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99年度海外作品感想

 あくまでも99年度に読了した作品の感想であります。したがって旧作品も掲載することもありますが、ご容赦願います。最近ようやくハードカバーも懐事情を気にせず購入できる年収に近づきつつある、と本人は思っているのですが、やっぱし本道は図書館利用にありという基本姿勢を維持しつつ、たまに自費で購入した新刊本の感想をアップするというスタンスで今年もよろしくお願いいたします。

邦題:エンディミオンの覚醒 THE RISE OF ENDYMION 著者:ダン・シモンズ
出版:早川書房 1999年11月30日 初版発行 訳者:酒井昭伸
価格:本体3800円+税 極私的評価:★★★★1/2

 ついに完結した壮大華麗なるSF叙事詩ハイペリオン・シリーズ。読了後の深い虚脱感に支配される間もなく、時間の墓標に展開された過去を振り返らずにはいられない物語の円環構造に、ただただ驚嘆するのみなのである。ダン・シモンズ渾身のシリーズ。自ら未練を残しつつ終止符を打った物語は、やはりここで完結するべきなのだろう。そういうわけで、精神的疲労に加え読む度に酷使され続けた上腕二頭筋も開放された喜びに打ち震えるのだ(~_~;)。これだけフィジカル面を酷使する読書は近来稀である(昨年は『五輪の薔薇』と『屍鬼』がありましたが…)。シリーズ4冊一気読みでもしてごらんなさいよ、あなた。ああ、でもね、やっぱし続きが読みたいのよね〜。映画化に関して脚本書きも依頼されてるシモンズのこと。きっと創作意欲が刺激されて…アイネイアーが…おおっと希望的観測っす(~_~;)。

 気になる箇所はこんなにも。覚醒したエンディミオンのその後はどうなる? 素性を明かした観察者との関係は? アイネイアーの残された2年間は? 産まれて来る子供は? なるほど、シュライクの素性は分かったけど、ネメスとの決着は付いたとは言えまい。本編の白眉とも言えるこの対決は前作『エンディミオン』でクライマックスを迎えたが、壮大なネットワークの辻褄合わせ(~_~;)と物語の整合性にかなりページを割いているので、今回のネメスとシュライクにはさほど比重が掛かってないのは致し方ないが、それだけに続編が期待されちゃうのだな。皆様、SF者ではない私でさえはまり込む傑作シリーズを見逃す手はないぞ。根っこにあるのは読み手が赤面してしまうほどのストレートなラブストーリーだったりするので、シモンズの恋愛小説家ぶりを楽しむのもいいかもしれない。

 痛みと苦痛こそが全編を貫くと言っていいかもしれない。その象徴こそがシュライクであり、ネメスの暴走なのだ。こういうの描かせたらシモンズの独壇場だな。並のSF作家じゃここまでハードドライブ掛かるまい。そして目眩く展開する数々の旅路に現れし惑星と異星生命体の多彩さ。雲の惑星での圧倒的描写力には平伏すのみ。ただね、引っ掛かるのは西洋人の目から見た仏教の世界観を惑星に移植した強引さ(~_~;)かな。仏教用語はよく勉強してるけど、付け焼き刃をさらに厚塗りした別方向へ勘違いが滑稽でもある。ま、その辺はご愛敬ということでよろしいか、と。

 そういえばパクスと対立するアウスターの連中の羽化シーンなんてまさしく天使だもんなあ。ほとんどヴァチカンじゃ発禁処分になっちゃうんじゃないの>これ。それほどまでにパクス=ヴァチカンへのアンチテーゼみたいな描写が延々と続くのは作者の宗教観と何らかの繋がりはあるのであろうなあ。アイネイアーが辿る運命なんてキリスト再誕かと思わせる展開だし…。人類の未来を担うものは宗教を超えた人々のネットワークだという壮大なメッセージを、シモンズがエンディミオンに託したんでしょうね。RISEって意味がもう一つ。もしかして、アイネイアーに対して下の方のエンディミオン自身がRISEしちゃったって意味もあったりするかも、ね(~_~;)。人類の未来も、まあ、下半身にも大いに関係あるわけだから。(99年12月読了)

邦題:チェシャ・ムーン CHESHIRE MOON 著者:ロバート・フェリーニョ
出版:講談社文庫 1995年7月15日第1刷発行 訳者:深井裕美子
価格:820円(本体796円) 極私的評価:★★1/2

 サブタイトルに『探訪記者クイン』とあるのが如何にも古めかしいでしょ(~_~;)。今時、探訪記者なんて何処を探したっておりませぬぞ。特ダネ記者とかトップ屋とか、そんなな感じか。おっと、トップ屋なんてのもとっくに死語だったりして(~_~;)。んでもって、本文中の表記はクィンになってんだよな>しっかりしてくれ、講談社校閲部殿(~_~;)。いきなり文句たらたらですが、『不思議な猫の口の形の月の下で奇怪な事件が続く』ってことから『チェシャ・ムーン』ってタイトルを取ってると思うのだけれど、ぜ〜んぜん奇怪でない事件なんだからして、作品的にはタイトル負けしてるって感じが、かなりのマイナス点ですな。『ハートブレイカー』を読んで感じた一種独特の雰囲気の一端は垣間見ることが出来ますが、まだ萌芽段階でタッチが軽すぎる部分が、当時、フェリーニョがブレイクしなかった理由かと納得いたしました(~_~;)。

 ショウビズ界を舞台にした小説なら、D・ハンドラーのホーギー・シリーズを思い浮かべてしまいますが、当時はハリウッド・スター・スキャンダルが一種ブームであったのでしょうか。この種のネタで引っ張る作品は何だかよく読んだ気がしますが、それなりに評価できる作品はさほど多くなかったような…(~_~;)。とはいえ、さすがフェリーニョと言えるのは、キャラの魅力でしょうね。日系カメラマンのジェン・タカムラとクィンの恋愛模様のこんがらがり具合等々余韻を残す筆裁きがグッと来ちゃうのさ。『ハートブレイカー』から遡って読んでいる読者なら、おやっと気が付くのは、恋に狂った大男の存在でありますな。今回のリストンとデッカーとの共通点に、フェリーニョのこだわりのようなモノが仄見えてまいりますが、次回作にも大男に重要な役割を持たせるであろうことが容易に想像付いちゃうのであるよ(~_~;)。

 まあ、今時のミステリ・ファンにはお勧めしませんが、フェリーニョ・ファンなら読んでおいて損はない作品でありましょう。今の彼と比べてプロトタイプちゅ〜感じがよ〜く分かりますから。処女作は『無風地帯』らしいんですが、これがまた多分絶版でしょうからなかなか読む機会がないのが残念なんだけれど、近く新刊が出ますのでまず最初に登場人物リストで大男が出てくるか否かチェックいたしましょうか(~_~;)。そうそう、不思議の国のアリスから取ったチェシャ・ムーンのイメージを実によく表現した表紙絵は、辰巳四郎画伯のお手柄であるよね〜。(99年11月読了)

邦題:報復者 ヒットマン IN THE HAT 著者:ダニー・マーティン
出版:講談社文庫 1999年10月15日第1刷発行 訳者:夏来健次
価格:本体800円+税 極私的評価:★★1/2

 クライム・サスペンスというよりは、ポン引き一家のクリミナルな日常とでも言い換えてOKですな(~_~;)。兄はヤク中で刑務所に服役中。嫁と兄嫁を売春婦にして生計立ててるポン引き男がうつつを抜かすのは闘鶏なのだ。これがいい味出していて、アンダーグラウンドの闘鶏賭博の描写が実に堂に入っているのだな。さすが強盗罪で実際に服役したことのある強烈な経歴の持ち主である作家だけのことはあるね。本来ならこっちが脇道なんだけれど、この辺の日常シーンが物語の半分以上続くのだ。しかも淡々と、ね。プリズン・ギャングとの抗争は一体何処へ行っちゃったのって感じ。ところが、一種のどかな閉鎖社会の中にもう一つの閉鎖社会からの招待状が送り込まれて物語はやっとこヒートアップする。

 はっきり言っちゃえば濡れ衣なんですけどね。ヴァーン・コイ一家が一転風雲に巻き込まれるのは服役中の兄貴のせいなのよ。兄貴の方のハードな日常(経験者が描くと厚みが出るよね)とヴァーンに代表される塀の外との対比から流れ出した暴力が暴力を呼びついには組織対個人の復讐戦になるのですが、そこはそれ悪党の仁義が不思議なほどサラリとしていて、嫌みの無さが妙な清潔感を醸し出すわけだ。登場人物はほとんど悪党ばかりなのにね(~_~;)。社会の法律より自分の黄金律を頑なに守る男たち。ある種の諦観にも似た感情の流れを描き表せるのは、実際の悪党を知る者の強みと言えるかもしれません。

 それゆえ、淡泊さが作品としての弱みも内包しているわけで、組織との全面戦争になるかと思いきや以外にあっさり片が付いちゃうし、それどころか訳の分からんラストでの一家の暴走気味の行為には開いた口が塞がりませんぜ(~_~;)。兄貴の弁護士雇うのにあんなことしますかねえ。思考形態がアウトローのパターンなのね>ヴァーン&作者(~_~;)。まあ、読ませどころは男の意地と彼らの心の絆であるとを考えれば、この作品はこういう終わり方でも良いのです。そう言えば、ポン引きが主人公の小説なんて始めて読んだかなあ。(99年11月読了)

邦題:プリティ・バレリーナ PRETTY BALLERINA 著者:ジョン・ウェッセル
出版:DHC 1999年9月25日 第1刷 訳者:矢口誠
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★

 むちゃくちゃでござりまする(~_~;)。登場人物でさえそう思ってるのだから何をか言わんである。そんなんでいいのかぁ。いいのである(~_~;)。何かと物議を醸した前作『天使の爪』に続きアンチ正統派ハードボイルド街道を独走する過激な作品なのであるぞ。一読、双六展開のプロットにまず驚くであろう。賽の目で進む方向に事件が起こる。そんな感じ。登場人物からして尋常ではない連中が目白押し。表題の『プリティ・バレリーナ』からしてポルノ映画のタイトルなんですぜ。事件の発端はその映画の主演女優からの依頼だし、探偵は相変わらず無免許のハーディングだし、ガールフレンドのアリスンはぶっ飛び野球マニアだし、ポルノ映画コレクターどもの抑圧された暗い情念が引き起こす騒動が何やら胡散臭すぎるし…お膳立てはもうバッチリであるぞ(~_~;)。

 頼りない探偵像。あるがまま。快刀乱麻な探偵なんて絵空事さ。そんな作者のオーソドックスな私立探偵小説へのアンチテーゼなのである。だからこその双六展開と言えなくもないか。不連続線の中にある事件のカギが一直線に結ばれたとき、主人公は相変わらず頼りないままだし、死体はあちらこちらにバラ撒かれ、真犯人とはえらく離れた場所でウロウロしている体たらく(~_~;)。犯人の方から近寄ってくるのだからして、決して主人公が事件を解決したわけでもなく…探偵免許もないから結末も表沙汰にならずにアンダーグラウンドのままである。こういうオフビートな物語に惹かれるすれっからしな読者にはたまらない変化球作品ではあるね。

 そうそう、本作品の特徴でもある映画&ロックのトリヴィアルな引用は、オールド・ファンならふむふむと感心出来る部分もあるのだけれど、一部分かんないよ〜って箇所も多々あるほどのノリなのよね〜(~_~;)。この辺はウェッセルの個人的な思い入れが横溢した茶目っ気として大目に見る方がよろしいかもしれません(~_~;)。う〜ん、キャシー・レインってやっぱしトレイシー・ローズがモデルなのであろうか。コレクターズ・アイテムの値段の上がり方って意外なところにあるものなのね〜(~_~;)。これ正直な感想。(99年11月読了)

邦題:ハートブレイカー HEART BREAKER 著者:ロバート・フェリーニョ
出版:アーティストハウス 1999年10月31日初版第1刷発行 訳者:浅尾敦則
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★★

 いきなりのオフビート感覚。漂う透明感。そうか、限りなく透明に近い存在でいなければならなかった男の存在証明。生死ギリギリのところで輝くからこそ生きるユーモア感覚。恐怖の種を蒔く男たちとそれを刈り取る女たちのギリギリ伸るか反るかの勝負が読者の琴線にビンビン来ちゃうのさ。米本土でもこの作品でブレイクしたらしく、聞いたこと無かったロバート・フェリーニョって作家、大いに気に入りましたぞ。何作かは講談社文庫の方に収容されているようなので、今度探してみよう。そう思わせるサムシングがある。

 さしずめ大鹿マロイはダリル・デッカーか。フェリーニョ版『さらば愛しき女よ』。チャンドラーをも超えるってのはちょいとオーバーだけれど、ハードボイルドの超新星がマイアミ→LAで炸裂する。熱気と麻薬と暴力の街から麻薬と暴力と映画の街へ。ハリウッドで悪党ジュニアの個性がLAで別方向に開花する可笑しさ(^_^;)。アルマンドの出で立ちこそ映画化されたら見てみたいものの一番手に挙げたいね。いやはやトリビア〜ンな会話の妙ではある。そいつらが笑いながら人を殺す。バルがバーの鏡の中で見たもう一つの顔もまた真実。真実の奥に潜む闇の存在に触れてしまった主人公の光と影が実に陰影に富んでいて、この作品の懐の深さに結び付いているのだな。

 エピローグで明かされたほろ苦い真実の行方。愛で殺す女、夢で殺す男かぁ。ジュニア対バルの顛末も次への余韻を残しつつ皆が迎えたそれぞれの結末。生か死か。生き残っても手のひらにこぼれる愛の残滓しか見えない。だからこそハートブレイカーってタイトルがグッと胸に来る。キロ、デッカー、ジャッキー。そして、これがとどめのハートブレイカー。いつの日か、バル・デュランとジュニア・メイフィールドの邂逅再びと願いつつ…。(99年11月読了)

邦題:カリブの鎮魂歌 Requiem Caraibe 著者:ブリジット・オベール
出版:ハヤカワ文庫 1999年10月31日発行 訳者:藤本優子
価格:本体840円+税 極私的評価:★★★1/2

 伊良部の操るスプリット・フィンガーみたいに急角度で落ちる変化球ハードボイルドなのだ。野茂じゃなくて伊良部なのね。胡散臭さを秘めつつ、エグさの中に女流作家らしい細やかさでエキセントリックな女性陣を操り、ダゴベール・ルロワという異色の黒人私立探偵をカリブ海の島に放り込むのであるが、依頼された仕事の明らかにされた結末の素っ頓狂さは特筆されるべき破天荒さである(~_~;)。力業の極みである。呆れ返るやらひっくり返るやらであるが、そこから暴き出された真の悪魔的犯人を追い詰める過程がこれまたオベールらしさ横溢である。だからうれしいのである。女流作家なのに女性読者にウケが悪いという不思議な作風ゆえ、読み手を選ぶ作品ばかりということになりつつあるけれど、普通のミステリに飽きた変化球もこなせるベテラン・ミステリ読者こそが手に取る作品群だと言い切ることが出来るだろう。素人さんは手を出すと火傷しまっせ(~_~;)。

