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98年度海外作品感想

 オ〜マイガ〜! 間違って旧データを完全消去してしまいましたので、残されたログから感想を再録いたしました(-_-;)。したがって、一部感想が欠落している部分もありますのでご了承のほどをお願い致します。

邦題:俺たちの日 THE BIG BLOWDOWN 著者:ジョージ・P・ペレケーノス
出版:ハヤカワ文庫 1998年9月30日発行 訳者:佐藤耕士
価格:本体980円+税 極私的評価:★★★1/2

 原題よりも邦題の『俺たちの日』の方が、そのまま心に浸み入る感動指数が高い。やっと巡ってきた俺たちの日は、血と硝煙の臭いが立ち籠めるいつもと違う日だった…。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のギリシャ人ヴァージョンって感じの導入部分から、いかにも小市民のアンダーグランドな市民生活の裏側を後ろから前からじっくり書き込んだ煮込み料理のような濃い味付けが、心地よく読み手の琴線に響くのだ。人種を超えた友情の物語。 ペレケーノスってこんなにホットな血の通った物語を書くとは思わなかった。ギリシャミステリだからって避けていた自分の不明を恥じるところです。薦めてくれたボーさんには感謝。そういえば某所で天野香介さんも今年一番の作品に挙げていましたね。

 そうそう、香港映画『男たちの挽歌』と共通するメンタリティ溢れかえる中盤戦なのだな。今時こんな奴いないぜ。そう思いつつも振り返る1,930年代の古き良き時代の香りとともに、正義の熱き鉛の玉を悪党どもの土手っ腹にぶち込んでやれ。今や見た目はじいさんでも隠し切れない熱い血潮はその浮き出した血管に脈々と流れているのだ。昔話だからといって風化できない迫力。だれが死んでだれが生き残るのか。生き残ったやつが語り継げ。そんなハードボイルドな物語が読者を惹きつけて止まないのだな。よくよく描き込まれた登場人物の人間模様が、決してステレオタイプではなくビビッドに体臭すらも沸き上がってくるような痛みと感動。人間を描くとはこういうことを言う。

 娼婦連続猟奇殺人事件。これはこれで物語的に存在意義はあったのだけれど、無理に引っ張り出す必要はあったのかなと疑問に思う点もあったりして。いやいや、この事件がなければフローレックたちの出番がなくなっちゃうかもしれないし…。
ただストーリー的には引っかかりを個人的に感じたものですから。 無理にジミー・ボイルの出番をつくり出したような部分もあるのかな。警官も犯人もちょっと間抜けなところがサスペンスに水を差す。でもまあ、連続殺人事件に焦点が合っているわけではないのだから、これはこれでよしとしよう。ボイルだってそれなりにいい味だしてるんだから。

 この物語はどうやら三部作のようで、ピートの息子ディミトリが次回作では主人公となって現代でまたしても事件に巻き込まれるようです。こういう熱い血筋の持ち主の物語はえてして大河ドラマのようになってしまう傾向が強く、やはりペレケーノスもそっちの方向へ進んでしまったようですねえ。この親にしてこの子ありって感じでしょうか。ペレケーノスのさらに磨きの掛かった筆裁きに期待できそうではあります。(98年12月読了)

邦題:赤い右手 The Red Right Hand 著者:ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ
出版:国書刊行会 1997年11月20日初版第2刷発行 訳者:夏来健次
価格:本体2200円+税 極私的評価:★★

 『世紀の傑作』か?『掟破りの怪作』か? 私ゃ『掟破り』に一票入れちゃいますね(~_~;)。ああもう、こんなんでいいのって読後腹立てちゃいましたから。ミスリードって言っても、ここまで偶然かましてのほほんとしてる探偵小説なんて絶対認めたくないぞ〜。 ファナティックな文体がなければ、本当、ここまで評価されなかったでしょうね。じゃなきゃカバーしようが無いレベルなんだもの。

 『その男は、赤い眼に裂けた耳、犬のように尖った歯をしていた…』いかにもたこにもパルプフィクションの世界。なんとも古色蒼然たる描写が、やがて来る惨劇とのギャップを埋めきれるかどうか。 しかも出来事が入れたり出したりの時制メチャクチャ記述で、混乱した読者をさらにミスリードする小出しなヒントが…ここら辺がフェアな探偵小説ではないと賛否分かれる所以なのだな。

 確かにコペルニクス的転回の謎解きではあります。犯人は絶対こいつだよなってマークしてた登場人物は大外れで、意外や意外ではあったのだ。このミスリードこそが、本書の悪魔的雰囲気を醸し出すのに大いに役立ってた訳だから、作者が計算の上だったら、そのしたたかさに脱帽しちゃいますけど、ね。もしかして、作家としての未熟さでここまでアナーキーな作品になっちゃったと言われても、うんうんと頷くほかないってとこもあったりして(~_~;)。とにかく勢いで一気に読んで、ラストで「おお」と素直に驚くのが一番いい読み方と言えるかもしれません。(98年12月読了)

邦題:ダスト DUST 著者:チャールズ・ペレグリーノ
出版:ソニー・マガジンズ 1998年11月30日 初版第1刷発行 訳者:白石朗
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★

 アーサー・C・クラーク絶賛というところで先読みしてれば、ああ、こういう物語だったのね、と納得とは行かないまでも物語的にそれほど期待しないで読み進めたのにぃって、何か心にしこりを残したまま読了致しました(~_~;)。帯にある『科学者の描く人類が支配した世界の終焉』そのままのラストへと雪崩れ込んでいくペシミスティックな死の連鎖に呆然としつつも、まだ、最後に救いがあるに違いないと微かな期待をかけたまま、ああもう、こんな結末でいいのか〜って…オーマイガーな果てしなくペシミスティックなSFバイオ・サスペンスに、柄にもなく人類の行く末を真面目に考えさせられる一週間ではありました。

 地球がリセットする。あながち嘘っぱちだとばかり決めつけられないところが、本書の怖さを増幅するのであるな。こういう滅びの連鎖なんて、世界中から悲鳴が聞こえてくるほど地球規模で実は進行してる部分を、説得力たっぷりに作者自ら巻末の『リアリティ・ チェック』で紹介してくれてますので、本書の読後さらにペシミスティックになって頂きましょう(~_~;)。

 問題は、ペレグリーノが作家というより科学者であった点か。ブツ切れのドラマとアクション。ほとんど生物学の教科書と化した部分が結構眠気を誘うのであるよ。で、時々登場するサスペンス・シーンが目覚まし代わりってとこか。イントロ部分からてっきり殺人ダストの正体を暴いて人類の英知を高らかに歌い上げ…なんて想像してたら、雪だるま式に膨れ上がる地球規模の生物学的変貌。こっちの怖さを最大限に引っぱり出した科学者の部分が作家的部分を軽く乗り越えちゃったのが、登場人物をうまく操れなかった遠因ではあるね。書きようによっては随分違った面白さが出たのではと思うのだけれど、でもまあ、理科系の黙示録ということで、これはこれで良かったのかもしれません。そう言えば、1999年7の月まであと6ヶ月ではあります…(~_~;)。(98年12月読了)

邦題:暴虐の奔流を止めろ 上、下巻 FLOOD TIDE 著者:クライブ・カッスラー
出版:新潮文庫 平成十年十二月一日発行 訳者:中山善之
価格:各705円+税 極私的評価:★★★

 あらまあ、もう第14弾なんですねえ。前作で垣間見たダーク・ピットの素顔がどれほど我々の前に明らかにされるのかと多少なりとも期待していたのですが、ちょいとしょぼくれたダークが、う〜む何だか作者の老いすらも感じさせて、とても帯にあったように『ワイルドに復活』とは行きませんでしたねえ(~_~;)。でもまあ、ここまでアクションの限りを尽くして、桃太郎侍みたいに当然のごとく勧善懲悪のNUMAってとこには疑問符投げかけつつ、それでもシリーズ読者なら手放しで大歓迎でしょうねえ。いやなにワシだって貶してるわけじゃなくて、何をやってもダーク・ピットはダーク・ピットだねえと感心してるんですよ。大いなるマンネリがほとんど寅さん状態ってか(~_~;)。

 問題は相変わらずタイトルのどうしようもないセンスでありますねえ(~_~;)。意図的にこの路線踏襲してるのでしょうけど、クライマックスの一歩手前でこのタイトル通りに物語が弾けちゃうと、その後の展開が多少なりともシラケちゃうのは致し方あるまいか。本当にタイトルそのままんやんけって、気の短い読者は怒り心頭だったりして(~_~;)。おまけにこの訳者、巻末の解説でとんでもなくストーリーのネタばれしちゃってるのよね〜。ほとんど確信犯だな、この人。ストーリーテリングの妙を味わう小説で、これはいけませんぜ>中山善之殿。

 んで、その解説読むとダーク・ピット・シリーズはまだ執筆中とかで、ファンは再来年の暮れ当たりを期待しちゃってもいいのかな。 なんだかんだ言っても、ピットとジョルディーノ、サンデッカー提督やらルディ・ガンなんて登場人物の造形は過去14作を通して読者の脳裏に染み込んじゃってる訳だから、いくら読んでも飽きるということがないのがよろしい。おまけにクライブ・カッスラーって歳取っても、アクションシーンの冴えが衰えることがないのがうれしいよね〜。本物のラスト・アメリカン・ヒーローって感じかな(~_~;)。(98年11月読了)

邦題:殺人課刑事 DETECTIVE 著者:アーサー・ヘイリー
出版:新潮社 1998年9月30日発行 訳者:永井淳
価格:本体2500円+税 極私的評価:★★★1/2

