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2002年度国産作品レビュー

 国産ミステリだって、面白ければ読みますよ〜ん。話題作って買ってはみるけれど、読むのは後回しってケースが多いので、そっち方面のレビューが見たい方は大手読書系サイトへ行ってみてね(^_^;)。

題名:死都日本 著者:石黒耀
出版:講談社 2002年9月1日第1刷発行  
価格:本体2300円+税 極私的評価:★★★★

 『日本沈没』以来の超弩級スケールのクライシスノベルと言っていいでしょう。火山マニアの医師でもある作者のオタクっぽさが良い意味で炸裂してる科学的根拠の説得力。荒唐無稽に近いけれど、『絶対に来る東海大地震』的な潜在意識は誰でも持ってるわけで、どこか絶対大丈夫と信じ切れない火山大国日本列島の現状を認知している国民感情を不気味な大地の脈動を感じる日本人だからこそ描けた破局的いや破局噴火の列島破壊シュミレーションなのだ。火山噴火予知連あたりから国家的規模の裏作業として現実に起こりうる仮定としての富士山大噴火あたりのシュミレーションも実はすでに出来ていて、蠢く地底活動の予兆が静岡近辺でそこかしこに…なんて妄想を止めどなく想起してしまう超問題作。

 サイトで検索した講談社のメフィスト賞選考経過を読んでみると、なにやら火山オタクっぽいところを敬遠して「これじゃ売れない」とかご託を並べる部分に呆れましたが、無事出版されて何よりである(^_^;)。ポロッと出てくる作品の質に侮れない『メフィスト賞』。過去受賞作品もチェック致しましたが、そこはそれ…玉石混淆であるなあ、と。処女作品でここまで完成度高いと…おっと、完成度高いと誉めるのは火山噴火&パニック小説部分に限定しておきましょうか。留保付き★4つ。

 『神の手作戦』の経済ラハールからの起死回生策が、そんなに上手く行くんかいと経済オンチの小生にはチト引っ掛かるのだけれど、そこはそれご愛敬ということで(^_^;)。地球規模のスパンで人間圏を俯瞰出来る作家的スケールは素晴らしい。SFマインドを前面に押し出さずにクライシスノベルに徹したのも成功してるかな。ハラハラドキドキ黒木&岩切の決死行とキャラの立ち方が日本映画的で黒木夫人には沢口靖子あたりがピッタリに思えちゃったりして。リーダビリティも二重丸。九州地方。特に霧島火山帯にお住まいの方には、あまりのリアルさにゾッとする喪失感を身近で感じられるかもしれませんねえ。ぜひとも東宝での映画化希望します(^_^;)。(2002年11月読了)

題名:魔岩伝説 著者:荒山徹
出版:祥伝社 平成14年9月10日 第1刷発行  
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★1/2

 今は亡き国枝史郎、角田喜久雄、山田風太郎(これくらいしか読んでません(^_^;)ら錚々たる作家連から連綿と続く時代伝奇小説。富樫倫太郎ら次世代の書き手がマイナーな分野ながらも細々と輩出する平成の世に、61年生まれの荒山徹クンもなかなか頑張っておるよのう>日朝伝奇第3作目。『朝鮮通信使の謎。必殺剣と朝鮮忍法の激闘!』だなんて血湧き肉踊る伝奇小説マニアックな帯見て「おお」。これならちょっと期待出来るかも。特に『奇想』部分が山田風太郎忍法帖へ肉薄。敵役は柳生卍兵衛ときたら、そりゃもう掴みはOKじゃん。あとは肉付け…なんですが、ねえ。

 前2作は読んでおりませんもので、韓国留学してまでの朝鮮半島への拘りっぷりは窺い知れませんが、ネタとしての目の付け所はなかなか鋭い>この分野、まだ手垢が付いておらぬぞ。今が書き時。しっかも時代小説書きに必要十分条件は備えた文章&時代考証能力。ただねえ、朝鮮忍法のショボイこと(-_-)。何の必然性もなく説得力もなく科学的インチキ説明もないまま、半獣人でニョロニョロと蛇に変身しちゃうのは反則だろう。しっかも弱過ぎ。風太郎忍法帖と思いっきり違うのは、末端の忍者に思い入れの欠片もなく、あっさり殺しちゃう部分。死に行く者への美学がここには存在しない。はたまた、『運命峠』っぽく柴錬風に展開出来るのに、そこまで描き込めなかったのは作者の未成熟部分なんだろうなあ>いかにも惜しいっ!