 噂には聞いてましたが、悪逆非道ハイチのトントンマクート。作家的には美味しい素材ですなあ。カリブの美しい島々に潜む悪の化身たち。主人公の救いようのない窮地こそが物語を成立させているので、ここでは明らかに出来ないけれど、ラストに来て判明する事実のオベールの底意地の悪さにニンマリするだろう(~_~;)。よくぞ、ここまで捻ってくれました。エキゾチックなカリブ海の観光ガイド的な要素も漂わせつつ、死臭を撒き散らすオベールの筆先は猛威を振るいっ放しである。殺し屋の登場ですらオフビートなのだな。さすが実家が映画館を営んでるだけあって、アメリカナイズされたミステリ的素養が十二分に今開花しているようであるぞ。そこにフランスらしい捻りの利いたエスプリ&エグさ(~_~;)。

 主人公のルロワって映画俳優のウェズリー・スナイプスを念頭に置いて書いたそうだけれど、彼のとぼけた味わいはつい先日も前夫人と喧嘩して逮捕されたロドマンのやんちゃさも兼ね備えた造形で、いかにもオベールの怪作?を支えるだけの肉付けがよろしいぞ。相変わらずいい味だしてる和田誠氏の表紙イラストも相まって極私的には美味しく読みました(^_^)b。でも、やっぱしダメな方には何処まで行ってもダメだろうなあという読後感でもありますね。そういうわけで、ぶっ飛び『ジャクソンヴィルの闇』の続編『闇の咬み傷(仮称)』を楽しみに待つ2000年のミステリ・シーンなのだな。おっと、どっちかというとホラーだけどね(~_~;)。(99年11月読了)

邦題:消えたスクールバス All Fall Down 上、下巻 著者:ザカリー・アラン・フォックス
出版:角川文庫 平成十一年十月二十五日 初版発行 訳者:川副智子
価格:上下各本体895円+税 極私的評価:★★1/2

 『ピエロが来たりて銃を撃つ』。これって帯のキャッチコピー大賞に決まりじゃない? ま、そんな賞があったらの話だけど(~_~;)。しっかり帯に騙されて買っちゃいました>角川文庫。一冊1000円を切ってるところに気が付かなかったなあ。出版社が一押し作品なら1000円切って売り出すはずがないじゃん(~_~;)。それでなくても高すぎると悪評ぷんぷんの角川商法なのだからして。毎月25日発売って書いてあるってことは、何が何でも面白くても面白くない本でもとにかく出版しちゃうってこと?>角川書店殿。これって、いわば粗製濫造ってことかも。玉石混淆。自分で選べ。海外文庫作品でもそういう時代がやって来たってことか。読書子も目利きになれ。自分で鍛えろって出版社から試されてるのかねえ(~_~;)。編集者が目を利かせる時代が懐かしいぞ。

 ストーリー的には確かに息もつかせぬスピードで展開する緊迫感溢れるノンストップ・サスペンスなのですが、ただ、それだけ。犯人の動機がまるで理解不能だし、サイコだから仕方ないと割り切っちゃえばそのまま読めなくはないけれど、障害児ごとスクールバスをハイジャックした理由も不明だし、独りよがりな複雑プロットにどんどん付いていけなくなるのだよなあ。なんで主人公に先住民族系女刑事を起用したのかも意図不明だし、介入するFBIも妙に弱腰だし、今時のシングルマザーをこういう風に操って時代の鏡的に見せるのもどうかと思うぞ。サイコ風誘拐犯と子供を誘拐された女刑事。興味本位な描写手法に米国ならではの白人主義の胡散臭さを垣間見たのはワシだけか(~_~;)。障害児やらインディアンの子供ならどれだけ殺しても平気ってか。ディーヴァー『静寂の叫び』が聾唖者の子供たちを誘拐するストーリーだったけど、それに習ったストーリーでそこから社会派的要素をすっかり抜き去ってエンターテイメント化した作品が本書ですかね。

 プロファイリングを逆手にとって、犯行に利用する犯人像がなかなか目新しかったけれど、そこからもう一捻りがないし、呆気ないラストでの死闘の結末がカタルシスを得るにはほど遠い出来だと思うのである。海外ミステリとはいえ、読み終わった後にある種の味わい深さが欲しいよね。ハリウッド・エンターテインメントの悪しき影響がミステリ界にも影を大きく落としているのだなあと長嘆息。ちょいと矛盾した物言いだけれど、面白いだけじゃつまらないと知れ。(99年11月読了)

邦題:メサイア MESSIAH 著者:ボリス・スターリング
出版:アーティストハウス 1999年10月29日初版第1刷発行 訳者:野沢佳織
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★

 キリスト教徒ならではのネタを無理矢理サイコスリラーに当てはめるとこういう聖なる?グロテスク作品が登場してくるわけであるが、ここまで作為的にサイコものを仕立てる必要があるのかね。日本の読者にはピンと来ないんじゃなだろうか。かく言うワシもそうなのですが…(~_~;)。『羊たちの沈黙』がヒットしてから、多種多様なサイコスリラーが雨後の竹の子のように産出されてますが、ある程度基準を設けなくては行けない時期に来てるんじゃないのかね。一般論として、殺しのバリエーションと動機の奇想天外さだけで、物語の人間像を描き切れていなければ、作品としては瑕疵があるとしか言えませんぜ。本書に関しては、登場人物がすべてトラウマを抱えていてグチョグチョの人間関係で鬱陶しいほどその辺はクリアしてるんだけれど…英国人の陰鬱さってえのに読んでいてずっと支配されるのは勘弁してえって感じか(~_~;)。

 ロンドンの街を震撼させる連続猟奇殺人鬼。ある冷徹なるルールのもとに皮を剥がれ斧でめった切りにされバットでボコボコに撲殺され、すべてナイフで舌を切り取る。そして口の中に残された銀の匙。確かに殺しの手口は『羊たちの沈黙』を超える凄惨さではありますが、仏像作って魂入れず、みたいな感じで通り一遍なサイコスリラーで終わっちゃってるのだな。幾ら殺されても、ああ、そうなのって鈍感に読み進むしかないのだ。後半戦、ようやく手掛かりが仄見えだしてから、どんでん返しが鮮やかに決まる部分は素直に評価しよう。主人公のレッドカーフ警視に魅力を感じないのが痛いのだな。まあ、彼のトラウマが事件を引き起こしたようなものだから致し方ないと言えば言えるけど…(~_~;)。救いのないラストも陰鬱さに拍車を掛けてくれましたな。さすが英国人の書いたサイコスリラーではある。あとは、裏ロンドン観光ガイド的な読み方も出来ますので、そっち系の趣味の方には参考になるかも(~_~;)。

 本作品のヒントを病理学者との会話から導き出したと作者ボリス・スターリングは語っている通り、ネタはいかにも精神病理学会にでも発表されそうなとんでも系だよね〜。狂気度★★★★★ってのは誇張でも何でもなくて、現実の欧米社会におけるサイコ系患者の真実って、厚いベールに隠されてなかなかこっち社会には洩れ聞こえて来ないけれど、キリスト教系は言うに及ばず、ありとあらゆる狂気の妄想が飛び交う凄まじい現場環境なのであろうな。勝手に推測してますが、『羊沈』に出てくるレクターが収容されていたボルチモア州立病院を思い浮かべてしまうのであります。おっと、いけない。早いとこ『Hannibal』の続きを読まなくては。それでは、レクターに再会することに致しましょうか。(99年11月読了)

邦題:リンク LINK 著者:ウォルト・ベッカー
出版:徳間書店 1999年3月31日 第1刷 訳者:酒井昭伸
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★

 いやはやリンクリンク大サーカスってやつですね。『神々の指紋』の荒唐無稽度をパワーアップして、スパイスにSF味を少々、波乱万丈スピーディーな冒険小説的味付けで一丁上がりってところか(~_~;)。ディズニーで映画化するには持って来いじゃないかな。確かに、『ロマンス・バイオレンス・テクノロジー・歴史』そのすべてをぶち込んで面白いエンターテイメント小説に仕上がっておりますが、登場人物がステレオタイプ過ぎるんだよね。ストーリーもこうなるって先が読めてしまう。だから安心して読めるという部分もあるのだけれど…。

 最近の『X−ファイル』でも鼻白む部分があるように、異星人関係ネタで暴走されると最後は決まって人類最後の拠り所である米海軍機のミサイルの出番になっちゃうのがトホホな部分で、まあ、好きな人は好きなのでしょうが、もっとディープでコアな超古代史発掘な学術的フォローもあって良かったんじゃないかしらん(~_~;)。これじゃ梅原克文の『カムナビ』と五十歩百歩だもの。出だしの発掘編ではなかなかいい味出していたのに、後半ハレホレヒレハレ展開っちゅ〜わけだ。こういうのをサイファイって呼ぶのでしょうか>梅原克文殿。

 著者紹介読んで納得。この人、元々映画畑の人だったのね。こういう作品に説得力求める方が無理な話なので、ここは素直に壮大な法螺話に驚きつつ読むことに専念すべきなのでしょう。確かにセンス・オブ・ワンダーは十二分に持ち合わせているパワフルな小説ではありますぞ。ただ、帯にあるネルソン・ドミルやらクライブ・カッスラーが本当にここまで誉め上げてるのか眉唾物ですが、映画化されればワシも見に行くストーリーであることを認めることは吝かではない。よって★3個進呈することに致しましょうか。(99年10月読了)

邦題:狩りのとき TIME TO HUNT 上、下巻 著者:スティーヴン・ハンター
出版:扶桑社ミステリー 1999年9月30日第1刷 訳者:公手成幸
価格:上、下巻とも本体781円+税 極私的評価:★★★1/2

 冒頭、牧場で家族連れが狙撃される意味あり気なシーンから物語に一気に引きずり込まれましたが、あれあれ主役はボブ・リーからダニー・フェンへと、主役の比重の掛かり具合が今までと異なる展開におやっと思われた方も多いのではないでしょうか。視点の行ったり来たりがうざったいと思うなかれ。あくまで本作品の白眉は、スワガーvs北ベトナムの一個大隊との壮絶スナイパー戦であります。これが読めれば後の多々ある問題も些細な瑕疵でしかないと言い切ってしまいましょう。勤続疲労でよれよれの我らがボブ・リー・スワガーの最後の雄姿。

 こっちの方向へ行くとは思っても見ませんでした。ベトナム戦争当時から引きずるエスピオナージュの仕掛けが、さすがハンターと思わせますが、そこまでひっくり返す謀略物が果たしてボブ・リー・スワガーに似合うかどうか。読者の判断としては「う〜む」と唸らざるを得ないのではないか。どこまでもストレートなボブに、ここまで曲がりくねったスパイ・ハンティングはミスマッチですよね〜(~_~;)。でもまあ、その辺が複雑に絡み合って、妻のジュリィとダニーとボブとの関係が白日の下に晒され、過去の亡霊が二人に襲いかかる。ふむふむ実に上手く出来ていて、謀略小説としてはかなりの水準をクリアしていると言えるでしょうね。

 ベトナム戦争時代の宿敵との死闘は相変わらずのハイパーテンションの凄まじさ。ここまで追いついてきた脅迫観念にも似た合い言葉『狩りのとき』が、狩る者狩られる者を交互に演じながらの死闘はアクション小説として過去3作に何ら劣るモノではないことを私が保証いたしましょう(^_^;)。なるほど昔のクリント・イーストウッドのイメージにぴったしですな>ボブ・リー・スワガー。という訳で、ラストに使った武器がライフルではなかったことにシリーズ終焉の象徴としてしみじみと感じ入ったのでありました。ボブ・リー・スワガー・サーガの掉尾を飾る作品として十二分にファンにアピールしていたことは誰も否定出来ないでしょう。主役は静かに退場した…。(99年10月読了)

邦題:プラムアイランド PLUM ISLAND 著者:ネルソン・デミル
出版:文芸春秋 1999年10月10日第1刷 訳者:上田公子
価格:本体2476円+税 極私的評価:★★★★1/2

 これだけ饒舌でイケてて、ハートはダーティ・ハリーも真っ青なダイハードな中年刑事。NY市警のジョン・コーリーには主演男優賞を差し上げましょう(^_^)b。相方はサフォーク郡警察の殺人課の堅物ベス・ペンローズ刑事。コーリー的ギャグ満載(~_~;)。『ゴールド・コースト』でブレイクしたユーモア度がさらにハイテンションで炸裂するのだから、クスクス笑いながらその実、真犯人に肉薄するコーリー刑事の凄腕に瞠目するのである。その練り上げられたキャラクターは海外物では今年度ナンバーワンの突出度であると思うのだ。EPAベス(~_~;)のギャグには爆笑させて頂きましたが、彼女の好感度も相まって明るいサスペンス巨編に仕上がってます。物語的にも意表を突く展開にノー文句で★★★★以上を進呈しようと思う。ワシ個人的には2500円出しても惜しくなかったので、このレビューを読んで躊躇ってる方は速攻で図書館にリクエスト出されるか、待ちきれなかったら書店に急ぐしかないっと断言しよう。

 プラムアイランドとは、エボラもコレラも炭疽菌も何でも持って来いの細菌兵器のデパートとも言える孤島に隔離された政府管轄の研究所。前半戦はこのネタで引っ張る引っ張る! 謎の殺人事件は細菌兵器絡みで一気に突っ走ると思いきや、プラムアイランドでも人間観察的な側面からアプローチする作家的企みから、あれれっと感じなければ嘘である。登場人物が皆一癖も二癖もあって、はてさて犯人は誰でもありそうな読ませ方に感心してしまうのだが、その割に真犯人のバレ方があっさりし過ぎたきらいもあったりして…(~_~;)。物語がひっくり返ってから一気に冒険小説的アプローチへと一変してしまう序破急の呼吸もさすがである。そんな中でも笑かすコーリー刑事の底なしの楽天主義にニヤリとさせられてしまうのさ。海洋冒険小説となった後半戦は、前半では隠されていた主題へのオマージュ的な側面もあるのでしょうか。

 うひゃあ。ここまでやるかってぐらいダイハード的な大詰め大活劇。ハラハラドキドキ度がオーバードライブ掛かっちゃうし、その後のオチも見事に着地が決まって、スマートさは出色である。心地よい会話の妙。大人の男と女の関係。ウェルメイドで後味の良い小説。秋の夜長にお勧めしたいミステリである。宣伝で著者も来日するようであるが、これを機に少しでもデミル・ファンが増えることを祈りたいね。(99年10月読了)

邦題:クリスマスに少女は還る JUDAS CHILD 著者:キャロル・オコンネル
出版:創元推理文庫 1999年9月24日 初版 訳者:務台夏子
価格:本体1000円+税 極私的評価:★★★1/2

