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97年度海外作品感想

 

題名:眠りなき狙撃者 著者:ジャン=パトリック・マンシェット
出版:学研 1997年3月31日 第1刷 訳者:中条省平
価格:2000円(本体1942円) 評価:★★★★(5段階)

   オベールから始まった我がフランス冒険小説作家漁りは、ついにマンシェットにまで到達したのでありました。書店で見かけてスカスカの行間に激怒し、絶対に学研のあくどい商売に味方するもんかと忌避していたマンシェットに、ようやく図書館の開架で邂逅したのでありました。これ、みっちり行間詰めた文庫版にしたらグリーンマイル1冊分で済んじゃうんじゃないかな(^^;

   ところがところが、見かけと違って中身はメチャ濃いのよ。10年に一度の衝撃。こりゃクリストフの『悪童日記』以来の、心臓を鷲掴みにして揺さぶる非米国圏小説ではないか。研ぎ澄まされたというより、神経剥き出しの削り込まれた文体の荒々しさ。こんなの初めて。新鮮。驚愕。呆然。クール過ぎる描写の描き出すフレンチ・ノワールの感触。

   冷静に読めば結構間抜けな暗殺者も、マンシェットの筆に掛かればぞっとする運命の変遷に虜にされて銃弾に身を削られ、女に裏切られ、閉じた円環に囚われて皮肉過ぎるラストへと雪崩れ込む。冷え冷えとした極北ともいうべきフランス・ミステリの一つの到達点なのであろう。テリエの銃撃の描写を見よ。頭蓋骨は砕け脳漿は飛び散り腸は飛散する。やっぱり凄えや、これ。

   残念ながら著者は亡くなってしまったそうですが、同じく行間スカの『殺戮の天使』『殺しの挽歌』が学研から出版されていますので、購入してまで読む気はまだ起きないのだけれど、図書館では必ず仏文系の書架もチェックする今日この頃です。でも、なかなか見つからないのよね〜。(97年12月読了)

題名:エアフレーム-機体-  上、下巻 著者:マイクル・クライトン
出版:早川書房  1997年5月31日初版発行 訳者:酒井昭伸
価格:各1800円+税 評価:★★★1/2

   いわゆる情報小説。ただ、そこで終わらないのがベストセラー作家クライトンのクライトンたる所以で、われわれ素人読者の世界まで降りてきて噛んで含めるようにレクチャーしてくれて、しかも業界裏情報のレベルまで作品世界をフィットさせている点が凄いのです。読んでいて少しも飽きないのだから、小説家としてのツボの掴み方が殊のほか優れている証明に他ならないのだけれど、とにかく情報の作劇への生かし方がうまい。消化不良に陥らせないで、ここまで情報を小説上で操りつつミステリ的要素も織り込む手腕は、国産ミステリ界では皆無でありましょう。クライトンの小説は、立派に一つのジャンルを形成していると言ってももう大袈裟に聞こえないのではないでしょうか。

   この本読んじゃうと、もう安心して飛行機乗れませんよねえ。UA機なら安全という神話も、先日乱気流で映画『タービュランス』そのままで死亡事故まで起こしちゃってる現実を見るにつけ、安全なものはもう何処にも無いという単純な真実を目にしてしまった、恐るべき時代を生きているんだなという実感をまさに感じ取ったのでありました。

   本編でのクライトン自らの意見の披瀝とも思える、マスコミ批判の鋭さもなかなか興味深い。クライトン・クラスになるともう四六時中マスコミとの接点を日常に見出す生活を送っているのは言わずもがなで、本人自身映画監督してマスコミへの露出を積極的に演出しているのだから、そこから産み出される意見というのはかなり現実に即して訳で、米国メディアの映像マスコミの暴走ぶりが結構リアルに描き出されているのでありあます。日本でもワイドショーの過熱報道ぶりが揶揄された時期がありましたが…何処も同じメディア凶器論。

   ま、映画化されたら見に行くでしょう。クライトンの場合、原作より映画の方がスケールアップされて面白い場合が多々あって、映画ファンとしては大歓迎なのだけれど、原作がここまでスーパー面白作品なら映画もさらに期待度大という読後感想なのであります。でも、映画にしたら業界内幕だけじゃ地味かもしれないなぁ(^^; そこそこのアクションシーンも欲しいところだもんね。(97年12月読了)

題名:暗殺阻止   上、下巻   Little Brother 著者:デビッド・メイスン
出版:早川書房   1997年8月31日    初版発行 訳者:山本光伸
価格:各1900円+税 評価:★★★

   帯に謳われているほど超弩級の謀略サスペンスというにはチト異議ありだな。確かに仕掛けは大風呂敷で破天荒な潜入作戦を緊迫感生かしながら、いかにも英国つー感じで冒険小説してるし登場人物もそこそこユニークだし、そういえば、前回のメンバーが再登場してる訳で、懐かしい人には面白く読めるかもしれませんね。

  シュタージの生き残りに目を付けたのはなかなか慧眼だとは思いますが、物語の中でそれほど生かされていたかというと、これがそうでもない。独り善がりの将軍はあっさり下克上されちゃうし、後を継ぐ大佐は大佐で、これでいいのかよ、ってな展開の後半戦で、本当は…という部分がそれほど美味しくないというのが致命的かも。謀略部分が上滑りしてるんですよね〜。ラストの元首相の生かし方だって、それほどスパイス効いてないぞ。

   北朝鮮からの脱出行の迫力に免じて★一個おまけ。そうそう、ターゲットのネタの割り方は結構気が利いてたかな。私はてっきりあの人かと思っていたら、おお、なるほどのお方が登場して、そうかそうかと納得いたしました。ま、年末年始にお暇なら、というところでしょうか。(97年12月読了)

題名:鉄の薔薇 La Rose de fer 著者:ブリジッド・オベール
出版:ハヤカワ・ミステリ文庫 1997年11月30日 二刷 訳者:堀 茂樹
価格:680円+税 ★★★★

   速攻で読了致しました。パチパチパチ、オベール気に入りました。 早速、書店で『マーチ博士と四人の息子』と『森の死神』を探し回って何と か入手いたしました。あ〜やれやれ。置いてる店が少なくて難儀しましたが な。

 パラパラとページを捲ってみるとどうやら全て毛色の違った作品らしい。 本作は冒険小説ではあったけど、他の2冊はどうやらサイコミステリらしい ぞ。なかなか芸達者なおばさん作家ではないか。オベール未体験の方は、ア ゴタ・クリストフが誉めていたのもなるほどと思わせるストーリーテリング の冴えを、存分に楽しんでみてはいかがでしょう。う〜む、すっかりはまっ た仏ミステリ界の新星に、これからは英米文学コーナー以外も図書館チェッ クしなくちゃと反省しきりの師走のホット・ウィスキー美味しい夜でありま す。

