感想文リスト
2004年国産作品レビュー
2004年海外作品レビュー
国産レビュー2003
2003年度海外作品レビュー
2002年度国産作品レビュー
2002年度海外作品レビュー
2001年度国産作品レビュー
2001年度海外作品感想
2000年度国産作品感想文
2000年度海外作品感想
99年度国産作品感想
99年度海外作品感想
98年度国産作品感想
98年度海外作品感想
97年度国産作品感想
97年度海外作品感想
国産作品旧文書館
海外作品旧文書館
バス釣り天国河口湖日記
道北ドライブ日記2003
北の国から2001秋
北の国から2000リベンジ編
北の国から98食欲編
ちょっと気になるあの…

2002年度海外作品レビュー

 海外編も読んだら必ず感想を書くまでの気力体力が回復しない年末年始の病み上がり(-_-)。ぼちぼち読んでそろりそろりとアップするペースで如何でしょ(^_^;)。

題名:サイレント・ジョー SILENT JOE 著者:T・ジェファーソン・パーカー
出版:早川書房 2002年10月15日初版発行 訳者:七搦理美子
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★1/2

 MWA賞の最優秀長編賞を受賞し、今年度の各ミステリ・ランクでも確実に上位に入る力作ではあります。過去に硫酸ベビーであった無口な(サイレント)ジョー。主人公を襲った悲惨な事件は20年近くを経ても風化せずグズグズと燻る熾き火のように、軽く火花が散っただけで突然燃え上がる。事件の本流の裏側を細々と流れる支流を辿る気の遠くなるような作業。硫酸で荒れ果てたジョーの肌の裏側に流れる熱き血潮。ジョーのクールさは後天的に体得した仮面でもある。愛情に飢える心を押し隠し、溢れ出したときの爆発は、なんと一晩に30回も大噴火してしまう超絶ラブマシーンへと大変身。 この辺のギャップが凄いっす。それでも淡々と物語は進行するのであるが、あまりの絶倫ぶりに中年読者Kは一歩引いて読んでしまうのであった(^_^;)。

 最初はイカすラブ・シーンだなんて思っていたのですが…いやはや、アメリカ人ってのはパワー・オブ・ラブを地で行くのだな。新しくはジョンベネちゃん事件なんてのもありましたが、彼の国では幼児虐待にかけてもヘビー級の虐待者が列を作って裁判待ってるようなところがあるからねえ。桁が違う国の物差しはセンチじゃなくてインチなんだよね。ただ、本作品では性的幼児虐待ではなかったことが実はミソなんだな。

 親と子。パーカーの永遠に近いテーマらしいが、秘められた過去が暴かれるに従って明らかになる過程がジョーのキャラと相まって静謐なる感動を呼ぶ。主要登場人物すべてが家族=親と子が複雑に絡み合って織りなす人間模様もまた本書の読みどころになるでありましょう。アメリカの崩壊して行く家族ってテーマなら、ロス・マクドナルドにお任せであるが、パーカーが絞ったテーマは単純にして奥が深い。探偵としてその場に居合わせるがその実傍観していたリュー・アーチャーとは違って、探偵役のジョーはその熱き渦中に自ら飛び込んで行く。ロスマク時代よりさらに崩壊しきった現代のアメリカ。こういう時代に逆行するキャラを立てたことでドライになりきった現代をクローズアップしているようでもあり、クリントン後のブッシュを代表する父権の復活=家族の再構築という作業に新しき良きアメリカを模索する国民意識を反映してるのかもしれない。

 成長小説としての側面も見逃せない。父親の言うことだけを忠実に守ってきた番犬でもあったジョーが自分で考え自分で行動し自分で結論を出す。子供が成長するってことは親からの独立ってことにもなるのだけれど、読者は読み進むにつれて、ウィル・トロナの本当の姿を求めて、世間の荒波に爛れた顔を真正面に向けて立ち向かうジョーの勇気に拍手を送りたくなるでしょう。ついでに言っとくと、下半身の学習能力もまた素晴らしいぞ>ジョー(^_^;)。恋人のレポーター役が良い子過ぎて鼻白むところもなきにしもあらずだけれど、ここは素直に二人の前途を祝福してあげましょうか。暴き出された驚愕の真相から導かれ、しみじみと心に染みいるラストでありました。(2002年12月読了)