 アーサー・ヘイリー、歳取ってもヘイリー節は健在でした。ミステリであってミステリではない。殺人課刑事たちと犯人の群像を描ききった過去の作品群と共通する社会小説と言ってもいいかもしれない。警察機構や捜査システム、捜査員のプライベートな部分などなど普通のミステリでは描ききれないであろう日常がここにはある。 そして、連続猟奇殺人を追う元神父の刑事を待ち受ける悪夢。シリアルキラーを登場させた意外性もさることながら、エンターテイメント界の巨匠が選んだプロットはもっと複雑に入り組んだ人間模様でありました。

 「あの事件だけは、おれじゃない」電気椅子直前の連続猟奇殺人犯の叫び。臨終に立ち会った部長刑事マルコム・エインズリーが到達した悪夢の真相。ただ、ここでネタの割り方がミステリ作家とは違う手法で、やはり、ヘイリーはヘイリーの書きたい物語へと我が道を行くのだな、と感じ入った次第。でもねえ、本編で用意されたヨハネ黙示録の謎は、ヘイリーもよくこっち方面取材してるなあと本当、感心しちゃいます。おかげで元神父という付加価値が生きてました。登場人物たちがシリアルキラーを選別して行く作業の地道さは警察そのものですね。そして掘り起こされる非日常。日常を振り捨てて非日常を追う刑事たち。ああもう、この辺はさすがです。 伊達に歳食ってません>ヘイリー。将来の希望に目を輝かせる女刑事。生活に疲れ愛人との過去を引きずる刑事。市関係者に腰巾着のような警察上層部。そして真犯人。

 意図的に避けたのでしょうが、シリアルキラー、エルロイ・ドイルの行動と思考形態にもっと深く踏み込んでくれていたら、ミステリとしてはもっと深くもっとダークな物語を我々の前に見せてくれていたでしょう。レクター博士に匹敵していたかもしれません。でも、それがヘイリー。ドイルはお呼びじゃなかったって訳か。エルロイってファーストネームを採用したのは、こっち方面の巨匠、ジェームズ・エルロイを多少意識したところがあるんでしょうか。 (98年11月読了)

邦題:炎の裁き The Burning Man 著者:フィリップ・マーゴリン
出版:早川書房 1998年6月15日 初版発行 訳者:田口俊樹
価格:本体2300円+税 極私的評価:★★★1/2

 早川のマーゴリンって面白い作品だけハードカバーにするという基準でもあるのかな。まあ、初期の頃のまだ評価も定まらなかった作品レベルなら文庫版で出しておいて、こっちはイカす面白本だからハードカバーでも買って読んでねって商売っ気丸出しって感じ。 でも許す。面白いんだもの。物語の語り口もライトで主人公もふわふわした唐変木ながら、その成長の証が本作品の読みどころとなって、ライトでチープなところを補って余りある当たりマーゴリン本と言ってもよろしいのではないでしょうか。マーゴリンはハードカバーなら買いという評価はここで定まった感がありますな。

 とかく登場人物がステレオタイプであるとか、ストーリーご都合主義だとか言われてきたマーゴリンが、まず人物ありきで書いた小説が本書でありまして、ボンボン弁護士、ピーター・ヘイル君が鼻持ちならないヤンエグ野郎ぶりを発揮してくれるわけですが、最初から格好いい主人公が颯爽と登場するよりこっちの方がなんぼよろしいか。人間味丸出しだもんね。ピーターの親爺がいい味だしてるのよね〜。
野心満々の女性検事補だって良きに付け悪しきに付け人間味あふれるキャラでござるよ(~_~;)。そして真打ち。知恵遅れのゲイリー。 彼が巻き込まれる殺人事件。この辺、面白い作品を求めて止まぬマーゴリンの真骨頂と言ってもよろしいでしょう。

 知恵遅れがシリアル・キラー? この女検事補、馬鹿じゃないのって誰でも読者は思うはず。ところが話の展開はどんどんゲイリー不利の状況証拠が…。ハラハラしますよ〜。弁護士はボンボン野郎で刑事畑はド素人のピーターと来た日にゃ、哀れゲイリーは無実の罪で死刑場の露と消えるのか。真相は二転三転。犯人は奴に違いないと思ったらどんでん返しの連続。さっすがマーゴリン。プロットの出色さは彼の著作の中でも一、二を争うのではないか。爽やかなエピローグも決まって、見事着地。大甘ちゃんだけど、マーゴリンはこれでいいのだ。さてさてお次は、『TheUndertaker's Widow』というヒッチコックばりのサスペンスだそうで、これまた期待大だな。 (98年11月読了)

邦題:リトル・ボーイ・ブルー LITTLE BOY BLUE 著者:エドワード・バンカー
出版:ソニー・マガジンズ 1998年10月16日初版第1刷発行 訳者:村井智之
価格:本体1400円+税 極私的評価:★★★★

 かけがえのない少年時代をふとした心の暴発から奪い取られ、檻の中にしか安らぎを探せなくなったアレックス少年。彼の魂の遍歴。 決してこちらの岸には泳ぎ着けないダークサイドでのあがきと叫び。 自由を求めた少年の孤独と暴力は、生き抜く上での必要不可欠のエレメントとしてアレックスの生活のリズムに組み込まれるのは必然であった。生まれながらとは、その環境のことを指す。性悪説ではないけれど、良きに付け悪しきに付け、性向は生まれながらに備わってしまう。キレる少年。アレックスの未来はここで決まる。加えてさらに俗悪な環境が容赦なく少年を駆り立てる。ゆえに、理不尽さを嘆いても始まらない凄まじい導入部ではある。アレックス少年の未来には救いの欠片すら見えないまま、転落が始まるのである。 だからこそ凄い。

 エドワード・バンカーという作家の名前だけは知っておりましたが、『犯罪小説』の分野には心の片隅に忌避する歪な良心のようなモノがあって何となく手を染めずにいたわけですが、時代が背中を押してくれました(~_~;)。突き放したような描写。犯罪者を上から俯瞰する感情移入を排除した冷徹な文体。実体験に基づいた未成年者たちのアンダーグラウンドな世界をここまで活写されると、読者は圧倒されるだけである。ワースト&ダーケストな少年たち。生き残る手段は犯罪にしか見い出せない者たち。当然、全精力はその分野にしか注がれざるをえない訳だから、特化した彼らの行動様式は研ぎ澄まされて贅肉がない。善悪の枠組みを取っ払えば、彼らは成功者として社会に君臨できるはずであった。いや、君臨しているものも存在はする(~_~;)。だが、許容しない社会が彼らの行く手を阻む。軋轢と飛び散る火花が物語に点火する。容赦なく燃え上がる。 しかも、可能な限り熱く。

 犯罪小説と少年小説という両分野の融合が、火の玉のような凄玉小説を生み出した。なにゆえ負の世界を自ら求めるのか。アレックス少年の行き着く先は、熱い鉛の玉がもたらす暗闇の世界。バンカーの筆は彼に裁きを与える前の寸止めで物語を終えているけれど、自伝的要素の濃い小説ゆえ、この先のアレックス少年の見据えた未来は、暗さを超越した突き抜けた明るさのようなものを感じてしまったのは私だけでしょうか。彼だけはダーケストにはならない未来がほの見えるラストではあった。皮肉にも彼が生来的に持つ知能が、その抑制されざる怒りを封じ込める予兆のようなものを…こっち側の岸辺へ連れ帰ってくれる。そう思わないと、救いがないまま終わっちゃうし、ね(~_~;)。(98年10月読了)

邦題:アヴァロンの戦塵 上、下巻 BEOWULF'S CHILDREN 著者:ラリー・ニーブン&ジェリー・パーネル&スティーヴン・バーンズ
出版:創元推理文庫 1998年10月30日初版 訳者:中原尚哉
価格:上巻680円+税、下巻720円+税 極私的評価:★★1/2

 あのアクション・サバイバルSF巨編『アヴァロンの闇』の続編。 ただ、もう鮭もどきがどうなってこうなるかは読者は知っちゃてるわけだから、続編ともなると新機軸をあみ出さなくてはならないのは当然なのですが、おおっと、老グレンデルが密やかに登場いたしました。ということは、こいつが後半スピードで大暴走してくれるのかな。それにしても、こんなに早くネタ割っちゃってもよろしいのでしょうか。って疑問が沸き上がる前半戦なのだな。

 しっかも、新登場のキャラの書き分けを一から始める訳だから、上巻は結構イライラ読ませるのだ。なんでグレンデルが大暴れしてくれないの〜って読んでるこっちも欲求不満が大爆発。ただ、そのおかげで、この惑星のまか不思議な生態系の構築のユニークさを存分に味わえる余録があるのも事実。まあ、グレンデルの恐さも知ってはいるけれど、退治方法も第二世代ならちゃんとわきまえている物語上の進歩も確実に反映されているのだな。だからこそ、新タイプのクリーチャーの登場は必然でしょう。

 読みどころが、世代間の断絶とその人間模様になってしまったのは残念としか言いようがないけれど、焦点をグレンデルを超える生物に合わせるなり老グレンデルとのXXをもっと書き込んでくれていたらもう少し深みが出たように思うのだ。ラストは確かにビックリものだけど、あれだけ小出しにしてればインパクトも弱くなっちゃうっす。解説の堺三保がまことしやかに書いてるもんだから乗っけられちゃったけど、続編が前作を超えるのが難しいことを証明してくれましたよねえ。
う〜む、もう少し大活劇を予想していたのだけれど…。(98年10月読了)

