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2000年度国産作品感想文

 国産作品に縁遠い私ではありますが、読まないわけではありませぬ。面白ければガンガン読み末世じゃなかったまっせ。まあ、ぼちぼちと更新して行きますので、気長にお待ち下さいませ。んじゃ、こっちも発進!

題名:狼は瞑らない 著者:樋口明雄
出版:角川春樹事務所 2000年11月28日第1刷発行 本書は買い取り制ゆえ書店によっては置いてないかもしれません。だから角川春樹って…(-_-メ)。
価格:本体2100円+税 極私的評価:★★★★

 『頭弾』『狼叫』で圧倒的興奮&感動を、関東軍の昔から馬賊とともに伝えてくれた樋口明雄が我らがフィールドに戻って来てくれた! ファンならずとも、冒険小説マインドが行間から溢れ出す樋口明雄の筆裁きに喝采を送るほかないでしょう。なぜ書評家の間でもさほど脚光が当たらないのか不思議に思っておりましたが、本格プロパーなオジたちが手を出さなかったのが不当評価の遠因であろうと勝手に解釈しております。樋口ワールド未体験の読者は、ちょいとクサめのタイトルに臆すること無しに手に取ってみて欲しい。

 陳腐な謀略部分はご愛敬(^_^;)。このご時世、隣のステレオの音量が大きいってだけで人殺しが起きちゃうトンデモ世紀末なだけに、現実には何が起こっても不思議ではないけれど、説得力ある絶望感が必須の冒険小説に、そこまで踏み込めなかった弱さは確かにあると認めましょう。それを差し引いても圧倒的迫力でお茶の間に飛び込んでくる北アルプスの大自然。ホワイトアウトした稜線での壮絶アクションに瞠目せよ。山岳警備隊の隊員の息遣いが耳元に…遭難者救助のリアリズム。綿密な取材と南ア在住の著者ならではの臨場感が迫り来る白い壁の恐怖とともに読者の想像力に雪崩れ込む。

 『頭弾』の柴火という女主人公から、新たに男性キャラを作り出した作者の挑戦は結実致しました。佐伯鷹志のストイックなまでの死生感が、標高2000メートルの舞台で過去と決別し、新たな希望を掴むに至る超絶アクションの説得力。亡き父とのスピリチュアルな交流こそが清浄なる山河に架かる虹となって感動を呼ぶのだ。山が哭き男たちの絆はさらに深く…ここで心が熱くならない読者は本書を紐解く資格がない。FADV者なら必読!と敢えて断言しておきましょう。(2000年12月読了)

題名:新宿鮫 風化水脈 著者:大沢在昌
出版:毎日新聞社 2000年8月30日発行  
価格:本体1700円+税 極私的評価:★★★1/2

 ついに新宿鮫もこんな枯淡の境地に到達した(^_^;)。ついでに新宿の歴史に蘊蓄並び立てて昔の犯罪を掘り起こすレトロなスタイルを選択したのは、登場人物を限定して風化水脈の中に溺れる人間の儚さを、岸辺で優しく見守る鮫島の『老い』の部分をクローズアップすることであろうか。ベクトルが後ろ向きになっちゃってる鮫島には、個人的にはさほど興味が無い。シリーズ読者にとって内証的に潜航する鮫島の思考回路に渋めの文学的素養に共鳴して惹かれるでしょうが、鮫島の浮き上がって来る孤独感をもっとハードにもっとシビアに書き込んでくれるはずの大沢在昌に期待する部分があるだけに、ミステリ単行本としての評価はこの程度にせざるを得ない、かな。大沢在昌的にも番外編的位置づけかもしれませんね。

 付け足しのような晶との関係も通り一遍な描写で終わっちゃってるし、新聞連載ゆえ、これまでの鮫島の歴史と立地点を再確認しつつ新規読者に分からせる大沢の周到さではあるが、シリーズ読者にはちとうるさい部分もあたりして(^_^;)。自分の過去を確認する作業は鮫島の貌に陰影を重ね、その光と影に読者が過敏に反応したのでありましょう。周囲では結構評価高いのよね>『風化水脈』。新聞連載がプラスになった希有の例かもしれませぬ(^_^;)。しっかし、連載終了後速攻で出版した毎日新聞社出版部は偉いっ! この辺の機動力はさすが新聞社の端くれと誉めておこうか。