 もっと惜しいのは、遠山景元vs柳生卍兵衛の必殺剣対決。先延ばしにしてワクワク感煽りながら、結果これかいっ(-_-メ)! 出色のキャラ卍兵衛の活躍どころをもう一工夫欲しかったぞよ。まあ、ああでもないこうでもないと散々なレビューになりそうですが、まだあるのよね〜。肝心の『魔岩』ってのが噴飯モノ(^_^;)。個人的にはこれで一気に興醒めしちゃいましたが、某CS系書評番組では某T女史が絶賛しておりましたように、琴線に触れる部分を良い方向に解釈してあげれば、そこそこ時代伝奇スピリッツを感じ取れる合格作品と評価出来る人もいるでしょう。ワシ的には期待感の裏返しということで、ビシバシ甘いところには斬り込んで行きましたが、この人の奇想のスケールの大きさとキャラの練り方は買っておりますので、次回作にも卍兵衛登場を所望申し上げ候。(2002年11月読了)

題名:龍時01-02 著者:野沢尚
出版:文藝春秋 平成十四年四月十五日 第一刷  
価格:本体1333円+税 極私的評価:★★★★

 W杯で熱病に浮かされたにわかサッカー・ファン必読かも(^_^;)。裏側はこういう積み重ねで表舞台へ出てくるのだよ、と教えてくれます。いつの間にかテニスから鞍替えして今やでっかい顔してサッカー通気取ってる某大作家さんよりは、意外や意外、『破線のマリス』等ミステリ畑の野沢尚の方がサッカー好き好き人間の琴線に触れる作品をしっかり提供してくれました(某大作家さんもドーピングネタで描いてるようですが…暇があったら読んでみましょうか(^_^;)。中田や川口やらちょっと名が売れたサッカー小僧との交流を売り物にしてしゃしゃり出てくるのもいい加減にしたらとご忠告モードで…さて本書。帯で稲本のコメント引っ張ってますが、内容はサッカーミーハーとは一線を画すハードな本格サッカー小説! ハードボイルドしてるよな>志野リュウジ。

 ストーリー自体は、漫画にも出てきそうな在り来たりな展開丸出しなのですが、サッカー小僧の息遣いがグラウンドレベルで感じ取れる臨場感。脛を削り合う音が聞こえてきそうなほどのリアルさがたまらんぞ。リュウジの疎外感が個人主義の巣窟ヨーロッパでさらに磨きが掛かり研ぎ澄まされた孤独感へと、サッカーベースで話は進んでいきますが、スペインでの人間模様とともに少年の成長譜としてもかなり読ませます。

 ただ、『ナンバー・プラス』連載当時の作品と、間に合わせに書き足した最後の数章との出来不出来の差が軽みとなって画竜点睛を欠くきらいはあるけれど瑕疵にまでは至らず、リュウジが高校生ゆえに主戦場はユース…それでも結構手に汗握っちゃう試合の描写。本人はまだまだ浅いサッカー観戦歴と謙遜しておりますが、サッカーのコアな部分をしっかり掴んで読者にフィードバックする良質なサッカーライター(創作部門)であると個人的に認定致します。読後『ああ、生試合見たいっ!』って来る欧州シーズン開幕に思いを馳せること請け合い。本作品の続編=その後のリュウジを読みたいのであるが、野沢尚はその気があるや無しや。(2002年7月読了)