題名:病棟封鎖72時間 THE PATIENT 著者:マイケル・パーマー
出版:ヴィレッジブックス 2002年10月20日第1刷 訳者:川副智子
価格:本体880円+税 極私的評価:★★★3/4

 医学ミステリ界では、ロビン・クックという一大巨塔が聳え立ってるために、「ああ、マイケル・パーマーね」って誰でも名前は知ってるけれど本のタイトルとなると「さて?」となっちゃう訳だ(^_^;)。最近の洋ものTVドラマ事情が『ER』やら『シカゴ・ホープ』なんて医療最前線ドラマに人気が集まり始めて、当然の如く読書界にもそりゃ波及しますわな。特にネタにしやすいミステリには題材からして事欠かないものねえ。

 もともとパーマー作品を手に取ることさえ初めてであったからして、比較検討なんて出来るはずもないのだが、ここまでやるかってほどのノンストップ・サスペンス。ヴィレッジブックスなんて地味めな出版社じゃなきゃタイトルももっと格好良くして楽々ヒットしてたはず。医学的知識に裏付けられた手術室の迫真の臨場感。冷酷非情な脳腫瘍持ち殺人犯は誰だというフーダニット的要因もプラスされて、怒濤のスピードで『ER+ダイ・ハード』は最終決着地点へと突進して行きます。医学ミステリってジャンルを飛び越えたエンタメ小説! これを読み逃す手はないと思うぞ。

 幾つか瑕疵を論えば、占拠された病院を何度もスイスイ出入りするアレックス・ビショップ君ですかね。最初はダクトを這って潜入とか言っておきながら二度目以降は??? ちょいとご都合主義って感じもなきにしもあらず、かな。簡単に手術メンバーにも潜り込めちゃうし、水も漏らさぬテロリスト連中相手にしては緩すぎないか。

 文字通り主人公は、ラストでも女医のジェシーだった訳ですが、映画と違ってダイ・ハードな奴って2人いたってのがミソだな(^_^;)。女ならではの視点が最後の賭けに勝ったってとこも時流に乗るフェミニンな部分を逆手に取ってちょっとアイロニカル。近未来医療マシンのプロトタイプみたいなアーティの存在も医学界に精通したパーマーならではの小道具ではありますねえ。例によってハリウッドで映画化するとして勝手にキャスト。ジェシーはデミ・ムーアで、マローチェはマイケル・ケインって配役は如何。(2002年12月読了)

題名:青い虚空 THE BLUE NOWHERE 著者:ジェフリー・ディーヴァー
出版:文春文庫 2002年11月10日 第1刷 訳者:土屋晃
価格:本体829円+税 極私的評価:★★★3/4

 かなりレベルの高い専門用語が読み手の頭上を飛び交いますが、ネット徘徊者連にとってはシステム体系的にネットの仕組みを体得している方がほとんどでしょうから、途中で躓くってことはないから安心してディーヴァー節に浸って下され。ネットジャンキーなお話なので興味のない方は結構うんざりしちゃうかもしれませんが、そこはそれ稀代のストーリーテラーの大ボラ話に気持ちよく乗っかるべきでしょ。

 パソ系アングラ雑誌に散見するトラップドア系ソフトのレベルはよく把握してはおりませんが、数年以内に現実が追いつくであろう電脳分野を活写するディーヴァーの取材力は誉めておくべきかな。ハッカー、クラッカーを遙かに凌駕する電脳連続殺人鬼。生身の人間すら記号で認識するほどの冷血度。ネットの向こう側の狂(凶)気を2ちゃんねる等の掲示板で散々味わった方には現実感を伴った恐怖として認識出来るのではないでしょうか。狂気を遮断するフィルターとしての端末から現実社会へ飛び出したデーモニッシュな犯人を止めるには狂気の縁で止まっているクラッカー一歩手前のハッカーしかいないってんで、ムショから登場するのが本書の主人公ジレットなんですね。虚々実々。最先端の電脳バトル。ま、ネット徘徊者なら誰でも疑問に思う部分…ムショの2年間で日進月歩のIT事情がかなり懸け離れた進歩で、普通なら戸惑うはずの主人公がいきなりトップレベルで易々と裏ネットに復帰出来ちゃうところはご愛敬(^_^;)。