 これはフランス版ジェーソン・ヴォーンと言ってもいいかもしんない。錯 綜する謎とスピーディーな展開、何故か分からぬままに狙われる命。ジョル ジュの求めるアイデンティティが、崩れ、再構築され、また崩れる。何故、 どうして、家に残してきた妻が外国の街角で別の男と一緒にいる? これが 謎の発端。謎の重層構造。納戸の中のタンス、その開いた引き出しの中にま た箱があって、それを開けるとまたそこに…。もう次から次ぎなのだ。そこ から疾走する17日間。しかも主人公のジョルジュの本職は銀行強盗プロフェ ッショナル。ノワールな登場人物たちにエスピオナージュの風味をピリッと 効かせたオベール会心作と言ってよいのではないでしょうか。

 ラドラムより、そこはそれ、おフランスらしいエスプリも効いてたりして B級映画っぽいノリの良さもグッドです。作者ってば、実家が映画館経営し てたとかで、自身も短編作品を何本か撮っているらしい。なるほど、結構ビ ジュアルっぽい描写が物語を引き締めてるよね。荒唐無稽さをしっかりカバ ーしてるし…。ワシは物語後半のマルタが好き。直接的な描写はそれほどじ ゃないのに、そこはかとなくエロティックなのもいいよね。 (97年12月読了)

題名:沈黙のメッセージ DEAL BREAKER 著者:ハーラン・コーベン
出版:ハヤカワ・ミステリ文庫 1997年5月15日発行 訳者:中津悠
価格:本体840円+税 ★★★★

   映画でもトム・クルーズの『ザ・エージェント』みたいなスポーツ・エージェントものが出てきたり、野茂やら伊良部関係で昨春マスコミを賑わした団 野村氏も、そういえば日本ではスポーツ・エージェントのパイオニアみたいなものだし、そういう土壌が読み手にも広がってきたため、本書のように主人公がプロスポーツ選手らの代理人であっても、何ら違和感なくその世界に馴染めちゃうのも宜なるかな。ただ、それだけじゃなくて、かなりユニークなのが我らがマイロン・ボライターなのではあるけれど。

   元プロバスケットボールの名プレーヤーで元FBIで現やり手のスポーツ・ エージェント。やり手じゃなきゃ生きて行けないこの業界に、強力助っ人の存 在が…。何だか、スペンサーに対するホークみたいな感じだけど、私にはこっ ちのコンビの方がしっくりくるんだな、これが。ウィンの強烈過ぎる個性には 開いた口がふさがらないくらいなのだけれど、結構いい子ぶりっ子でナイーブなマイロンに対比するキャラとしてはいいバランス感覚と言えるのではないかな(^^; もう少し、本書以上にあっと驚く仰天エピソードを紹介してくれば、 ウィンに対する読者の人気度もホークを超えるかも。

   事件はロスマクでお馴染み米国中流家庭の悲劇を、コーベン風にアレンジし てあるペーパーバックらしい軽さとギャグとユーモアとペーソスとをほどよく ミックスして美味しく焼き上げたパイみたいに、じわじわ面白さが伝わってく る拾い物の文庫封切り作品なのだな。早川書房もこういう美味しい文庫封切りは、もっと増やしてもいいと思うぞ。米国アンダーグラウンド産業界にメスを入れる社会性も紛れ込ませたりして、その実、堅っくるしいこともなく、FUCK系スラングのオンパレードで読み手を飽きさせず、クライマックスまで謎を持続させてくれる手腕には、おお、こりゃいいじゃんと、MY要マーク作家の一人 に昇格したのでありました。

   現在、第三作まで本国では出ているようなので、一日でも早い日本での訳出を期待して待ちつつ、さて、次に発掘する作家は?と積読本のあふれ返る書棚 をひっくり返す師走の我が読書環境ではある。(97年11月読了)

題名:真夜中の電話 IN THE MIDDLE OF THE NIGHT 著者:ロバート・コーミア
出版:扶桑社ミステリ 1997年9月30日 第1刷 訳者:金原瑞人
価格:本体476円+税 ★★1/2

   巻末で馳周星氏らが褒め称えるほど、コーミア独特の暗い結末に感銘は受け なかったけれど、青春小説としては佳作の部類に入るかな、とまずまず評価はしております。ま、『チョコレート・ウォー』と『果てしなき反抗』しか読ん でいないにわかコーミア・ファンといたしましては、瑞々しい青春群像を素直 に受け入れつつ、はたまたそれを俯瞰したようなコーミアの透徹した筆致に、 やがて来る悲劇の臭いを嗅ぎ付けてしまうんだな、これが。ま、そこが読みどころではあるんだけど…。

    確かにルルの正体が明かされると、そのグロテスクさに、思わずウッと来ますが、昨今のサイコホラーを読んで鍛えられててる読者にはそんな心配無用でありますなぁ(^^; この程度じゃ平気の平左ってとこだよねえ。ただ、暗くてグロテスクでも後味悪くないんだよね。この辺が、コーミアの年の功とでもいいましょうか、小説書きとしての成熟なのですよね。だからこそ、青春小説の 巨匠と言われるのかな。

   ページ数が300にも満たないゆえ、通勤途上の電車の中で楽に読了いたしま した。『チョコレート…』『果てしなき…』を読んでいてコーミアが気になっ ている方は、ほんの1時間弱で読めますので、本書にもトライしてみてはいか がでしょう。ここまで持続する罪悪感と罪悪視する人々の怖さ=人間心理の闇が、最後にひたひたと電話線を伝って真夜中に読み手に迫ってくるのであります。ああ、こういう町には住みたくないなあ、本当。実際にこんな目に遭ったら恐いぞ〜。(97年12月読了)

題名:サイコメトリック・キラー THINNING THE PREDATORS 著者:ダイナ・グラシウス&ジム・スターリン
出版:早川書房 1997年4月30日 初版発行 訳者:小林理子
価格:1900円+税 ★★★

   着想の妙というか、登場人物の設定の奇抜さで最後まで引っ張ってくれたサ イコ・ミステリの変わり種作品と言いましょうか。作者の一方がバットマ ンなどのアメコミ書いてるそっち系の人らしいんで、こういう作風にも納得がいくってとこかな。探偵役が超能力者というパターンでは、ウィルツの『ベッカー』シリーズがありますが、この作品ではどっちかというと犯人役と言って いいでしょうから、毛色が違うし作者の指向も随分と違います。

   よくもまあ、スピルバーグが映画化権を買い取ったもんだ。スピルバーグに サイコ・スリラーの取り合わせなんて、スリラー・ファンには冒涜のように思われるだろうし、ましてや本来のスピルバーグ・ファンも戸惑うんじゃないか な。本書も結構描写はハードで、冒頭からグイグイ読者を物語の渦中へと 引きずり込みますので、一度手に取った限りは、一気読みの面白さにほとんどジェットコースター感覚と言っておきましょう。

