界。カナダが舞台のミステリなんてまず無いでしょ。しかも暗黒系のヤツ。驚くのはカナダにもバイク・ギャングが横行していて、しかも彼らがカナダ犯罪界の主役であることだね。銃撃戦なんか一気に飛び越えて爆弾一発木っ端微塵に決着付ける荒っぽさは一種爽快ではあるね(^_^;)。フィクションなんだけど、カナディアン犯罪事情に則ったノンフィクション的背景がいかにも物騒な小説的リアリティに貢献しているのよね。そこはかとない不安感が支配する警察小説。どこまでがシロでどこからがクロか最後まで分からない底のない怖さ。警察機構にすら頼れない真っ黒さ。ここが凄い。

 センクマルス部長刑事。これまで数多の警察小説でのヒーローに接してきたけれど、頑固なまでの個性派ぶりが物語のアクセントを形成しており、警察内外もしくはアウトロー組の脇役勢も曲者揃いで、センクマルスに劣らず法律の枠内の中でのアウトローってタイプの危ない奴らが繰り広げる爆弾ゲーム。もしくはモグラたたき。拳銃よりもチェーンソーが好きだってんだからヘルスエンジェルスも、ここカナダでは、腹突き出してハーレーに跨ってるアメリカンなエンジェルどもとのイメージとは極北ほどの差がありますな。読者に与える驚きが新鮮なほど、ミステリの味付けとしては極上になる。覆面作家デビュー作ではあるけれど、実はカナダでは有名な作家だというだけに、事件から解決まで一直線ではなく秩序の壊し方が堂に入っているのだ。オフビートでクールなリズム。破壊されて再構築された真の警官魂が燃え上がるとき、物語はクライマックスに突入する。

 ロシアン・マフィアが旧KGBと合体したニュースは耳新しくはないけれど、こういう風にアメリカを離れた舞台で密かに繰り広げられる暗闘を小説に取り上げる作家はこれからも出てくるんだろうな。ベルリンの壁後の世界情勢から生み出され派生した様々な新世界情勢。コソボ問題に続き次々開拓される冒険小説もしくは謀略小説の舞台。ロシアン・マフィアなんかはガードナーが書いてる新007あたりでも出てきそうな新たな敵には美味しい素材だもんね。惜しむらくは、作者が創作したのだろうけれど特捜班『クズリ』の存在をもう少し効果的に織り込んでくれたら物語に厚みが出たのに…。まあ、2作目以降、ミステリに筆が馴染みだしたらもっとコクが出そうな美味しい作家であることは間違いない。(2000年3月読了)

題名:路上の弁護士 The Street Lawyer 著者:ジョン・グリシャム
出版:新潮社 発行1999.10.25 訳者:白石 朗
価格:本体2200円(税別) 極私的評価:★★★

 毎度ぉ、グリシャム節ってヤツですかぁ。いつもの正義感に燃える若手弁護士が登場して、お馴染み大手弁護士事務所の悪辣なる妨害にもめげず、やっぱりそう来たか的な悪戦苦闘の末、そうじゃないかと思ってたんだ式ハッピーエンドに導かれるってわけ(^_^;)。でもねえ、分かっちゃいるけど安心して読めるのがグリシャムなんですよね。クオリティの高さには他の追随を許さないし、このジャンルの第一人者としての貫禄が生み出した手練れの一作ってとこですか。サスペンス色は薄いけれど…(ここがちと難点か)。

 落ちてゆくヤングエグ系弁護士が辿る真実の再生への道。弁護士作家ならではの現実を見つめる目線が効いてます。路上のホームレスに題材を採った経緯は、グリシャム自身がホームレスとの実際に遭遇したアクシデントが原因なんだそうですが、厳密な意味での階級社会ではないアメリカの平等主義的側面を上方から支えつつ下方から足を引っ張る現実感溢れる社会の仕組みを垣間見せて、そこに小説的旨味を織り込むプロのテクニック。逆に言うとそこがグリシャムの欠点と言えるかも(^_^;)。いい意味でのワンパターン。発想の飛躍が制限されてしまう。手堅くまとまる。まあ、グリシャム読む人で弁護士絡みのミステリに食傷気味の方はそうは手に取らないでしょうから、読者のニーズに合致していることは間違いのないところですな。