 オースン・スコット・カードの『消えた少年たち』を読んでいなかったなら、その衝撃度に打ちのめされて★★★★付けてしまうところでしたが、すでに耐性が出来上がっていたので、この程度の評価に落ち着いたのでした。クリスマスに少女は何処へ還るのかが一大トリック的な読ませ方ですので、すくなくともカードを超える作品ではないな、というのが正直なところですが、未読の方にはかなりの衝撃度が読後再読させてしまうポテンシャルを持つびっくり箱的作品であることは疑いのないところです。こっちを先に読んでしまったら、逆に『消えた少年たち』の方が色褪せて見えてしまうでしょうから、併せてこっち方面ミステリのツイン・ピークスと言えるかもしれません(~_~;)。

 主人公が定まらず視点があちこち移動しますので、感情移入し辛くなってしまうのがまず作家的マイナス部分。キャラクターが前面に突出しているのがアリだけでは、読者の興味はなかなか引っ張り切れるものではないし、主人公であるはずのルージュが如何にも引っ込み思案的に物語上でも出しゃばらない性格というのは、実生活ではまことに良いヤツでも、こういうミステリでは決して美徳にはなりえない(~_~;)。知ってるけど教えないよ、みたいな描き方がいけ好かんぞ>C・オコンネル。一番の問題は真犯人がさほど物語上の重要人物ではない部分が、あまりフェアとは言えないぞ。アリとの関係も明らかにされても、緊密度が薄く希薄な関係からやや輪郭がはっきり見え掛けて来たかな、という程度ではないか。もっとアリの昔の記憶の部分をフラッシュバックさせてくれないと、おお、と腑に落ちることはないのである(~_~;)。作者の主眼が囮の子の方に傾きすぎた歪みがここに露出した感がある。

 ホラー・マニアな少女のキャラは出色である。すべてはクリスマスに繋がる奇蹟。超絶技巧と言うなかれ。よく読むとこれはアンフェアでさえある。ミスリードのオンパレードだし、ほとんどミステリとしては許し難いプロットではないか。それでもなお、ラストシーンの放つ衝撃と感動がこの物語を支える屋台骨なのだ。少女たちの悶え苦しむ監禁場面の描写の深度が見事にラストと結び付いたミステリを超えた小説として評価される作品足り得ているのだ。少女たちの救済と贖罪の物語として読むべし。(99年10月読了)

邦題:聖母の日 VIRGIN 著者:F・ポール・ウィルソン
出版:扶桑社ミステリー 1999年7月30日第1刷 訳者:白石朗
価格:上巻本体686円+税、下巻本体648円+税 極私的評価:★★

 う〜む、題材自体は興味深いものではありますが、F・ポール・ウィルソンが別名で発表しただけあって、それなりに面白いものの、それ以上ではない作品と相成りました(~_~;)。世紀末ならではのホラー作品なれど、ノンフィクション系でもかなり取り上げられる聖母マリア伝説をいじくり回すとかなり手垢が付いた題材だけに、コペルニクス的転回を伴うひっくり返しは期待できないものですなあ。作者ならではのケレン味もB級の域を出ないし、ああそう来るのねって先が読めちゃうのがいかにも弱いよね。ラストもそんなんでいいのかって腹が立つ方もいるのでは…(~_~;)。

 神父と尼僧がデキちゃってる設定は「おお、いいかもしんない」と期待が先走ったのですが、だんだん萎んじゃいましたね(~_~;)。そりゃ原題が『VIRGIN』だからそうなるんだろうけれど、そこをひっくり返してくれなきゃ小説的には面白みが少ないぞ。まあ、ハイム・ケセフの正体がセンス・オブ・ワンダーの一端を見せて見せてくれましたが、あとはステレオ・タイプな登場人物がB級活劇路線を突き進む訳だから、お暇な方にしかお勧め出来ないのであるな。まだ、『ルルドの奇蹟』やらそっち方面のノンフィクションを読んだ方が歴史のお勉強になるし(~_~;)、これを機にキリストやら聖母マリアやらユダらの聖書的事実を再確認するのもいいかもしれません。

 おっと、ちょっと驚いたのは、F・ポール・ウィルソンが聖母の口を借りて、ラスト千年紀の到来で披瀝したキリスト教の教義の解釈が、カトリックなら決して認めはしない方向へ流れて行くのは、作者自身の宗教観が垣間見られて興味深い。無宗教に近い感覚とでも申しましょうか…(~_~;)。米国の読者層にはどういう迎えられ方をしたのか気になる部分でもあるな。(99年9月読了)

邦題:ボーン・コレクター THE BONE COLLECTOR 著者:ジェフリー・ディーヴァー
出版:文芸春秋 1999年9月20日 第1刷 訳者:池田真紀子
価格:本体1857円+税 極私的評価:★★★★

 究極の安楽椅子探偵ストーリーなのでありますぞ。四肢麻痺で首から下は左手の薬指一本しか動かない元刑事リンカーン・ライム。犯罪科学分析の第一人者だった彼が、ある事故により頸椎損傷を負い寝たきりの雁字搦め状態。ついには、ある重大なる決意をして某医師を呼び寄せる。すべてに絶望したリンカーン・ライムに取れる最後の手段である。そこへ突発した猟奇的殺人事件。手掛かりなし。八方塞がりのNY市警が頼らざるを得ないのが、実に寝たきり患者しかいないという訳だが、その実ジレンマではない。誰もがライムに期待している。それだけの男。本部長から市長まで。期待される人物像。いやはや凝りに凝った人物設定の妙であるぞ。さすがディーヴァー。一作ごとに趣向を凝らす作家的姿勢が、新作が出るたびにファンを書店に走らせるのさ。かく言う私もその一人(~_~;)。

 著者近影では、ほとんど髑髏かとも思えるジェフリー・ディーヴァーが産み出した稀代の殺人鬼ボーン・コレクターの存在と疾風怒濤のサイコキラーぶりと彼を追い掛けるライム一党の壮絶バトルは本編の白眉ではあるが、登場人物の肉付けが実に上手いのだな。介護士のトム然り。パトロール警官だったアメリア・サックスの成長ぶりが微笑ましくもあり、万年巡査の娘としての苦悩とカマロをぶっ飛ばすお転婆ぶりから人間的輪郭が仄見えて新鮮なのだ。ライムの手となり足となる彼女の鑑識能力のアップして行く過程が、そのまま読者の科学捜査への理解度と伴って最先端の犯罪捜査の一端を垣間見せてくれる。

 主人公であるライムが寝たきりであるので、途中だれる部分がなきにしもあらずだけれど、それを補ってあまりある衝撃のラスト。コペルニクス的転回。すべてはここが源であったのか。ボーン・コレクターがわざと残した手掛かりの謎は今解明される! 彼の研ぎ澄まされた洞察力を利用した悪魔的犯罪のすべて。絶体絶命。四肢麻痺のリンカーン・ライムが最後に取った非常手段。これが凄い! ただじゃ済まさぬディーヴァーのラストツイスト。ただただ脱帽であります。どうやら続編がすでに刊行されてフルメンバーでライム一党が再登場してくれている様子。映画化も決まったそうだし、ディーヴァー人気も再燃しそうな雰囲気でもありますな。そういえばamazon.comから新作『The Devil's Teardrop』の案内メールが来てましたっけ。こちらもかなりなサイコ物らしいっすよ〜ん。なんせ『Hannibal』購入メンバーにのみ案内しましたってくらいですから(~_~;)。ここでも、リンカーン・ライムがちょい役で出てくるらしいです。(99年9月読了)

邦題:スキナーの追跡 SKINNER'S TRAIL 著者:クィンティン・ジャーディン
出版:創元推理文庫 1999年2月19日 初版 訳者:阿部昭至
価格:本体880円+税 極私的評価:★★1/2

 シリーズ読者以外で単発で読む方はまずいないだろうけれど、もし書店で選んでも私はお勧めいたしません(~_~;)。欧州を股に掛けたスキナーの追跡ぶりは確かに警察小説としてはイケてる部類に入ると思われるのですが、惜しむらくはそれ以上ではない。スキナー・シリーズの売りである国中を巻き込んだ大風呂敷的な事件の展開が、今回に限っては小振りでしかも欧州各地で分散した事件ゆえ散漫な印象が強いのさ。ホームでこそ発揮されるチームワークの良さが、本作品では部下たちがてんでバラバラに欧州各地に散らばり、しかもスキナーは休暇中に巻き込まれ、いや違った、自ら巻き込む状況のまま局地的台風となってアウェーのスペインに上陸しちゃうんだから何をか言わんである(~_~;)。

 ボブ・スキナーは新宿鮫ならぬ『欧州鮫』であるな。自らの泳ぎを止めてしまったら溺れて死ぬ。ゆえに常に前へ前へ動き回らなくては警察官僚として存在意義を失ってしまう。獲物を追い求めるスキナーのエネルギッシュさは常に犯罪者に向けられる。潜在意識の奥底にある『殺人者の衝動』もここら辺が源泉なのかもしれませぬ。彼のごとき猟犬のような生活に潤いを与えてくれたのがサラであり、息子のジャズなのである。危険と隣り合わせの平安こそが物語の危なっかしさとの平衡を保つ役割を果たしているから、われわれファンは安心して読めるシリーズであると言えるのだ。

 シリーズ読者必読なのは、ファミリー的な新展開でありましょうね(^_^)。冒頭、長男誕生のニヤけたスキナーの大アマちゃんぶりに、おっと今回のスキナーの冒険行はちと期待薄かとの予感は見事に当たりましたが、最後の最後であっと驚くスキナーを読者がニヤニヤして読むという展開も何だかほのぼのしてしまうのである。ま、一回お休みして次回でまた頑張るスキナーであってくれれば問題なし。『SKINNER'S ROUND』に大いに期待しよう。最後に文句を一発。巻末のN氏の相変わらずの蘊蓄にはうんざりで、申し訳ないが、あんたのネタをこのシリーズの解説にまで持ち込まないでくれって感じですな。(99年8月読了)

邦題:スキナーのルール SKINNER'S RULES 著者:クィンティン・ジャーディン
出版:創元推理文庫 1997年8月22日 初版 訳者:阿部昭至
価格:本体880円+税 極私的評価:★★★1/2

 陰鬱な冬のスコットランド。エディンバラで起きたバラバラ殺人と跳梁跋扈する連続殺人鬼の存在に、やあ、これはサイコ殺人ものなのねとあっさり納得しないで頂きたい。まさかまさかの大団円まで全開バリバリ突っ走りまっせ。プロットの大本のところでこういう風に日本人を取り扱った不手際は、笑って許すしかないでしょ(~_~;)。相変わらずトホホなサムライ=ジャパニーズ的錯覚ってそう簡単には消えてくれないものなのね。ま、そこら辺はおいといて、本邦初登場となったボブ・スキナー署長補佐のコワモテぶりが、まずは一発読者にお見舞いって感じで強烈な印象を残してくれるのだな。対照的にサラとの婚約でほんわかムードのスキナーももう一つの顔。『フェスティバル』ではああなって『追跡』ではこうなっちゃうのはシリーズ読者の楽しみの一つですな。
 
 本当、エディンバラの刑事部って大事件ばかり勃発いたしますなぁ。事件の大風呂敷加減がジャーディンの腕の見せ所であって、次から次とよく考える作者なのである。事件が大きければ大きいほど、折れない曲がらない一直線男・スキナーの個性が光る仕組みだ。アンディ・マーティンはサブキャラの一番手だし、女性キャラもちゃんと自己主張しているのである。添え物じゃない点はポイント高いよね。アンディの場合は、最後はああなるのだろうと予感しつつ、いつもベッドの隣には違う女ってのもイカしてるっす(~_~;)。
 
 ラストはもう、警察小説というよりもサスペンス・アクション巨編といった感じ。炸裂するスキナーのルールに瞠目すべし。政治の荒野を野獣が駈け抜ける。消し去ることの出来ないスキナーの内なる衝動の正体を追いつめればそこには、殺人者と同根の原始衝動が…。理性で押さえ込む安全弁のリミッターがどこで吹き飛ぶのか。読者も目が離せないシリーズなのである。火傷するほどホットで生半可な警察小説ではないこの迫力は、このスキナーのアンバランスさが支えていると言っても過言ではない。ミステリ派よりはハードボイルド&冒険小説派にお勧め。(99年8月読了)

邦題:スキナーのフェスティバル SKINNER'S FESTIVAL 著者:クィンティン・ジャーディン
出版:創元推理文庫 1998年4月17日 初版 訳者:阿部昭至
価格:本体800円+税 極私的評価:★★★★

 古くは87分署。後にトマス・チャスティンやらリューイン、サンドフォードらが創造した警察組織が主役のいわゆる警察小説正当派の流れを汲む凄玉作品を見逃していたなんて…。我が不覚を深〜く悔いて、速攻でシリーズ全作品を書店でゲットして来たのはその日のうちでありました。これまた不覚にも実は第2作『フェスティバル』から読み出しちゃったんですよね〜。どれも独立した作品だから順不同でも問題あるまいと高をくくっていたのが、アフター・フェスティバル=後の祭りとも言う(~_~;)。本文中に話の進行上、前作が結構ネタ晴らしっぽく紹介されておりますので、後に続く方はぜひ順序よくお読みになることをお勧めしておきますです、はい。

 スキナー署長補佐=鬼平犯科帳の長谷川平蔵親分説って、おおっと目から鱗でした(~_~;)。言い得て妙。スキナー率いるエディンバラ刑事部こそはスコットランド一の凄腕チーム。対するはスコットランド独立を叫ぶテロ集団。これがまたド派手なんですよね。意表を突く展開。導入部の爆弾テロから始まって、ついにはエディンバラ城での対ロケット弾攻防戦。あれよあれよの大風呂敷でテロの裏に隠れた大陰謀を暴き立てる手際はなかなかのものであるぞ。ひっくり返し方がグッドです。すっかり騙されましたぁ。まさかまさかのアンディ警部っすねえ(~_~;)。

 スキナーの人物像がナイス。犯人にはあくまでハードに、自分にはストイックなまでにシビア。心の奥底に封印されたスキナーのルールが一度開封されてしまうと…誰にも止められない暴走機関車なみの行動力。妥協なし。それでいて人間的な暖かみすらも感じさせる素顔をチラリと見せたりと、一筋縄では行かない硬骨漢ぶりを遺憾なく発揮してくれるのも本シリーズの読みどころでもある。脇役陣も味のある連中がガッチリ固めているのでダレる心配なし。シリーズものいいところは登場人物が作品ごとに成長してゆく生活感のようなのモノが色濃くあるのよね〜。期待大。次の作品ではどういう姿を見せてくれるのだろうって。スコットランドの四季とスキナーと仲間たちが皆様をお待ちしているはずです。(99年8月読了)