題名:俺たちの疾走 著者:樋口明雄
出版:朝日ソノラマ 2002年5月31日第1刷発行  
価格:本体1200円+税 極私的評価:★★★1/2

 ネオ冒険小説界の旗手と一部認知されつつある作者が書き下ろしたロードノベルなのですが、気持ちよく手を抜いて練り上げた渾身一歩手前の悠々たる余技のように思えてならないのだなあ。脱ジュブナイル作家を果たした『頭弾』シリーズから、最近作『墓標の森』まで辿ってきた作家的メジャーへのワインディングロード。上り詰めつつあった道標からの一歩下がって俯瞰した位置から自分のスタンスを眺めてみて過去を充実させたいと願う作家的良心の発露とも取れる朝日ソノラマ作品なのであろうか。ポッとこぼれ落ちる名作が見逃せないラインナップを誇る朝日ソノラマだってことは知り人ぞ知る。梅さんの『二重螺旋の悪魔』だってここから出て来たのだよ。だからこそわざわざ寄り道した朝日ソノラマなのかもしれませんね。

 ステレオタイプの少年像。そんなのありかよ〜的なお約束ご都合ストーリー展開。分かってるからこそ安心して乗れるジェットコースターと同じ心理状態で最後まで突っ走れ。海を見に若者は九〇式戦車で東富士演習場を出発する。山中湖から富士山方向を望むとド〜ンと重低音で爆発音が響き渡るあの演習場である。裏山を戦車が走り回る非現実が日常である地元発のファンタジー。傷付き身を寄せ合う主人公たちが傷を舐め合うばかりではなく、メッセージを発信し始めてから『少年たち』は『俺たち』になる。大人に成りきれない大人が去りし日々をノスタルジックに振り返るとき、自分たちは何をし忘れたのだろうと…センチメンタルな感傷を主人公たちの行動に重ね合わせるのかもしれない。

 『頭弾』の柴火が帰ってくる。はずである。本書の扉で近々執筆開始と出ているではないか。柴火は三部作でなければいけないと個人的に思っていたので(^_^;)、長いこと待っていた甲斐があったというものである。書き下ろしか連載か。それが問題だな。連載ならリアルタイムで追っかけねばなるまいと今から決意しているのである。柴火が生き延びて皺くちゃの婆になるまで追っ掛けてやるのだ。誰がなんと言おうと…それがワンフー読者たる俺たちの疾走ってか(^_^;)。(2002年6月読了)

題名:アラビアの夜の種族 著者:古川日出男
出版:角川書店 2001年12月25日初版発行  
価格:本体2700円+税 極私的評価:★★★★

 夢か現か。『ドラクエ』か『マイト&マジック』か共通する世界観。そして『ウィザードリィ』級の暗黒波動が読み手の想像力を最大限に喚起する至福の読書体験と言ってもいいか。意図的に作者が企んだロールプレイング風調味料が実にしっくりマッチしているアラビアン・ナイト・ブリード。作中作が幾重にも絢爛たる旧世界アラブ社会の闇の奥をグイグイ抉り、直球とばかりは言えない悪魔的な作為の書。構築された作者の世界観に飲み込まれたら最後、溺れようが息継ぎできないまま流され漂うあなた任せ状態。もうどうにでもして。こういう目くるめく読書体験はメジャーデビュー作品『13』当時から作者が濃厚に所有していた作家的資質によるところ大である。言ってみれば大法螺吹きの系譜。貴種流離譚を絡めたオーソドックスな作りながらツボは確実に押さえる手練れぶりであるなあ(^_^;)。

 無理矢理設定を読者に叩き込む冒頭さえ乗り切ればOK。乗れなきゃそのままダンジョンから出ちゃえばいいのだからこれほど簡単なことはない。でしょ(^_^;)。これまでゲームのロープレで納得いかなかった点を、しっかり古川日出男流に料理しているところがミソ。腑に落ちる。目から鱗。戦士やら魔法使いが入り乱れてダンジョン攻略に血道を上げる様が理路整然と描かれればそりゃ納得しますがな。モンスター倒せば金が貰えるなんてゲーム作者の都合だけじゃんと思っていたけれど…ふむふむ、なるほど、そう来たか。古川日出男かなりのゲーマーと見た。ドラクエでいう大ボスとの遭遇編でヒートアップする夜の種族の物語。魔法戦士ってやっぱ凄いのね(^_^;)。これって冒険小説のカテゴリーに無理矢理引き込んじゃえば『このミス』上位は確実かと。