 一体どこでひっくり返してくれるのか…深読みする癖はディーヴァー読みなら誰でも持ってるはず。そこが逆に弱点と言えば言えるかも。作り込み過ぎて現実から乖離しちゃったストーリーが過負荷でショートしちゃってる感じ。終盤戦、もう一人のハッカーいやクラッカーの暴き出された正体がちょこっとSFしてる部分には留保点付けちゃいますねえ。人間性の完全なる欠如=クラッカー殺人鬼と、ラストで取り戻し掛けた人間性の欠片をキラリと輝かせたハッカーの対比。この辺、ディーヴァー上手い。ケビン・ミトニックの例の事件から着想したのでしょうが、リンカーン・ライム・シリーズとは別線でこういう問題作をサラリと仕上げちゃうプロの仕業には脱帽するしかない。最先端犯罪シーンでのハイテク技術の使い方って、結構ベールに隠されてる部分が多いので、ヴァーチャルに体験出来るのはこういうミステリ読む醍醐味でもありますなあ。(2002年11月読了)

題名:髑髏島の惨劇 RIPPER 著者:マイケル・スレイド
出版:文春文庫 2002年10月10日 第1刷 訳者:夏来健次
価格:本体1048円+税 極私的評価:★★★1/2

 あのマイケル・スレイドが…血みどろ『グール』を途中で投げ出した記憶も生々しい鬼畜系ホラー作家が、文春文庫で新装開店セール? ふむ、しっかも何を血迷ったか本格ミステリに挑戦? ならば読まずばなるまい。新しモノ好きも病膏肓にいるよなあ>ワシ(^_^;)。ところがですねえ、マイケル・スレイドってば、出版社替わってもやっぱし血みどろどろどろのままやんけ〜(*_*)。ま、洗練された血みどろ絵巻ってところがミソかも。単なるサイコ・スリラーで終わらせないところが、大いなる進化と言い得て妙ちくりん(^_^;)。むははは。やっぱり変なのよ、これ。前半戦はまったくのサイコ・スリラーで、後半戦は登場人物入れ替え戦があって超絶本格ミステリへとメタモルフォーゼしちゃうんだもん。アガサおばさんの『そして誰もいなくなった』をモチーフにしてるのは一目瞭然なんだけれど、種も仕掛けもある殺人劇はド派手指向でディクスン・カー顔負け。血しぶき飛びまくりでっせ。

 登場人物も『グール』から生き残った連中が今回も登場しておりますので、本作ラストでのチラッと描写されていたある一連の動作から次作の登場人物にあっと驚く死人が甦る可能性もあるとワシは読んだのだが、さて。このシリーズ今が再読してみるチャンスなんだけど、今一歩踏み切れなかったりなんかして…(^_^;)。

 この作品では特に顕著なんだけれど、ストリーのつなぎの脈絡のなさ(ぶっ飛び加減も含めて)は、マイケル・スレイドが複数ライターの合作であることが大いに関係あると思うのよね。別々の作家の作品を切り貼りして一本に纏め上げたような違和感こそがドライブ感を損なう一要因であろう。無理無理に整合性のあるサイコ編+本格推理編に仕立て上げ具合が如何にもマイケル・スレイド力業って感じでとってもファンには受けまくるのであろうけれど…。

 さて、ここで問題です。本作品中、いったい何人の犠牲者がこの世を去ったのでありましょうか。あんまり多すぎてワシは勘定する気も起きませんでしたぁ…(^_^;)。(2002年10月読了)

題名:壜の中の手記 The Oxoxco Bottle and Other Stories 著者:ジェラルド・カーシュ
出版:晶文社 2002年7月5日初版 訳者:西崎憲 他
価格:本体2000円+税 極私的評価:★★★★

 物語への助走部分が短い短編集って、100bダッシュを繰り返しているようで忙しなくて、よっぽど面白くなくては読む気がしないのであるが、登場人物の味付けが冒頭からすんなり頭に入ってくる作家的な熟練度が心地良いから少々古びたネタながらついつい没頭して電車の中でも降りるの忘れて読み込んでしまうのである。いやはや。奇想がいきなり立ち上がる短編作家としての技巧が、そのまま洗練されてないワイルドさで迫ってくるのが凄い! こういう作品群&作家を発掘してくる編集者も凄い! まさしく晶文社ならではの作品であるなあ…良くも悪くもこういう変化球系の作品はここでしょ(^_^;)。