邦題:甦る帝国 SPANDAU PHOENIX 上下巻 著者:グレッグ・アイルズ
出版:講談社文庫 1999年8月15日第1刷 訳者:中津悠
価格:上下各本体1000円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 そういうわけで、ジョナス・スターン・シリーズ続編は必然的に過去に遡るのである。処女長編というハンデを背負いながらも『甦る帝国』はギリギリのところで踏みとどまって勝負してくれるストレート系冒険小説の佳作もしくは一部愛好家には傑作と映るかも知れない(~_~;)。んで、アイルズならではのエッセンスが窺い知れる作劇法があますところなくこのネオナチ・サスペンスに注がれているかというと、これまた留保点が散見するのである(~_~;)。古くはフォーサイス『オデッサ・ファイル』のオデッサ組織があったように、今回はフェニックスの一員は体の某所に目の入れ墨が…って、なんてイカにもタコにもって感じでしょ。ネタ的に鮮度がギリギリ持つかってとこが導入部ゆえ、え〜、またかいって正直思わなかったら嘘になる。講談社も処女作すっ飛ばして『ブラッククロス』から翻訳開始したのは腑に落ちるのである。

 ようやくグレッグ・アイルズの評価が固まってきて始めて世に問える作品である、と。こっち系の与太話冒険小説って結構昔からあるよね。究極の与太ではヒットラーは南米で生きていたとか、そんなん掃いて捨てるほど。埋もれていた史実に自己流の味付けをして謀略ネタに仕上げる手腕は、まんまラドラムの冒険サスペンスの流れを汲む手練れなのである。ストーリーテリングの冴えは、凡百の作家連中が束になって掛かって来てもビクともしないオリジナリティにある。輻輳するプロットも晩年のラドラムの作品群を軽くクリアしてる水準に、頭を垂れる稲穂かな状態と言っても過言ではない、かもしれない(~_~;)。もしくは好き嫌いが分かれるかもしれません。冷戦当時の社会構造が鬱陶しいかもしれないし、その当時に思春期を迎えていた方は、おお、懐かしのスパイ謀略小説!と読めないこともないし…。

 惜しむらくは感情移入しうるキャラの希薄なことか。複雑怪奇な謀略プロットを書き込む段階で、あまりにキャラを作者の手駒にし過ぎると、冒険小説の一番の売りであるキャラの作り込みが圧倒的に足りないのである。プロット優先。人物おざなり。最後まで生気のないキャラのオンパレードになってしまう。例えばロールプレイング・ゲームにおけるノンプレーヤーキャラみたいなもの、かな。ジョナス・スターンだけは民族的な圧倒的な生への執着を見せて、唯一光を放ってましたね。米国での新作FBI関連の『The Quiet Game』が、本当の『神の狩人』以降のグレッグ・アイルズの神髄を見せてくれることに期待したいね。(99年8月読了)

邦題:悪党パーカー/エンジェル COMEBACK 著者:リチャード・スターク
出版:ハヤカワ文庫 1999年4月30日発行 訳者:木村仁良
価格:本体620円+税 極私的評価:★★★

 ウェストレイク作品なら中学生の昔から読み続けているけれど、品行方正だった(~_~;)ガキの頃ってこういう作品って何となく避けるじゃないですか。ドートマンダーは好きだけど、悪党パーカーは苦手。なんたって悪党ですぜ(~_~;)。よって個人的に20年近くも封印してきたパーカーものを、何の因果かついに紐解く日がやって来たって訳だ。まあ、きっかけはメル・ギブソンの『ペイバック』な部分も大ありなのですが、付随的に早川書房でも復刊ブームに乗ってどさくさに出した新刊『エンジェル』の存在が我がアンテナに引っ掛かって来たのでありますな。この年になっちゃうと善人も悪党も根っこは一つだってことにうんざりしてますので、エロだろうがグロだろうがどんと来いってんだ(~_~;)。

 クールなドートマンダーを想像していたのだが、実物はもっとクールでハード。ダーク・ピットの悪党指数高めにしたって感じか。米国暗黒社会の一端を切り裂いて見せつつ、架空の存在でありながら実在するかのような錯覚をもたらす悪党連中のグレードを鮮やかに対比させてくれる。性悪説の権化のような悪党よりも、こそ泥に近い卑しい性根の小悪党の方がより現実感を伴ってパーカーの疾走をバックアップする。コアなファンにはたまらない23年ぶりのパーカーなんでしょうなあ。邦題の『エンジェル』よりも原題の『COMEBACK』の方が本作のイメージに合ってるような感じではあるぞ。続刊も近々ありそうなのでお楽しみが増えましたね(^o^)。

 不思議に思っていたのが、映画『ペイバック』ではポーターになっていたこと。『殺しの分け前/ポイント・ブランク』でもウォーカーだったのですな。作品は売っても主人公の名前は売らなかったスタークの心情って分かる気がしますねえ。それだけ愛着のある主人公なのだなあ。ロスマクのリュー・アーチャーがポール・ニューマンにハーパーに替えられちゃったのとはえらい違いっすね(~_~;)。こうなったら『悪党パーカー/人狩り』からじっくり読むことにしますかぁ。はまりそうな予感。(99年8月読了)

邦題:シマロン・ローズ CIMARRON ROSE 著者:ジェイムズ・リー・バーク
出版:講談社文庫 1999年7月15日第1刷発行 訳者:佐藤耕士
価格:本体905円(税別) 極私的評価:★★★

 98年度MWA賞最優秀長編賞受賞作品なのだそうですが、ふむふむ、確かに帯にある『癒せぬ傷を抱えた男の誇りと哀しみを詩情豊かに描くハードボイルド』らしき体裁は取っているように読める。雰囲気だけなら一級品のウィスキーのボトルの封を切ったときの香りが馥郁と立ち昇ることは認めよう。だが、溶け始めた氷が酒精を薄め始めるように、ロックから水割りへと事件の焦点がぼけ始め、求心力を失った登場人物たちは異なったベクトル方向へ引き摺られて行く。それなりの決着。もう少しコクのあるエピローグであって欲しかったけれど…。同じJ・L・バークでも『ロビショー』シリーズの方がワシにはしっくり来るようですな。

 テキサス・レンジャー上がりの主人公。相棒の亡霊を引き連れ内なる燃えたぎる血を無理矢理押さえ込む危なっかしさが魅力でもあり、ハードボイルド作品のあうんの呼吸を読者と共有する円熟の筆致。この辺はさすがである。だから★★★である。味のある亡霊。もしくは主人公の別人格。敢えて見る亡霊こそが、主人公が付けなければいけない決着の行方を指し示しているのであろう。癒せぬ傷なら傷ついた心の傷の分だけお返ししよう。L・Qの形見の45口径を取り出した時点から燃えたぎる血を解放する。過去にバック・トゥしちゃうストーリー展開が、本来の事件をうっちゃってしまうのであるな。過去に生きる男が過去に向き直る。そして今がある。今を映すドラマに精彩を欠いたのは、ビリー・ボブとサムの血の接点であるシマロン・ローズの日記であるかもしれない。メアリ・ベスにシマロン・ローズを見立てたのだろうか。悪の一味と戦う曾祖父サムの日記が単にビリー・ボブの現在進行形を対比させただけなのであろうか。シマロン・ローズへの一途の愛を捧げたサムと、メアリ・ベスから最後にバトンを受け取った彼女を得たビリー・ボブとの比較対照。抑制された血の解放と相まって、先祖の血を超えた一瞬なのかもしれない。ここに男の誇りがあるのだ。

 メアリ・ベスの本来の任務は何? ブライアンは何しに来てたの? なんでリンゴーが麻薬捜査官になれたわけ? 保安官殺しも奴らに押しつけちゃうのかな? ガーランド・T・ムーンはそのまま放っておくのかい? ビリー・ボブの親父を殺したのもやはりヤツだったのか? 数々の謎を残し、何だか消化不良のままエンディングを迎えてしまった感じ(~_~;)。だからエピローグで回答をダラダラ読まされても気が抜けたビールみたいで興醒めであったことを敢えてここに記す。悪い白人たちの性根の腐り方を徹底的に活写したとは言い難いけれど、正義の味方を標榜する天下の白人国家の性悪説的な部分をきちんと処理しつつも、まだまだアメリカは正義を求める性善説的な部分が性悪説を上回ることを信じているのであろうアメリカンな楽天主義もほろ苦さの中に垣間見えるのだ。最後の最後で銃こそが正義というアメリカの良きに付け悪しきに付け伝統を見せてくれたことにホッとする部分もなきにしもあらず(~_~;)。なんせ主人公はテキサス・レンジャー上がりゆえ、こうなるだろうとは予想しておりましたが…中西部人は45口径なんだよな、やっぱり。(99年8月読了)

邦題:第四の母胎 THE FOURTH PROCEDURE 著者:スタンリー・ポティンジャー
出版:新潮社 1999年3月30日発行 訳者:高見浩
価格:本体2700円+税 極私的評価:★★★1/2

 惜しむらくは、ロンドン大学の某教授の革新的な医学構想を新聞紙上ですでに知ってしまった読者にはインパクトの度合いが薄まってしまった部分が、それゆえに本作の『第四の母胎』の真相が学術的にも荒唐無稽な与太話ではなく近い将来の現実性を伴った迫真の科学ミステリとしても読める付加価値へと変化してくれたのかもしれない。

 米国での妊娠中絶問題は、堕胎天国の日本では想像も付かないほど宗教を巻き込み国論を二分するような深刻な政治問題へと発展しているようですが、米国ならではの生命倫理感が本作のような方向性を与えたことは間違いないでしょうねえ。そういえば先に出版されたルッカの『守護者』(講談社文庫)も中絶問題を題材に取っていましたねえ。キリスト教ある限り線引きは難しい。『汝殺すなかれ』。この国では理性が宗教を制圧することは不可能に近いのではないか。殺人事件発生率世界一の殺伐とした国のこの内部矛盾には苦笑せざるを得ないが、ゆえにアメリカの最後の良心の砦として、せめて胎児の生命だけは守りたい中絶反対派のメンタリティはここら辺が発祥地なのでありましょうか。

 それぞれが持つ幼児の頃のトラウマが産み出した連続殺人事件。それだけで終わらせなかったポティンジャーの『第四の母胎』への物語の収斂は一気呵成である。生命倫理ミステリ=臓器移植、妊娠中絶、連続猟奇殺人…。ひとつの方程式が解くタブーにも似た回答こそが驚愕の真相なのであり、一種、狂気すらも包含する米国社会への作者からの質問状といえるかもしれない。どちらかにコミットする自由。もしくは義務。あなたはどっち?(99年7月読了)

邦題:骨のささやき BONE DEEP 著者:ダリアン・ノース
出版:文春文庫 1999年7月10日 第1刷 訳者:羽田詩津子
価格:本体905円+税 極私的評価:★★★★

 ちょっと待ったぁ。これって女版インディ・ジョーンズかって勘違いした読者もいたかも知れない(~_~;)。なんせ、いきなりグァテマラで調査中の発掘チーム。その中でも一際異彩を放つ女主人公であり、形質人類学者のアイリス・ラニア博士が掘り当てた遺骨こそが、探し求めていたインカの女王のものかもしれない。んで、このまま物語が進行すればそのままスミソニアン博物館行きかと思いきや、話は一気にNYへ。この転調加減がイケてるミステリ作家の呼吸ってヤツだね。「父、危篤」一通の電報がアイリスを現代の迷宮へと誘う。

 なぜ、滅多に家を離れない父がNYで撃たれ、20年前に失踪した母の秘密が今頃こぼれ出す? アイリスの周辺でくすぶっていた導火線が一気に燃え上がるように続く謎また謎。そして連続殺人。誰が味方で誰が敵か。殻に閉じこもって自分を見つめる作業を放棄してきたアイリスは、四面楚歌の状況に放り出されて初めて受動体から能動体へ。謎の厚みを自ら力で一点突破して行くヒロインにはシンクロしながら読む女性読者も多いのではないでしょうか。女性の成長の物語として読んでもミステリとして読んでも水準を軽くクリアする作品。女性作家ならではのきめ細かさもポイント高いよね〜。

 主人公を骨の専門家にしたところが、終盤グッと効いてきます。一気に解きほぐされる謎の、各ピースが徐々に填って行く快感。真相に近づけば近づくほど、増幅される主人公の危機また危機。ほろ苦い愛の形も含めて大人の女性へと進化した主人公こそが、ここまで捻れた事件の真相をすべて白日の下に晒す資格がある。ここまで絞りに絞った弓から放たれた矢が射止めた真犯人。『骨がすべてを知っている』。哀切極まりない母親の失踪の原因を知ったヒロインの哀しみの奥に、強く輝く瞳の光が灯ったことを見逃してはならない。感動の逸品。(99年7月読了)

邦題:リモート・コントロール REMOTE CONTROL 著者:アンディ・マクナブ
出版:角川文庫 平成十一年五月二十五日初版発行 訳者:伏見威蕃
価格:本体1048円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 荒削りなポロックってな感じでしょうか。元SAS軍曹という肩書きがこれほど納得できる作家というのも珍しい。そのものズバリの『SAS戦闘員』というノンフィクションを先に出版しているけれど、実践編ではやはり将校よりは軍曹でしょう。彼がSASのあらゆる技術を惜しみなく注ぎ込んだアクション大作。コンクリート・ジャングルでのサバイバルへ導くすべて=ターゲットとの接触技術、見張り、尾行、銃器&爆弾、格闘技、家屋への侵入等々現実感溢れる秘密工作の全貌がフィクションの形を取って我々読者に提供されるのだ。こういう肩書きの作家が出てくると同ジャンルの作家連中は並の想像力だけでは対抗できないっす、ねえ。国産作家でも先頃、元自衛隊情報士官が経験を生かして国際謀略小説をモノに致しましたが、元プロだから描ける背景が物語的説得力を倍加させていることは理の当然ちゅーわけですな(~_~;)。だからこそ、最近のポロックに物足りなさを感じている諸兄はマクナブを読まねば!