 新宿といえば、当然のごとくやくざ絡みの人間模様になっちゃうわけだけど、ホステスと出所したマル暴の純愛(^_^;)ってのがクサいんだよなあ。大沢節のコブシがぐいぐい回っちゃうぞ。巧すぎるだけに作為が浮き上がって見えてしまうのはワシだけかなあ。些細な幸福ですら存在を許さない馳星周の新宿と優しさの欠片が零れ出す大沢在昌の新宿。同じ貌の裏表。ハードボイルドを感傷世界と捉える作家の目がよりセンチメントに進化した結晶と言えなくもない。次回作は、平行して連載されていた『灰夜』が刊行準備段階に入っている今、光文社2文字路線でよりハードに活躍する鮫島に期待大だな。(2000年9月読了)

題名:オルファクトグラム 著者:井上夢人
出版:毎日新聞社 2000年1月30日発行 『99人の最終電車』はこちら。
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★★

 ミステリ作家・岡嶋二人から離脱した井上夢人は、ミステリの枠組みから逸脱した意欲的作品の創造に精力を傾けている様子である。発想の斬新さがこの人の創作意欲を支えているようにも見えるのだ。新しもの好き。何年か前のインターネット上での封切りインタラクティブ小説『99人の最終電車』に着手したのも、従来の小説形式には飽き足らなくて作家的な冒険を知的に繰り広げたものであろう。この人の興味の広がりはアメーバのように常に形を変えながら好奇心の向くままに触手を伸ばす。そんな感じではないか。で、この人の興味を示した先が、嗅覚の分野なのね。そこから膨らむ井上流センス・オブ・ワンダーが爆発的に面白い。我々が普段から感知すらしなかった世界。ヴァーチャル・リアリティ・イメージにも似た嗅覚を視覚化して見え始めた五感がひっくり返るような感覚。イメージの奔流。SF作品と言ってもいいかもしれません。しっかし、井上夢人はミステリと融合してしまうのだな。

 マンハントにはさほど重点を置いてはいない。目眩く嗅覚世界(^_^;)。そっちが優先だもの。語り尽くす前に殺人事件の犯人探しじゃ興ざめしちゃうし、ねえ。拡がる一方の嗅覚情報を整理しつつ、犬が鼻を利かすように自分の嗅覚をコントロールする術を覚えてからが、『嗅覚サスペンス』としての本領を発揮するのだな。これぞ本物の『官能サスペンス』ってか(^_^;)。嗅覚から辿るマンハント技術のタクティクスをひねくり回した工夫がことのほか興味深い。要するに犬ですよね。帯にある『ぼくの鼻は、イヌの鼻』そのもの。僕がどうやって犬になるのか。何だか目に見えるようでクスクス笑ってしまったぞ。

 シリアルキラーの造形等不満な箇所も少なからずあるけれど、最後の決着をミステリ的に安易に流れないで、嗅覚サスペンスらしいオチに結びつけてくれた手腕に感心してしまう。青春モノらしく爽やかに決着するのは連載していたのが一般紙系列の週刊誌だったってところもあるのかもしれないですが、ここのところ殺伐としたサイコ系スリラーばかり読んでいた私には一服の清涼剤的な面白ミステリでありましたな。おっと思い出したぞ。『鼻』関係なら『カニスの血を嗣ぐ』と『スメル男』なんて作品もありましたねえ。『耳』関係なら海の向こうで『音の手掛かり』なんて本格ハードサスペンス作品があったけど、はて『目』関係は何かありましたっけ?(2000年8月読了)

題名:燃える地の果てに 著者:逢坂剛
出版:文芸春秋 1998年8月10日 第1刷  
価格:本体2095円+税 極私的評価:★★★2/3

 スペイン。ギター。逢坂剛。三題噺じゃないけれど、この人ツボにはまればスマッシュヒット飛ばすから文句が表向き出て来ないようですが、もういい加減スペインものから脱却したら如何?と言いたくなるのはワシだけかぁ(^_^;)。しかもまたぞろギター三昧じゃん。な〜んてワンパターンだろうと呆れながら読んでおりました。ま、倉木警視シリーズなんてのもあるにはあるんですが、ね。でもさあ、この人の本流はスペインものにありってのが見え見えなんで、ファンの方には申し訳ないが、あえてここで言い掛かりを付けようと思ったってわけ。何せ98年『このミス』ベスト10の上位にも入ってたことだし…ねえ。