邦題:ゼロ・アワー THE ZERO HOUR 著者:ジョゼフ・フィンダー
出版:新潮文庫 平成十年十月一日発行 訳者:石田善彦
価格:本体933円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 史上最凶テロリスト・ボーマンの造形がなかなかよろしいぞ。冷酷無比。大胆不敵。沈着冷静。あらゆるテロ行為の見本市みたいな引出を持つ男。テクノスリラーのテクノ方面ばかりが先走っちゃうと頭でっかちミステリに陥りがちですが、フィンダーは一味違ったハイテク技術満載の最新テロを我々の鼻先に突きつけてくれました。 今時のテロ技術って、ここまで進んでたんですねえ。テロ被害大国でもある米国の現状リポート的な側面もこのサスペンス小説の読みどころでもあります。

 対する捜査陣。紅一点の女性捜査官セーラ。バツイチ子持ちで養育権問題で前夫とうまくいっていない。彼女は上昇志向のあるキャリア捜査官ゆえのジレンマもあって、一人息子への愛情と仕事への情熱とどちらを選ぶか悩み多き一人の人間像がよく描かれていて好感がもてますね。思わず応援したくなっちゃう現代的なシングル・ ウーマンの悲哀を背負ってるところがアピール度高いですよ。脇役陣もステレオタイプではなく結構いい味出してます。セーラの人間的な弱さが致命的なミスにも繋がっていきますが、だからこそ、物語のアクセントとしてこれは美味しい。いや〜、いくらボーマンがが神出鬼没とはいえ、こんなところに登場するとは…う〜む、ここは一本取られました。

 主役がそうなら脇役のハイテク度も比例して、ここまで来ちゃうと古典的犯罪者の諸君は出る幕がなくなっちゃうのではないでしょうか。太った汗かきのハッカーもしくはクラッカーちゅーのは今時のスリラーには不可欠な脇役ということが言えるかも。ただのデブで意地汚いだけのハッカーだと思ったら、そうは問屋を卸さなかったちょっとしたからくりが足を引っ張るとは天下のボーマン様もご存じあるまいってとこだね。

 この作品は映画化権を買い取られてヤン・デ・ポン監督がメガホンを取ることが有力であると伝えられておりますが、これって絶対映画向きですって。『スピード2』なんかより『ジャッカルの日』 に近いスピーディーでサスペンスフルな超大作として銀幕をにぎわすことは間違いないでありましょう。それだけに、本書が視覚的な面白さに満ち満ちていることの証明でもあります。果たして爆発時刻(ゼロ・アワー)は阻止されたのか? ここから先はご自分で読まれることをお勧めいたします。(98年10月読了)

邦題:殺しの儀式 THE MERMAIDS SINGING 著者:ヴァル・マクダーミド
出版:集英社文庫 1997年9月20日 第1刷 訳者:森沢麻里
価格:定価860円(本体819円) 極私的評価:★★★1/2

 いわゆるシリアルキラーものなのですが、特筆すべきは犯人の造形とその手記でありましょう。女性作家ならではのきめ細かい描写と性的障害がもたらす連続殺人の奥底に潜む身の毛もよだつ精神構造の歪さがミックスジュースとなって複雑な後味を喉元に残してくれるのだ。英国作品ならではの陰鬱さと閉鎖的なアンダーグラウンド社会構造の裏側みたいなドロドロしたものを我々すれっからしの読者に見せつけてくれるところが買いでありますね。ライトでアメリカンなシリアルキラーものとは一線を画すCWAゴールド・ダガー賞受賞作。

 今更目新しくないプロファイラー犯罪心理学者が登場してきますが、この男が抱える性的障害こそがこの犯罪を解くカギであることが終盤判明いたしますが、この辺のサスペンスの盛り上げ方がなかなか読ませます。ええっ、まさかの犯人の横顔が一種のどんでん返し的なショックを読者に与えますので、心して読むようにネ。想像するだにおぞましい(~_~;)心理分析官トニーが強いられる悪夢のキス!!!!! うわ〜、こりゃ凄い。

 まあ、犯人の趣味的な動機といえば、今時のオタク系人々をデフォルメすればこうなりました系の手垢の付いた行動なのですが、それに加えて犯人の暗く淀んだ情念の突出度こそが読みどころなのですね。だからこそ生きてくる犯人の手記なのだ。

 大詰めになってからのアクション描写がイマイチなのがマイナス材料か。でもまあ、英国系作品にはそこまで望むのはちょっと無理かなとも思いますし…ねえ。これはこれで、アメリカンな情緒まるでなし作品よりはよっぽどましかと思ったりする部分もなきにしもあらず。それにつけても中世人が考え出した『拷問』ってのは恐ろしい刑罰でありますな。こんなん考える執行吏ってえのはどんな思考形態が頭の中に巣くってたんでしょうねえ(~_~;) こうやって考えてみると西洋人ってえのも結構野蛮じゃないですか。(98年10月読了)

邦題:フリッカー、あるいは映画の魔 FLICKER 著者:セオドア・ローザック
出版:文芸春秋 1998年6月15日第1刷 訳者:田中靖
価格:本体3810円+税 極私的評価:★★★★1/2

 ミステリというよりもミステリアスな物語。そして、あっと驚く冒険小説へ。しかも映画史的トリビア〜ンな蘊蓄満載で、映画ファンなら必読小説。なるほど、帯にある『サンセット大通り』と『薔薇の名前』が出会った!というのは言い得て妙。虚実の間を行ったり来たり出したり入れたりが、これまたズブズブと深いのである。 だからこそ面白い。

 フリッカーといえば光の点滅を意味するのであるが、例の『ポケモン』騒動の時もTV手法的なフリッカーであったようですが、映画的にはさらに深い魔が奥底に潜む。映画の魔を徹頭徹尾自作に応用したマックス・キャッスル監督のフィルモグラフィを追跡することにより主人公ジョニーは迷宮に迷い込む。う〜む、どこまでが真実なのだろうか。マックス・キャッスルって実在の人物だと今でも半々でどっちとも考えられるかなぁ(~_~;)調べりゃ分かるんだろうけど、ま、そこまでする気はなくて、想像の世界を行ったり来たりしてるのが、ここでは正解でしょう。虚実の間を楽しむのでありますよ。

 ラストシーンの哀切な幕切れからは、必然的に冒頭に戻らざるを得ないのでありますが、再読、印象がガラリと変わってしまうのだ。 回顧録なのね、これ。う〜む、いと哀れなり。マックス・キャッスル登場以前の序章こそは『ニューシネマ・パラダイス』の青年バージョン、大人の営みのおまけ付きってとこですね。これもまた良し。 青春してるんだな。

 で、マックス・キャッスル以後。ここからが映画の魔。映画という装置に潜む身の毛もよだつ『闇』。映画ファンの純情はここでもろくも崩壊の憂き目にあうだろう。『闇』が紀元前から続く魔の具現としたら、キリスト教徒への浸透こそが映画の魔。映画史トリビアの陰にはかくも深き陰謀が…。そして、中世の異教のオカルト物語。いいぞいいぞ、これぞ冒険小説。

 ラストのどんでん返しには目を見張ったけれど、いくら殺生が御法度の教団とはいえ、もう少しの慈悲があっても罰は当たるまいと、ぶつぶつ言ってしまいそうな衝撃度は十二分にありますので、この感想読んで本書にチャレンジしようと思う方は心して読むように(~_~;)そうそう、サイモン・ダンクルってあの『悪魔の毒々モンスター』を制作したトロマ映画を思い出しちゃうんだよな〜。(98年10月読了)

邦題:光の都 CITY OF LIGHT 著者:マイクル・ドーン
出版:早川書房 1998年1月30日初版発行 訳者:大森望
価格:本体2500円+税 極私的評価:★★★

 独自のスタイルの文体がとっつきにくいのだけれど、慣れるにしたがって味わい深さに変わって行く快感みたいなものが、この本の美味しいところでありましょう。本書に登場するゼイン語以上に『ドーン語』が我が脳内のアウト・オブ・範疇つーことになる部分も結構あったりして、誰が今しゃべってるのか、隠語への理解度が足りないせいもあって、腑に落ちない部分が散見してしまうのはちょっともったいない気がするが、それが持ち味のこの小説ゆえ、そこ抜きには語れないのでありますねえ。

 ゼイン、ストリート、プチジャン、モキンボ。アフリカからの出口。アフリカへの入り口。だからこそパリの混沌とした熱気が吹き上がってくる。ただ、菜食主義のノリとでも言いましょうか、ある程度まで温度は上がるけど、そのまま冷たく燃える炎を見つめる男たちの世界が展開する。ホットだけどクール。乾いた風土が物語をそっちへ引っ張って行ったのかもしれません。フランスを舞台にしているだけにエスプリという点でも味わいがあるのさ。まずセイン語ありき。

 ストーリーだけなら三文冒険小説。エキセントリック過ぎるゼインに、プチジャンは元チンピラ。ストリートはどっかでブルーになっちゃうし…。ゼインが使ってるパソコンのCPUのトロさに今時ねえ、と苦笑するしかないし、尾行を撒けずに敵を連れてきちゃう間抜けさ加減も納得できるか否かは、この文体に酔えるかどうかに掛かっているのだ。つまりは感受性の問題という訳ですね。えっ、私?どっちかというと鈍い方ですかねえ(~_~;)

 ラストで物語がいきなり現実に立ち戻っちゃうのは多少興醒めな部分がなきにしもあらずだったけど、そうでもしなきゃ物語の肝が見えてこないという作家的良心(~_~;)が顔を出したってとこかも。 でもすぐ元に戻っちゃうからこの文体が気に入ってる方は心配なきよう。あくまでドーンらしい締めくくりで超エキセントリックな物語が静かに幕を閉じました。プチジャンと少女の物語の結末が心揺さぶる哀しさが秀逸であったと思うのであります。ゼインよりストリートでありククリなのだな。(98年9月読了)