 冷静なはずの工作員も自分の足元が知らず削られている状況に、ファナティックになりつつも的確なテクニックで敵をかわし制圧し逃走する。そこへ足枷として7歳の少女を放り込んだマクナブのうまさ。二人の関係が溶けだした氷のように馴染み合う疑似親子へと変貌して行く様をプロットに織り込んだのは、軍隊上がりの作家としては出色であろう。本書の読ませどころもまさしくここにある。二人だけの逃走工作。誰が味方で誰が敵かは全く分からない状況下で、確実に追い詰められる二人。超プロと超アマ(~_~;)。足枷を捨てて逃げるわけには行かないジレンマ。そしてどんでん返し。いい意味で読者を裏切り続けてくれる、アクション小説のツボを心得た作家が与えてくれる安心感。

 すべてがリモート・コントロールされていたというオチからラストまでが駆け足過ぎたかと思う部分もなきにしもあらずだけど、最終工作とも言うべきラストバトル。リモート・コントロールする父とされる娘の比類無きサスペンス。さすが英国出身作家の冒険小説であるぞ。マクリーンやバグリィを彷彿とさせる琴線に触れる彼らの描く主人公の行動律が心地よいのだ。フォーサイスも言う。「この男は本物だ」。まさしく。角川書店がこんな馬鹿げた価格設定なんてしなければストロングスタイルにお勧めしちゃう作品なのですが…文庫で価格が1048円なんて、ねえ(~_~;)。(99年7月読了)

邦題:老人と犬 RED 著者:ジャック・ケッチャム
出版:扶桑社文庫 1999年6月30日第1刷 訳者:金子浩
価格:本体619円+税 極私的評価:★★1/2

 動物愛護暴力小説なのだそうです。ナチュラルなアメリカン・カントリー・ライフも楽じゃないこのご時世。あくまでオールド・タイムの主人公が正義へと続く道を模索する。肉体的にいたぶられ、法的にも付け入る隙を見つけだせず、警察も頼りにならない。必然的に行動を起こす主人公の生き方は、年取ってるけどやっぱりマッチョな生き方を選択する単純明快なアメリカ人なんですよね。銃には銃を。だけど、気が付くんですよ。「ワシが求めているのは正義じゃない」って。個人の受けた痛みは個人に返すべし。アメリカ建国から綿々と伝わるメンタリティがここにはあるのだな。

 孤独を愛する作家が孤独を選択した老人を主人公に据えたとき、必然的に敵はヤングジェネレーションちゅーことになりますなぁ。旧世代vs浸食する新人類たち。激変するモラルに耐性が追いつかない世代の読者には明確に肩入れする先が存在するのだが、新人類たちはこの小説を読んでどう思うのでしょうか(~_~;)。こんなことぐらいで暴発するジジイなんて信じられないゃって感じか。酸鼻を極める描写がないケッチャムって結構緩い作家って感じで読んでましたけど、最後に暴力が解き放たれる寸前の主人公が取る行為に、ケッチャムのオリジナリティの片鱗を垣間見ました(~_~;)。ここまでしなくちゃならないのか。「イエス」ケッチャムならそう簡単に答えるだろうねえ。

 ホラー作家にしては、いささか弱いと感じたのは、ラストの甘さなのです。この本自体の薄さに比例して薄味であることは否めない捻りの無さ。ここら辺が足を引っ張って佳作止まりにしてしまっているのだな。ただ幼児虐待陰湿路線を脱却しつつあるケッチャムのメタモルフォーゼの一過程と考えれば、進化しつつある作品群を読んで確かめなくてはなりません。どう変わって行くのか。マキャモンがそうであったように、ホラーの衣を脱ぎ捨てたとき、一皮剥けたメジャーな作家としての新たな顔を見せてくれるのだろうか。その前に、早いとこ『隣の家の少女』を読んでしまわなくっちゃ(~_~;)。(99年7月読了)

邦題:殺しの四重奏 THE WIRE IN THE BLOOD 著者:ヴァル・マクダーミド
出版:集英社文庫 1999年6月25日 第1刷 訳者:森沢麻里
価格:本体857円+税 極私的評価:★★★★

 【ネタバレ警報!未読の方は注意!】

 前作『殺しの儀式』よりかなりスケールアップした内容で、キャロル・ジョーダン警部と心理分析官トニー・ヒルのコンビも恋愛感情抜きに関係を前進させているのがマクダーミドのうまいところで、シリーズものって作者の舵取り一つで作品をダメにしちゃうもんね。んで、冒頭に犯人割れして叙到形式で引っ張るサイコ・スリラーってとこに違和感感じてしまうのは、意外に新鮮な感覚だったからかもしれません。プロファイラーのひよっ子たちとジャッコ・ヴァンスとの対比。分析結果と実際の行動との一致部分を読ませて、なんだか授業の延長のように進行する物語的妙味を味わってみてと言う作家のサービス。もしくは挑戦状かも。

 タイトルの『殺しの四重奏』って意味がよく分からないんだけど、連続殺人犯のジャッコが殺した人数にしては少な過ぎるし、ドナ・ドイル、シャズ・ボウマン、バーバラ・フェンウィック(最初の殺人)、ダイ・アーンショウ(放火殺人)=主要な事件をピックアップするとこの4件ってことかな。それでこのタイトル? そのままやんけ。ちょっとどうかなって思うのは私だけか。まあ、シリーズ作品ゆえタイトルに必ず『殺しの…』って入れなきゃいけないので、仕方ないかと思う部分もあったりするが…(~_~;)。えらく考えてしまったぞ。

 アメリカナイズされた英国女流ミステリ作家って感じで、よく英国警視庁のリアルな行動様式が書き込まれてるし、鬼っ子であるプロファイリング・チームとトニーの苦悩、女性警部ゆえに男性部下からの反感の数々。物語的広がりが単なるサイコスリラーに終わらせていないプラス要因になっているのだ。巻末の穂井田直美女史がラストのジャッコの独白から続編にも再度彼が登場すると読んでいるようですが、これはこのまま終わってもそれはそれで余韻を残す終わり方だと私は思うのですが、はてさてマクダーミド女史はこの続刊でジャッコ・ヴァンス裁判篇を読者に問うでありましょうや。(99年7月読了)

邦題:高く孤独な道を行け Way Down on the High Lonely 著者:ドン・ウィンズロウ
出版:創元推理文庫 1999年6月25日 初版 訳者:東江一紀
価格:本体740円+税 極私的評価:★★★★

 ウィンズロウって作家は読み手の琴線を美味い具合に突いて来ますなぁ。筋だけ追えば他愛のない探偵物語なのに、ぎっしり詰まったプラスαが忘れ難き印象を焼き付ける。探偵ニールは健在だった。マンハッタンから中国へ。そして今回は大西部冒険譚。手を変え品を変え成長したストリート・キッズを大人の世界に放り込むハードボイルドな感覚。でも隠し味はもちろんニールのウェットでドライな相反するような性格と行動様式でありますね。この連作だけは読み続けているというファンも多いのではないでしょうか。それだけ魅力のあるキャラクターを創造したウィンズロウの作家的勝利だね。

 潜入工作&西部劇。これほどニールには似合わない世界が次第に読み手に馴染んで行く。韜晦しつつも深化する探偵としての本能が、やがて探り当てる真相から雪崩れ込む大活劇。この転調加減がよろしいのだ。ドーベルマンvsニールの奇想天外調教法が、ウィンズロウの茶目っ気がいかにも出たシーンでしたねえ(~_~;)。そこで取ったニールの犬に対する立場がいかにもニールで、これまた可笑しい。孤独を愛するニールが人恋しさゆえに戻ってきたアメリカ。高く孤独な道を行くために、顔で笑って心で泣いて、愛する人を切り捨てる職人気質の探偵さんがやっとこ戻って来たってところか。職場復帰した彼を待つカルト教団。う〜む、スリリングな展開にニールらしからぬバイオレンス・シーンも登場して大人のニールをアピールしてくれるのだ。

 さてさて第4弾はいかなる冒険譚をニールに用意してくれるのか。期待はいやが上にも高まるのであるが、訳出されるまでまた一年待ちって感じですかぁ(~_~;)。そういえば同姓同名のドン・ウィンズロウってポルノ作家がアメリカにいるそうで、私も勘違いしてましたが、でもねえ、本物のウィンズロウさんも結構濡れ場がうまい書き手だと思いませんか。『ボビーZ』なんか如何にもって感じでしょ。ニール君にはそこまでやらせてませんけど、もしかして続編では…ちょっぴり期待しちゃったりなんかして(~_~;)。(99年6月読了)

邦題:ヴァーンスの死闘 A Flash of Red 著者:クレイ・ハーヴェイ
出版:扶桑社文庫 1998年9月30日第1刷 訳者:島田三蔵
価格:本体743円+税 極私的評価:★★★1/2

 こっちが赤面するほどストレートなアメリカン・フィーリングに違和感を覚えなければこの作品にどっぷりはまれるでしょう。そうでない方はほどほどに共感を覚えつつ、「何だかなあ」と溜息を吐く。全米ライフル協会お墨付きのマッチョなアメリカ野郎の正義を遂行する無垢の物語。いくら朝鮮野郎を殺しまくってもそいつはアメリカンな脳天気な思考形態によりゆえ何ら糾弾されることはなく、自分の信じる道を行く殺人マシーンでありながら、シナトラ並にあくまでMy Wayを信じてジョン・ウェインを愛している。ああもう、鬱陶しいほどに真正直な正真正銘のアメリカ人なのであるな(~_~;)。

 こんなメンタリティの主人公がダーティな戦争を生き延びたなんて信じがたいほどであるが、なんせ赤い閃きが主人公をアドレナリンの高みに連れ去ってくれちゃうので、やることなすことド派手なドンパチ大興奮大会になりにけり(~_~;)。わざとらしいけど痛みを感じることも出来るアメリカン・ヒーローにまるっきり魅力を感じないと言えば嘘になるけれど、悪玉の行動に首尾一貫性に欠けているのが問題か、と思うのだ。あれだけ殺し屋を差し向けておいて、最後の詰めで簡単に射殺するなり爆弾で吹っ飛ばすことが出来たはずなのに、なにゆえ最後の組んずほぐれつの大銃撃戦になっちゃうわけ(~_~;)。

 まあ、こういう本は屁理屈たれずに単純に楽しめばOKなのであるからして、親と子の交流ほのぼの&銃器天国アメリカのスカッと爽やか&マッチョな小市民ぶりをしゃぶり尽くせば満足度大ちゅ〜ことですね。Amazon.comでも賛否両論入り乱れているようですが、反対意見が見られるだけでも、アメリカがさほどイカれちゃってる訳でもないのねってほんのちょっぴり安心したって感じか。ただ、全米ライフル協会がこれ以上発展することはあるでしょうが、これ以下に縮小することのない現実だけはよく噛みしめて読書するのが正しい日本人の姿勢といえなくもない(~_~;)。(99年6月読了)

邦題:無邪気の報酬 上、下巻 AGENTS OF INONOCENCE 著者:デイヴィッド・イグネイシアス
出版:文芸春秋 1993年5月15日第1刷 訳者:村上博基
価格:各1845円(本体) 極私的評価:★★1/2

 『黒い九月』と言えば思い出すミュンヘン・オリンピックの惨劇。実在のスパイ、ロバート・C・エイムズとアリ・ハッサン・サラメ。PLOとファタハとCIA。現実社会からようこそフィクションの世界へ。ロジャースとラムラウィ。『ワシントン・ポスト』出身のジャーナリストらしい筆致は、エンターテインメントというよりもドキュメンタリーを読んでいるようだし、当時のアラブ世界への入り口・ベイルートの混沌とした情勢を市民レベルまで視点を下ろして、決してドラマチックではない情報工作の日常を淡々と書き綴って行く。

 中東生活の長かった個人的体験が端的に現れている上巻冒頭の爆発シーンの解析方法には、う〜むと唸らされた。テロリズムの現場にいた者にしか書けない圧倒的なリアリズムなのである。新聞紙上には書けない情報をフィクションとして読者に提供してくれるジャーナリスト出身の作家ならではの掴みの部分ではある。国際謀略小説であってアクション小説でないのは一読判然とするのであるが、処女作ゆえの固さと人物像の掘り下げの浅さが食い足りなさを感じさせるのは致し方ないか。良くも悪くもジャーナリストの筆致から逃れられていないのだな。それゆえに、原題の『無邪気なエージェント』という部分の米国スパイのやっかいな部分を浮き彫りにする当初の狙いが、多少薄れたようにも感じられるのである。ただ、それこそがスパイの日常という逆の意味でのインパクトは確かにある。

 先に出た『報復回路』に続き、先日、中東三部作で最新作『神々の最後の聖戦』が出版されたばかりだが、こちらの方では女性スパイが主人公で、しかも登場人物は第一作から引き続き支局員勢揃いらしくかなり肉厚骨太の作品らしく期待が出来そうである。まだ、あまり日本では馴染みのない作家ゆえ注目度は低いかもしれないが、優れた国際謀略小説の書き手が現れたことは素直に歓迎したい。(99年6月読了)

邦題:猟鬼 The Button Man 著者:ブライアン・フリーマントル
出版:新潮文庫 平成十年十月一日発行 訳者:松本剛史
価格:本体933円+税 極私的評価:★★★★

 チャーリー・マフィン・シリーズでお馴染みのフリーマントルが創り出した新シリーズ。ペーソス漂う中年英国諜報部員チャーリーの物語の魅力の一端にでも触れたことのある読者なら、途端にこの新シリーズはブランド物と化すでありましょう。外れなし。モスクワ民警のディミトリー・ダニーロフとFBIロシア担当官ウィリアム・カウリー。中年捜査官の後頭部にべったり貼り付いたような生活感。絶え間ない私生活での緊張感。絶品ですな。この手のキャラクターを書かせたら、フリーマントルの右に出る者はいないのではないか。左に出る人なら何人かいるでしょうが…(~_~;)。最近、各種ミステリで流行の気配のある新犯罪都市モスクワを舞台に選び、しかも連続サイコキラーを配色して国際政治レベルの物語に引きずり込む作家的手腕は手練れの職人芸を見ているようではあるぞ。

 旧ソ連解体から悪化するロシア国内事情をさりげなく見せつつも、そこへ驚天動地の猟奇的連続殺人事件。しかも被害者はアメリカ大使館員と来た。しかも彼女の叔父はアメリカ政界を牛耳る大物上院議員。図らずも投入されるFBI捜査官カウリーを待ち受ける駐モスクワFBI支局員の妻はあろうことか、カウリーの元妻ポーリーン。その後やって来る苦難の捜査ぶりが偲ばれるでしょ(~_~;)。相対するダニーロフも敏腕なれど風采は冴えない中年民警捜査官で、しくじれば後がない民警内瀬戸際状況。ほとんどスケープゴート。そのくせ愛人との狭間に揺れる優柔不断さが、いかにも大人のミステリって感じで、実にリアリスティックでよろしい。プロファイリングも導入してアップトゥデートだし…起伏に富んだストーリーでありロシアとアメリカ間の政治的ラリーの応酬はもう一つの読ませどころと言ってもいいでしょう。漫画チックな最近デビューした国産ミステリ作家連は大いに見習って欲しい部分ではあるわな(~_~;)。

 小出しにされるサイコ系ロシア人の描写がいかにもミスリードであると推測されるのは、こっち系ミステリ読み過ぎでしょうか(~_~;)。経験則上、絶対どんでん返しがあると深読みしちゃいますよね。実際、どうひっくり返してくれるかは読んでのお楽しみなのですが、腑に落ちる捻り方でう〜むと唸りましたぜ。続編もすでに発表されていて、今度は国際犯罪を協力して追い掛ける毛色の違った作品らしいのですが、ファンにはロシア刑事のラブアフェアとFBI捜査官の別れた妻との関係が、どう膨らむのか興味は尽きないところですよね。ダニーロフ&カウリーってそう簡単には交わらない立場ゆえシリーズ化も先行き難しいとは思いますが、うまいこと二人を組み合わせて物語を捻り出して欲しいなあ。(99年6月読了)