 確かに面白いことは事実なのですが、淡々と進行する物語の熱気のなさに、ついこっちも淡々と読み進んでしまう(^_^;)。緊迫感に欠けるエスピオナージュ的な裏話をもっと読ませる工夫をしてくれれば文句なしなんですけど、ねえ。活劇描写はきっと苦手なんでしょうな>逢坂剛。作中の年代が年代だけに牧歌的に見えてしまう部分を補ってスペインの片田舎の日常が逢坂剛らしさ横溢で微笑ましかったりするけれど、日本人にホセリートなんて名前付けるなよって怒りさえ覚えつつ読んでしまったぞよ。ところがですね、そこがトリックでもあって最後のひっくり返しの伏線になっていたのですな。意外性に満ちた仕掛けは二重丸。もうちょいと劇的な邂逅シーンであってもいいんじゃないのって思った部分もまた事実。おっと、『私を弾いてフォルティッシモ事件』。しっかり確認させていただきました(^_^;)。

 現実にあったニュースから題材を採るのは、クィネルもそうですけど、逢坂剛もうまいこと換骨奪胎してオリジナルなストーリーを組み立てたのはさすがですな。冷戦終結後の冒険小説的フィールドの旱魃状態に慈雨となるヒントではあるぞ。世界に散らばるローカルなネタからサルベージされる冒険小説スピリットにレモンを一絞りすれば、抜群に味わい深いカクテルの出来上がり。料理人でもありバーテンダーでもある手練れの作家連中ににこれからも期待しようではないか。(2000年7月読了)

題名:虹の谷の五月 著者:船戸与一
出版:集英社 2000年5月30日 第1刷  
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★1/2

 世界に散らばるローカルで些末な人々を無理矢理土俵に引っ張り上げて、これでもかこれでもかと船戸節を存分に謳い上げる。あくまで世界の片隅のお話。誰が生きようと誰が死のうとお構いなし。生死を乗り越えた誇りと希望の物語。新世紀冒険小説の戸口が開いた瞬間でもある。SAPIOの連載で世界の辺境の地を作家の目でつぶさにルポしてきた船戸ならではの着眼点だと思う。ステディカムで執拗に原住民を生活の中まで追い続けるようなタッチ。立ち昇る生活感。息づく個人の視点こそが船戸が追い求めるリアリティである。

 救済の地の象徴でもある虹の谷。絶望の地でもある。ジャピーノの少年が掴み取ることが出来るのは果たして…。そこに至るまでの少年の成長の物語。日系少年を物語の中に放り込んだのは、国産小説ゆえの舞台設定でしょうねえ。彼がハーフであるところが船戸の進化でもある。ほぼフィリピン人に同化したジャピーノ。異分子が同化する過程を克明に記録することによって誇りと希望を浮き上がらせる。異分子が新世界と旧世界の架け橋になっているのである。だからこそ船戸が選んだバックグラウンドなのだ。

 物語を支配する無常観は相変わらず。船戸は船戸だなあ。冒頭、闘鶏シーンから導き出されるフィリピンの混沌。側面から描き出そうとする作家の炙り出しにも似た作業こそが職人芸とも言うべき彼の異能なのである。掘り起こされる好奇心。船戸にはすべてを俯瞰する神の視点に立たず、地を這う視点の作家であり続けて欲しいものであるなあ。(2000年7月読了)

題名:てのひらの闇 著者:藤原伊織
出版:文芸春秋 平成十一年十月三十日 第一刷  
価格:本体1667円+税 極私的評価:★★★1/2

 この人の文章の上手さは定評あるところですが、その上手さを剥ぎ取ってしまえば、結構ありきたりな元極道の生き様が予想通りに小出しにされてゆくシンプルな物語。いいのかこんな程度でって思う部分もなきにしもあらず。『てのひらの闇』ってぐらいだからその程度の闇で結構という作者の自負か。複雑に入り組んだプロットを組み立てなくても、筆先三寸で面白くしてしまいますよって自信満々で麻雀卓を囲む藤原伊織の姿が目に浮かぶぞよ(^_^;)。