   追う者と追われる者が一つになる時、あっと驚く、新たな恐怖が読者の前に提示されます。作り上げられたサイコ・キラーの哀しみみたいな描写があれば もっと背景を分厚くしてくれるはずですが、そこまで踏み込んでない部分に多少の物足りなさを覚えます。視覚的には十二分に映画化を意識していて、凄い ハードな大活劇がラストで待っておりますので、これはなかなか美味な作品かと思いますねえ。(97年11月読了)

題名:マンハッタン市街戦 SEVEN SHADES OF BLACK 著者:スティーブン・マーティン・コーエン
出版:創元ノヴェルズ 1997年11月21日 初版 訳者:務台夏子
価格:900円+税 ★★★1/2

   痛快、興奮、壮絶。3on3デスマッチ。これが、デビュー作だって。こりゃまた、今年度NO1のB級大活劇と言い切っても大袈裟じゃないってところが嬉しいじゃあ〜りませんか。とにかく、通行人も建物も自動車だろうがバスだのヘリだのが、ドッカンドッカン吹っ飛ぶマンハッタンの街角。凶悪加減が半端じゃないイラクの爆 弾テロリスト三人組が宣戦布告しちゃうんだから、さあ大変。マハ嬢の獰悪さが、も うこれでもかこれでもかと書き込まれていて、呆れ返るほどの存在感であります。登場人物が皆濃いのよね。情け容赦ない爆破シーンはド迫力。凄いんだから、本当。

   迎え撃つ正義の三人組も一筋縄じゃいかないんだな、これが。殺人課警部補、FBI特別捜査官、爆発物専門家。只者じゃないどころか、ほとんど異常者の世界にまで昇華されちゃってる彼らの行動様式が、たまらなくキッチュでナイスよ〜ん。爆弾で吹っ飛んじゃった現場で三人揃って壁舐めて爆弾用の科学物質検出シーンなんてえのは、電車の中で読んでて、思わず吹き出す寸前だったもんね。あ〜やれやれ。ケツの穴の括約筋の緩いデブの登場シーンにも、ぶはははは。こんだけ笑かしといて、シリアスな部分ではいきなり剛球投手に変身しちゃうんだから、緩急自在の筆の冴え には驚くばかりですねえ。特にナイジェルの暴走ぶりには手が付けられん。

   ここまで美味しいB級大作は、最近読んだ中では『恐竜クライシス』以来かも。時々こういうのが出てくるから、創元ノヴェルズも侮れないんだよなぁ。変に畏まらない大人のエンターテインメント。これですよね。ラストへの物語の収束の仕方もお約束の、モジュラー式に犯人像に迫っていた捜査陣が徐々に輪を狭めて行く様子が結構スマートに書き込まれていたし、犯人そっちのけで趣味に走る奴もいたりして、オ フビートっぽさがモロ好きです、こういうの。まあ無理かもしれないけど、この作者、次回作でも、もう一回ナイジェルを主役級で出してくれないかしらん(97年12月読了)

題名:チャーム・スクール  The Charm School上、下巻   著者:ネルソン・デミル
出版:文春文庫 1996年1月10日 第1刷 訳者:田口俊樹
価格:各650円(本体631円) ★★★★

   う〜む、花嫁学校ねえ。ネルソン・デミルの文庫版封切り作品ですが、タイトルに騙されちゃいけませんぜ、こりゃ。デミルらしい仕掛けが後半戦で炸裂いたしますので、活劇派はそれまでじっと我慢で、もう過去の思い出になるつつある東西冷戦のあの陰鬱な物語をじっくり読んで、当時の緊迫した情勢を思い浮かべて下さいませ。1988年発表 の作品ですから、これはこれで致し方ない。ただ、それもあって文芸春秋も文庫版封切 りにしたのでしょうか。内容的には十分ハードカバーに耐える出来だとは思ってます。

   確か、クーンツの『雷鳴の館』もネタ的にはこっち方面だったような記憶があるのですが、作家によってこうも方向性が違うかと…。こちらマジに展開するデミル作品は、上巻とは打って変わって下巻ではハードに展開する大活劇本なのであるなあ。なか なか良いぞ。それほど好きなキャラクターではなかったCIA支局長のアレヴィーも終盤戦いい味出しまくりだし、軍人キャラのホリスとの好対照もこの作品の読みどころであ りますね。

   ただ、ここまで政府に裏で暴走させちゃうのもどうかと思うラストかな、って考えざるを得ない部分もあったりする訳ですが、時代性を考えればむべなるかなと、当時に思いを馳せちゃったりするのであります。ちとデフォルメされてるけど、冷戦当時なら、こんなのよくあった話なのかもしれませんね(ホントカイナ)。ここは一つ、冷戦秘話として発掘されたデミルの大風呂敷きに気持ちよく乗っちゃうのがよろしいのではないでしょうか。

   作中、命のやり取りの合間にもかかわらず、結構やりまくる某カップルも読ませどころではあるのですが、これって『スペンサーヴィル』へと続くデミルの主人公に最近多 い発情モードへの萌芽なのかと、ふと考えてしまいました。軟派じゃないこういう作品での過剰なセックスシーンにはワシは否定的であるのですが、デミルが読者サービスと考えて描写を増やしているのであれば致し方ない部分ではあったりします。ま、嫌いじゃないんだけど作品の緊張感を台無しにしちゃう可能性も多々ある訳で…。

   つーことでデミルには硬派な作品が似合うと個人的には思っています。これって、映画化されたら『ザ・ロック』を超えるスーパーハードな作品になるポテンシャルを秘めてるよね。(97年11月読了)

題名:垂直の戦場 VERTICAL RUN 著者:ジョセフ・ガーバー
出版:徳間書店 1996年9月30日 第1刷 訳者:東江一紀
価格:1800円(本体1748円) ★★★

   そういう訳で、その男は『永久に復員できない兵士だった』。

訳者後書きでいわく、ゲラ刷り段階でラストにあった『驚愕の報告書』が本編では削除されていたという件が非常に興味をそそられるのよね…。つーことは、続編も出るということでしょうか。いやー、出してもらわなきゃ困るよね、これ。