邦題:眠れぬイヴのために Praying for Sleep 著者:ジェフリー・ディーヴァー
出版:早川書房 1996年5月31日 初版発行 訳者:飛田野裕子
価格:本体2621円+税 極私的評価:★★★1/2

 あまりの読み辛さにうんざり系サイコ物かとの誤解して、最初の数章で一度は断念した作品であります(~_~;)。ディーヴァーはワシには合わんわと距離を置いていたのですが、傑作『静寂の叫び』を手に取って、いやはや後悔の叫びを上げたって訳だ。「こりゃもう一度読まねばならぬ」って(~_~;)。でもねえ、一年ぶりに再会した作品はやはり読み辛かったのよね〜。巷の評価を聞いてなかったら、再び断念してたでしょうね>これ。ところが…。

 前半部分で構築された人間関係が熟成されて中盤戦から複雑に絡み合う人物描写の深み。さらに発酵してズブズブに爛れて行く過程の崩壊感が実に浮世離れした読書の楽しみって感じで、しみじみとよろしいのだ。それそれが抱えるダークサイド。徐々に暴かれてゆく不倫、殺人、嘘、裏切り。少ない登場人物でここまで裏だらけの人間像ってのも、やがて来るカタストロフを予感させて嵐の中で盛り上がる盛り上がる。サイコ・サスペンスの王道を行くマイケル・ルーベックの猪突猛進ぶりも、作者が本物の精神病患者をリサーチして作り上げただけあって迫真のサイコぶり(~_~;)。行く先々の行動がいかにもサイコ系の行動律に裏打ちされていて、迷路の中を一直線に近道してる感覚。

 あざとさと紙一重ゆえ、途中でネタ割れしましたが、先入観のない読者なら最後まで楽しめるサイコ・サスペンス作品ではありますね。どんでん返しがあると知ってて読んでると、些細な引っ掛かりにいちいち反応して伏線部分を感知してしまうのよね〜。ま、サイコ・サスペンス版『いい人』って感じでしょうか(~_~;)。

 ジェフリー・ディーヴァーって著者近影で見る限り、髑髏みたいな顔付きでいかにもサイコ物書いてますって感じ。夜にあったら怖いぞ(~_~;)。最新作『Bone Collector』では犯罪科学捜査官(検屍官?)を主人公にして書いてるようですが、『Bone』ってタイトルからして如何にもだなぁって思うのはワシだけでしょうか(~_~;)。(99年6月読了)

邦題:ジャクソンヴィルの闇 Tenebres sur Jacksonville 著者:ブリジット・オベール
出版:ハヤカワ文庫 1998年4月30日発行 訳者:香川由利子
価格:本体800円+税 極私的評価:★★★

 導入部からゲロゲロで中盤戦もゲロゲロ。ラストの締めももっとゲロゲロなフレンチ女流作家の描くアメリカナイズされたホラー。この人、実家が映画館経営していて、筋金入りのアメリカ映画フリークなんですねえ。作家的才能は、ほんとバラエティに富んでいて尽きることのない泉のようですが、あんまりこっち方面は避けていただきたい気がする(~_~;)。なんでも続編執筆中だってことですから、さらに輪を掛けてゲロゲロ攻撃がNATOの空爆並みに読者のハートを直撃することは間違いないだろうけど、変なとこ誤爆する可能性を秘めている作品であるかもしれないぞ〜(~_~;)。

 いやはやゴキブリ大嫌いな方は卒倒するほど、ゴキブリが主人公ですので、クーンツの『ウィスパーズ』以来の大活躍を読みたくない方は、この感想すら読むのを止めることをお勧めしておきますぞ。街そのものが、このゴキブリ&ゾンビ・ホラーの源泉だった訳で、謎が解明されたとは言い切れない終わり方。ゴキブリどもも何処へ消えたのか、こりゃあ続編が出ても読まないってのはホラー&オベール・フリークにあるまじき行為だもんなあ。ここまで徹底的に書き込んでくれる女流作家って読んでいて嬉しくなってきちゃうのはワシだけではあるまい(~_~;)。

 ショッキングで血腥い視覚的な描写が大胆極まりなく、キングのお下劣さにも勝るとも劣らない怪奇の波状攻撃は、クーンツも顔負けってとこですかぁ。和田誠描く表紙絵がそこはかとなくいい味出していて、おフランスの上品さの欠片すらない本文との対比がこれまたいい隠し味になってるのよね〜。ノーマルなミステリ愛好家にはお勧めいたしませんが、オベールの才能の一端を垣間見せてくれる怪作ゆえ、『マーチ博士と四人の息子』や『鉄の薔薇』が気に入っていても、ホラーって聞いてこの本読むの躊躇ってる方はぜひ手に取ってそのゲロゲロ具合を確かめてみては如何でしょう(~_~;)。(99年6月読了)

邦題:射程圏 NOWHERE TO HIDE 著者:J・C・ポロック
出版:早川書房 1999年5月31日初版発行 訳者:中原裕子
価格:本体2000円+税 極私的評価:★★★1/2

 扉の覚え書きを見ると米国ではどうやらジェームズ・エリオット名義で出版されているようですが、『かくも冷たき心』でネタ晴らしをしちゃった早川書房が商売っ気を出して日本で売るならポロックと考えたことは容易に想像できるのであるが、ということはすなわち本作は新生ポロック第2作であるという位置付けが出来よう。これまでのトレードマークである軍事アクション系を前面に出すことは控えつつ、あくまで主人公は刑事もしくは殺人の目撃者であるヒロイン。どっちかというとヒロインに比重がかかっているからこそ新生ポロックであり、彼なりの新機軸がノンストップ・スリラーとして広く世間に受け入れられる仕上がりであり、クエンティン・タランティーノによって映画化される運びになってる訳だね、これが。一部マニアックな読者層から万人向けに変身したポロックというのは、古いファンには寂しい限りであるが、その実、ポロック名義で軍事アクション系を執筆する可能性を残してくれているジェームズ・エリオット名義と言えなくもない(~_~;)。

 タランティーノが目を付けたマフィアの組織犯罪物に加え、警察アクション小説の面白さを存分に発揮して、両者を融合してさらに魅力的なマンハント小説のスリリングさをサービスたっぷりに読者にサービスしてくれるポロックには目を見張らされるねえ。人物描写の膨らみに剛球一直線だった軍事スリラー小説にはなかった作家的成長と余裕すら感じさせてくれる。ただ逃げ回るだけのヒロインではない。反撃するヒロインの逞しさが現代的なスリラーならではの売りの部分ではあるぞ。しかも彼女はすこぶる美人の高級娼婦ってんだから男性読者へのサービスは満点といってもいいか(~_~;)。

 確かに第一級のハード・アクションなのであるが、帯にある『マフィアが送り込んだ超一流のスナイパー』って部分に関しては留保付きにしたい。これってハンターの『極大射程』に劣らぬ超絶スナイパー・アクション小説を否が応でも期待しちゃうでしょ。ところが、殺し屋はライフルマンではなかったのよね〜。それゆえ日本版タイトル『射程圏』ってえのも異議ありってとこだね。まあ、秘められたヒロインの過去が二重三重に物語の美味しいコーティングになっていて、それこそが本書の読みどころでもある訳で、『どこにも逃げ場はない』実社会の恐怖を想起させつつ、近未来の日本での国民総背番号制と盗聴法の持つ恐ろしさを噛みしめてもいい頃合いかもしれませんぜ(~_~;)。(99年6月読了)

邦題:ボビーZの気怠く優雅な人生 THE DEATH AND LIFE OF BOBBY Z 著者:ドン・ウィンズロウ
出版:角川文庫 平成十一年五月二十五日 初版発行 訳者:東江一紀
価格:本体780円(税別) 極私的評価:★★★★

 立て板に水の如く流れるウィンズロウの筆裁き。アウトビート。スピーディにしてスリル満点。現在進行形の文体がスピード感に拍車を掛ける。余計な描写をはぎ取ってここまでの分量に収めたウインズロウの計算とリズムを損なうことなく、ここまで日本語訳でノリノリに仕上げた翻訳者の成熟度がかなり加味されて出来上がった大人のエンターテインメントと言ってもよろしいのではないでしょうか。さ〜すが東江さん(チト誉めすぎかなぁ(~_~;)。

 ニール・ケアリー君とは完全な別シリーズゆえ、まだ『ストリート・キッズ』は未読の方でも書店で手に取ったら即レジへ行きたまえ。熱い鉛の弾が飛び交うボビーZの気怠く優雅な生活があなたの読書生活を直撃する。『ストリート…』から一歩大人の社会へ足を踏み入れた世界でのストーリー。これってウィンズロウの新境地って言い切ってもいいのであろうなあ。来月続刊の『ニール・ケアリー』シリーズが完了してからの作品らしいので、進化しつつあるウィンズロウを味わい尽くすのはいい頃合いって感じか。あとがきにもある通り、元ポルノ作家的素養を存分に生かした描写もなかなかイカすのである(~_~;)。

 いやはや登場人物が出色なのである。なんせ悪党ばかり。生き残ることにシビアな連中がそうそう隙なんか見せてくれるはずもなく、ほとんど紙一重で危機また危機をくぐり抜ける元海兵隊員でこそ泥野郎のティム・カーニーが憎めないいいキャラクターなんですね。んでもって、定番の子連れ珍道中っぽい展開がまたまたグッド。哀愁すら感じさせる主人公の四面楚歌ぶりが、読者に応援せざるを得ない状況に追い込むのよね〜(~_~;)。するりとウナギのように泳ぎ抜けるティム=ボビーZの行く手に待ち受けるのは死か、はたまた使い切れないほどの札束か。未読の方はラストまで一気読みだぁ!(99年5月読了)

邦題:悪魔の遺伝子 THRESHOLD 著者:ベン・メズリック
出版:ハヤカワ文庫NV 1999年3月31日発行 訳者:川副智子
価格:本体900円+税 極私的評価:★★★1/2

 読み手自身がウイルス(夏風邪なんですけど(~_~;)に冒されていると臨場感が倍加されて、レトロウィルスに運ばれる悪魔の遺伝子のもたらすであろう恐怖が、熱に浮かされつつも読み続けるとさらにウイルスが現実でも脳内に侵入してくるような感覚でまことによろしい(~_~;)。あ〜。もうヘロヘロ。夏風邪は懲り懲りっすね。つーわけで、暴走気味の感想にはご容赦のほどを(~_~;)。

 遺伝子操作研究って表にはあまり伝わって来ないし、たまに出てくるクローン牛程度の認識しか、一般の読者には伝わっていない訳ですが、実は、本書程度の遺伝子操作による生物兵器なんて、実際の辺境地帯での戦闘にはしっかり使われれてるという真実の前には、なまじのフィクションなんて吹っ飛んじゃうのであるぞ。そこを面白がらせつつ、遺伝子工学の最先端を垣間見せつつ、スリラー的要素をしっかり織り交ぜて読者にサービスしてくれる作家的素養には二重丸ではあるね。これがデビュー作っていうけれど、アクションの出し入れ等々そこいらの作家よりよほどしっかりしてると思うのだ。

 『ER』経由で医学生版『法律事務所』的味わいが遺伝子工学に疎い我々素人読者を引っ張る引っ張る。マッドサイエンティスト系のオーソドックスさを陳腐にしない程度の荒唐無稽さで、さも大事そうに読者に見せびらかしてくれるのもグッド(~_~;)っすね。大風呂敷大歓迎さ。主人公のいい男で優秀な医学生で正義漢でまっとうなアングロサクソン的な鼻につく部分が、ひねくれた読者にはステレオタイプっぽくて、え〜い、どんどん不幸になってしまえって風に応援してました>ワシ(~_~;)。元恋人も国防長官の娘ってのも出来過ぎだよね〜。ま、処女作ゆえの微笑ましさってことで許容範囲かな。

 悪の黒幕が陳腐ではあったが、研究所の保安要員がデーモニッシュなフェロモンをぷんぷん撒き散らしつつ、美味しいアクションシーンを提供してくれましたねえ。ターミネーターみたいな不死身性を前面に押し出しちゃうと医学スリラー的な部分をぶち壊しにしちゃうし、なかなか難しいところでもあります。冒険小説派としては多少物足りなくても、広義のミステリ派には十二分に満足できる仕上がりと言えるかもしれませんね。エピローグはもう一捻り欲しかったけど…。(99年5月読了)

邦題:密造人の娘 BOOTLEGGER'S DAUGHTER 著者:マーガレット・マロン
出版:ハヤカワ・ミステリアス・プレス 1998年12月15日初版 発行 1998年2月15日5版発行 訳者:高瀬素子
価格:本体660円+税 極私的評価:★★★

 古本屋で100円でゲットしてきた文庫本ゆえ何気なしに読み始めた訳ですが、それなりに直感が働かなかったかと言えば、頷く部分もあったりして(~_~;)。タイトルだけは以前から知ってはいたけれど、このミステリアス・プレスって銘打って出されているラインナップがイマイチ我が脳髄を震撼させてはくれなかったのである。そそるタイトルではあるでしょ>これ。著者名がマロンって栗じゃないんだから勘弁してよってギャグかましながら読んだら、そこそこイケてる作品にブチ当たったって感じかな(~_~;)。なんせ、アメリカ探偵作家クラブ賞、アンソニー賞、アガサ賞、マカヴィティ賞最優秀長編賞を受賞した超話題作って裏表紙に仰々しく書かれていて、「おお、これは」って思わない方が不思議だよね。だけど、へそ曲がりなワシはここで懐疑心の固まりとなっていよいよ本編に突入した訳であるな。皆が誉めると疑ってかかる質でな(~_~;)。

 登場人物の鬱陶しさを超越できればスイスイ読み進めることが可能であろう。誰が誰の親戚で、2番目と3番目の奥さんと友達なのは元の旦那のガールフレンドで、実は妊娠してて、今度、彼と結婚するんだって感じ(この辺はワシのフィクションね)のこんがらがった相関関係にうんざりしつつも、南部人のしたたかさと暖かさにほのぼのと読める前半部分ではあるぞ。迷宮入りの殺人事件の謎が再び連続殺人へと静かな狂気が立ち上る一本の線と地方裁判所判事候補に立候補した主人公の女弁護士デボラ・ノットの選挙活動との二本目の線との交わる部分が実は本書の読みどころでもある。タイトルにもある実父の貫禄がまたよろしいんだな、これが。高倉健も鉄道員(ぽっぽや)なんかよりこっちの方が絶対似合ってると思うんだが…(~_~;)。ま、日本では翻案されなきゃ映画化は無理だけど、ね。いい味出してるんすよ>ケジー・ノット。