 古川日出男ってこの作品で大ブレークしたかというと、実はそうでもなかったりするのだな(^_^;)。業界ウケはいいようですが、如何せん角川書店経由だから書店でのタマ数が少ないのだ。2700円と高すぎるのもネックかも。億単位の広告費でも掛けて積極果敢に売り出せば、元は取れるほどには売れるかもしれないのに、平積みにも数えるほどの冊数しか書店では並んでいませんでした。営業が緩いのかな。ともあれ、じわじわと売れてゆく…そんな本であって欲しいものである。ゆっくり読めば3週間は楽しめること請け合い。ささ、あなたも今宵、浮世離れした活字でのダンジョン探検に浸りませんか。ハリウッドで実写版で映画化されれば、こりゃウルトラ級の超大作間違いなし。おっと、その前に英訳されなきゃ無理か(^_^;)。(2002年3月読了)

題名:フリージア 著者:東 直己
出版:ハルキ文庫 2000年9月18日 第1刷発行  
価格:本体880円+税 極私的評価:★★★1/2
題名:残光 著者:東 直己
出版:角川春樹事務所 2001年6月8日第四刷  
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★

 東直己集中読書講座って感じでここんとこ読み漁っておりますが、遅れてきた読者にとっては3系統の主人公を読み分ける作業が結構大変なのかと思いきや、それぞれに感情移入がスムーズインなのですね。作者の軽妙洒脱な筆裁きと陳腐すれすれハードボイルド加減が絶妙と言っておきましょうか。畝原と俺、そして榊原健三。本作の主人公・健三には作者の思い入れがたっぷり詰まった健さん像が明らかに投影されてるよね。仁義なき戦いの場に戻ってきた仁義ある男の戦い。多恵子って昔の女にどうしてそこまでって思わない読者はいないでしょうが、東直己は理由を明かしてはくれないのです(^_^;)。そのうち続編ででも話の一端が見えてくるかと思いきや…。

 『残光』は驚くなかれ東直己オールスター勢揃い。東映まんが祭りみたいな大サービス巨編と言っていいか。『このミス』にランクインした関係で初めて手に取った方にはインパクト大な作品ではありますが、東直己という轍を辿ってきたファン系読者にとっては「う〜む」と言わざるを得ない部分が結構あったりするぞ。メーンプロットは『フリージア』の焼き直しなのよね。そう考えれば、健三って一種ストーカーだな。こりゃ。善意のストーカー(^_^;)。健三がこれだけ熱くなってるのに、多恵子ってば寝言で「健ちゃん」だけってのは寂しすぎないかい? 両方で燃え上がっちゃうと禁断のメロドラマに突入しそうで、氷の女(^_^;)に変わっちゃった多恵子の過去に思いを馳せる。男と女の深淵をあれこれ勝手に推測するのも読者の特権である。女は現実に生き男は幻想に生きる。ストイックに勝手に隠棲してる健三も木彫りだけでは飯食って行けまい。たまにはヤクザのしのぎをかっ攫わなきゃ彫刻刀の一つも買えまいに…。現実に取り残された男の痛みが過去を取り戻そうとする反作用となって札幌の街を走り抜ける。血の花咲かせましょう…ススキノ残侠伝。ま、いくら何でも、三度多恵子が巻き込まれれることは無いはず。よって榊原健三シリーズはこれにてジ・エンド(ホントか)。

 んで、ススキノ便利屋こと『俺』ですがな。三人称で書かれると、『俺』のノリの良さの部分が会話の中でしか発揮されないがゆえに、まんま消化不良なサブキャラでしかなかったことが残念。違和感丸出しだもの。『俺』ってこんなダメデブ中年男だったっけ(^_^;)。東直己の計算なんだろうけれど、何をどう計算したのかワシにはイマイチよく分からん。しかもリアルタイムにキャラクター連中も老けてゆくリアリズムが一種残酷描写でもあり、硬派ハードボイルド路線だからってそこまでやらんでも…。しっかも『俺』ってどんどんデブになってるし、過去を清算してるのよね、いつの間にか。過去って当然『消えた少年』の安西春子のことを指しているわけですが…さて。小出しに明らかにされるサブキャラたちの近況もファンにはうれしいところですが、一見さんの読者には鬱陶しいかも(^_^;)。未読の『悲鳴』では畝原もリアルタイムで容赦なくジジイにされちゃってるのかな。ちょいと心配ではあるな。ある種身勝手な女たちに振り回される主人公たちの右へ左への振幅の具合が東直己の物語的な面白さの目安にもなってるわけで、完全無欠のいい女なんて彼の小説には決して現れないのだろうなあと勝手に推測しておりますぞ。(2002年2月読了)