 1968年には死んでしまってるジェラルド・カーシュ。発表年度は1940年代が中心であっても、カーシュ・ワールドの寓話性はそのまま普遍性へと繋がり2002年の今に甦るスケールに「おお」と思わず作品解説を熟読してしまうのよね。そう、ミスター波瀾万丈=ジェラルド・カーシュ。不遇の晩年だった彼には、時代が早すぎたのかもしれません。ハーラン・エリスンらが熱烈な賛辞を送っているってのに納得だな。ブラッドベリら短編の名手と共通するコアな部分に共鳴してしまうのでありましょうねえ。

 個人的な好感度では、『ねじくれた骨』表題作『壜の中の手記』『時計収集家の王』などがお勧め。ミステリ好きにもSFマニアにも納得の異色中の異色12作品を収録。まさしく奇想、読者を動かす作品群にこの秋、どっぷりハマってみませんか。新しく始まった晶文社ミステリ。古いけれど新しい。今後もこういう作品がポロッと零れてくるのを期待して待っております>晶文社殿。『BOOK OFF』じゃなかなか出物はなさそうなので買ってでも読むべし。(2002年8月読了)

題名: BONES 上、下巻 著者:ジャン・バーク
出版:講談社文庫 2002年6月15日第1刷発行 訳者:渋谷比佐子
価格:本体各629円+税 極私的評価:★★★★

 MWA最優秀長編賞受賞作って謳い文句は伊達じゃなかった。連続殺人犯の尋常ならざるキャラが徐々に浮き彫りにされる過程が凄い。まず、遺体捜索班とともに犯人が同行するという、やがて訪れるであろう悲劇へ導くシチュエーションがB級映画の発端っぽくて、来るぞ来るぞって期待感でゾクゾクしちゃうのよね。女主人公もトラウマ抱えながら訳ありで同行するお約束的展開もよろしい。身の毛のよだつ罠にハマるのは、むさ苦しい男性キャラより可憐なるヒロインであるに越したことはないではないか(^_^;)。上巻はアウトドア編、下巻はコンクリートジャングルへ。急展開する物語は雪だるま的にサスペンス度を加速する。

 女性記者ケリー。シリーズ物らしくて実は本作品が初読なんだけれど、主人公のバックグラウンドが朧気にしか見えてこないもどかしさがありますが、ここは致し方ないところ。サブキャラの造型にやや難ありってとこが残念ではあるけれど、シリーズ読者には最高のプレゼントとなるでありましょう。おっと忘れちゃいけない陰の主人公=死体捜索犬ビングル君の存在ですな。最新義足情報と連続殺人やら飛行機事故で活躍する捜索犬関連の読ませどころも、蘊蓄っぽくなく自然に読者の頭の中に入ってくるのが作者の上手いところ。

 惜しむらくは女性作家らしい押しの弱さで、上巻ケリーが危機一髪のところをサラッと書き流されちゃった部分。肩すかし気味に下巻へ突入してしまうので、もっと粘着質に連続殺人犯らしく圧倒的に偏執的に書き込んでくれたなら…勿体ないよなあ。トマス・ハリスなら絶対違った展開になってるはず(^_^;)。一種どんでん返しと皮肉な結末はなかなか。殺人鬼パリッシュとの対決シーンでは、映画『ダイハード』のラストを思い浮かべてしまったぞ。これはまあ、映画化しやすいストーリー展開と言えるんでしょうね。ワシのイメージでは、女性記者ケリーにはデミ・ムーアあたりで如何。パリッシュはウィレム・デフォーな〜んて凄く在り来たりっすか(^_^;)。(2002年6月読了)

題名:暗黒の塔II ザ・スリー THE DRAWING OF THE THREE 著者:スティーヴン・キング
出版:角川文庫 平成十一年五月二十五日 初版発行 訳者:池央耿
価格:本体1048円+税 極私的評価:★★★3/4

 強まるファンタジー色と相反する現実世界への場面転換の妙。どこでもドアの一種ですな>あれ。向こうの世界から一気にこちら側へ。麻薬密売人がウロウロしてドラッグストアには強盗がいる現実世界にいることへの安心感(^_^;)。読者は皆エディの立場でガンスリンガーに着いて行くであろうから、ようやく地に足が着いたって感じ。二丁拳銃のガンスリンガーが等身大で強さも弱さもさらけ出す。なんせ巨大ザリガニに利き手の指をちょん切られちゃうのだから。なんで、突然、海でザリガニなんだなんて聞きっこなし。そこら辺がファンタジーであってホラーではないところ(^_^;)。今回はアクション冒険小説なんだな!