邦題:殺戮の天使 Fatale 著者:ジャン=パトリック・マンシェット
出版:学習研究社 1996年12月22日 第1刷 訳者:野崎歓
価格:2000円(本体1942円) 極私的評価:★★1/2

 個人的に、マンシェットには最高傑作『眠りなき狙撃者』から入ってしまったので、少しばかり評価を躊躇ってしまうのだ。贅肉を極限まで削ぎ落としてしまった小説。そして死が歩き出す。52歳で急逝した著者のように生き急いだのか、登場人物たちは憑かれたように破滅へと一歩一歩近づく。だからこそ詩的ですらある。行動自体が死に神に支配されたダンス。儚く美しいのだ。

 エメは職業的殺人者。著者の思想信条を反映した社会主義者的行動の具現者でもある。マンシェット自身フランス左翼運動の担い手でもあったため、ブルジョアどもは死すべしという文面からにじみ出す暗鬱な左翼思想に苛立ちを覚えつつ、あくまで黒く深く乾燥したフレンチ・ノワールに直面する。彼女の手練れに瞠目すべし。

 主人公エメを俯瞰する私の視点。私って誰? マンシェット自身の小説への介入なのだろうか。心理描写も何の説明もなく銃口は標的に向けられる。色恋沙汰も安逸な生活すらも捨てて行動するエメに注がれるマンシェットの愛の形。読後、読者の女性に捧げられる告白に驚くであろう。奇形の愛。『眠りなき狙撃者』以降筆を折った理由が何となく腑に落ちるような、そんな気がする。(98年9月読了)

邦題:神の狩人 上下巻 MORTAL FEAR 著者:グレッグ・アイルズ
出版:講談社文庫 1998年8月15日第1刷発行 訳者:雨沢泰
価格:本体各800円+税 極私的評価:★★★★1/2

 世紀末サイコ・サスペンスの最高峰がついに日本上陸! 『羊たちの沈黙』のレクター博士と比肩しうるブラフマンの存在感が圧倒的なのだ。生い立ちから微に入り細に入り悪夢を構築したアイルズの筆裁き。そして、その骨格に貼り付いた血肉が、女たちの血肉を切り裂く。ある意味で正常なる異常者。超人思想の持ち主ゆえ、求める方向性がバイアスが掛かったまま一直線に歪む。曲がる。捻れる。正常人との距離が遠ざかるほど、物語を支配する異常性が読者の禁忌を打ち破って独走するのだ。誰にも止めるすべはない。ブラフマン対FBI。大人と子供。性の深淵をのぞく作品ゆえ、未成年者には火傷しそうなほどホットな作品としてお勧めできないが、大人の読者には必読のエンターテインメントと紹介しておこう。

 ここまで広がっていた『エロス』ワールド。ネット上の混沌の中から生まれ出た究極の愛の形を求めるパソコン・ネットワーク。いかにも現代的ですが、ここに目を付けたのが作者とブラフマンなのだな。獲物を狩るプレデターを罠に掛けたはずの主人公が罠にはまる。ブラフマンの真の目的に至るカムフラージュされた惨殺体こそが、捜査陣を混乱させ読者を惑乱させ波乱に富む物語がさらにヒートアップする。

 前作『ブラック クロス』という戦争冒険巨編から一転、インターネットの谷間を跳梁跋扈する殺人鬼の恐怖。このアイルズという作家はただ者ではないぞ。登場人物の肉付けが屈折している分、まことに陰影に富んだキャラがアイルズの手のひらの上で死のダンスを踊る。主人公からして正義の人ではないし、ある種、ブラフマンに共感してしまうんだから、ストーリー展開が一筋縄ではいかないのは目に見えるようでしょ。潜在意識の中の悪が、FBIへの協力を拒んで独自の調査へと主人公を駆り立てるのだが、やがて来る悪夢への導火線となるとは…。

 FBIのコンピューター・ネットにすら易々と侵入してしまう天才殺人鬼ブラフマン。シスオペの『僕』がブラフマンが求める最高の女性像を作り上げて『私』に成り代わるとき、ネット上で繰り広げられる会話こそが本編の白眉であろう。綱渡り。そして、心の奥底で『私』と『ブラフマン』はシンクロしてしまう恐怖。自分への恐怖。そして次なる悪夢。絶望的なまでに禁忌を超越した愛の形。心が痛い。救いのない死。ああ…。凄いぞ、これ。

 『エリン』と『ドルー』姉妹。ブラフマンと僕。これもまた『ブラック クロス』。交差する地点へ雪崩れ込むエンディングの強烈なサスペンスが、読んだだけで網膜に焼き付いてしまうような臨場感を伴ってあなたを直撃するだろう。そして、もう一つの読みどころである『エロス』。二つの渦に飲み込まれつつ、この夏、とびっきりの異次元の体験に身を委ねてはいかがであろう。(98年9月読了)

邦題:ブラック クロス BLACK CROSS 上、下巻 著者:グレッグ・アイルズ
出版:講談社文庫 1998年1月15日第1刷発行 訳者:中津悠
価格:本体各838円+税 極私的評価:★★★1/2

 アリステア・マクリーンに代表される戦争アクション小説の分野に、颯爽と新風を吹き込んだジャック・ヒギンズも、もうかつての輝きはないし、書き手の空白久しい分野に再び颯爽と新人が読者の度肝を抜く仕掛けで第二次世界大戦秘話を甦らせた功績は、冒険小説史上拍手を以て迎えなくてはなりますまい。そうそう、まだ、ボブ・ラングレーにも密かに期待をつないではいるのですが…ま、ここでは述べますまい。

 オウムが記憶の縁に呼び戻した『サリン』。毒ガスこそ大戦中、連合軍の原子爆弾に唯一対抗出来るナチスの最終兵器であった事実と捕虜収容所とリンクさせると現実をわずかに超えたフィクションとしての悪夢がそこには醸出されるのだ。大半は事実。収容されたユダヤ人の虐殺は目を覆うばかりであるが、現実の蛮行が歴史上証明されているとの再発見に過ぎないと思われるでしょうが、ここからが作者の真骨頂。世界を救うためにチャーチルたちが考え出した究極の作戦。身を切らせて骨を断つ。だが、切られた身の方はどうなる? 世界を救うより自分が助かりたいエゴをどう修正して、非情の作戦を遂行出来るのか? 敵国に潜入したたった二人の工作員の修羅の中で揺れ動く心模様を活写したアイルズの人間賛歌は、あくまで現実に即した醒め方で静かにクライマックスを迎える。静かなる死。

 考えもしなかった極限での愛の形。ロマンスさえもが冷たく燃える炎となって、死のガスが収容所を充満させるタイムリミットへとなだれ込んでいく。戦争という狂気のフィルターを通して、善と悪を超越した命の尊厳にまで踏み込んだ問題作。チャーチルなんかクソったれ。くたばれスミス准将。軍務さえもかなぐり捨てて、自分の信じる道をただひたすら行動へと導く男たちは美しいのです。死を見据えた行動律。アウシュビッツから甦る現実に小説としての距離を忘れ、ひたすらのめり込む快感を久しぶりに得た本でもあります。

 切ないエピローグもしみじみと良いのだ。新しい世代が見つけた可能性に微笑まずにいられない。未読の方は、決して風化させてはならない歴史を物語として再構築したアイルズの筆の冴えを存分に味わい召され。(98年8月読了)

邦題:迷信 SUPERSTITIOUS 著者:R.L.スタイン
出版:ソニー・マガジンズ 1996年10月26日 第1刷発行 訳者:友成純一
価格:2500円(本体2427円) 極私的評価:★★★1/2

 不思議な迷信や民話の数々を口にする、知的で魅力的な雰囲気を漂わせた大学教授リアム。彼に惹かれる大学院生のサラ。リアムの妹マーガレット。ナイフ収集家で野卑な学部長ミルトン。コンプレックスを心の奥底に隠し持つ黒人警官ギャレット。そして、サラを追い掛けまわす元恋人ストーカー・チップ。一癖も二癖もある登場人物たちが織り成す人間模様だけでも十分読ませますが、これに暗い影を落とす残虐な連続殺人事件の悪夢。犯人は果たして誰か? 誰もが犯人に見えてしまうような作者のフェイントの数々。ただ、確実に連続殺人の輪はサラを巡って狭まっている。まさしくホラー小説の醍醐味はここにある! 

 平和なはずのフリーウッドという田舎の大学町を舞台にクローズト・サークルで繰り広げられる惨劇にこそ徐々に積み上げられていく恐怖感の総和が際立っているのだ。犯人は確実にここにいる。サイコ・スリラーの様相から後半、いやいや、何人か目の犠牲者の有り様からして、サイコを超越したスーパーナチュラルな悪夢がこの町を支配していることに嫌でも気付くであろう。

 しかも、迷信漬けの大学教授リアムの存在。彼への疑惑は膨れ上がって決して縮みはしない。彼の正体は?妹マーガレットはなぜ彼と離れない? 疑惑は際限も無くサラの神経を蝕むが…本当の恐怖はここから始まる。んもう、作者のフェイントはロナウドのゴール前の奇跡のように読者の想像力の範疇を軽々と超えてくれるのだ。 おお! 迷信こそがカギ。真実はここにあったのか。驚くべき結末。 雪のフリートウッドで繰り広げられる最後の惨劇とバトンタッチ。きゃああああ〜〜〜〜〜! サラの最後に上げた絶望の叫び。 だからこその生還劇。やってくれるよ>スタインさん。

 この作品こそ映画化向きではないかと思う読後感でありました。 特にミルトンの別宅での惨劇シーンは白眉でありましょう。凝り凝った特撮班の力作をぜひ見てみたいのだが、これってまだ映画化の話って来てないのでしょうか? B級ホラー映画マニアなら必見の作品になると思うのだけれど…。 ま、未読の方は図書館ででも探して読んでみてはいかがでしょう。 後半3分の1はやられたって思うこと確実ですので、心して読むべし(~_~;)(98年7月読了)