題名:流れる砂 著者:東 直己
出版:角川春樹事務所 1999年12月18日第3刷  
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★3/4

 作家の名前は知っちゃいたけれど、国産ハードボイルドには原ォ以来とんとご無沙汰なのは、チャンドラーかぶれの陳腐な台詞回しにウンザリしていたひねくれ読者の気まぐれってことにしておいて下さいませ。国産もので探偵が主人公なんて、現実では不倫の奥様尾行やら身辺調査が関の山って思い込んでいた我が知識も、ほぼ一般通念と同等って考えてもさほど違和感ないでしょ。その程度の社会的地位の職業の主人公が辿る転落の道標ってのがイメージにこびり付いて、書店の平積みではなかなか手に取れなかった札幌地域限定探偵のハードボイルド系作品という図式なんですな。今から思えば大いなる損失であったなあと反省しきり(^_^;)。某HPの紹介文で読む切っ掛け作ってくれたことに感謝しきりでありますよ。本書を図書館で借りた後、畝原シリーズものを新古書店で漁り、そこに無ければ新刊書店で探しまくる今日この頃。腹立たしいのは、角川春樹事務所が絡んでるだけあって、一般書店ではなかなか手に入らないことなのである。買い取りなんですよね>ここの出版社(社長は収監されちゃったし(^_^;)。大手書店でも旬が過ぎれば注文オンリーで、なかなか入手困難な作家ということなんですねえ(ハヤカワ文庫でも入手可)。ゆえに個人的には見つけたら即買いモードであります。

 自然体の主人公が、四十代後半で、たまたま職業が探偵。力みが無いから普通なのである。日常が日常であることを活写出来る作家的成熟度を素直に評価致しましょう。取るに足らない事件の奥底が覗く社会的深度より、畝原の日常の方に比重が高いのがいい。世界貿易センタービルが吹っ飛ばされようが、地元商店街の特売情報の方が大事でいいのである。地に足の着いた日常生活。日常生活にぽっかり空いた陥穽の恐怖を私立探偵・畝原が、肥大化して身動きが取れないままに後手後手で機能不全の警察組織を置き去りにして、身軽で等身大で地味め一本槍(^_^;)の捜査活動で真相に肉薄してゆく妙味。地を這う捜査を警察に先んじて行うアイロニカルな展開も独立独歩な探偵らしくナイスである。フランチャイズが札幌ってのも琴線に触れるんだよなあ。個人的に土地勘があるもので、事件の現場が身近に感じられるのも惹かれる一つの要素なんだろうなあと、例えばスキナーのエディンバラと一緒じゃんと、つらつら思ってしまうのだ。探偵はホームでこそ活躍出来るのである。

 東直己の作品では畝原以外にも3系統の作品群があるらしい。探してるけど全作品が書店の書棚に揃って無いのである。困ったもんである(-_-)。角川春樹事務所なんて捨てて大手出版社に移籍してくれ〜と願ってみても、ハードボイルド作家の一宿一飯の恩義ってヤツで律気に書き続けてゆくのであろうなあ>東直己。なかなか手に入らないかもしれませんが、大人の読者を選ぶ良質のミステリであると、ここを読んでいる皆様にはお勧めしておきましょう。(2002年2月読了)

題名:ダイスをころがせ! 著者:真保裕一
出版:毎日新聞社 2002年1月20日発行  
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★3/4