 過剰な訴訟社会アメリカでなければ成立しない物語。隙を見せれば誰に裁判起こされるか分からず企業にとっては悪夢そのものであり、弁護士にとっては道ばたにホイホイ銭が落ちてる天国って感じか(^_^;)。訴訟天国、銃器天国。どこかおかしいと感じながらも内部矛盾に目を瞑り、小説の中では弱者にそっと手を差し伸べる様に自己満足して充足してしまうアメリカ人のメンタリティを、その実、我々日本人にもある小説的に多少は増幅された人間の本質を赤裸さまに見せてくれて、グリシャムの告発は米国社会に警鐘を鳴らしているようで(ごく一部にしか伝わらないでしょうが)、それが米国社会でのベストセラーという結果に結びついたのでありましょう(ちったぁ良心持ってるんじゃない>米国人)。しっかし、底辺と上層階級の格差は路上でさらに拡大している現実のやるせなさでもありますな。(2000年3月読了)

邦題:刻印 BURNING TIME 著者:レスリー・グラス
出版:講談社文庫 2000年2月15日第1刷発行 訳者:翔田朱美
価格:本体895円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 食傷気味のサイコ・サスペンスにイケてる新味を加えるのは並大抵ではないと思うのだけれど、本作品でそこそこに成功しているのは、精神科医の二度目の奥さんが女優でしかも旦那に黙ってポルノまがいの映画に出演していたという隠し味ですな。後ろめたくもちょいと歪み掛かってる奥さんに、ワーカホリックな精神科医が自分の医療活動に自信すら失いつつも、ある事件からプロファイリングで犯人を追い詰めてゆく過程が、妙に覗き趣味を満足させてくれるのよね。サイコなストーリーを追うよりも、こっちの方が密やかな楽しみだったりして(~_~;)。そそるんだなあ、これが。アッパーな生活への羨望とサイコ野郎を巻き込んでリッチな夫婦の転落模様が雪だるま式に混沌へと、貧乏な我々読者をチクリチクリと刺激してくれるのであります。脇役の登場人物たちが良きにつけ悪しきにつけいい味出しまくりでなかなか宜しいぞ。

 おっと、本筋に戻りましょうか。主人公とも言えるNYPDの駆け出し女性刑事エイプリル。チャイナタウンからのし上がってきた根性娘。ボーダーライン上の刑事として不安定なまま二つの事件の接点を見付けながら手を拱いていた刑事としての失点。彼女もまた個人的な悩みに翻弄されつつも、メキシカンな相棒とのラストの大捕物もまあそこそこ。本作で一番美味しいのは、獲物となった女優の辿る運命のエロス。ポルノまがいの映画出演から引きずっている一種負のイメージが、サイコキラーを触媒にして隠微に燃え上がる様は壮観ですらある。映画『コレクター』の世界に、電動刺青器の針先が皮膚の下に侵入してくるマニアックな苦悶がミックスされて、果たして彼女は救われるのであろうかとハラハラさせられるのでありますな。本筋よりこっちの方がゾクゾク来ちゃうのさ。

 エイプリル・ウーはさほど魅力的な主人公というまでには成長いたしませんでしたが、続編があってすでにシリーズ化しているようなので、興味のある方は続刊に期待しても良いかな。本作品の欠陥とも言えるサイコキラーの造形の不十分さは、崩壊しそうで崩壊しない不安定なアッパー夫婦の翻弄され具合にカバーされての我が評価中の1/2プラス評価だと思ってくださっても結構であります。中盤戦、素人探偵にあそこまで頑張らせておいてラストでの絡み具合への工夫がイマイチ足りないところもかなりマイナスだし、文句付けたい箇所はかなりの数に上るけれど、女囚であり女優であり妻であるエマのキャラ作り込みが我が琴線に触れたのあるよ。事件その後がすっごく気になる作品として拘っちゃうのさ。まあ、女性読者なら夢にもそんなことは思いもしないでしょうから、絶対お勧めいたしません(~_~;)。普通じゃ満足しない男性読者にのみ「旦那、いい本ありまっせ」って耳元で囁きたい作品ではありますね。(2000年2月読了)