邦題:イグニション IGNITION 著者:ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン
出版:早川書房 1998年2月28日初版発行 訳者:矢口悟
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★

 ケネディ宇宙センターを舞台にした『ダイ・ハード』ですね、これ。本当なら一緒にアトランティスで宇宙空間に飛び出しているはずの主人公アイスバーグは右足にギプス巻いてワニだの蛇だのうじゃうじゃいる特等席(~_~;)で打ち上げ見物と決め込むが…驚天動地、まさかまさかのテロリスト集団がケネディ宇宙センターを制圧する。 なんてこったぃ、元恋人のミッション指令官ニコールらが人質に。 アイスバーグとは名ばかりの何でも一人でやらなくちゃ気が済まない性格の熱血漢は単身テロリストに徒手空拳で挑むのだ。なかなかワクワクするでしょ。テロリストどもの冷血ぶりとアイスバーグの燃える男ぶりとの好対照。詳細なKSC各部署の描写のリアルさと相俟って地の利を生かした戦いが読ませるのだな、これが。

 悪役の性格設定なのですが、こっちの主人公フィリップスの線の細さがイマイチ気に入らないとこあるんですが、ジャック&イヴェットの殺し屋コンビがいい味出してます。ただ、それ以外のメンバーの凄みがちと足りないんじゃないかい?こういうテロリストものは機械のような規律と氷の心が物語のサイドをきっちり締めてくれるはずなのですが、そこまで水準に達していない弱みがそのままテロリストどもの弱みで、読んでて恐怖感があまり読者に伝わって来ないところもあったりするのね。部分部分のアイデアはなかなかですが、総合的に見るとやっぱし★三つなのだな。

 これ、ユニヴァーサルで映画化されるそうですが、実に映像的な描写で向こうのプロデューサーが目を付けるの分かりますよね。変に背景説明を省ける部分返って映画向きといえますもの。行け行けどんどん。爆破シーンのスペクタクルはこの作品の売りには十分だよね〜。変に肩肘張らない娯楽読み物としては十二分に楽しませてくれますので、活劇小説大好き派の方にはお勧め。(98年8月読了)

邦題:雨を呼ぶ男 A Dry Spell 著者:スージー・マローニー
出版:早川書房 1998年4月30日初版発行 訳者:松下祥子
価格:本体2200円+税 極私的評価:★★1/2

 トム・クルーズが映画化権を買い取ったホラー作品であります。 何だか田舎のハーレクイン的ラブストーリーも絡めてマディソン郡の橋っぽい展開も、好きな人は好きなんだろうけど、ワシはどうも…ムニャムニャ(~_~;)

 新機軸なところは、そのものずばりの雨降らし屋の登場に尽きると思う。風来坊っぽいところがトム君が気に入ったのでありましょうが、キャラクター的にはそこそこエキセントリックで惹かれるものがありますねえ。ヒロインも過去に傷負ってこんな田舎町に流されて来ているし、田舎の連中の保守的ないやらしさみたいなものはほとんど実体験をそのまま書いたみたいなとこがあって結構面白い。 バックグラウンドはそこそこイケてるんですよ。問題なのはそれ以外の部分。

 ホラー作品としての瑕疵が大きすぎる。雨降らしの描写はよろしい。敵対する悪とも言える存在がいかにも弱いし、何故そうしなきゃいけないのかという説得力に欠けるのが致命的。それに絡む旱魃だって何故そうなるのか、全然説明されていないぞ。

 ただ、ラストの対決シーンは迫力ありました。いかにも映画的。 これなら映画化した方がウケがいいかもしれませんねえ。変に説明しなくてもいいんだし…。SFXでガンガン攻めるには美味しいところでしょう。ま、ホラーとして読まなければそこそこ読めますので、ライトな超常現象ミステリとして味わえば損した気分にはならないでしょう。ホラーってえのは、恐怖の源泉をどこに求めるのかで大筋決まっちゃうので、題材的にはお天気ものは正解だと思うんですけど、敵対する相手の選択を間違えちゃったってとこかな。 (98年6月読了)

邦題:天使の爪 This Far,No Further 著者:ジョン・ウェッセル
出版:DHC 1998年1月30日 第1刷 訳者:矢口誠
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★1/2

 何だ何だ、これ? あっ、そうか。例の『女か虎か』ってやつね。 こういう終わり方って欲求不満が残るか、余韻を残してミステリアスに終わるかのどっちかしかないと思うんだけど、この作品に限っては不満は残るけど、いまだ漂うミステリアスな部分に反応しちゃうんだ。雰囲気がビンビンに立ってるんだよね。ただプロット的には複雑にし過ぎて結構破綻が目立ちますが、登場人物のキャラが各々オリジナリティが突出しており、過激な性表現をもオブラートで包み込むように脇に置いておいて、色物への傾斜を和らげるメーンプロットの面白さが本格ハードボイルド作品としての品格も残している点を評価してしまおう。

 変態整形外科医の素行調査から、主人公自身の過去にまで遡る殺人事件が浮上してくる様は、意表を突く展開で読者をグイグイ引っ張って行きますが、あんまり意表を突き過ぎちゃってる部分もなきにしもあらず。もう少し伏線なんか散りばめておいてくれると、疾走するロナウドのドリブルみたいなウェッセルのチェンジ・オブ・ ペースにも着いて行けたのに…置いてきぼり食ったモロッコのDFか>ワシ(~_~;)ラストの100ページ近くは再読してやっとこ納得したのだけれど、カタルシスは得られませんよねえ、やっぱし。ええい、今度は決着付けろってウェッセルにメールでも出したい気分。

 銃が嫌いな主人公が派手な立ち回りを決めるラストは、溜めに溜めたハーディングの一本気さが前面に押し出されて拍手喝采の大銃撃戦でした。ターミネーターみたいな悪役がいい味出してました。 純情なるマッチョ極悪非道男。それと、さりげなく文中触れるハーディングとアリスンのオタクっぽい趣味も今風で微笑ましかったりするぞ(^O^)。

 どうやら第二作目もこれに輪をかけてアンチクライマックス的な作品らしい。出版されたら読むべきか読まざるべきか。どちにしてもイライラは頂点に達するような気はするのですが…(~_~;(98年6月読了)

邦題:五輪の薔薇 THE QuincunX 上、下巻 著者:チャールズ・パリサー
出版:早川書房 1998年3月31日 初版発行 訳者:甲斐萬里江
価格:各4000円+税 極私的評価:★★★★1/2

 上、下巻合わせりゃ8千円。住宅ローンをどっさり抱えた勤め人にはチト厳しい定価でございますので、図書館にリクエスト出して今か今かと首を長〜くして待っていた本が、ようやく我が手元に到着したのが二週間前。読み始めて分かった。上、下巻合わせて1282ページに渡る超弩級大作ゆえに読者に強いる労力も半端なモノじゃないってこと(~_~;)

 これほどまでに難渋したのはキングの『IT』以来でしょうか。とは言っても辛く苦しい訳じゃなくて、読み手を鍛える厳しさを受け止める楽しさとでも言いましょうか。並の小説数冊分がゆうに飲み込まれてしまうほどの奥行きの深さに呆然としつつ、世にも稀なる『大翻弄小説』に身を任せるもう、どうにでもしてっ!≠ニいう感覚を存分に味わい召されよ!FADVの諸君。

メランフィー母子の辿る数奇なる運命。波乱万丈!狂瀾怒涛!あなたは誰? ここは何処?状態が読者に情け容赦無く波状攻撃を仕掛けてくるのだ。幾層にも織り成された謎が立体ジグソーパズルとなって、何世代にも渡る英国貴族一族の血で血を洗う骨肉の争いに知的な要素を注入する。それに付けても複雑怪奇な血族構成。だからこそ面白い。 ハッファム荘園を巡る相続遺産の行方は、ラストまで誰にも分からない。複数の遺言書の存在。命を賭けて奪取した遺言書は、次の遺言書の存在であっさり引っくり返り、そして次なる謀略が密かに発動するのだ。絢爛たる19世紀英国貴族の世界に繰り広げられる暗闘。 暴かれる暗部。裏切りの街角ロンドン。いやはや興奮。下巻に入ってからの展開が、ほとんどジェットコースター状態。凄いぞ、これ。

 ボディスナッチャーにショアハンター。ロンドン・アンダーグラウンドの世界が、貴族社会から離れてディープに描かれる。こういう世界が小説で明らかにされるのは、なかなか得難い読書体験ではある。知らなかったもの、19世紀の英国階級社会の最下層の存在なんて。どんどん下へ下へと落ちて行くメランフィー母子の悲哀が、これでもかこれでもかと書き込まれた上巻の呪縛を解かれてから、物語は一気に佳境に入るのだ。だからこそ、読み始めた方は最後まで諦めないで欲しい。ここが辛抱のしどころなのだ。

 とにかく分かり辛い家系図。誰が誰の親で、誰の親戚だって?詳しく表にして巻末に掲載されているのだけれど、ジェオフリー・ハッファムの遺産は、すべてこの家系の謎に包まれているのだから、読みながら確認するのを忘れないで欲しい。ああ、ジョンはこの人の子供なのかって、ね。そこまで確認しても実は…の世界がそこから延々と続くのだから(~_~;)

 98年度海外作品の10傑の上位には確実にランクインしなくちゃいけない作品だと思います。懐に余裕のある方は書店で買って読むべし。そうでない方は図書館にリクエストして読むべし。興味の無い方は分厚いから枕にして昼寝でもすれば…いいかもしれない(~_~;) (98年6月読了)