 意外な真犯人像が、「おお、そうか。これってミステリアス・プレスだもんな」って納得させるひっくり返し方で、この辺はダテにアメリカ探偵作家クラブ賞取ってないなって素直に感心しました。登場人物に馴染んでくれば、それなりに物語に入り込んでいけるのでしょうけれど、やっとこ誰が誰の奥さんで誰が父親の息の掛かった警官かなんて分かりかけて、はい、ここで真犯人登場じゃ、ちと物足りなかったかなって感じもなきにしもあらず。続編以降、馴染んだ登場人物で読むとこのシリーズ、結構ワシにもしっくり来るかもしれませんねえ。2作目、3作目とあちらでは刊行されているようなので、翻訳されるを待つことに致しましょう。それとも、もう出てるのかな。(99年5月読了)

邦題:鉄の絆 上、下巻 Hand in Glove 著者:ロバート・ゴダード
出版:創元推理文庫 1999年4月23日初版 訳者:越前敏弥
価格:上=本体640円、下=本体720円(税別) 極私的評価:★★★

 私の知っているゴダードとは違うのである。複雑に入り組んだプロットと絢爛たる歴史絵巻的重厚さがこの作家の真骨頂かと思っていたのですが、微妙に作風が変わる作家としての転換期に立ち会っているようではありますねえ。良いのか悪いのか。これはこれで良質のミステリとして読めば読めるわけで、かつてのゴダードを求める向きには物足りないのではないか。個人的な感想としては、中途半端に終わってしまったかな、と。

 手紙が告げる過去からのコールバック。スペイン内戦当時の謎が引き起こす殺人事件。おお、これぞゴダード節ではないかと、冒頭、心躍らせるのですが…物語の謎の深度がさほどではないことが徐々に明らかになり、犯人が結構早めに割れてしまうことに、おおっ、こんなんで最後まで引っ張ってくれるのかって真剣に心配してしまう中盤戦。悪役の底が割れるのもちょっと早過ぎかもしれません。豹変するタイミングが絶妙とは言い難く、寄せ木細工のように組み合わさってゆく人物構成がそれほどしっくり来てはいないのだ。プロットのつなぎ合わせも、ちと強引かと思われる部分がなきにしもあらず。もう少し伏線が欲しかったなあ。ま、確かに策謀が周到に張り巡らされてはいたんですけど、それが後半戦突然に現れるのが、ゴダードらしくないと言えば、言えないことはない。

 なんか文句ばっかり言ってますけど(~_~;)、面白くないとは言ってないのよ。高名な詩人の姉の孤高の人生とその清廉さを余すところなく浮かび上がらせるゴダードの筆先には、さすがと言わざるを得ないし、ぎこちないながらもホッとさせてくれる男女のロマンスは今時のラブ・アフェアにはない普遍的プラトニックな恋愛関係の微笑ましさがある。ゴダードは意図的にハッピーエンドに仕立て上げたそうですが、作風のチェンジとハッピーエンドがもたらす軽さが、吉と出るかは今後の読者の反響に掛かってると思われるのだ。(99年5月読了)

邦題:守護者 KEEPER 著者:グレッグ・ルッカ
出版:講談社文庫 1999年3月15日第1刷発行 訳者:古沢嘉通
価格:本体876円(税別) 極私的評価:★★★

 おっと、翻訳者がFADVでもお馴染みの古沢さんではないか。こりゃ期待できるかなって手に取ったのですが、さてさて如何かな(~_~;)。題材的には非常にアップトゥデイトな手触りなのですが、日本の読者にはピンと来ない部分もかなり内包している題材と言えるかもしれません。キリスト教徒の国と違って、ほとんど堕胎天国と化している日本の産婦人科事情からは禁忌という観念は産まれて来ないと思う。ゆえにこういう設定というのが、う〜むと考えさせられる訳であるな(~_~;)。

 のっけから乗り切れない導入部。彼女の堕胎に付き合って産婦人科を訪れたプロのボディガードって、何だかフェミニズムの帝国に来ちゃったかなって冷や汗掻きながらの読書になる予感。そこら辺をクリア出来ると、やっとこプロのボディガードの読ませどころが読者に頁を繰らせる部分に到達するのである。今まであまり光の当たらなかったボディガードたちの隠された私生活。そして、若いが冷静なプロのボディガード。ところがですね、冷静だけど沈着じゃない『わたし』が物語の足を引っ張る、じゃなかった興味を引っ張るのでありますぞ。血の気が多い兄チャンぶりをさらけ出しちゃうんだ、これが。プロ魂に燃えちゃいるんですが、本来ならビシバシ格好良く守っちゃうところを、あれこれ手を変え品を変え細かなミスを小出しにして、スリリングな物語に仕上げている。この辺は肯定的に読みましたが、やっぱり若さが出ちゃいましたねえ(~_~;)。バイオレンス描写はなかなか読ませるし、泣かせどころはちょっぴりクィネルの『燃える男』入ってましたが、そのインパクトを生かし切れなかったような気がするのよね〜。

 あちらではアティカス・コディアック・シリーズはすでに4作目まで書き継がれているようですので、処女作である本作からの作者の成長が伺えるようではありますねえ。資質的には買いの作家ですので、次に古沢氏が翻訳してくれるであろう作品に期待して待つのもいいかと思うのであります。プロット的にもう少し捻ってくれていたら、ワシも★4つあげちゃうんですけど…今回はデビュー作は注目止まりってとこで、★★★でよろしいでしょうか(~_~;)。(99年4月読了)

邦題:隠された神の山 THE GOLD OF EXODUS 著者:ハワード・ブルム
出版:角川書店 1999年2月25日発行 訳者:篠原慎
価格:本体2000円+税 極私的評価:★★1/2

 ノンフィクションである。どこまでホントかって疑えばキリがないけど、事実なら2人組インディ・ジョーンズさながらの大発見ではあるぞ。ただ、発見した順番は多少の入れ替えはあるでしょうが(本当はこれが大問題なのではある(~_~;)、これは本物かっていう手応え=読んでいて説得力があるってこと。ノンフィクションの迫真力ってやつだね。キリスト教徒でなくても古代史に興味のある方なら暇を見て読んでみては如何でしょうか。エジプトを脱出して紅海を二つに割ってシナイ山に到達したモーセ一行の苦難の旅と幾多の財宝の行方を夢見る余裕があってもいいじゃない。一杯やりながら読むには絶好のジャンルミックス・ノンフィクション!

 前半は引っ張る引っ張る。導入部分がイライラするほど長いのである。ノンフィクション作家の大いなる弱点がこういうところに如実に出ちゃうのだな。事実は小説より奇なりというが、小説より奇じゃない部分が足を引っ張る。だけど読んでしまうのは、巻頭に挟まれた写真の迫真性なのだ。シナイ山の写真がここにある。鬱陶しい前半部分の先に、この隠された真実が明らかにされるという期待感が読ませるのである。じゃなきゃ、あなた(~_~;)。これって映画化されるっていう話だけど、この辺の退屈さ加減は当然端折るんでしょうなあ。

 すっげえ短いクライマックス。だけど知的興味は否が応でも盛り上がる。シナイ山ならではの物証の数々。ここが本当に聖書に登場した聖なる山なのか。探検当時の世相をリンクさせると、そこには…。隠された真実は、イスラム教徒にとってはすでに明らかな真実なのか? サウジの湾岸戦争当時の戦費調達という国際問題も絡んでポリティカル・ノンフィクションの分野に雪崩れ込む。あれれのれ。そういう結末なわけ!? これこそ事実は小説より奇なりという部分ですね(~_~;)。昨今、流行ってるキリスト教の真実を垣間見ただけでもよしとしようか。(99年4月読了)

邦題:救出 PLAYING WITH COBRAS 著者:クレイグ・トーマス
出版:新潮文庫 平成九年六月一日発行 訳者:田村源二
価格:本体743円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 まさしくハイド=野獣駆けろって感じなのですが、デブで中年女のロスの登場で幾分中和されているかもしれません。この二人の関係って一体何なんでしょ(~_~;)。とにかく、これだけハイテンションで突っ走る英国系エージェントってなかなかお目に掛かれませんぜ。肉体と精神を極限まで酷使してなおかつ正常なる判断力を失わないスーパーエージェントでも、微に入り細に入るハイドの心理描写ゆえに読者にも感情移入可能なレベルの物語に落ち着いていてくれるのだな、これが。でなきゃちょっとお知り合いになりたくない人種って感じでしょ>Mr.ハイド。荒唐無稽になる前にしっかり根付いた現実感。彼らのバックグラウンドに納得して読めるのは、さすがクレイグ・トーマスだと、昔っから追いかけてるファンは拍手を送るのです。

 巧みなディテイル設定。しかもサスペンスフルな状況は、ハイドだけではなくて、しっかりロスにまで降りかかってくる仕組み。ハラハラドキドキ二倍二倍(高見山の口調で)! 冒険の舞台をインドに持って行ったのも、やりたい放題出来る未開国(英国にとって)を存分に利用してやろうというトーマスの企みが見えるようではあるぞ。第一、インド政界の大物が麻薬疑惑の中心人物だなんて、我々アジア人にはちょっとやり過ぎって感じる部分あるでしょ。SIS長官のピーター・シェリーは相変わらずだし、引退しちまったオーブリーの思い出話なんかが出てくると、そろそろ大御所が復帰でもするのかと思ったりしてしまうのである(~_~;)。

 この作家の作品の原題には、ほとんどと言っていいほど動物の名前が織り込まれておりますが、今回はコブラでしたね。インドが舞台の作品ゆえに、なるほどの原題ってことになりますでしょうか。次回作はガント物とまったくの新作の2作品ということだが、これまた全力投球の剛速球で我々を楽しませてくれることを祈りながら待つ、って心境だね。そろそろ老境にさしかかるはずのクレイグ・トーマスがこれだけロマンス抜きでアクションガンガン路線を突っ走るのだから、他の冒険小説作家もちっとは見習って欲しい姿勢ではあるぞ。しかしまあ、みんなこんなストロングスタイルの作家ばかりだったら辟易しちゃうか、逆に(~_~;)。(99年4月読了)

邦題:エンディミオン ENDYMION 著者:ダン・シモンズ
出版:早川書房 1999年2月28日初版発行 訳者:酒井昭伸
価格:本体3000円+税 極私的評価:★★★★(シリーズ・トータルでは★★★★★)

  おお、懐かしや生頼範義画伯(最近あまり見かけなかった)! この人がカバーイラストを飾った作品はまず外れがないっていう刷り込みがあるもので、たとえ未完のまま続編へと受け継がれると知ってはいても、期待感は否が応でも盛り上がるというモノであるぞ。テクノコアと連邦が崩壊して(ハイペリオン二部作)後の宇宙は、な〜んとカトリッック教会が覇権を唱えていた! 教皇聖下の宇宙機動艦隊! 敵を殺戮する良きクリスチャン戦士たち。好戦的な神父たち。このアイロニカルな設定&描写こそがいかにもシモンズ。いやはや読むべしだな、これ。読まなきゃ分かんないぞ>この面白さ。SF者は必読でしょう(椎名誠も読んでるらしい)。

 前作との架け橋=『詩篇』の実作者・マーティン・サイリーナス。老詩人が生きていた。時間の墓標から現れる『過去』が『未来』を開く。その一人の少女と主人公エンディミオン&青い肌のアンドロイドが『オズの魔法使い』にも見立てて、宇宙の真実を求めて旅立つのであるが、この旅こそが生半可じゃない凄まじさ。転移ゲートを辿る一行を追う神父大佐の苦難の追跡劇は悲惨を通り越して滑稽ですらある(~_~;)。こんな宇宙旅行誰だってご免被りたいでしょ。

 毎度お馴染みシュライクの大殺戮シーンもこれまた凄い。篇中の白眉は、このシュライクに対抗出来る謎の女兵士。こいつらがラストで繰り広げる激闘はそこらのSF作家には到底書き切れまい。プレデターvsシュワちゃんみたいなド迫力! これ映画化して下さい>ドリームワークス。スターウォーズなんかより超絶SFアクション大作になること請け合うのだが…。転移ゲートちゅーのは映画『スターゲイト』を思い浮かべしまったのであるが、それ以外にもテクノ空飛ぶ絨毯でっせ(~_~;)。むははは。

 謎が謎を呼ぶラスト。ヒントが最後の詩に隠されているとはいうのだが、薄ら呆け中年読者にはうっすらとしか見えて来ないのよね〜(~_~;)。来るべき『教えるべき者』とは?ああもう、シリーズ最終編『The Rise of Endymion』の速やかな訳出を待たなくてはならないのが、イライラ、ワクワク、ドキドキなのであるぞ。また、あのネメス伍長が復活するのであろうか。ま、するだろうなあ(~_~;)。(99年4月読了)

邦題:死せる少女たちの家 The Church of Dead Girls 著者:スティーヴン・ドビンズ
出版:早川書房 1998年11月30日 初版発行 訳者:高橋幸枝
価格:本体2600円+税 極私的評価:★★★1/2

 痛んだ果実を握ったとき、ジワリと染み出す腐汁。甘く誘いかける香りが惹き付ける悪。読者の潜在意識すら暴き出すラストのダークさに怖気をふるうのか。それとも…。問いかける詩人作家の濃密に注ぎ込まれる言葉の洪水。架空の町の全住人の秘密の生活までも微に入り細に入り書き立てる。一体何人の登場人物を追い掛ければ済むのか、読み手は迷い、呆れ、やがて詩人の為すがままに嬲られる。一種、閉鎖空間で封じ込めれていた悪の萌芽が一気に芽吹くとき、それまでの些細な描写の蓄積がプロローグの悪夢の光景に連結する。

 平凡な町のどこでもいる住人たち。やがて狂って行く集団ヒステリーが恐ろしい。まさに壊れて行く感じ。平凡こそが狂気の源であったのか。米国の物語上の架空の町というだけではなく、現実にあった神戸の事件を想起させるリンク。フィクションと事実の間は、極薄い仕切りで覆われているだけ。突き抜けるのはほんの切欠さえあればいい。忽然と出現する恐怖は、身近にひっそりと息を殺しながら弱者の隙を窺う。疑心暗鬼に囚われた住人たちの暴走が、さらに恐怖の質に付加価値を与えてしまう。だからこそ、この難読さ加減の彼方に待つアンハッピーエンドを求めて読み続けてしまうのだ。

 作者が現役の詩人であるだけに、事件全体のイメージがくっきりと浮かび上がる。廃屋の窓に映る少女の手。プロローグを読めば一目瞭然、あるはずの左手は切断され、残された体は朽ち果てるのを待つだけ。多淫な中年女性の惨殺体から始まった事件が向かう先を指し示すのか>切り離された左手。主人公が一種カミングアウトした瞬間から、俄然物語は静かに白熱する。災厄の町。オーリリアス。美しい名前が事件後どのように住民たちの耳に響くのか。一読に値する作品であると言えよう。(99年3月読了)