邦題:カーラのゲーム KARA'S GAME 上、下巻 著者:ゴードン・スティーヴンズ
出版:創元推理文庫 2000年1月28日初版 訳者:藤倉秀彦
価格:本体各700円+税 極私的評価:★★★1/2

 冷戦構造が終結して旧ソ連が表舞台から脱落と同時に、血に染まる大地が世界中に発信されたボスニア紛争。そしてコソボへ。これほどまでに冒険小説のバックグランドにうってつけな舞台が登場したかと言えば語弊があるか知れない。民族間の数世紀もの間消えずに残った憎しみ。人間の喜怒哀楽の中で最も突出した情動の発露。フラートン『瓦礫の都市』とともに、記憶に新しい現実の民族浄化の悲惨さ不条理さを血肉とした物語が読者への訴求力を倍加させるのは必然であろう。冒頭、カーラの生活すべてが血塗られた現実であったことに思いを馳せるのだ。圧倒的なリアリティ。日常が戦場だった。あの日を忘れない…。

 何か違う。中盤戦から、カーラの戦争=ゲームであることを読者に押しつけ始める展開から付き纏う違和感こそが、現実感からの乖離を促す小説的な逆効果に繋がってるのかもしれない。独走するカーラと自ら立ち止まったSAS隊員の運命がクロスするダウニング街上空数百メートル。女であることを否定せず運命をたぐり寄せる戦争=ゲームの支配者。夫を狙撃され子供を爆撃で失い瓦礫の都市で生き抜きテロルの嵐に身を委ねる女一人。道具立ては完璧でも人間がこれほどまでにタフであり得るのか。作為が安易に情に絆されることを許さない展開とでも言うのであろうか。なるほど創元推理文庫が選んだ作品だなって、ここで納得してしまったのである(~_~;)。

 今から思えば、ストーリーと上巻の生頼範義画伯カバーイラストの圧倒的迫力と同じく下巻のぬるさ加減が妙にシンクロしているのであるな。帯からしてそう。上巻の『1994年、ボスニア。彼女の戦争が始まった。』と下巻の『英国冒険小説の新星が放つ感動の大作。』のキャッチコピーの力の入り具合の差が歴然。極私的には上巻★★★★で下巻★★1/2という評価が妥当な線では…。ストレートにボスニアの血塗られた大地を怒濤の一気がぶり寄りで描き切って欲しかったなあ。エンターテインメントとしてのフィクションとボスニアの現実との距離があまりにも近過ぎて、切り離して読むことが出来なかった部分もあったけれど、考えるところ大であった>上巻。戦争はゲームと同義語ではないと信じたい。(2000年2月読了)

題名:HANNIBAL 著者:THOMAS HARRIS
出版:Delacorte Press June1999 トマス・ハリス公式サイト
価格:US$27.95 極私的評価:★★★★

 サイコミステリ20世紀最大の収穫『羊たちの沈黙』から7年後のクラリス捜査官とハニバル・レクター博士の物語。二人のために書かれたと言っても過言ではないだろう。映画化を前提にかなりビジュアルな想像力を刺激するシーンも満載(英語だらけで勝手に想像してる部分も無くはないけど(~_~;)なので、アンソニー・ホプキンスとジョディ・フォスターを念頭に置いて読まれることをお勧めいたしますぞ。前作では『バッファロー・ビル』を狂言回しに使ってワンクッション置いていましたが、今回は直接、肌の触れ合いすらも厭わぬ魂の触れ合いがズブズブと深く深く深層心理を抉り、トラウマさえも食い破る脳内迷宮に読者を誘う。脅迫観念ともなってるクラリスのトラウマに加えて、レクター博士の妹の存在と出生の秘密が明らかにされる本作での興奮度は読者を一気に異次元へ連れ去ってしまうであろう。それほどまでに披瀝されるレクターの秘められた過去とクラリスの逼塞した現在がクロスオーバーする瞬間に、感動しつつ立ち会える幸せは我々シリーズ読者の特権である。読んでないヤツはレクター博士初登場篇の『レッド・ドラゴン』から読むべし!