邦題:レギュレイターズ THE REGURATORS 著者:スティーヴン・キング
出版:新潮社 1998年3月30日発行 訳者:山田順子
価格:本体2300円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 仕掛け満載。キングのびっくり玉手箱って感じでしょうか。そのくせ、ポプラストリートは血に染まり、登場人物の内臓は弾けて脳味噌ぶちまけパターンのキング節は健在であります(^^; 相変わらずタックの正体は不明のまま、周辺の異常事態から類推されるある種太古からの超生命体なのかな? ま、終盤その正体というか本体を読者に垣間見せますが、それでもよく分からん存在であることは否定のしようがないぞ。

 当然のごとく『デス』との連動は読み始めてすぐ気が付くでしょう。登場人物が同姓同名で役割変えて再登場してるのよね〜。ははぁキングのお遊びだなと思って読み進むと、終盤、その種明かしで本当の繋がりを読者に思い起こさせるのだ。ふむふむ、そういう訳で『デス』編で彼らが殺されずに監獄に導かれたのか。つーことは当然のごとく『デス』と『レギュ』はパラレルワールド殺戮地獄編であると言い切ってもOKでありますな。エピローグでの二人のXXってやっぱりあの二人ですよね>ラストの幼児絵の余韻に浸る読後感ではあります。でもねえ、途中の殺戮場面があまりにあんまりなので、キング、いや違ったバックマンはこの先どこまで壊れちゃうんだろうって要らぬ心配なんかしたりして(^^;

 主人公は8歳の自閉症児。稀代の『ポーカープレーヤー』。生死の分かれ目のブラフがタックに通用したのか? 手持ちの役がポプラストリートの住人を救ったのか? いやいやそんな瑣末な事は放っておいて後半戦のタックVSセスの目に見えない暗闘を思う存分味わうべきでしょう。おお、セスの操る駒がそう来るとは思ってもいなかったぞ。まさか、ここまでキングが神の目を持って物語をコントロールするとは…。エピローグでは多少の救いは読者に還元されているとはいえ、ここまで突き放すこともないんじゃないのってのが素直な読後感でした。怖さというより嫌悪感。悪夢の中の物語を鏡に映してその中をまた覗き込んだ感じ。

 飽きれるほど饒舌なキングは、これからどこへ向かうのだろう。 今後、彼の放つ殺戮の僕達は神の呪縛を解き放たれて自由に暴れまわる予感を孕んだ『デス』&『レギュ』の二部作ではありました。 次回作が出版されたら、辟易しながらも重い腰を上げて、進化し続けるキングの悪夢にまた付き合いましょうかね(^^;(98年5月読了)

邦題:デスペレーション DESPERATION 著者:スティーヴン・キング
出版:新潮社 1998年3月30日発行 訳者:山田順子
価格:本体2800円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 絶望という名の神の領域へ。もちろん案内役は地獄の警察官コリー・エントラジアン。単なる化け物を超越した存在の『それ』。 『IT』と『それ』は似て非なるもの。もしくは悪魔。砂漠で隔絶された町で繰り広げられる想像を絶する戦いは、神の啓示を受けた11歳の少年を非情にも巻き込みつつ、『神とは』『人生とは』と、ピットの奥にポカリと空いたブラックホールへ読者に有無を言わせず引き摺りこむのだ。キングの到達した血塗れの定義。すなわち、

 『神は残酷である』

 親子4人。夫婦連れ。書けなくなって旅に出たた中年作家。呼び出されたその作家のマネジャーと女性ヒッチハイカー。そしてデスペレーションの町の物言わなくなった人々。おおっと忘れちゃいかん。タック。キャン・タの中のキャン・タック。太古の昔に鉱山の奥深く封じ込められていた『それ』が目を覚ます。なぜ殺戮を繰り返すのか。なぜ少年らは生かされたまま牢獄へ拉致されるのか。そして、なぜ彼らはそれと戦うのか。少ない登場人物と静か過ぎる町という状況設定のせいで読者は考える葦となり、登場人物は思索する。思索する間にも殺戮は続くのだ。神が与えたもうた試練。

 残虐の限りを尽くす『それ』。邪悪過ぎて怖さを忘れる存在。死屍累々の場面でも、読者はその背後に潜む神の意志を感じ取ろうと読み込むのだ。さらに奥深く。そして、キングは饒舌さの中に、読者のその欲求に確かに答えを出してくれた。感動のクライマックス。 中年作家の真の使命とは。ラストでヴィッドがつぶやいたその言葉にすべてが集約される。『神は…である』。キングの全作品を俯瞰する神の意志と言ってもいいかもしれない。

 そして鏡に映ったもう一つの世界へ。偽名癌で亡くなったリチャード・バックマンが描く『レギュレイターズ』。テーマは少年と悪。 それ=悪は少年をどこへ導いて行こうというのだろうか。もう一つのペンネームでキングは何を描きたかったのか興味は尽きない。分裂した最新作の同時刊行という離れ業はさすがキングと言う他ない。 (98年4月読了)

邦題:着陸拒否 PANDORA'S CLOCK 著者:ジョン・J・ナンス
出版:新潮文庫 平成八年八月一日発行 訳者:飯島宏
価格:本体781円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 ウィルス感染で着陸できなくなった旅客機モノってどこかで読んだ記憶ありがち系のお話ですよね(^^; いかにもライトなアメリカン・エンターテインメントってな感じで序盤からスイスイ読み進めるのですが、いかにもな展開に、こんなに軽くていいのかなって疑問符付きで中盤戦まで。離婚した機長と乗客として乗っていた上院議員の秘書と好意を感じ合って…なんて、ちょっとハーレクイン風?ですかぁ。

 でもねえ、ウィルス感染した?乗客が心臓発作で死亡すると、ここから徐々にサスペンスフルに物語の導火線に火が着くのであります。管制塔との交信がCNNにすっぱ抜かれるとフランクフルト発のジャンボ機は各国で着陸拒否に遭遇するのです。発症するまで48時間。果たして他の乗客は感染しているのかいないのか。受け入れてくれる国はあるのか。底をつくジェット燃料。食料と飲料水。わがままな新興宗教の教主に精神を病んだ女性客、あるいはただ煩いだけの副操縦士。そこに紛れ込むCIA。陰謀&援護。誰が味方で誰が敵か。ふむふむ面白いではないか。

 陰謀の側面で繰り広げられるCIA内部の暗闘。致死性ウィルスに汚染された飛行機は最終的な判断ではどう処理されるのか。登場するアラブ?のテロリスト。ミサイル装備のリアジェットがジャンボ機の後方に…ロックオン。乗客たちの命は風前の灯火。この後は読んだ方のみが味わえる強烈サスペンスと終わりのない結末が待っているのでありました。

 数時間であなたの街へやって来る恐怖の致死性ウィルス。航空機時代に課せられた宿命でもありますが、ウィルスには国境はないという恐ろしい時代でもあります。アメリカでもエボラ上陸というバイオハザードに直面した過去が、現実感を伴って小説を読めるというのも、まあ、それはそれで臨場感倍加してくれるという副産物をもたらしてくれたと言えなくもないか(^^;(98年4月読了)

邦題:罪の段階 DEGREE OF GUILT 著者:リチャード・ノース・パタースン
出版:新潮社 1995.10.30発行 訳者:東江一紀
価格:2700円(本体2621円) 極私的評価:★★★1/2

 某所でボーさんが勧めてたっけと思い出したのが、先日の図書館の開架前。法廷ミステリってそれほど得意じゃないんだけど、えいやっと手を出してしまいました。これって『ラスコの死角』の後日談でもあった訳ね。大昔に読んだ記憶は残っているのだけれど、印象に残ってるかというと全然なのだな(^^; 大筋は本作でも理解できるように事件のおさらいをしてくれているので、本書をパタースン入門用にしても何ら支障なしですよ〜。

 冒頭、ありきたりなレイプ殺人ものかと思わせておいて、中盤までそのままズルズル進行しちゃうので、法廷ものが苦手の人はこの辺で読むのあきらめちゃうかも…の展開なのよね〜、これ。米国人の法廷戦術って何だかゲームみたいで私ゃ好きじゃないんですが、民事畑の敏腕弁護士が止むに止まれぬ事情で元妻でもあるニュースキャスターの刑事弁護に回るメーンプロットの裏に潜む奥深い謎の存在が裁判の行方を迷宮へと運んでしまう。このあたりから俄然面白くなってくるわけで、パジェット、カーロ、メアリの親子三角関係の絡みから解きほぐされていく謎が、やがて圧倒的な感動のうねりを読者にもたらしてくれます。脇役も含めて登場人物の彫りが深い点を加味しつつミステリの枠を超えた家族愛の物語が本作品の白眉でありましょう。しみじみといいんだよな〜。

 女性と職業差別の問題等正面から捉えている部分も、作者が現役バリバリの弁護士だということも大いに関与してるんでしょう。社会派ですって大上段に構えられちゃうと鼻白むところがなきにしもあらずだけど、サイドストーリーでさらりと描写されると、なるほどと共感できるもの。そういえば主要人物はほとんど女性だったっけ(^^; あちらの国での人権意識は相変わらず高いのでしょうなぁ。最近じゃGIジェーンなんて映画まで出来ちゃうぐらいだもんね。

 それにつけても、メアリというのは逞しい女性でありましたね。 そして、母でもあったという結末。父と子。優しい結末がうれしい作品でした。読後感が爽やかな作品というのは貴重でありますよね。 (98年4月読了)

邦題:イエスの遺伝子 THE MIRACLE STRAIN 著者:マイクル・コーディ
出版:徳間書店 1998年3月31日 第1刷 訳者:内田昌之
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★1/2