   ベトナム復員大暴れアクションっつーのは、ランボーでお馴染みの結構ありきたりな設定になっている昨今の冒険小説事情ですが、サラリーマンが巻き込まれ型でダイハードしちゃう白昼夢の展開がなかなか読ませるので、昨日までの同僚が皆彼の命を狙う何じゃこれの物語がそこそこ腑に落ちちゃうのだ。敵役のランサムがなかなかいい味 出してるし、フラッシュバックするベトナムの光景がそこそこショッキング。
   『ヴァーチカル』っていう単語はバサーにはお馴染みだけど、窮地を脱するデイブの取った行動はまさしくヴァーチカルだよね。う〜む、非常階段からの逃走にはこういう手段もあったんだと感心してしまったのでした。実際にやれと言われても、出来る人は本職のスタントマンだけでしょうけど…。

   ベスト10に入る風な作品ではないけれど、ページターナーな1冊ではあります。面白 いっす、これ。映画化されるそうですけど、さ〜て誰が主役を演じるんだろう? 『レ オン』のジャン・レノあたりが面白そうなキャスティングではありますね。ニューヨークの摩天楼に戦場の狂気が甦る悪夢。いかにも映画的なストーリーで引っ張ってくれる超B級エンターテインメントというところかな。続編が出るか出ないかで、ラストシーンの余韻が変わってきてしまいますので、出すなら早いとこ出してくれ〜と、声を大にして徳間書店に叫ぼうではないか。(97年10月読了)

題名:うつろな男 THE HOLLOW MAN 作者:ダン・シモンズ
出版:扶桑社 1996年12月30日 第1刷発行 訳者:内田昌之
価格:1800円(本体1748円) ★★★

   次々と襲い掛かる苦難にも淡々と立ち向かうテレパスの死生感。漂流する彼の 魂の無常観が生身の肉体を通過していく儀式のように、精神的に無抵抗な耐える人と化す。肉体的には反応してはいるのに、それはそのまま『うつろな』反応な のだ。空虚な彼の心を埋め尽くすノイズが彼を無理矢理物語の中に引き摺り込む。

   だからこそ、シモンズ。単なるテレパスの苦悩では終わらせてくれないのだ。生き残る意思を見せたときの『うつろな男』がうつろではなくなる時の反撃。だが、シモンズはそこまで描写しない。そして、もう一人の『うつろな男』。そうか、そういう訳だったのか。執拗に繰り返される数学的問答から導き出された結 末。ハッピーエンドというにはちょっぴりダーク。ただ脳裏に浮かぶ光景は日の光を浴びて幸福色に染まる…。

   全般的に活劇シーンを意図的に押さえているようですが、押さえ切れずに暴発 する食料倉庫でのバトルは壮絶の一言。妻の死後、自殺願望を伸ばし伸ばしにしておきながら、受動的な死は受け入れず、やがては能動的に死のうとも考えなくなっていく過程で、章ごとに彼の『うつろ』な部分を徐々に埋めていったsomethingがシモンズ流の宇宙解明理論であったりするところが読みどころといえるかもし れないけれど、数学的素養がゼロ人間の小生にはちと苦痛だったりもしたのであったのも事実。

   ついに満たされた『うつろ』な男が取った最期の選択に、さほど共鳴できなか ったのが残念ではあるけれど…読者に考えさせる作品ではあることは間違いない。どうにも評価が難しい作品ですが、シモンズ・ファンなら読んでおくべき、と言っ ておきましょう。(97年9月読了)

題名:マスカレード MASQUERADE 著者:ゲイル・リンズ
出版:早川書房 1997年5月31日 初版発行 訳者:松下祥子
価格:2600円+税 ★★★

   どうでもいいけど(実は良くないんだが)、最近の早川のハードカバーって高過ぎないかな。確かに版権とかの高騰もあるんだろうけど、この値段でこの出来栄えでは、もう自腹切って早川のハードカバー買おうってえ気も衰えちゃうのよねえ、この頃。

   カッスラーやグラフトンも激賞の女流新人作家のデビュー作という鳴り物入りのこの作品、確かに物語はハードでプロットも錯綜して結構ハラハラさせてくれるのですが、読んでていかにもプロトタイプってえ感じが終始付きまとってゴツ ゴツと引っ掛かってしまうんだなあ。でも面白いけどね>未読の方。

   錯綜し過ぎて『肉食獣』の描写が浮き上がっちゃったのよねえ。ここまでやっちゃ噴飯モノっちゅうラストに、う〜む。だけど国際謀略物としてはスケールの大きさがなかなかよろしいんじゃないでしょうか。同じ国内作家の某嬢よりはよ っぽど描けてますけど…。映像的なバイオレンス・アクション・シーンが女性離 れしていて、この辺のストロング・スタイルな部分がよろしいのですなあ。次回作でどう一皮剥けてくれるか楽しみな作家ではあるのです。ただ、本作は未成熟な部分が、ワシには多少鼻に付いた部分がなきにしもあらず。

   アッシャーをもう少し生かしたストーリー展開にしてくれれば、物語に厚みが 増したように思うのだけれど、でも、記憶喪失したリズの疾走感を生かせば、こういう描写の仕方になるのも致し方ないところか。

   まあ、買って読めとは言いませんけど、図書館で見付けたら借りて読んでも損 はない作品だとは思ってます。ただ、買うには高過ぎると早川書房に物申す、昨今の出版事情なのだな。(97年7月読了)

題名:ブラッド・キング BLOOD STAINEDKINGS 著者:ティム・ウィロックス
出版:角川文庫 平成八年十二月二十五日 初版発行 訳者:峯村利哉
価格:880円(本体854円) ★★★★

   過剰に燃え盛る脳内マグマの奔流を受け止めるには器が小さすぎたか。圧倒的な書き込みと登場人物の狂気にも似た熱気に押し流されつつ、辿り着けばオウフーピー・リバー・ボトムランズでの父と息子の邂逅。おお、表題のブラッド・キングの意味が今ここで明かされる。圧倒的な感動がシコルスキの上で展開されるのだ。そうか、主役は彼だったのか。彼がブラッド・キングだったのか。赤く燃える夕陽の哀感がグッと迫って来るのである。このテイストは60年代に一時はや った映画のタイトル『夕陽の…』が連想されてしまうのは、当時見まくったマカロニ・ウェスタンの影響大ということかもしれないなぁ。ちと古いっすかぁ、ワシ(^^; って、感動はここでとりあえずストップしてしまうのだ。

   訳者が変わって、どうも文章が直訳っぽくて固いなあと思い込んだが最後、読み進むのが結構辛い作業になってしまいました。う〜む、こんなはずじゃない…と半ばを過ぎて俄然ウィロックスの本領発揮というべきかファナティックなハードアクションの釣瓶打ち。一筋縄ではいかない作者の一筋縄ではいかない問題作。キケロ・グライムズ医師の復活と成長の記録とも言うべき作品と言うには、後半戦が納得いかない収束の仕方で、う〜む。そうかそうか、だから文庫版封切りに した訳だ、角川さん。ブラッド・キングは複数になったけれど、こういう散文的な結末にはちと異議ありなのだな、ワシの場合。もっと、ウィロックスなら…。『グリーンリバー・ライジング』の凄まじさに、今回も期待し過ぎた部分がなきにしもあらず。確かに凄いんですけど、こういう凄さはあまり歓迎できないなあ。