邦題:消えた少年たち LOST BOYS 著者:オースン・スコット・カード
出版:早川書房 1997年11月30日 初版発行 訳者:小尾芙佐
価格:本体2600円+税 極私的評価:★★★★

 子を持つ親なら涙なくして読めない衝撃のラスト。モルモン教徒ファミリーのアットホームな日常生活から一転、まさか、こんな結末が用意されていたなんて…。タイトルから薄々は感づいていたけれど、淡々と流れはミステリorホラーへ。切り替わるタイミングが絶妙で、ゆえに突き落とされるような落差が…ああもう、たまらないのである。切ないクリスマスの夜。小説的な技巧だけではなく、魂を揺さぶられるような感動を通り越して体現された家族愛>神。信ずることが信仰に繋がり、やがては神に至ることがバックラウンドに描かれていても、そこには普遍的な人間としての素のままの感情が満ちあふれているのだ。なんだ、宗教系かと敬遠していたあなたも、読めばたちまち慈愛に触れる喜びを分かち合えるかも…しれないぞ(~_~;)。合わない人には未来永劫合わないでしょうけれど…(ちなみにワシはノン宗教系であります(~_~;)。

 LOST BOYSは悲しき複数形だったのですね。フレッチャー一家は育ち盛りの3人の子供たちを抱えてノースカロライナへと移住してきた敬虔なるモルモン教徒。それだけで済まさないのがカード流なのですな。悩める中流家庭のあれこれ事情が等身大に描かれていて、うんうん、そうだそうだと頷きながら宗教観を超えて登場人物に心がシンクロしてしまう不思議。ワシの場合は当然ステップだし、女性読者ならディアンヌでしょ。ネタ的にちと古いパソコン・ゲーム絡みなのは仕方ないけれど、SF作家のカードの異色作品として出版社が長いこと敬遠していて今頃出版されたのだとしたらまことに残念なことと言わざるを得ない。斉藤由貴の解説先に読んで腰が引けちゃった部分もなくはないので、早川も人選考えてくれるといいのに…。ここで宗教ネタ振るのはちょいとばかり場違いな感じがするぞ。

 あちらでは92年に出版されているようですので、当時アメリカの病み始めた頃の社会構造が反映されていて、おまけにモルモン教の内部事情にまで深く掘り下げて書いてくれたカードの信者としての視点も露悪的な部分もあったりしてそれなりに面白く、『エンダーのゲーム』を書いたあの筆力とイマジネーションが現代社会の方向に向けられれば、こういう物語的厚みが産み出されるのは必然である。諸々を包含しつつも病んだ米国社会が転がりゆく様を肯定的に見ている作家の放った90年代のベストショットのひとつと言っていいかも知れない。だからこそ宗教という枠を超えて普遍的な家族愛の物語を紡ぎ出せたのだろう。(99年2月読了)

邦題:ヴァンパイア・バスターズ VAMPIRES 著者:ジョン・スティークレー
出版:集英社文庫 1994年4月25日 第1刷 訳者:加藤洋子
価格:本体602円+税 極私的評価:★★★

 公開中のジョン・カーペンター監督の『ヴァンパイア 最後の聖戦』の原作本だそうですが、5年前に買い込んで積毒本の奥深く埋もれているのを、そうかそうかと引っぱり出してきて読み始めたらノンストップやねん(~_~;)。ハード・バイオレンス・ホラーちゅうとこかね。冒頭のヴァンパイアVSヴァンパイア・バスターズとの壮絶な死闘は生半可な迫力じゃありませんぜ。全開バリバリ。もう、ほとんど武闘派ちゅー感じ。ここまでアクションする吸血鬼小説って今まであまりなかったような気がする(~_~;)。

 ロックンロール! 掛け声一つでヴァンパイアの巣窟へ掃討戦に乗り込む男たちの描写がいかにも映画的。映画向き。だからこそハリウッドが放っておかなかったのでしょうなあ。いやはやカーペンター監督向きの格好の題材だもの>これ。ストレートに力強く捻ったヴァンパイア物ってとこでしょ。対ヴァンパイアにこれだけの武器弾薬の物量作戦で対抗する設定も面白いじゃありませんか。しかも街中で…。

 強いて挙げるとすれば、ジャックが彼と対話するシーン。ここまでに至るジャックの内面描写が少なすぎるし、それに続くこういう結末を用意するのなら、もっと小出しにジャックのフィーリクスに対する隠されたアクションを散りばめるべきであったかと思うのだ。フィーリクスのトラウマも今ひとつ読者にアピールしないし…。な〜んて屁理屈こねて読む本ではありませんので、夜中に勢いで一気読みして無条件降伏してしまいなさい。(99年2月読了)

邦題:楚留香 蝙蝠伝奇 上、中、下巻 著者:古龍
出版:小学館文庫 1999年1月1日初版第1刷発行 訳者:土屋文子
価格:上巻558円、中巻638円、下巻638円+税 極私的評価:★★★

 どうやら二つの作品を合体させて誕生した本邦初訳、あちらでは巨匠といわれる古龍の青龍刀チャンチャンバラバラ冒険活劇時代巨編。徳間書店から出た金庸シリーズが売れたという影響もあってか、いかにも小学館が恐る恐る出版した様子が見て取れるのであります(^^;)。こんな美味しい物を見逃す手はない。そんな意図が見え隠れする今回の出版ではあります。それでも、こういう試みが成功すれば出版社のマーケティングとしては万々歳でしょう。現に本屋でもそれなりに売れ行きはいいようであります。出版界の裾野が広がるのは、読み手としても大歓迎。今までこういう分野が日の目を見てこなかったので、非常にフレッシュな感じがするのは私だけではありますまい。

 楚留香って大昔の中国版アルセーヌ・ルパンって感じ(かめにい氏の電撃フリント説も説得力大あり(^^;)。強いんだけどそれほど武芸の達人というわけではなく、時には後ろから刺されて大怪我してしまうポカだって見せちゃう。ま、愛すべきキャラクターというわけでしょう。挿し絵を見る限りではいかにも大昔のアイドルって感じ。こういう義賊って昔から世間でもてはやされていたようですねえ。

 後半、『そして誰もいなくなった』的展開には犯人探しの推理小説的側面も加わって、金庸にはない俗っぽい面白みが膨らみを見せてくれる。いかにもあっち的にウケるんだろうなと想像しできてしまう大衆性が、こっちの国でも心地よいのだな。必殺技の出し比べなんてえのがいかにコテコテだろうとも、こういう小説では王道なのだよね。華山系の拳法が本当に外効の陽拳であるとは、劇画『北斗の拳』に出てきた設定がある程度史実に基づいていたんだと改めて感心してしまいました。これから読む方には、ま、中国拳法の奥の深さを思う存分味わってもらいましょうか(^^)。(99年1月読了)

邦題:ゾッド・ワロップ あるはずのない物語 ZOD WALLOP 著者:ウィリアム・B・スペンサー
出版:角川書店 1998年12月5日 初版発行 訳者:浅倉久志
価格:本体1700円+税 極私的評価:★★1/2

 ま、確かに。『頁をめくるたびに、摩訶不思議な世界の扉が開く…』って、そりゃドラッグやってれば頭の芯が吹っ飛ぶほどの効き目抜群なトリップ小説の出来上がりって感じ。ひねくれた読者ならそう思うでしょう>これ(~_~;)。ラストは夢落ちっぽいし、ねえ。ファンタジー読みの方ならどういう感想をお持ちになるか、確かに興味深い作品ではあります。ただ、amazon.comの★5つってのが引っかかるのであるぞ。そりゃ、ちょっと買いかぶりすぎじゃないですかって。

 あるはずのない物語は、ファンタジーにリアリズムを注入してからぎくしゃくと油切れのストーリー展開に、違和感覚えた方も少なくないでのはないでしょうか。あるはずのない部分をもっと拡大してオーバードライブなぶっ飛びサイコ小説に仕上げた方が破天荒で良かったかも(~_~;)。最後は、いい子いい子でまとまっちゃったから、確かに独創的で魅力ある文体が物語を途中までは引っ張って行ってくれるけど、イマジネーションの世界は徐々に萎んでいってしまうのが如何にも残念至極でござるよ(~_~;)。もっと大胆な世界観を十二分に生かして『ぬえみずち』なんかゴジラみたいに大暴れさせてもよかったのに…。

 最初予想していた『カッコーの巣の上で』のような展開にならなかったのは、それはそれで良かったのですが、本来のダークサイドの『ゾッド・ワロップ』という小説の全貌を明らかにしても、物語的に何ら損なわれることもなかったと思うのでありますよ。側面からしか伺い知ることが出来ないゾッド・ワロップの世界観。こういう精神構造と異次元世界の融合ってクライブ・バーカーの『イマジカ』なんかもそっち系の代表作ではありますね。バーカーに比べちゃうと、イマジネーションという点で後れを取るかな、やっぱし。バッド・トリップ感こそが、こういう作品には必要不可欠なのではないかと個人的には思うのです(~_~;)。(99年1月読了)

邦題:極大射程  上、下巻 Point of Impact 著者:スティーヴン・ハンター
出版:新潮文庫 平成11年1月1日発行 訳者:佐藤和彦
価格:各667円+税 極私的評価:★★★★

 スティーブン・ハンター、ここまでストロングスタイルな作家だとは思ってもいませんでした。英国仕込みのストロング派クレイグ・トーマスが産み出したパトリック・ハイドとは、これまた一味違ったマッチョなアメリカ南部白人の頑固さ。能書きたれずに男は黙って仕事しろってんだ! そんなスタンスが心地よいのだ。もちろん高性能ライフル付き。

 『ブラックライト』以前でもここまでハードアクションしてたのかぁ>ボブ・リー・スワガー。言わずと知れたライフルマン。誇りを賭けて戦う姿は崇高なる戦闘マシーンから、今、神の領域に至ろうとしている。指先一つで死を司る男を標的に選んだことがミステークであったのか。いや、神への挑戦権を賭けて戦うもう一つの男たちの姿がそこにはある。だからこそ白熱する物語が読者を引きつけて離さないのだ。もう一人の伝説のスナイパー。裏と表。ベトナム以降、静かに表舞台から身を引いて歩んできた歴史は、『静寂の世界』から切り離せない男たちへの挽歌。滅びゆく種族=スナイパーからの存在証明書なのかもしれない。

 中盤の大ヤマ、120人の特殊部隊との壮絶な銃撃戦こそは、今後の冒険小説史上語り継がれるべき名シーンと言えるのではないでしょうかねえ。こいつは掛け値なしに凄いっす。映画『山猫は眠らない』でも超絶スナイパーアクションを映像化してくれましたが、ハンターの筆裁きも読者の脳裏に焼き付くような驚天動地の至福の読書時間を与え賜うのだ。ここまで練り上げたキャラクターはそう簡単には手放せないもんなあ。だからこその四部作なのだろう。脇役連中もなかなか味があってよろしいぞ。最後に来てシュレックの腰砕けにはちょっと「あれれ」ってな感じでしたが、ペインてぇのは美味しいキャラでありました。こういう悪役がいるからこそ、レミントンの鈍色の銃口の輝きがさらに渋みを増す。

 ライフルマンが仕掛けた罠はライフルマンが暴く。逆もまた真なり。いやぁ、ボブ・リーが単なるライフル馬鹿ではないところを存分に見せつけて物語は『ブラックライト』へと繋がっていく。エピローグ部分がいやに長いのに気には掛かっていたのですが、こういう仕掛けだった訳ですね(~_~;)。沈着冷静。ベテラン狙撃手の面目躍如ってとこでオチが付いてハッピーエンドに収まった訳ですが、ジュリーとの邂逅はここから始まったのでありました。やっぱし、未読の方は『極大射程』→『ブラックライト』の順でお読み下さいませ。『ダーティホワイトボーイズ』ってのは本当に枝葉の部分だったのですねえ。だけど、とびっきり太い枝葉って感じでありますよ(~_~;)。スティーヴン・ハンターって作家の懐の深さにはただただ驚くばかりであるなあ。(99年1月読了)

邦題:ブラックライト BLACK LIGHT 著書:スティーブン・ハンター
出版:扶桑社文庫 1998年5月30日第1刷 訳者:公手成幸
価格:本体667円+税 極私的評価:★★★★

 ライフルマンによるライフルマニアのための暴力小説巨編にしびれまくりました。例によって時制の出し入れによる難読加減が前編ではかなり気になってなかなか読み進めませんでしたが、父の死の謎が徐々に明らかになるにつれ、いつの間にやらスティーブン・ハンターの術中にはまっていました。前作『ダーティホワイトボーイズ』での超弩級の暴力描写が、今回はハンドガンに対するライフルのようにストイックで抑制のきいた小気味良いアクション加減でありました。正義漢側が圧倒的に存在感を持って立ち上がったからかもしれませんね。

 前作からの登場人物の連鎖が、本書でもかなり立体的にストーリーに組み込まれているため、物語的な面白さも平面から3D構造に組み上がっているようです。単なる後日談ではないもう一つのアクション謀略面白マニアックなガンファイト小説。しかも背骨となるボブ・リー・スワガーの父をめぐる死の謎が意外なところから破綻し始め、単なるミステリーにとどまらずアメリカン(この場合軽さではない(~_~;)な重火器暴力にいたるところがたまらなくハンターなのである。まずボブ・リー・スワガーのキャラクターありき。スナイパーとしてのストイックさが、ベトナムさながらに舞台を米本土に移してもいかんなく発揮される状況の持って行き方が、う〜ん、プロフェッショナルな作家のテクニックなのであるなぁ。銃撃戦前の描写を見よ。息遣いと共に聞こえてくる安全装置を入れたり外したりする音。ここにもライフルマンによるライフルマニアのためのリアリティがある。いやいや、他人のためじゃない。ハンター自身が自己の欲求を満たすために外せなかった描写なのだ。アクション作家の本能ですね。

 最後に明らかにされたラマー・パイの出生の意外な秘密。闇の中に浮かび上がる微かな光=ブラックライトでなければ探し当てられなかったであろう極小サイズの係累(ほとんど精子サイズ(~_~;)。四部作ならではの細かい描写がそれぞれを補ってトータルでストーリーを補完する相乗効果。次への興味を引っ張る作家のテクニックもあるのですけれど、それよりも早く次の作品を読みたい、との心の奥からの叫び。そんな欲求を呼び覚ますハンターの体の芯を熱くする根源的な暴力小説に読み手の琴線は共鳴するのである。

 日本での出版の順序が逆になりましたが、発表順では『極大射程』の方が物語的にも時間が遡っており、ボブのベトナム帰還後のまた別の陰謀に巻き込まれる超強力アクション・ライフルマン巨編に仕上がっているとの評判であります。続けて一気に読まねばなりますない。(99年1月読了)

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