 言い得て妙ではあります>本書の帯にある『ジュラシック・パーク』と『レイダース/失われたアーク』が出会ったサスペンス! クライトンあたりが飛びつきそうな美味しいネタですよね〜。まあ、お先にアイデアを物にしたコーディの早い者勝ちってとこだな、これ。

 この本書くために勤めも辞めて専念したというだけあって、エンターテインメント本来の姿を追求した面白本に仕上がってます。映像化すれば物語の興奮がより鮮明化すること間違いなしだな。なんせホログラムで2000年前のあの人が目の前に現れちゃうんだもの(~_~;)ディズニーが映画化権取ったって話が少し気になるけど、今時ディズニーでもジュブナイル系の作品にするぶち壊しはしないでしょうから、結構期待しちゃいますねえ。

 まず着想ありき。キリスト教徒ならではの発想。プラス現代テクノロジーの結合体。10数年後には確実に実現してるでしょう的世界がここにはあって、読者も否が応でも引き摺り込まれちゃう遺伝子ミステリの究極の選択があるわけで、そこにイエスの遺伝子をどこからどうやって探し出すかがメーンプロットになるわけですが、そこから派生する人類の未来を賭けた謎の結社と科学者との死闘が本書の大いなる読みどころでもあります。そう言えば、レイダースにも聖杯守護団なんかが登場しましたっけ。

 全知全能をかけて愛する娘ホリーを救おうとするカーター博士。 そして博士の研究を阻止すべく究極の浄化を具現する者プリーチャー。処女作ゆえの描写の甘さはあるものの科学的に解明されたイエスの謎を含むミステリはなかなか説得力ある一つの回答と言えるかもしれません。宗教の枠を超えた面白さが本書には詰まっていることは間違いない。むしろ、キリスト教の本質に迫る可能性を秘めた問題作と言えるかもしれません、ってそんな風に深読みする奴なんているわけないか(^^;(98年3月読了)

邦題:密盟 A Firing Offense 著者:デイヴィッド・イグネイシャス
出版:徳間書店 1997年11月30日 第1刷 訳者:真野明裕
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★

 これは意外な拾い物でした(^-^)。なるほどトム・クルーズが映画化権に飛び付く訳だな。映画『法律事務所』のトム君を思い浮かべていただけばいいと思う。加えて『ミッション・インポッシブル』の追い詰められていくあの表情が後半ミックスされて、イメージがうまい具合に重なり、そのまんまエリック=トム・クルーズで読んでました。それで余計に臨場感感じたのかな。

 本書の主人公エリックはニューヨーク・ミラー社のとんがった若手記者。若さゆえのミスも持ち前のバイタリティで乗り越えちゃうし、特ダネへの嗅覚が発達していて花形記者への階段を上りかけている野心家でもある訳です。作者が本職の新聞記者っつーことで、良く描けてます新聞社の内部事情。そーなのよね〜。インターネットで電子新聞化して黒字を出すなんて至難の技だし、公器として言われている新聞の真の姿を暴き出してる点にも共感するわけ。公器の背後にはちゃんと経営者がいるのだから…朝毎読あたりでこういう事態が起きても何ら不思議はない。脇役連中の描写もステレオタイプじゃなくて、体臭まで臭ってきそうなほど書き分けてあるから物語も美味しいのであります。

 真実の暴露か?記者生命か? 中国の利権を巡って米仏の熾烈な経済戦争に巻き込まれたエリック。陰にある恐るべき密盟をスクープすれば自分の首が飛ぶ重大な岐路に立たされるのですが…う〜む、なかなか迫真のスリラーに仕上がってます。経済ネタでこういう風にCIAが絡んでくるのもなかなか今風で面白いし、ここまで書いちゃっていいの?ってぐらいにフランス、中国を悪役に仕立てちゃってるとこなんか、実体験に基づいて書いてるのか、それにしても思い切りのいい筆裁き(^^;

 ほろ苦い結末とエピローグもグッドです。変に大逆転狙わなくてよかったなというエンディング。これだけワールドワイドに大風呂敷広げて、よくぞ話がダレなかったイグネイシャスの構成力に脱帽ですね。まさしく取材とは冒険なり。冒険なくしてスクープはない。 これ万国マスコミ共通。自戒を込めて。(98年3月読了)

題名:アイスバウンド ICEBOUND 著者:ディーン・クーンツ
出版:文春文庫 1997年4月10日 第1刷 訳者:内田昌之
価格:本体562円+税 極私的評価:★★1/2

 クーンツに関しては『ハイダウェイ』で引っ掛かってから先、何か違うんだよなという違和感が付き纏いはじめて手を出しかねていたのですが、先日、図書館で見つけて思わず手に取ってしまいました。ま、他に読みたいと思う本がなかったというのも理由の一つに上げられますけど…(^^;

 この人、悪く言えば器用貧乏。業務拡張しすぎた某大手スーパーみたいなとこあるでしょ。はまらなかった時が顕著。マクリーンに敬意を表して書いたという本書も大当たりとは言い難いかも(^^; 不調時のマクリーンを彷彿とさせる書き込み不足が、物語の美味しいところを上滑りしている感が拭えないぞ。確かに手練れの筆裁きなのだけれど、上手すぎるのが裏目裏目なのだ。登場人物の彫り込みの浅さが印象薄めてるのよね〜。

 マクリーン流に味付けで陰謀絡めてみましたってとこだろうけど、それがいかにも取って付けたようで感心しません。そんな動機、遠征隊出発前の健康診断やら個別面談でバレません?普通。ああ、もうあら探しはじめたら次から次ぎだな、こりゃ。ついでにもう一つ。 潜水艦のシーンも、ここんとこ私自身、ノンフィクションで同じソ連海軍物『敵対水域』を並行して読んでるもんで、クーンツの描写もなかなか健闘してるんだけど、迫真力という点で随分差が出ちゃうのだ(事実には勝てないっす)。

 ホラーみたいにイマジネーション系の産物を次々と生み出すクーンツがこっち方面に進出しようとしたのは、何か確たる理由があったんでしょうかねえ。面白いことは面白いけど、こっち方面は専門の作家連中に任せてクーンツはやっぱりホラーで勝負して欲しいと思わせる読後感ではあります。ま、クーンツ・ファンであるならば、話の種に読んでみる価値は十分あると言っておきましょう。(98年3月読了)

題名:パナマ  PANAMA 著者:エリック・ゼンシー
出版:NHK出版 1997年7月25日 第1刷発行 訳者:布施由紀子
価格:本体2500円+税 極私的評価:★★1/2

 いわゆる歴史ミステリなのでしょうが、今一つ主人公のヘンリー・アダムズの行動に歯痒さが残ってしまうんだよなぁ。実在の人物だけに、よほど美味しいネタで書き込まないと読者も納得しないぞっていうのがあるでしょ、やっぱり。歴史書を書いてる学者さんがなぜ、殺人事件に巻き込まれるのか。老いらくの恋=そんな簡単な動機でここまで駆けずり回るんでしょうか。説得力ないよな、やっぱし(^^; 頭冷やせよ>おっさん、って読んでてイライラしちゃったのでした。これで背景に歴史が見え隠れしてなかったら、とっとと放り出していたでしょう。

 とかなんとかイチャモン付けてる私ですが、短期間で読了しちゃったという事実は、それなりに読ませる部分に反応したということかな。辻馬車やら気送管やら19世紀の雰囲気と、科学捜査の黎明期としての指紋識別法とそれを利用したトリック。そして導き出される歴史的ミステリ。出て来る連中がほとんど歴史の教科書の片隅になら載っている名前で、作中を動き回る訳ですから、その辺の知識があれば面白く読めるかもしれません。ただ、探偵役のアダムズが全然シャープじゃなくて、良く言えば時代の流れに翻弄され過ぎて、実際にあったとされるパナマ運河をめぐる汚職事件が何だか遠くにぼんやりしてしまう。事件の真犯人も何だかなぁ。ああ、いかんいかん。ちょっとは誉めようかと思ったのだけれど、知らぬ間にこんなん書いてしまいました(^^;

 んじゃ、改めて本書の美味しいところは…ってえと、1892年頃のパリの息遣いが、まるでその場で聞いているような雰囲気とでも言いましょうか。時代掛かった描写が、さすが本職の歴史の教授らしくビビッドに書けてるってところじゃないでしょうか。ただね、年寄りを主人公にこういうミステリを書くと、やっぱし、こういうテイストになっちゃうよな〜という読後感ではありますねえ。悠久の読書時間をお持ち合わせのあなたにならお勧め出来る作品です(^^;(98年3月読了)

題名:侵入者 イントルーダー THE INTRUDER 著者:ピーター・ブローナー
出版:扶桑社 1997年7月30日 第1刷 訳者:白石朗
価格:2381円+税 極私的評価:★★★

 旧年中に読了していたのにサボってアップは今頃というのが情けないところですが、そこそこ面白かったのでとりあえず誉めておこう。ただ、面白さではホームレスものではチェスブロの『ボーンマン』には及ばないし、法廷分野ではマルティニの冴えを凌駕し得ない。それでもなお、読ませる部分は両者を足して2で割ったようなストーリーテリングとディテイルの迫真性でありましょうか。

 ストーカーの怖さを実感としてようやく日本でもようやく浸透してきましたが、本家アメリカではここまで日常的なんですねえ。ジョン・レノンやレーガン暗殺未遂事件の深さを改めて考えてしまいますね。もうズブズブと深い部分が作家にとっては美味しい部分に他ならないわけで、目端の利く作家なら当然描くでしょうが、ブローナーの場合、実際にサイコ系のホームレスに接近遭遇したことが直接の執筆動機というのだから恐ろしい。