 この人の作り出すキャラクターは、確かに心地よいハードボイルドな独白で読者を魅了するが、何だかいつも一緒な感じが付きまとって既視感が支配するのだ。まあ、ハードボイルドな物語って多かれ少なかれそういう感じがありがちかも(^_^;)。藤原伊織だからってことではないのだが、この人の物語には波瀾万丈な展開がさほどないので余計その辺が目立ってしまう。作者も意識して主人公にアウトローな付属品でアクセントを付けておりますが、そういうヤツがサラリーマンやってて牙を隠したまま二十年近くも羊でいられなかったって、当たり前だのクラッカーじゃん(^_^;)。そんな洗練された元極道の隠れキャラが格好良く都合良く立ち上がってくる展開に、上手いなあと唸りつつ、こいつ自分の筆に酔ってるよなあとやっかみ半分…読み進むって寸法だ。

 脇役の造形の確かさに感心しきりである。大原のキャラが男連中にはウケがいいのではないかな。こういう部下がいてくれたらルーティンワークな勤続疲労も吹っ飛ぶってもんだよね(^_^;)。バーの姉弟のユニークさもよく練り混まれているし、こういうバーだったら入り浸っちゃうかもしれませぬ。まあ、てのひら程度の闇がこの人の限界だとは思わないけれど、ここら辺から抜け出す新境地が欲しいと個人的には思っておるのだが、この人の売りである文章力を生かすのもこういう設定がしっくりくるからして、イメチェンは難しいような気もするなあ。(2000年7月読了)

題名:風転 著者:花村萬月
出版:集英社 2000年6月10日第1刷発行  
価格:定価2730円(本体2600円) 極私的評価:★★★

 萬月の常套手段って言っちゃうと語弊があるかもしれないけれど、インテリやくざにピュアな少年の組み合わせってのは心地よいけれどワンパターンなのよね。いつものように思索的に血みどろエロまみれの道をひた走る主人公たちの行く手に待つ地獄を、読者には巧みにはぐらかしながら汗掻きマス掻き寝首を掻くいやはやトンデモ珍道中(~_~;)。萬月自身、長期連載中に何度も弱音を吐いた痕跡が本文中に散見できるし、自己否定しながらも完結に漕ぎ着けた作者の苦闘と主人公たちの風転ぶりがシンクロする妙に可笑しく哀しい大たわけ者たち与太話なのである(~_~;)。世が世なら大カブキ者として一世を風靡した大物になってたかもと思わせる栂尾鉄男の存在がユニーク過ぎて、物語のバランスを限りなくぶち壊しつつアンバランスの奥底に覗く人生の真実の欠片を親殺しの少年=ヒカルが掴み取ることが出来るのか。読ませどころは毎回同じく少々くどさも鼻につく萬月流蘊蓄も、人によってはたまらなく鬱陶しいでしょうなあ。

 それでも読みどころは多々ありますぞ。父親の再評価から導き出されたヒカルの剥き出しの感受性(素直な殺人者だよね(^_^;)。鉄男の性と暴力と哲学(^_^;)が支配する行動律。繰り返し萬月が提起する新たなるモラルの地平を辿って到達した鹿児島の地で待ち受けるヒカルと鉄男とカブキと萌子の運命や如何に。旧モラルの破壊者たる鉄男とヒカル。彼らのロードノベルと化した中だるみを乗り越えて、風に転がる先に先送りしていたモラルとの決着を付けずには終わらなかった物語。いや、終われなかったと言うべきか。カオスに飲み込まれる主人公4人は旧モラル対新モラルの鬩ぎ合いの渦に飲み込まれたということでしょうか。補完する世界。バランサーとしてのカブキの存在。超えそうで超えてしまわない萬月のメンタリティは、今の作者の社会的地位から伺い知ることが出来るのかもしれないなあ。デビュー当時の萬月だったらどこまで飛翔するか、そういうポテンシャルを秘めた作品と言っておきましょうか(^_^;)。