   前作は舞台が閉鎖空間であったがゆえに、噴出したマグマはそのまま内部に滞留したけれど、本作では、外に流れ出してしまった部分も結構あったりするよう だ。ウィロックスはこうって固定観念を持っちゃいかんと思いつつも、やっぱり期待するのは『グリーン』路線ですので、今度角川がハードカバーで出してくれたら無条件で飛びつくことにしましょう。(97年6月読了)

題名:千尋の闇 上、下巻 PAST CARING 著者:ロバート・ゴダード
出版:創元推理文庫 1996年10月18日 初版発行
訳者:幸田敦子
価格:各730円 ★★★★

   英国産歴史ミステリの香りがゆったりと立ち上る佳作であります。フォートナム&メイスンの紅茶にショートブレッドで寛ぎながら優雅に頁を繰る、そんなイ メージかな。特に上巻のエドウィン・ストラフォードの登場場面は古き良き英国そのものだもんなあ。ロイド・ジョージやらチャーチルらが実名で人間臭さ丸出 しで権謀術数を尽くす様は歴史の迷宮への入り口を開ける鍵であり、やがて現わ れる悲劇へと導く序曲でもありました。

   エリザベスの可憐さといかにも上流育ちのエドウィンのストレート過ぎる人間性。そして元教師のマーチン・ラドフォードと歴史研究員イブとの恋愛模様の二 重構造の物語が万華鏡のようのに読者をきらめく迷宮へと引き摺り込むのですが、 偽りに満ちた物語と偽りを暴き出された真実の物語の悲劇性に二人の主人公が選んだ取るべき道に深い感動を得るのであります。これだけの枝葉に分かれた物語 なのに、すべての章がラストに収斂して行く様には感動すら覚えるのだが、これ はすなわちゴダードの緻密な筆裁きに魅せられていることに他ならないでしょう。
   二重構造の一方が完全なる善、そしてもう一方がどちらかと言えば悪。どちら が善か悪かはここではネタバレになるので記しませんが、ヒロインを追う二人の 主人公も好対照ではありますね。それだけにふたりの辿った結末の意外性にも目を見張るものがありました。まあ、マーチンの方がいかにも現代っぽく役割を割り振られた感じがしますが、う〜む、ラストのイブの行動には納得行かないよなあ。これって私が古い世代の人間ってことなのかな。

   歴史を辿る英国製ミステリということで、登場人物の死なんて想像だにしませんでしたが、下巻で急転直下、裏側の真実が掘り起こされるにつれ、俄然手に汗握る展開に一気呵成に読了いたしました。原題の『PAST CARING』より、はるかに 『千尋の闇』のタイトルの方が数段いい。余韻の深さに酔いつつ、この感想をし たためておりますが、エリザベスとエドウィンの辿ったそれぞれの悲劇は、どち らがより深い傷痕を心に残したのだろうと、ふと考えてしまいました。歳月は真実を埋もれさせはしない。そして、マーチンは自ら辿った悲劇をどう清算して行 くのだろう…。(97年4月読了)

題名:見果てぬ緑の地 SCOUNDREL 著者:バーナード・コーンウェル
出版:早川書房 1996年8月31日 初版発行 訳者:坂本憲一
価格:2300円 ★★★

 パトリシアじゃない方のコーンウェルは久しぶりでしたが、主人公もガラッと イメチェンした冒険小説に仕上がっております。コーンウェルと言えば海洋冒険というイメージが出来上がっちゃてて、皆ヨットの上で生活してるような錯覚に すら陥りますが、今回の海洋色は前半のみに押さえられていて、テロを主題にした一部謀略サスペンスもの、ってとこかな。

    んで、あれっと思うのが、主人公のSCOUNDRELぶりなのですよ。これまでの作品が英国伝統の海洋冒険小説に偏り過ぎたきらいがあったため、コーンウェルも意 図的に作風を変えてみたのだろうと想像出来ますが、今一つこなれなかったかな。まあ、それでもワシはパトリシアよりバーナード派は捨てません。屈折した男のロマンと根性物語っつうところが読ませるのだよなぁ。どうもIRAの内部事情には疎いのだけれど、そうかそうか、湾岸戦争当時、裏ではこういうリビアと繋がり が在った訳だと、多少物知りになった部分もあったりして、アイルランド人気質の頑迷さも結構微笑ましかったりするぞ。

    最後に気の利いたターンオーバーが待っておりますので、気を抜いて読んでい たら、おおっとビックリ。やるもんだね、バーナード君!と寝ぼけ眼を見開かせてくれました。根無し草のようなシャナハンの心情に共感を寄せつつ、悪党でもロマンチストな部分に焦点を当てながら、ラシーンの妹と最後にああなっちゃうのはチト期待外れだったな。もう少しカタルシスが欲しかったけれど、テロが主 題の小説に説得力を持たせるには、やはりこういう結末を持って来ざるを得ないのかもしれませんね。ああ哀愁のポール・シャナハン…。(97年1月読了)

題名:ミッドナイト・ブルー MIDNIGHT BLUE The Sonja Blue Collection 著者:ナンシー・A・コリンズ
出版:ハヤカワ文庫FT 1997年1月31日発行 訳者:幹 遥子
価格:680円 ★★★


   確かに解説の堺三保氏が書かれているように、吸血鬼モノというのは、キングの『呪われた町』はすでに古典と化し、いかにバリエーションで勝負するかの変化球の時代に突入すると、こういう路線かアン・ライスの『レスタト』路線に別れざるを得ない訳で、古き良きレトロな吸血鬼物語を想像して本書を手に取ると火傷しまっせ(^^; ってくらいに、ホットでハードでバイオレンスな女吸血鬼ソーニャ・ブルーの物語の始まり始まりとなる仕組み。パチパチパチ。

   と言う訳で、本書はThe Sonja Blue Collectionイントロダクションに相当するのでありまして、この後続く第二作目では作者の言うセックスと暴力と暴力的なセックスっつうのが炸裂するのを想像するだに恐ろしい(^^; ナンシーってぐらいだから女流作家なんだろうけど、よくぞここまで描いてくれました。

   ハヤカワのFT文庫ってとこがクセモノで、設定が一応、ファンタジーしてる訳でありまして(^^; <真世界>に徘徊する吸血鬼や人狼、オーグルにサキュバス、インキュバス。ありとあらゆる<偽装者>たちが、ソーニャの敵であり仲間なのでありますが、モンスターどもは普通人には不可視なため、<真世界>といえどもファンタジー苦手派のワシにも違和感なく物語の中に没入出来たのであります。何だかハードだった頃の『ゾンビー・ハンター』シリーズに似た雰囲気もあったりして、吸血鬼のくせに吸血鬼狩りをするソーニャの人知を超えた活躍に懐かしさみたいなものを感じてしまったりする部分もあったりして。