 日常生活に潜む陥穽の怖さ。その辺が良く出てました。結末そのものは呆気なさ過ぎて異議ありなんだけど、そこに至る書き込みの背景の深さが評価される作品ということです。もう少し、ゲイツ探索と彼の狂気の部分を掘り下げてくれるていたら、もう少し深みのある作品として『このミス』でも上位にランクされたでしょうに…。

 最近、帯にスティーヴン・キング絶賛とか、カッスラー賛辞とか書かれていても、分野が違うと無条件に飛びつくわけにはいかないよなぁ。なんとなく内容に想像は付くけど、本作ではもっとキングっぽく展開するかと期待したけど、その辺はノーマルでしたね。ま、小説上では米国で刑務所入ると必ずバックから犯されちゃう風潮は、事実なら仕方ないけど、どうもやりすぎじゃないかと思うのですよ(^^;『処女』を守り抜く囚人も当然いるでしょうから、ねえ。

 この人、作品ごとに分野が異なる引き出しの多い作家のようなので、簡単に評価は定まらないけれど、描写力の確かさは特筆ものでしょう。機会があれば『カジノムーン』ほか著作にも手を出してみようかな、と思わせる我が評価ではあります。でも、やっぱしこの人にもサイコものの濃いヤツを一発書いて欲しいよなぁ。(98年1月読了)

題名:心の獲物 MIND PREY 著者:ジョン・サンドフォード
出版:早川書房 1997年11月30日 初版発行 訳者:真崎義博
価格:2200円+税 極私的評価:★★1/2

 お馴染みダヴンポート・シリーズ最新作です。ま、FADVで全作追っかけてるのは私ぐらいでしょうなぁ。おっと、そういえば某所で暴嬢が気に入らんぞって吠えてたっけか(^^; でもねえ、7冊も追っかけてる愛読者としては、今回のサイコキラーもそこそこ評価しちゃうのであった。なかなかいいじゃないの、ジョン・メイル君。 クープやベッカーに勝るとも劣らんぞ。

 ここまで続くと、本作の成功の鍵は、いかに新しいサイコキラーを創造できるかに掛かってくるのですが、手を替え品を替えサンドフォードの苦労のほどがしのばれるジョン・メイルの造型なのだな、これが。ゲーマーVSゲーマー、まさしくダヴンポートとメイルの一騎打ちじゃなきゃならない作品構成になっていて、読んでいて飽きさせないのが、サンドフォードの功績ですよ。あんたは、偉い!

 出世しちゃったダヴンポートに結構拒否反応示す人いるんじゃないかな、と余計な心配しながら読んでいたのですが、内通者を炙り出すダヴンポートなんかを見てると、副本部長になっても彼は彼なのであって、安心して読めるのであった。たはははは。んで、前々作あたりから引き摺ってる彼女へのプロポーズはいつ実現するのかとか、副次的な楽しみが、シリーズ・ファンならではのサービスとしてニヤリとさせてくれるのである。んで、最後の最後、エピローグでクスクス笑かして頂きました(^^)。いいよね、こういう後味って。

 つーことで、当然次回作の『SUDDEN PREY』は出たら必読なのですが、その次の『NIGHT CREW』がどうも『PREY』シリーズじゃないのがちょっと気掛かりだったりするのですが…。単独作品なのかな。 (98年1月読了)

題名:マーチ博士と四人の息子 LES QUATRE FILS DU DOCTEUR MARCH 作者:ブリジット・オベール
出版:ハヤカワ・ミステリ文庫 1997年10月15日 3刷 訳者:堀茂樹、藤本優子
価格:583円+税 極私的評価:★★1/2

 かなり実験的な作品でございますが、でもねえ、このラストはないよな〜、やっぱし。ほとんど反則技じゃん。意外などんでん返しといいましょうか。それでなんとか点数稼いだかな、っていうラストのオチでありました。

 殺人者とジニーの日記のやり取りだけに終始するため、感情移入し辛く状況の描写が少ないため、何がどう起きたのかが分かり辛いのが、読んでて結構辛い。意欲的なのは分かるけど、もっと正攻法で…いやいや、ラストの大技のためには、こういう展開しか取れないか。う〜む。

 意外に良かったのが、訳者を男と女に分けて意図的に文体も変えて翻訳させた部分。気が利いてます。いかにも、って感じが良く出ていたように思うぞ。『このミス』ではこの作品のトリッキーな部分に評価が集まったようだけど、私は『鉄の薔薇』の方が一押しだな。つーことで次は『森の死神』へとオベール感想ツリーは続くのであった。こっちの方がちょっと期待出来そうな予感。(98年1月読了)

題名:アメリカン・タブロイド 上、下巻 AMERICAN TABLOID 著者:ジェームズ・エルロイ
出版:文芸春秋 1998年2月1日第1刷 訳者:田村義進
価格:各2381円+税 極私的評価:★★★★

 ミステリというよりノヴェル。ジャンルの枠を食い破ってエルロイのE-VIRUSが本書とリンクする現実を浸食する。ワースト・アンド・ダーケスト。輝けるアメリカの影が白日の下に暴かれる。ケネディ伝説の虚実。狂乱の50年代が幕を閉じて疾走する60年代へ。軽やかに変身したエルロイの筆の冴えがマシンガンのようにリズムを刻み、スピードに酔い、そして何かを喪失してしまった男たちの挽歌を奏でるのだ。70年代への希望が見えぬまま、腐敗した組織は腐敗を繰り返すだけ。低俗で暴力的で忌まわしいアメリカン・タブロイドは引き継がれてゆく。

 登場人物の暴走がついには日常になり、野放図に展開する暴力の数々に倦み疲れながらも、エルロイ・ワールドにどっぷりと浸かってしまう読書的至福の時間からの離脱を惜しみつつ、その疾走感から振り落とされまいと必死で読み次いだ上巻から、ケネディ、フーヴァー、ジャック・ルピー、マルチェロ、フォッファら人物構成からケネディ暗殺の構図がほの見えてくると、下巻では単発的だった暴力描写が一気に収束して単一方向へ押し流されていく様は壮観ですらある。ウォードのメタモルフォーゼ。彼が文句なしの主人公。 成長の物語。転落の物語。そして、すべての転落物語。

 実在の登場人物たち。セックス中毒のジャック・K。フーヴァーは稀代の覗き魔。薬漬けヴァンパイア、ハワード・ヒューズ。バットを持った殺人鬼ホッファ。内なる暗黒を抱えた男たちの破壊衝動。エルロイが創造したボイド、ボンデュラント、ウォードら主人公がさらに火を着ける。相乗効果。 ロケットのように上昇した暴力の行き着く先はピッグス湾。彼らを突き動かす衝動はどこから来るのか。時代が背を押したのか。否、操り人形師エルロイの暴力波動が彼の指先から放たれただけ…そう考えたい90年代真っ直中の自分がここにいる。

 善なるものに欠片すらの興味を持たぬ男。悪い白人たちによる不浄の歴史。エルロイの行き着く先はケネディ後の大いなる腐敗。ベトナム戦争まで一気に突き進むのであろうか。闇の奥へ。『犯罪小説界のトルストイ』から目を離せない。(98年2月読了)

題名:公園(セントラル・パーク)はおれのもの THE PARK IS MINE 著者:スティーヴン・ピータース
出版:角川書店 1986年3月5日 初版発行 訳者:篠原 慎
価格:1650円(本体1602円) 極私的評価:★★★

 え〜、多分もう絶版でしょう。書店じゃ見かけないし、図書館で足掛け5年目でようやく見つけたくらいですから(^^; この本探すきっかけはウィルツの『発動!NY破壊指令』だったと記憶しているのですが、まあ、いわゆるワンマン・アーミーものってやつですね。 B級路線をパワフルに突っ走る面白本ですが、ここでお勧めしても、読める方はまずいないでしょうなあ。古本屋にも無い可能性が大。 でも、面白かったから、ムフフフと感想を力強く書いてしまうのだ。

 副題にもある通り、公園=セントラル・パークなわけです。NYのど真ん中のネ。そこで、いきなり、この公園はおれが支配するって勝手に宣言されちゃうのだ。う〜む、困ったクンである。しかも、この男、念入りに占拠するための準備に夥しい武器弾薬やら工具やらを巧妙に公園内に隠し持っていたのであります。動機は、よくあるベトナム後遺症なんだけれども、七面倒くさい説明は抜きでガンガン突っ走る。とにかく、『おれ』は、遠いアジアの彼の地をここNYで再現することに命を懸けちゃうのであるよ。やがて踏み込んだ警官が遭遇する悪夢。ブービートラップの竹槍に串刺しにされ、地雷が肉片をふっ飛ばし、AK-47の唸る銃口。阿鼻叫喚のセントラル・パーク。中盤からはギアがトップに入って、やりたい放題なんだから、もう(~_~;)

 フリーのTVレポーターが紅一点、花を添えますが、後半戦にベトナム化が文字通り本格化してきてからが、この作品の美味しいところでしょう。知力を尽くすゲームとして緊迫感はいやがおうにも盛り上がります。公園の地図を見ながら読むと臨場感ビンビンでっせ。 M-60撃ちまくり手榴弾炸裂しまくりの猛烈ドンパチながら、血生臭さを不思議と感じさせない出来になっております。ただ、手足は吹っ飛び、臓物はこぼれ落ちたりしますけど…(^^;

 このピータースって作家のこれが処女作らしいんだけど、その後、この人の著作って聞いたこと無いんだけど、大いなる一発屋としてあまたの星々のなかに吸い込まれていってしまったのでしょうか(^^; この人の戦闘描写はなかなかのモノが感じられたのにねえ…。 エンターテインメントとしては大いなる拾い物の一品です。どこかで見つけたら読むべし(^^)。(98年2月読了)

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