 度重なる十代の殺人事件に萬月自身も週刊誌等でコメントしてるけれど、彼自身のバイオレンスな十代を遙かに超えた新人類たちが闊歩している状況は、個々のモラルを確立せよという彼のメッセージを逆手に取ったような若き殺人者たちのモラルを身に着けた恐るべきアンモラルな社会に直面している危惧へと変わり始めている。現実社会への新たなるメッセージとして世に問われ始めている悪夢的な個のモラルの乱立は、旧世界秩序を破壊しているようにしか見えないのだけれど、やはり萬月自身はそれは個の問題として突き放してしまうのであろうか。彼の描く暴力のメッセージ性を否定するわけではないが、彼の自分流哲学を押しつける部分にはある種の危惧を感じざるを得ないなあ。おっと、だからこそのバランス感覚なのかなあ。単なる娯楽作品では終わらない芥川賞作家ならではの問題作として読みました。(2000年6月読了)

題名:アナザヘブン 上、下巻 著者:飯田譲治 梓河人
出版:角川ホラー文庫 平成12年4月25日 7版発行  
価格:上下各本体648円+税 極私的評価:★★★2/3

 松竹系で映画化され話題になってる作品でありますな。ノベライズじゃなくて、まず小説ありきですのでこのコーナーでも取り上げてみました。売れてるんですよねえ>こんなホラー作品が(~_~;)。まあ、映画化のお陰でしょうけど、よくもこんなホラーを映画化したもんだと呆れるばかりのSFホラーアクション巨編であるぞ。江口洋介やら柏原崇の名前に惹かれて映画館に足を運んだ女性ファンは腰を抜かすに違いない(~_~;)。

 映画的な描写は飯田譲治が本職の映画監督であることによるが、小説的面白さは梓河人の手柄であろう。作中キャラクターの作り込みはそのまま映画の原田芳雄と江口洋介を当てはめて読んでましたが、これほどピッタリ来るのは映画のことを知ってたからだろうなあ。早瀬学のキャラって現代的でありながらオーソドックスな刑事キャラを逸脱した情熱が実に突出していてナイス。そこに原田芳雄の飛鷹刑事でしょ。『ナニカ』がなくても異色の刑事ドラマに仕上がってたでしょうねえ。こりゃ映画見に行くしかないか(~_~;)。

 『ナニカ』の存在が荒唐無稽過ぎるって批判もあるでしょう。ワシもそう思ったもの。古くは映画『ヒドゥン』やら平井和正の『死霊狩り』とか同様の設定作品は探せば幾らでもありそうですが、オリジナリティという点では、脳味噌料理のレパートリーってとこでしょうか(~_~;)。換骨奪胎言い換えればパクリ。面白けりゃ何でもありって熱気が横溢する作品なのね。映画版のムック見ましたが、鉢植えじゃないんだからって突っ込みたくなるスチール写真。いやはや。個人的には市川実和子演じる朝子に早いとこ会いたいけれど、興行的に結構イケそうなのかな。これを切っ掛けに新たなホラーファンの地平が広がってくれると、ホラー系読者としてはかなりうれしいぞ。(2000年5月読了)

題名:美濃牛 MINOTAUR 著者:殊能将之
出版:講談社ノベルス 2000年4月5日 第1刷発行  
価格:本体1800円(税別) 極私的評価:★★★

 処女作『ハサミ男』が一部絶賛された殊能将之の第二作なのでありますが、極私的には引き続き感心しなかった作品ではあるのよね(悪いけど(^_^;)。帯にある『2000年本格ミステリの最高峰、早くも登場』の惹句に騙されないで頂きたい。この分厚さから傑作の予感すら漂ったのだが、ただ分厚いだけだった…(^_^;)。横溝正史やら江戸川乱歩あたりの土俗的なおどろおどろしさ横溢の探偵小説を換骨奪胎して今風にアレンジしたのでしょうが、舞台となるド田舎の雰囲気とともに誘われるはずの迷宮への招待状が作り込み不足なのが致命的。童歌やら鍾乳洞やら奇跡の泉などそれっぽい舞台装置だけ引っ張り出してきても、そこへのはめ込み方が強引さを免れていないので違和感ありあり。うだうだと饒舌なのもマイナスか。うざいぞ>石動。