 レクター博士が再登場するイタリア篇とクラリスとの劇的な邂逅がスパークする米本土上陸篇にストーリーは二分されるけれど、全編を貫くレクターがクラリスに抱く愛情ってのは『男女の愛』ではなく『家族愛』なのですね。愛の形の変遷は読む毎にメタモルフォーゼ致しますが、とにかく最初はそうなのです。しかも初登場するレクター博士の妹Mischaの辿る闇がレクターをカニバルへの闇へと引きずり込んだ源であることがついに明らかにされるのである。Mischaへの愛がクラリスへの歪んだ愛情だった…。食べてしまいたいほどの愛(~_~;)。公園でクラリスの愛車の中で炸裂するレクターのクラリスへの愛の形。凡百のラブストーリーは平伏すがいい(~_~;)。ここで読者ははっきりと分かるのである。これはラブストーリーなのだってね。いかに歪んでようと血まみれの禁忌を超えた究極の愛をトマス・ハリスは描こうとしたのである。突き進む道はハッピーエンドである。そこが是か非か。読者の辿る分かれ道である。これでいいのか>クラリス! 誰もが心の中で叫ぶであろう衝撃のラストへと賛否両論巻き込んで雪崩のように決着する愛の物語。

 クラリス役のジョディ・フォスターが出演に難色を示しているのも何となく分かります(~_~;)。出演者も皆、CG無くしては成立しないでしょう。特にポール・クレンドラーの最期なんて生身の人間にはとても演じられないはず(~_~;)。それにしても野生の野豚ってあそこまで凶暴なんですかねえ。メーソン・バーガーの執念が引きずり出した悲劇とも言える終盤戦、マスクラット農場での大活劇とフィレンツェでの大捕物。この辺、トマス・ハリスの面目躍如たる凄まじさですので、気の弱い方は遠慮がちに読むことをお勧めいたします(~_~;)。でもさあ、禁忌をこうも簡単に超えていいのだろうかって疑問は、出版当時、嵐のように全米各地で巻き起こったに違いないってワシは思うのだ。日本でも翻訳版が出たら皆さん、どう思うのでありましょうか。とにもかくにもレクター博士モノはこれにて決着ってことで誰も異論は無いと思いますので、シリーズ掉尾を飾る問題作として永遠に語り継がれることは間違いないでありましょう。ミステリ・ファンは本書を読んで瞠目すべし。(2000年1月読了)

邦題:テキサス・ステーション BLOOD GAMES 著者:クリストファー・リーチ
出版:ハヤカワ・ミステリ文庫 昭和61年8月21日発行 訳者:水野谷とおる
価格:500円(古書店で250円+税) 極私的評価:★★★

 心ない人々が荒んだ心を通わせるハートレスな物語(~_~;)にさすがのすれっからしの読者も瞠目するであろう。呆れて物も言えないプロットに、この作者何考えてるんだろうと、ふと考えた。い〜や、何も考えてないんだ! そうに違いない。んじゃなきゃ、主人公があんな訳分からん風に登場して何もしないで去って行くかあ。胡散臭さは特筆モノである。神の意志を物語の背骨に仕込んだ作者の企みかと思いきや、どう深読みしてもそうは思えないんだから、この男、筋金入りの腐れ伝道師でしかない(~_~;)。もしくは極めて好意的に解釈して、キングが傑作ホラー『デスペレーション』から導き出したフレーズ『神はすべてである』と一種共通する諦観のような時の流れ。神はすべてを俯瞰するのである。簡単に言っちゃえば、見〜てるだけ〜ってヤツね(~_~;)。