 この不可思議な旅で出会う不可思議な連中ってのにもキングの造型は際立っておりまする。両足を事故でなくした、若くて美しい黒人女性オデッタってのが極めつけ。キングお馴染みの悪意の塊を心に持つデッタってのが二重人格で、オデッタの美しい心の中を出たり入ったりでガンスリンガーを悩まし足を引っ張るのよね。この猛烈女こそが円環を繋ぐカギらしいのもお約束(^_^;)。本書ではファンタジー部分よりも現実世界で藻掻き続ける三人+一人の登場人物が向こうの世界にアジャストする過程を楽しむべきでしょ。ジェイク少年の秘密というか矛盾というか生と死がどう絡んでこうなるのか。向こうの世界の存在基盤が揺らめく本書の大詰め場面から、謎は解明されぬまま第三巻『荒地』へとさらに一気読みは進む。

 現在、暗黒の塔IV『魔道師の虹』まで刊行されているようですね。んで、その次はと、ファンサイト巡りで見つけたぁ! なななんとすでに『暗黒の塔VI』までキングの公式サイトでアナウンスされているとの情報が…さすが上級マニアは情報は逃しませんな。行ってみるとなるほど。暗黒の塔その他、彼を巡る噂などなど気になるネタがごろごろ。ファンならずとも英語力を磨いて覗きに行ってみては如何?(2002年4月読了)

題名:ガンスリンガー 暗黒の塔I THE GUNSLINGER 著者:スティーヴン・キング
出版:角川文庫 平成十年九月二十五日 初版発行 訳者:池央耿
価格:本体640円+税 極私的評価:★★★1/2

 世は一種ファンタジー・ブームの感がありますが、ここは一つハリポタだの指輪だのに背を向けて、キングのダークファンタジーにお付き合いしてみましょ。臍曲がりの本読みは、こうして山と積んであった本の中から次に読むべき本を引っ張り出し始めるってわけ。読書もモティべーションが肝心ってか(^_^;)。

 破滅後の世界。キングお得意の世界観ですな。黒衣の男=ランドル・フラッグ。『スタンド』に出て来た悪の化身のアナザーストーリーという体裁を取っておりますが、パラレルワールドはあちらこちらに触手を伸ばし、キングの各作品群にかなりの確率で触れられる『あちらの世界』が、ついに形となって現れたキング畢生の大作と言えるでありましょう。イマジネーションの奔流と超弩級のスケール。ファンタジーの傑作と言われる作品って世界観の構築こそが物語の大いなる柱となっているわけですが、そこはそれ、ぶっとい柱の陰からキングの毒がじわじわと読者の脳髄に忍び寄る(^_^;)。なんせ主人公がガンスリンガーですので、撃って撃って撃ちまくる。序盤のタルさが一気に吹っ飛んだ『ヘイ・ジュード』の町での回想シーン。剣と魔法なんて間怠っこしいこと言ってないで、45口径が火を噴くリアリズムこそがこの作品の真骨頂でありますな。

 はてさて『暗黒の塔』とは? 消えた黒衣の男の行く方は? 謎が謎を呼ぶ本書はほんの序章に過ぎなかったことが分かる『暗黒の塔II ザ・スリー』へと一気読み必至。巻末、風間賢二氏はさすがキング研究家の第一人者だけあって、痒いところにまで手が届く解説で締めくくってくれます。遅れてきた読者って、こういう風に一気読み出来る特権があるのよね。(2002年4月読了)

題名:真夜中の死線 TRUE CRIME 著者:アンドリュー・クラヴァン
出版:創元推理文庫 1999年11月26日初版 訳者:芹沢 恵
価格:本体960円+税 極私的評価:★★★

 傑作と誉れ高いキース・ピータースン名義の作品は何作か読みましたが、「ふ〜む、なかなか」と感心はしたもののシリーズ全作まで読もうとは心動かされなかったのよね、正直なところ。んで、アンドリュー・クラヴァン。これが同一作家かと思わせるほどの外連味の強さが売りではありますが、どうも個人的にはメーターの振れ幅が大き過ぎて諸手を上げて絶賛とはいかない作品群なのですな。ほんと、個人的趣味の世界ですから好きな方はほんとに好きなんでしょうが…要は相性の問題って、簡単に片づけて良いのか(^_^;)。