 連続殺人のさなか句会なんぞにうつつを抜かす奇妙な人々。この辺の登場人物の作り込みが殊能将之らしいと言えばらしいけど、ね。石動戯作ってふざけた名前の主人公が実は探偵であった事実を隠しながら最後まで引っ張るのは次回作への布石なんでしょうが、今時、探偵小説の舞台になるおどろおどろしき土地やら一族やらはそうそう現れそうにないし、探偵なんざぁほとんど用無し=奥様の浮気調査がいいとこだもん(^_^;)。個人的に本格系から足を洗ったのはそういう理由によるのですが、探偵を生かすための舞台づくりに苦労して、そこから無理矢理ストーリーをひねくり出すと作為の目立つ違和感だらけの作品に行き着くわけだな。

 物語のひっくり返し方は定石通りに収束いたしましたが、ヒロインの窓音の書き込み不足が惜しい。前半戦、もう少し伏線が欲しかったぞよ。唯一キャラが立ってましたねえ>彼女。有名な『飛騨牛』未満が『美濃牛』だってことを本書で初めて知りましたが、皮肉なことに本書が『美濃牛』止まりだってことに結び付いてしまいましたねえ(^_^;)。ミノタウロスに美濃牛引っ掛けたのが無理矢理技巧を象徴しているようでもあり、鼻が利くすれっからしの読者なら敬遠してしかるべき作品であったのに、書店で思わず手に取った我が不覚を恥じるのみ(^_^;)。もう『本格もの』は読みませぬ。とほほほ。(2000年5月読了)

題名:できるかなリターンズ 著者:西原理恵子
出版:扶桑社 2000年4月20日初版第1刷発行  
価格:本体952円+税 極私的評価:★★★★

 ますます凄まじい進歩(退化って説もある(^_^;)を遂げている女傑漫画家・西原理恵子のサイバラ式激闘の軌跡。相棒に凄まじいのが加わって(実は旦那なのであるが)、相乗効果で馬鹿の二乗が東南アジアに炸裂する鳥頭な紀行がパンクで脳味噌沸騰するような面白さなのである。普通の週刊誌や一般紙が決して書かない世相の裏側に意地汚く迫る超過激ルポがサイバラ式に超デフォルメされて、何事も一歩手前で躊躇する似非突撃精神がアナーキーな西原の自堕落な本質を自ら被虐的に抉ってみせる快挙(^_^;)。

 乳首を立てた自衛隊員なんてのが、こういう風にマスコミに露出するのは空前絶後なんじゃないか。読んでない方は誰も信じないでしょうが、これは紛う方なき真実なのでありますぞ(^_^;)。しっかし、こいつらPKOでカンボジア行ってて宿舎で乳首出すかぁ。国防の最前線がこんなことでいいのか。いいんです。彼らは本物の戦争になってもどうせ引き金は引けないのですから。第二次世界大戦のさなか、米兵の六割近くが実戦で引き金が引けなかったそうです。人殺しへの禁忌が彼らの行動を抑制したのだそうで。欠けている物は何か=兵士を殺人マシーンにする訓練。苦い教訓からベトナム戦争時、米軍は兵隊の健全だった精神を麻痺させて反射的に引き金を引き銃剣を突き刺す訓練を課したという事実。精神が壊れた彼らの戦争後の深刻な後遺症。60年代以降多発したシリアルキラーとの関連性等々。ともすれば世代と国家間を飛び越えた深刻な問題に、あえて表層だけ取り上げて笑いのメスを入れる西原のバランス感覚は貴重なモノであるな(たかが漫画にそこまで深読みしてどうなる(^_^;)。

 『クメール人は芸術と戦争が上手なんです。だから笑って人が殺せるんです』。朝日新聞の特派員がこんな地元の婆さんの声を拾えるのか。な〜んて、高尚な漫画の体裁を借りた啓蒙書だと思ったらと〜んでもない大間違いで、ほとんど大馬鹿の酔っぱらいの不良漫画家の西原を、漫画に出てくるよりは実際、少しばかりまともなフリージャーナリスト・鴨ちゃんのまともなルポルタージュが無ければ単なるアホバカなクソたれ漫画で終わってるはずなのであります(^_^;)。西原に似つかわしき旦那ではあるぞ>鴨ちゃん。今後は脱東南アジアで欧州ハチャメチャ突撃ルポを西原とともにモノにして頂きたい。(2000年4月読了)