   吸血鬼もセックスするんだなぁと妙に感心しちゃったのですが、サキュバスやらインキュバスっていうのはそっち方面のモンスターなわけだから、それはそれで納得したのでありますが、それにつけてもモンスター級のエッチだよなぁ(^^; ソーニャとデニーズと『彼女』との関係が危なっかしくもバランスを取っていた本書から次の『In The Blood』ではどう弾けるのか、ハードバイオレンスホラー系の私にとってはちと目を離せないシリーズになったようでありますねえ。(97年某月読了)

題名:カーリーの歌 SONG OF KALI 著者:ダン・シモンズ
出版:ハヤカワ文庫NV 1995年4月15日 二刷 訳者:柿沼瑛子
価格:640円(本体621円) ★★★

   処女長編で見事、世界幻想文学大賞を射止めた作品だけあって、一筋縄では行かない悪夢のようなストーリー展開が、予期していなかったショックを読者の心臓に叩き込んでくれます。う〜む、さすがシモンズ。処女作でもやっぱりシモンズはシモンズなのだ。

   本作でモチーフにしている『暴力』。暴力が世界を支配する社会の闇へ光を当てようとして、カーリーの歌に支配されそうになりながらもその呪縛から逃れて新たな一歩を踏み出したルーザック。すなわち暴力の環を断ち切って対抗しようとしている本作から暴力に対する暴力というカウンターメッセージへの創作上の進化、そしてシモンズならではのパワフルな押しの強さは、次作の『殺戮のチェスゲーム』へとしっかり継承されているようです。この辺、シモンズのこだわりが見え隠れしていて興味深い。ただ圧倒的な暴力社会としての先進国でもある米国が手招きをしているようでもあって、素直にシモンズの意図する流れに乗っかって読み進むとハートに火傷を負いかねないぞ(^^; それほどシモンズって作家はホットなんですよね。

   主人公が詩人なもんで、ここまでハードに展開するとは思わなかったのよね〜。冒頭、家族連れでのインド旅行が何だか微笑ましかったりするのですが、だんだん相手の詩人の正体へと読者が導かれていくと、これが凄まじいイメージを見せ付けてくれるのだなよほどインドでの実体験が強烈だったんでしょうね(^^; この物語のインドでは死体と物乞いが全体の70パーセントを占めてるんじゃないでしょうか。カーリーガート信者は実際インドに存在するとのことですが、本書では何割増しかでデフォルメしているのでしょうが、あながち全部嘘っぱちとは言い切れないところが、宗教の怖さでもあります。まあ、この作品は、そこまで読者を怖がらせてくれるシモンズの筆の冴えを、素直に堪能すればよろしいのではないかな。

   メッセージ性の高さゆえ、深読みしてしまう傾向がなきにしもあらずのシモンズですが、エンターテインメント作品としての娯楽性も追求する余裕が今後の作品群には登場しておりますので、処女作ならではの生硬さもまた微笑ましく読んだのでした。書店ではなかなか見つからず、貸して下さったFATIMAさんに感謝であります。さて、作者の最新作は…? って、これだけシモンズの名前をプッシュすれば未読の方もシモンズの作品を手に取る気になってくれたかな(^^)。

題名:スロート 上、下巻 THE THROAT 著者:ピーター・ストラウブ
出版:扶桑社 1996年3月30日 初版発行 訳者:山本光伸
価格:上、下各2000円 ★★★

   『ココ』の上巻の読み辛さにめげて下巻の最初で放っぽっておいたピーター・ストラウブに懲りずにまたまた挑戦したのであります。嫌いじゃないんだけど、この難読差さ加減は並みのホラーサスペンス作品と比べて遥かに上空を滑走するグライダーのように手の届かないもどかしさみたいなイメージをストラウブ作品には個人的にレッテルを貼ってしまっていたので、思いのほか読みやすい『スロート』におやっ。『ココ』とは主人公が違うため、同じ登場人物でも微妙に受ける感じが違ってくるんだよなあ。『ミステリー』のトム・パスモアも然り。

   謎の中心は例のブルーローズ。数作にわたる謎解きが鬱陶しくなるほどのストラウブのこだわりにあえてはまってあげましょう。そう決意して飛び込んだ『ココ』で挫折したからあまり大きなことは言えないのだけれど、ただこの作品はストラウブにしては読みやすい(^^; 事件とストーリーと時制の関係がしっくり腑に落ちるのです。背後を脅かす不安感。ストラウブを読んでいると絶えず誰かが行間に潜んでいるようで、落ち着かない読後感とでもいいましょうか。ベトナム後遺症を描き続ける作家としての姿勢は、ストラウブ自らのベトナム後遺症的なものが尾を引き摺っているのであろうか、と思わせるほどのこだわりで、読んでる側としては多少辟易してしまうのは致し方ない部分であろう。それでも気になる作家として我が読書リストには上位に並んでいるので、この感想を読んでストラウブを読まず嫌いにならないように、と未読の方に釘をさしておかなくちゃ(^^;

   散文的な文章がミステリと融合するとき、派生する文学的香りが時として鼻に付く。そんな感じでしょうか。下巻のラストで、ようやくブルー・ローズの謎が解明されたと思って良いのでしょうか。数作を経て、ここまで辿るのにあまりに long & winding roadだったために、何だか気の抜けたような感慨がふと過ぎってしまう春の訪れ。ここまで引っ張った『ブルーローズ』の秘密の謎が、幼少の頃に見たXX体験だったなんて。残るモヤモヤは『ココ』の続きと『扉のある家』の『ブルーローズ』という短編を読めばすっきり解消といくのでありましょうか。まあ、とにもかくにも『ココ』の続きを読むことにします。順番通り読んでないから私の理解の仕方にも無理があるのかもしれません(^^;<97/03/27読了>

題名:ローズ・マダー ROSE MADDER 著者:スティーブン・キング
出版:新潮社 1996年5月15日 発行 訳者:白石 朗
価格:2800円 ★★★

   すでにジャンルを超えて世界中に認知されているキングの作品ゆえ、あえて#4会議室に感想をアップしちゃおう。ホラーというよりはサイコ系のノンストップ・ページターナーな一作であります。ただそこはキング。一筋縄で行く訳がないんですが、全身これ悪意の固まりといった警官でもありヒロイン・ローズの夫でもあるノーマンのキャラクターが凄まじいんだな、これが。よくぞここまで活写してくれたと感心してしまうほど、ノーマンの日常生活が徐々に狂気に染まる過程がリアルで異常で、そのぶっ飛び加減がもうたまりませんな。うひゃ〜、何だか凄いぞ、テニスプレーヤー(プレーの意味が違うぞ)のノーマン(^^;