 で、本書の場合。主人公スティーヴン・エヴェレット。映画じゃクリント・イーストウッドが演じておりますが、こりゃ完全なミスキャスト。ジジイは『スペース・カウボーイ』がお似合いじゃないのかねと言いたくなりますな。しっかも、原作と違って映画では、フランク・ビーチャムが黒人にすり替わって安易なヒューマニズムに流れているのが気に食わんぞ。ま、製作・監督・主演を兼ねてるのが彼ではこうなるのは目に見えておりましたな(^_^;)。でも、ま、原作でのわたし=エヴェレットの造型はナイスなのよね。C調で皮肉屋でスケベで敏腕記者で…主演男優賞を上げたくなっちゃうほどの際だったキャラ(イーストウッドのキャラじゃないでしょ、どう考えても(^_^;)。最近では、ネルソン・デミルの『プラムアイランド』のジョン・コーリーに匹敵しますな、こりゃ。

 主人公の魅力と死刑執行へのぎりぎりカウントダウンの疾走感で突っ走る面白さ。ただ、純粋のミステリ的見地からは、途中、死刑制度の是非への切り口へとシフトダウンしてしまうヒューマンな語り口がちょいと腰砕けかな、と。誰が真犯人かという部分も途中あっさりネタ割れしちゃうし、クラヴァンが書きたかったのもこっち方面だったんでしょうねえ。主人公を白人にしてあるのも結構意味深だし(^_^;)…そういう重みと軽みが融合したサスペンスフルなエンターテインメント作品としてはなかなか良く出来ておりまする。一応お勧め。(2002年4月読了)

題名: THE FALLS 著者:イアン・ランキン
出版:ハヤカワ・ミステリ 2002年3月31日発行 訳者:延原泰子
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★1/2

 何だか味も素っ気もないタイトルだけれど、一応、ニュージーランドのバンドの曲名に引っ掛けたものらしい。『黒と青』なんかに比べるとちょっとマイナーすぎてピンと来ませんなあ(^_^;)。ただ『滝』って言葉にはいろいろと意味深な部分が顔を覗かせて、ランキンらしいこだわりが本書の読みどころでもある。黄昏れちゃてる老境のリーバスvs冷酷無比なクイズマスターってことになるんだろうけれど、先発リーバスはコントロール定まらず早々に降板、リリーフ役のシボーン・クラークがヴァーチャルな活躍をするのである。リアルタイムに進行する物語の黄昏度が一定の読者層にとってはちょいと痛々しいけれど、ポケミス読者は否応なしにリーバスと一緒にじじいになって行くのだな(^_^;)。

 あと何作もリーバスものは書けないとランキンも考えているのであろう。署内のリーバスの地位も不安定なものだし、それを支える恋人の存在ってのが一匹狼らしくなく、揺れ動く心理描写にも突っかえ棒が出来て実は底辺に漂う安定感が、タイトルの変化にも見えるランキンの一種閉塞感をもたらしているのかもしれません。クイズ・マスターなんぞを登場させるなど大昔の棺桶やら猟奇色を前面に出して、語り口にも工夫を凝らしたのはマンネリ打破への作者の苦労の現れと読んでもいいかも(^_^;)。そっち方面で活躍するのはシボーンだってのにも苦笑しちゃうけれど…ま、キャラがそれぞれ脇役にもしっかり立ってるのに好感が持てるね。

 総デジタル化時代にアナログの典型デカ=リーバスってのが烏賊にも章魚にもってぐらい面白いが、やがて哀しきはシリーズものであるなあ。フリーマントルのチャーリー・マフィンと一緒で如何にサバイバルして行くかが読ませどころになってしまうサブストーリーの方がメインになったりしないで欲しいぞ(^_^;)。突っ張り中年リーバスの哀愁漂う背中に出世街道に無縁の世のサラリーマン諸子も陰ならぬ応援をしているはず。このままフェイドアウトせず、年金なんか糞食らえ!鯉の滝昇りよろしくもう一花咲かせる予感を残しつつ退場するリーバスにカーテンコールはまだ早い。次作に期待しよう。しっかし、ポケミスで1900円は烏賊にも章魚にも高いぞ。プンプン。(2002年3月読了)

題名:コード トゥ ゼロ code to zero 著者:ケン・フォレット
出版:小学館 2002年1月10日初版第1刷 訳者:戸田裕之
価格:本体2200円+税 極私的評価:★★1/2