題名:quarter mo@n クォータームーン 著者:中井拓志
出版:角川ホラー文庫 平成11年12月10日 初版発行  
価格:本体762円(税別) 極私的評価:★★★1/2

 『レフトハンド』で特異な才能を見せてくれた中井拓志が帰ってきた。それも書き下ろしでってところが嬉しいじゃありませんか。しかも2年半のブランクから大幅に進化して。プロの筆裁き。『レフトハンド』での掴みどころの無かったストーリーの舵取りから得体の知れなさ加減を逆手にとって新鮮な恐怖を見せてくれたけれど、本作品ではさらに強化された構成力が一見どう展開していくか見通しの立たないプロットを支えているのは衆目の一致するところであろう。500ページを超える分厚さはページだけではなく登場人物の厚みをも付加しているわけで、しかも一般には馴染みの薄いインターネットとホームページを巡る掲示板のアンダーグラウンドな世界を垣間見せ、現実世界でも最近顕著なネチケット逸脱をさらに過剰にフィクションの世界で増幅させてこういう風に発展させたのは作者のイマジネーションの勝利だな。

 こっ恥ずかしさすら感じさせる中学生どもの独特のメンタリティをうまいこと抽出して、ホラーとして戦慄を呼ぶ旋律を織り込む作業はデビュー二作目とは思えぬ達者さである。大人対中学生。主人公を半人前な女警部補に仕立て、離婚したてで現実感ありありのベテラン刑事との凸凹コンビをネットの中の悪夢に連れ込み、ファンタジーの部分を検証するには打って付けの人材ではないでしょうか。夢想と現実との距離感。刑事たちが夢想に近づくにつれ現実との狭間が揺れ動き月が支配する殺人事件へとつながる。感情移入して読めるとしたら、我々世代は離婚したての楢崎刑事の方でしょうから、やはり現実との乖離にさらに距離感持ってしまうでしょうなあ。この辺やっぱし説得力弱いよね。作家的成長で読者へのアプローチが上手になった分、掴みどころのある物語(~_~;)になったきらいがあるかも。荒唐無稽でも何とか着地しようという辻褄合わせが、破天荒さを逆に奪っているような気がし無くもない。迷路の中に足を踏み入れるような不安感がこの人の持ち味だと個人的には思ってるんで、うまくなり過ぎないで欲しいってとこもあるのですよ。

 何はともあれ、定期的にホラー文庫を出し続けてくれる角川書店は偉いっ! 海外文庫は価格がメチャ高いけれど、こういう出版社の姿勢は評価してもいいと思うのだ。ホラー小説大賞からから育ってくる人材が最近は粒ぞろいで、オジさん読者はことのほか嬉しいぞ。ジャンルを超えてもホラーテイストを忘れずに進化し続けて欲しい作家ではあります。あまり雑誌等で連載してるとも聞かないし、寡作な方でもありますが、その分しっかりと書き下ろしでズブズブと怖がらせておいてしかも脱力系(~_~;)でもある面白ホラーを読ませてくれい。(2000年3月読了)

題名:100%ピュア 上、下巻 著者:比留間久夫
出版:幻冬舎文庫 平成9年4月25日初版発行  
価格:本体各686円+税 極私的評価:★★★

 出版当時、新聞各紙で話題を攫ったサイコ・スリラー作品として帯では紹介されていますが、意図的に時代風俗を取り入れた描写からして今となってはサイコパスに関する解釈を含めすべてに古臭さ(と言っても90年代半ばの古さね)を感じる部分が足を引っ張るのだな。まあ、昔を懐かしむのなら、こういうノリもありかなって好意的に解釈してもいいか。主人公が女子高生だし、出てくる連中が彼女を取り巻く同世代あるいは近しい業界オヤジなので、青春しちゃってる千夏ちゃんの等身大の苦悩を甘酸っぱく眺めるのもよし。ただ、彼女たちの周辺が人工的でおじさん読者には違和感ありありってとこはマイナスですな。当時の読者におきましては、こういう風俗を許容していたのであろうか(^_^;)。