 伝道師崩れの放浪者。もしくは偽伝道師。巨大な十字架を作ってそいつを背負いながらアメリカ中を回るんだそうだ。折しも連続殺人事件が続くテキサスの田舎町。伝道師の言動を見ているとどうやら偽物であることをプンプン臭わせているのだが、底を割らずに引っ張るんだな、これが。ふむふむシリアル・キラーものかと思いきや、コペルニクス的転回が後半読者を惑乱の渦に巻き込む仕掛けなのだ。せっかくの十字架も本物の磔(~_~;)に使われて警察に証拠物件として持って行かれちゃったままだし…。突如現れるスプラッター系なガキ(~_~;)。ここら辺は時代先取りしてる感じか。今風のキレ方だもんな>フランク坊や。こういう無意味な殺人ってこの時代流行してたわけでもないだろうし、リーチが来るべきハートレスな時代を予言した混沌の物語。

 一応の決着は見るが、収斂せずに拡散するのある。結末が飛び散るのだ。死ぬヤツは死ぬし、逃げるヤツは逃げだし、最後に無関係なヤツが漁夫の利ってのも救いが無くてまことに喜ばしいぞ(~_~;)。もしかして英国版原題がBLOOD GAMESってことは、本当は単に血まみれスプラッターな三流小説を書き殴っただけなのかも知れないなあ(~_~;)。本当のところは誰も分かりません。アメリカ探偵作家クラブ長編賞ノミネート作品ってことは、それなりに海の外でも評価されていたようで、不思議な後味を残しつつ読者の思索を促す哲学的スプラッター・ミステリへと昇華した希有の作品ということにしておきましょうか(~_~;)。(2000年1月読了)

邦題:ダンスは死の招き DEAD MAN'S DANCE 著者:ロバート・フェリーニョ
出版:講談社文庫 1999年12月15日第1刷発行 訳者:深井裕美子
価格:本体1000円(税別) 極私的評価:★★1/2

 こんなんでいいのかぁぁぁ!>クィン。文句付けてるのは、プロットというより登場人物の肉付けの方ね(~_~;)。相変わらず別れた女房と娘のそばで暮らしつつ、日系人の恋人と愛を交わしながら、それでもなお、元家族を愛する優柔不断男の典型である記者クィンを読者はどこまで受け入れられるかで、本書の評価は定まってくるでしょうが、決定的にダメなのは、恋人を連れて元妻をパリまで追い掛けようっていう軟弱男の心根でありますな。犯人を捜すよりも自分の愛の行方を探す方に重点を置く生き方。主人公の魅力より脇を固める助演者の魅力で持ってる物語というのも困ったもんである(~_~;)。舞台を一貫して南カリフォルニアに選び続けてきたフェリーニョのこだわりが、ハードでドライな環境にわざと逆らう軟弱でウェットな主人公を創造したんじゃないかって勘ぐっちゃうんだけど…。

 魅力的な脇役が突出しているがためにアンバランスな印象を与えるクィン・シリーズ第2作目は、確かに翻訳の方も90年代後半のビビッドでアメリカンな雰囲気をよく出した仕上がりに訳されているけれど、タイトルの『ダンスは死の招き』って60年代の売れないミステリ映画風でちょっとイカしてないタイトルじゃありませんか。内容的にはそのものズバリなんだけど、かなりタイトルで損してるんじゃないかなあ(~_~;)。

 クィンの義父でもある最高裁判事テディ。古き良き強いアメリカを体現する男の生き様。軟派野郎の代表選手リックの禁忌を超越したライフスタイルの過激さ。死すらも友達にしたヒューゴの達観。社主ナピターノのえげつないまでの経営者根性。肉体派検事補ティナ・チャベス(~_~;)。これだけ魅力的なサブキャラ集めて、主人公がああしてこうなっちゃうのは、改めて「う〜む」と考えざるをえないぞ。某サイバースペース上で暴嬢(~_~;)が「あんな男大嫌いっっ」と叫んでいたことに今さらながらに納得いたしました。こういう終わり方って続編はないよってことなんでしょうねえ。優柔不断男 IN パリなんて様にならないこと夥しいもんね。フェリーニョの柔らかな筆先がこっち方面に滑り過ぎちゃうとこういう作品が出来上がるという見本でもありますね。クィンのファミリー構造を抜きにすればそこそこ読めるミステリと言える部分もあると言っておきましょうか。(2000年1月読了)

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