 あくまで選挙小説であってミステリではないけれど、作劇手法は真保裕一のスマッシュヒット『奪取』を換骨奪胎したって感覚で読める点で、ジャンル外でもこういうのありかなって感じ。遅れてきた青春小説としても秀逸。若い読者に迎合してないで、中年への入り口に立つオヤジ予備軍と青春を懐かしむ世代には素直に受け入れられる一歩引いた熱血小説(^_^;)ってのがいいじゃん。34歳。作者と共通する世代なんで描きやすかったってのもあるのではないかな。年月を隔てたクラス会で確認する歳月の重み。若い奴らには分かって貰わなくても結構。リストラ世代の仲間入りした34歳に『ようこそ』と言おう。それでも、34歳にはまだ反発力が残っていた証明。若さと甘さを残しつつ、燃え尽きる寸前の線香花火的な切なさをバックグラウンドに疾走する放たれたダイスたち。転がる先は国会か、はたまたハローワーク? ほろ苦い清涼感を存分に味わえる面白本である。

 選挙小説の体裁を採るゆえ、ミステリ的要素はあくまで風味のままである。スパイは誰であるとか、掘り出された事件の真相なんてものは地方自治レベルで、作者としては、そんなことよりも選挙関連の情報&教養小説としての側面と、夢と情熱を追う青春小説の部分を大事にした作品なのだ。あれこれ教えてもらっても右から左へ抜けちゃう選挙システムを分かり易く、大筋分かっちゃいるけれど実は詳細は分からなかった部分(^_^;)に日を当てる真保裕一の企みは成功しているようである。この本をシュミレーションにして実際に選挙に立つ連中がいてもおかしくはない内容なのよね。個人的には、カミさんの友人の旦那がこの小説の主人公たちと同世代の代議士だから余計そんなこと考えちゃうのさ。

 こういう本を出すってことは、まだ、ミステリの枠を抜け出そうなんて考えるほど、行き詰まってない作者が手探りで他ジャンルを吟味してる段階だと思ってますが、桐野夏生みたいな例もあるから、目を離しちゃいけない作家ではあるな。今月は、我が町田市でも市長選挙が控えているので、地方自治の原点に返る意味でもちゃんと投票に行かなくっちゃいけませんな。本書にも出てくるけれど、そろそろホームページでの選挙活動を認めても良い頃だと思うのよね。今の公職選挙法に胡座をかいてる政治家どもと対等に、この際、草の根政治家にも道を開くべきでありますぞ。(2002年2月読了)

題名:サイファイ・ムーン 著者:梅原克文
出版:集英社 2001年9月30日 第1刷発行  
価格:本体1600円+税 極私的評価:★★★1/2

 『カムナビ』でズッ転けちゃった(^_^;)梅さんがサイファイ街道まっしぐらの連作短編集であります。相変わらずキャラは立ってるけれど文章上手くないよなあと変な風に感心してしまう梅さん節は健在。個人的には『サイファイ』論争以降の梅さんは、色褪せつつある過去の作家としか見られない部分に限りない物足りなさを感じまくる今日この頃なのである。『科幻小説家』ならではの『面白さ』は『ぬるさ』との同居とでも言っておきましょうか。『二重螺旋…』の頃の悪魔的なワイルドな熱気と猥雑さが売りだった面影は遙か遠く…(^_^;)。短編集でお茶濁してないでさっさと書き下ろしで直球勝負して欲しいのよね。ま、夏頃までには出るらしいけれど…。

 などと注文ばかり書き連ねましたが、本作のネタ自体は手垢が付いたF・P・ウィルソンあたりの焼き直しってとこが引っ掛かるけれど、すべてのネタがクロスオーバーしてくる辺りからサイファイ作家ならではの『科幻』な部分がビンビン読者の琴線に触れてくる仕掛けなのだ。夜ごとに蠢く怪事件をバイオ・タイド理論に結びつける力業は梅さんならでは、だな。センス・オブ・ワンダーの残滓…。ただ、そこがぬるいのが傑作以前の段階で着地してしまうもどかしさ。星野仙一みたいに直球で内角高めを抉るべし!

 おまけに付いていた『アルジャーノンに菊の花を』は、ま、ありがちネタ(^_^;)ってことで…誰でもSF系作家なら考えるよね、こっち方面って。猿が持つ『悪意の部分』で梅さんならではのニヤリとさせるブラッシュボールを垣間見ました。これに二重三重複雑系の畳み込みがあれば、無敵の梅さんになれるのに…と溜息(^_^;)。(2002年1月読了)

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