   キングって悪意に満ちたキャラを創造するのが抜群に上手い作家だと思っているのですが、男性よりは女性の糞ったれなキャラの方が精彩あるような気がするけど、これって私の気のせいでしょうか、やっぱり。まあ、アンチヒーローのキャラはだいたい男性が多いし、どの作家もこれでもかこれでもかと書き込んでくれるので、たとえキングであっても、さらに悪意を深めたキャラの創造というのは難しくなっているのかもしれません。でも、凄いですよ、この作品に登場するノーマンのキャラは…。

   対するは可憐な乙女ロージー。乙女と言っても実際はノーマンの奥さんだった訳ですが、こちら清らかな純愛路線を突っ走るんだよなあ。う〜む、キングってばこんなのも描けるんですね(^^; だからその分余計に、ノーマンの方をスパークさせてバランス取ってるんだよね。ひょっとしてキングって女と警官に精神的なトラウマを負ってたりして…。って、まあ、読者にそういう風に思わせてしまうというのは、作家の勝ちということでしょうけど、本当にキングの圧倒的描写力には脱帽あるのみ。並みの作家三人分の厚みがあるもんなあ。実際、本も分厚いけど(^^;

   中盤から、あれれの展開には『ややや』でありました。え〜、あっちの世界へ行っちゃうのかと肩透かし気味。雄牛は何かの象徴なのだろうけど宗教やら神話関係には疎いもので、絵と神殿と蜘蛛と種の関係がよく分からん。う〜む、本読んでなくて、この感想読んでくれてる人も良く分からないでしょうけど(^^;もっとストレートな追っかけっこを期待していたのですが、意外に早くノーマンがロージーに追いついてしまったので、何かあるなとは思っていたのですが、他人任せのこういう決着は納得できないなあ。変にホラーがかるより直球勝負でラストのカタルシスを得たかったのですが、最近のキングってこうなのですかぁ? 『スタンド』が出るまでにはまだ間が有りそうなので『グリーンマイル』が全巻で揃ったらそっちに手を出す予定です。一巻づつ待つのは性に合わないので、やっぱり一気読みだよね。<97/05/21読了>

題名:原告側弁護人 THE RAINMAKER 著者:ジョン・グリシャム
出版:新潮社 1996.9.25発行 訳者:白石 朗
価格:2600円(本体2524円) ★★★1/2

   グリシャムよ、こんなにストレートに飛ばしてしまっていいのかい、と余計な心配をしていたら、最後にえいやっと引っくり返してくれました。個人的な感想としては気に入りはしないのですが、ここまで飛ばしちゃうとこうでもしないと収まりがつかないよねえ、実際。ケリーというキャラクターが登場してから薄々こういう展開が用意されているとは考えていたのですが、あれれ、もう残りページがこんなに少なくなって…んで、ドッカーン。

   成り立て貧乏弁護士の徒手空拳のドタバタ就職活動から、依頼人確保の裏テクニックまで、元本職ならではの筆の冴えをじっくり味わえる佳作ではります。ミステリというよりは青春小説と言ってもいい中盤までの楽しさ。初々しさ。そして、弁護士として初の法廷での手に汗握る対決シーン。読ませまっせ。もう一方の弁護士モノの雄スティーブン・マルティニとはまた一味違った爽やかさがグリシャムの持ち味ではあります。『法律事務所』のころのサスペンス色が薄れているところも、彼の作家としての自信の顕われなんでしょうね。

   飛ばし過ぎる中盤。新米弁護士『ぼく』のやることなすことみんなビタビタはまっていく快感。ここまで順風過ぎていいのって逆に不安になる後半戦へ。勧善懲悪って、そりゃ読む者皆そうあれば気分いいけど起承転結の転の部分が一番美味しい訳じゃないですか。それが起承→結のまま、あと残り数ページ。これじゃ単なる弁護士の立身出世物語じゃねえかよ〜。まさかねえ。そうだよねえ。こういう展開かぁ。

   訴訟社会である米国社会では敗訴しても、こういう逃げ道があるという現実面も垣間見れてシビアっすねえ、と海の向こうの経済ネタには疎いもんで感心してしまうんですが、それにつけても米国の弁護士の多さよ。日本と比べて比較的緩やかな司法試験のせいでこうなっちゃうんでしょうけど、米国が訴訟社会になっちゃったのも、弁護士が多すぎると言う点も見過ごせないんじゃないかな。弁護士ネタの小説が多いのも元弁護士が書くからだし、読者も事務所が暇なときに読んでる弁護士が大半だったりして(^^ゞ<97/06/03読了>

題名:ヴアーチャル・ゲーム TRADING REALITY 著者:マイケル・リドバス
出版:NHK出版 1997年4月25日 第1刷 訳者:玉木亨
価格:2200円+税 ★★★

   導入部は例によって証券トレーダーねたで、う〜む、またこの路線で突っ走るのかなと思っていたら、おお、新機軸のヴァーチャル・リアリティ業界の最深部へぐいぐい引っ張り込んでくれるのね。理科系じゃない読者にはこのぐらいの理解度でストーリー進行してくれるのがよろしいです(^^; 経済ネタみたいにディープなヴァーチャル・リアリティを延々とレクチャーされても、ここはどこ、わたしはだれ状態に陥るだけですので…。

   序盤の殺人事件がいつの間にか物語の傍流へと退いて、会社買収の攻防戦の様相を呈してくる様はいかにもリドバスでありますなあ。ミステリ的味わいは結構希薄だったりする。まあ、適度に不審人物を絡ませてはいるんですがね(^^; ただ、あまり読んだことないので断言は出来ないけど、日本の経済小説とは一線を画す出来ではないでしょうか。ミステリ以外の部分でも結構読ませるんですよね。

   んで、第二、第三の事件が起こってミステリ的ストーリー展開にようやく雪崩れ込んでいく訳ですが、横溝正史の金田一や盗作騒動で今何かと騒がしい島田荘司の御手洗みたいな探偵さんでお馴染みの容疑者全員集めての犯人のご指名劇が、なかなか新機軸なのであった(^.^)。ふ〜ん、こういう使い方したのかぁ。なるほど・ざ・ヴァーチャル・リアリティっすね。主人公のマークが最後に選択した職業が、いかにもこの作者らしくて、ふふふ、なのであった。まあ、そうなるとは思っていたけど…。第三作目も新分野に挑戦するらしいが、リドバスの描く主人公は必ずやエンディングでこの商売に戻ってくるに違いないとみたぞ(^^;<97/07/31読了>