 帯に書いてある児玉清の推薦文を信用してはいけませんぞ。こんな本に2200円も大枚叩かなくて良かったとホッとしている読後かな(^_^;)。ここぞの図書館利用ってのが貧乏系読書子の最終兵器だもんな。ケン・フォレットは堕落したわけではない。『針の眼』が突出しているだけで、ミステリ・プロパーな作家では無かったことが分かったってだけの話じゃん。そんなもん、わざわざ買って読んだ前作『ハンマー・オブ・エデン』で分かっちゃいたけれど、やっぱし確かめたくて読んでしまうんだなあ>過去の栄光を求めて…。

 圧倒的にぬるいのである。大甘ちゃんなのである。主人公の記憶喪失場面から入れば、それ相当のアクション・スリラー展開に持っていけるはずなのに、ミステリ度はズルズルと摩耗してしまう。疾走する48時間で世界が変わるはずのネタなのに牧歌的とすら言えよう。時代設定が1958年だからって古くさい人間模様をことさら強調しないでも…ま、メロドラマを書きたいケン・フォレットって作家が、二組のアメリカンなカップルに旧ソビエトを絡ませて無理矢理サスペンスタッチに仕上げた、と。言ってみりゃ『1958年版フレンズ』って感じか(^_^;)。

 海外ミステリに強いとは言えない小学館が、ケン・フォレットに拘るのは如何なわけであろうか。かの『大聖堂』も新潮文庫封切りだったはずだし『針の眼』は早川書房だわな。一時期集英社文庫も手を出していたけれど、現在売れ筋ではない小学館が商売してるってことは…さあ、皆さんも推理してみようではないか(^_^;)。もう、ケン・フォレットの旧作品は絶版が多いけれど、そっちの方に傑作は眠っているのだ。最近の作品群でフォレットが気に掛かる読書子は、『針の眼』以降『大聖堂』未満を図書館で探してみよう。私がこれだけフォレットに拘るわけが分かるから。(2002年3月読了)

題名:極秘制裁 上下巻 SECRET SANCTION 著者:ブライアン・ヘイグ
出版:新潮文庫 平成十三年六月一日発行 訳者:平賀秀明
価格:本体各590円+税 極私的評価:★★★★

 ヘイグ国務長官の息子でガチガチ軍人上がりが、こんな達者な文章書くなんて驚天動地と言ったら大袈裟か(^_^;)。ハードアクションかポリティカル・サスペンスあたりの直球一本勝負だったら納得なんですが、ブライアンってば鋭く曲がって落ちる変化球投手だったのよね。いやはや。ユーゴ紛争も遠くなりにけりの昨今ですが、記憶の底にある虐殺報道の裏表を、主人公ショーン・ドラモンドの目を通して右へ左へ危なっかしく揺れ動きながら、その実自らの敏腕ぶりをオブラートでくるみながら、丁々発止と上司連中とやり合いながらも、さりげなく、しかも着実に真相に迫るべく検証して行く。ドラモンドの出色キャラは平成十三年の紛れもなくスマッシュヒットである、とワシは思う。

 伏魔殿とも言うべき米陸軍内部の自浄作用なのか>ドラモンド。軍事小説ではない。上官の命令に絶対服従のはずの軍組織内での独立独歩=将軍なんかクソ食らえ的な捨て身のドラモンド少佐の調査が、そのまま冒険小説なのである。暴き立てる内幕を推理する上質なミステリでもある。フィクションではあるが、陸軍出身の著者がここまで書いちゃっていいのかってほど陸軍内部の問題構造をさらけ出すリアリズム。現実にもあったはずのコソボ紛争時の虐殺の真実。あくまでも米国側からのみ描き出して娯楽小説に仕上がっておりますが、包含する真実の重みは、当事者間には風化させることの出来ない永遠の記憶となって語り継がれてゆくのであろうなあと読後遠い目になってしまった(-_-)。コソボの次はアフガン経由パレスチナへ。戦雲の厭な予感は現実のものとして21世紀へ持ち越されてしまった…。またしても米国が介入して悪夢を見るのであろうか。

 映画『ア・フュー・グッドメン』とデミル『誓約』を連想してしまうのは、それぞれがしっかり作り込んであるからに他ならない。軍隊が日常周辺にある米国ならではの題材をそれぞれの角度から娯楽作品へと変貌させてしまうショービジネス界の逞しさもまた米国ならではであろう。本書もまた映画化するには絶好の作品だと思うのだけれど、まだ決定報道はこちらには聞こえておりませぬ。国務長官の息子が作者なんて絶好の宣伝文句だと思うのですが…。(2002年1月読了)