題名:スペンサーヴィル 上、下巻 Spencerville 著者:ネルソン・デミル
出版:文芸春秋 19967.3.20 第1刷 訳者:上田公子
価格:各2355円(本体2286円) ★★1/2

   デミルがこんなの描くとは思わなかったなあ。もう『恋は盲目』そのものなんだもの。主人公も悪役もデミルらしい味付けはしてあるものの、中身は三角関係、不倫恋愛モノって言っちゃうと身も蓋もなくなっちゃうけど、でも、やっぱし、そうなのよね(~_~;) ハーレクインじゃあるまいし勘弁してよ、と言いたくなるでしょうが、なかなかどうしてさすがデミルだけあって結構読ませるのだな、これが(^.^)。それだけじゃ終わらないのよ。

   登場人物がユニークな個性派揃いで、物語の脇をキチッと閉めてるんですよね。でなきゃこんなラブストーリーもどきの本なんか読んでませんって。焼けぼっくいに火が点くところなんざぁ、『マディソン郡の橋』っぽくて辟易しましたが、ここを乗り越えないと冒険小説テイスト溢れるラストの大活劇シーンには辿り着けないってぇ寸法だ。下巻の表紙のクロスボウがもっと猛威をふるうのだろうと想像していたのだけれど、う〜む、ちと物足りない部分もなきにしもあらず。グロックVSクロスボウなんて、書き込めば幾らでも面白くなるはずなのに…。デミルの主眼はあくまで、キースとアニーの熱愛なんですなぁ。あ〜やれやれ(~_~;)だから最後の最後で決着の付き方もああいう風になった訳ね。

   元陸軍情報士官=スパイにしては、キース・ランドリーの逃避行は結構オマヌケであったし、50近いいい大人同士が不倫を超えて熱愛関係にまで縺れ込んじゃうのも何だかなぁ、と読んでて腰が引けちゃったのも事実。よ〜く考えてみれば、理はバクスター署長の方にあったりする訳で、多少の根性曲がりである点を斟酌しても、不倫オヤジが奥さんを寝取ったら、そりゃ怒るわな。でも署長も署長で不倫関係で下半身使いまくりのとんでもお巡りだったっけ(^^ゞ どっちもどっちかな、こりゃ。ストーリー自体は面白いのだが、ファックしまくる主人公どもが読んでるうちに重荷になってきたりするぞ。

   最近のデミルって、冒険小説愛好家には、こういうライトな味わいの作品が多いように感じられて、その辺で評価は分かれるでしょうが、次回作の『プラム・アイランド』ってちょっと重厚そうで期待してるのでありますよ〜ん。そういえば文庫封切り版の『チャーム・スクール』って未読なのだけれど、これはどっちの傾向の作品なのでありましょうか。読もう読もうと前から思っているのだけれど、FADVメンバーならお馴染み、書棚の未読本の山を見るにつけ、今度読めるのは何時になることやらと溜息を吐く今日この頃だったりする(~_~;)<97/08/27読了>

題名:ハリウッド・ノクターン HOLLYWOOD NOCTURNES 著者:ジェームズ・エルロイ
出版:文芸春秋 1997年1月20日 第1刷 訳者:田村義進
価格:2400円(本体2330円) ★★1/2

   ゴール寸前のとしょ缶さんの猛烈なラストスパートに煽られて、これまで手を出していなかった短編集『ハリウッド・ノクターン』に取り掛かった訳です(^^)。だって、この猛暑の中、エルロイの狂気渦巻く世界に浸るには結構勇気が要るものですよねえ。と言い訳しつつ、馴染みの登場人物に、おお、エルロイの世界がまたまた身近に感じられるのも懐かしいではないかと思ってしまったのでした。

   どうやら次の作品が控えているらしいのですが、いつ出版されるのか皆目見当が付かないのでそれまでこの会議室が存続しているのかが疑問だったりする訳で、まあ、書けるうちに感想書いちゃおう、ってな気分に浸っている私。ただ、薄いんですよね、中身が…。

   新しい登場人物のディック・コンティーノにしても、悪党指数が希薄なため、これまでの作品群の濃厚さが影を潜めて、コクのなさがやたら気になるのは短編集ゆえか。エルロイは変わって行くのだろうか。このままライトな筆致で90年代を疾走するのか。『アメリカン・タブロイド』でどういう切り口を見せてくれるのか、非常に気に掛かるところではありますね。ただ、『悪い白人たち』についてはこのまま切り捨てる意思はないようですから、これまで馴染んだエルロイ自身のテイストはかなり残る作品に仕上がっているようではあります。

   巻末の訳者あとがきの疾走感が心地よい。こういうあとがきってサラッとしていて的を外していないし短文で刻んでいくリズムが読者の感性に深く染み込むのですよ〜。これを読めばエルロイの大まかな骨格が見えてくるでしょう。こういう文章が書ければいいなあとため息を吐く読後感であったりします。<97/08/14読了>

題名:バットマン 究極の悪 著者:アンドリュー・ヴァクス
出版:早川書房 1997年8月15日 初版 訳者:佐々田雅子
価格:本体1600円+税

   あ〜、私も読みました。ああ、やっぱし、ヴァクスのバットマンだったな、というのが率直な感想でありますなぁ(^^; どうして、そんなにまでして話をそこへ持っていくかぁ、って読んでる最中に腹が立って来ちゃったりして…そのうち、呆れるやら感心するやらで、肉食人種の執念深さに一種畏敬の念を覚えたりしちゃうのでした。

   もう、すっご〜い力技(^^; ブルースの母親までがXXXのせいで殺されていたなんて、そんなの初めて聞いたっす。ここまで勝手にストーリー作っちゃって、映画制作サイドやら漫画原作者らとの兼ね合いなんかどうしちゃってるんだろう? これじゃパラレルワールド・バットマンじゃあ〜りませんか。『究極の悪』ってヴァクスは思い込んでいるようですが、あっちのキリスト者たちの間じゃ人殺しよりXXXの方が宗教的罪悪なんでしょうか。

   どうも、いつもヴァクスの作品読む度に首傾げて、とうとう遠ざかって『ゼロ』『鷹』あたりから読もうという気にならないのが正直なところ。新境地かと、シリーズ外の『凶手』で期待させた新ヴァクスよ再びと思って手を出したらこの有り様(^^; 文体なんぞはなかなか読ませるヴァクス節なんだけど、一度鼻についたらもう勘弁の世界に『バットマン』もどっぷり浸かっちゃってるんだな。『ゼロの誘い』や『鷹の羽音』を楽しんだ人には絶好の娯楽読み物かもしれません。あたしゃ、当分ヴァクスはパスです(^^;<97/09/07読了>

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