題名:終極の標的 ENDGAME 著者:J・C・ポロック
出版:早川書房 2000年12月15日 初版発行 訳者:広瀬 順弘
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★1/2

 昔のポロックとはひと味違った作家的成熟度を味わうべき作品とでも申しましょうか。ま、発表がジェームズ・エリオット名義ですので、ポロック本人ももうポロック名義は過去のものと割り切って書いているのかもしれません。プロット的には昔のポロック風味は踏襲しつつ、エリオットならではの女性キャラのアピール度がこれまた強烈そのもの。きっと腹筋もきれいに割れてるムキムキお姉ちゃんなんだろうなあ>ジャネット嬢。んでアメリカンな少々デベソ系(健康器具通販のCMでよくありがちなタイプね(^_^;)。いかんいかん想像過多だわ。ポロックの感心するところはジャネットを最後まで脱がさなかったことではあるぞ(湖で泳がせたのは最小限のサービスか)。健全な関係のまま銃をぶっ放す男と女(どこが健全だか(^_^;)。

 ポロック名義で行き詰まってエリオット名義で別路線。そこでまあ、当たったものだから自信回復。ポロックの地が出たエリオット作品というのが正しい読み方であろう(なんとまあ、勝手な推測(^_^;)。古くからのポロック・ファンは大歓迎なのであるが、このネタでハードカバーは勘弁してくれぃ>早川書房殿。文庫で800円程度がポロック読みの正しいあり方なのである。エリオット名義での版権高騰がもしかして…と思わせるが、それとてさほどお高いとは到底思えず…だからポロック名義で出版したのでしょうし、ねえ。

 銃撃戦。街中で、森の中で。ポロックならではのド迫力! これは買いでしょ。ハッタリのスケールがデカいのも丸だな。勧善懲悪じゃなくて屈折してる加減が程良く主人公の魅力を引き立てるB級冒険アクションの王道を行く筋立て。心配せずに読める安全ブランドになっちゃった感のあるポロックですが、主人公ともどもプロットにもう一捻りあると、グリグリ二重丸なんですが、筆先が洗練され過ぎちゃうとワイルドさを失うのは先刻承知。無い物ねだりと知りつつも敢えて言いたい。エリオット名義を捨ててポロックでもう一回勝負してよ、ね。それでこそ新生ポロックと認めてあげようじゃないか。(2002年1月読了)

題名:雪に閉ざされた村 SNOWBOUND 著者:ビル・プロンジーニ
出版:扶桑社ミステリー 2001年12月30日 第1刷 訳者:中井京子
価格:本体819円+税 極私的評価:★★★

 通勤車中、読む本が切れて中毒症状を緩和するために無理矢理買い込んだ一冊。ま、ちょいと気にはなっていたのですが、新刊で購入するには至らなかったのよね。1974年の作品が今頃ひっそりと出版されるにはわけがある。そう思って手は出さなかったのは正解だったかも。とか言いつつ、買っちゃったわけですが…(^_^;)。『名無しのオプ』で有名なプロンジーニゆえ、ブレイク前の作品とはいえリーダビリティは捨てたものではないぞ。ストーリー紹介だけでも結構ゾクゾク来ちゃうはず。というわけで、『クリスマス前の山間の小さな村に逃走中の凶悪な3人の強盗殺人犯が潜入。しかも村の出入り口は雪崩で寸断され逃げ道なし』さあ、どうだ。面白そうでしょ。フランス推理小説大賞まで受賞してるってんだから箔付けには十分じゃないかな。だけど、★3つのそのわけは…。

 登場人物の色分けが古いんだよね〜(^_^;)。古色蒼然たるキャラの立ち方はシンプルそのもの。だから興奮が少ない。読者は傍観者で感情移入するまでもなく読了してしまうって寸法だ。やれやれ。悪党側のクービオンがなかなかいい味出してるけれど、脇を固める悪党どもが如何せん弱っちいのだ。こんなものでは困るのだ。閉じ込められた村人たちの極限状況もさほどドラマチックに人間くさく展開するかと思えばあっさり系で終始してるし…。正義の主人公も知力の限りを尽くすまでもなく呆気なく決着する。そうかそうか。70年代ってサイコ系大量殺人の時代ではなかった背景を考えれば納得出来ないこともないか。言っちゃ何だが牧歌的(^_^;)。古き良き時代のサスペンスものとしては及第点。お暇ならどうぞ、と言っておきましょう。(2002年1月読了)

ホームに戻る