 幼女連続誘拐殺人。手首を女性タレントに送りつける怪異な犯人像。そういえばスティーヴン・ドビンズ『死せる少女たちの家』でも手首がキーワードでしたっけ。『特別の男の子』が辿るサイコパスへの道。解説でも香山りか精神病理学的に肯定しているので、なかなか表に出てこないサイコ者たちの精神構造と健常者とのギリギリ境界線が垣間見れて興味深い部分は素直に感心してしまおうか。千夏vs『特別の男の子』のタイマン・バトルがヒートアップする後半戦。こりゃ結構凄いよ。純粋=100%ピュアを追い求める『特別な男の子』との関係によって自らも浄化された千夏の精神の奥底に封印されていた闇もまた晴れ上がるラストは、それなりに感動的ではある。作者が変にコーティングしていなければ、2000年のミステリ・シーンでも十分に通用する作品に仕上がってると思うのだ。

 私ゃ寡聞にして知りませんが、比留間久夫って元々こういうサイコなミステリ書くような作家じゃないんでしょ? どっちかって言うと青春ぷんぷん=千夏のボーイフレンド山口俊也のサブ・ストーリーこそがこの作家の本領と見たが如何? 何かの機会があればまた手に取ってみるかもしれません>比留間久夫。ただ、文庫本コーナーじゃ滅多に見かけない作家ではあるのよね。(2000年3月読了)

題名:龍神町龍神一三番地 著者:船戸与一
出版:徳間書店 1999年12月31日 初版  
価格:本体1800円+税 極私的評価:★★★1/2

 船戸与一はいつから西村寿行になったんだい(~_~;)。饒舌なるこのノリは一歩間違うと軽薄短小になっちゃうところをちょいと顔を出す船戸節で救われてる危ういバランスの上に成り立ってる作品であるぞ。まあ、連載してたのが『週刊アサヒ芸能』であるからして納得の大風呂敷なのであるが、それにしても五島列島が舞台で、フィクションとはいえこのノリはかなりヤバイんじゃないのかな。血の濃い九州人のさらに上行く離島の下半身事情(~_~;)。いやはや舞台は整ったところで…。

 しっちゃかめっちゃか龍ノ島。何が起こるかワンダーランド。殺人連鎖。憎悪連環。町長撲殺。吸血蝙蝠。女校長縊死。極めつけはフラシスコ松本の登場だあ(~_~;)。主人公がいかにも船戸なのよね。元刑事の梅沢伸介。犯人射殺歴あり。ムショ帰り。相方にはみ出し現職刑事の郡家徳雄のコンビが抉り出した真相とは…。こいつらのアクの強さの上を行く悪徳警官パンジーの八方破れぶりがほんなこつ痛快丸かじりばい。九州弁の洪水で頭の中は豚骨スープみたいに白濁しちゃいますが、途中までのこの破天荒な面白さは特筆モノでしょう。終盤戦にさすがの船戸も息切れして、なんやこれ的な結末が足を引っ張りますが、一癖も二癖もある奴らは皆くたばる船戸節は健在でありましたぞ。別な意味での超弩級ミステリ、かもね(~_~;)。

 こういう動機って、ミステリじゃほとんど反則ワザじゃん(~_~;)。まじめに船戸の重厚な冒険小説を期待する読者は、ものの見事に肩すかしを食らうでしょうから、ゆめゆめ期待するなかれと断り入れておかなくっちゃ。ま、ちょいとすれっからしのミステリ飽食派に結構毛だらけな異色作品というスタンス。決して『このミス』ランキングに絡むような作品ではないけれど、ワシは好きです>こういうの(^.^)。悪ノリが過ぎる部分もあるけれど、遊び心が生きてるのよね。文字通り脳味噌飛び散る1000枚のお年玉でした。(2000年2月読了)

題名:白夜行 著者:東野圭吾
出版:集英社 1999年8月30日第3刷発行  
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★1/2

 東野圭吾って読み易くていいのだけれど、私にとってはそれ以上でもなければそれ以下でもない作家だったわけ。どっちかというと本格畑の作家だし、ね。新刊が出ても「あっそう」って感じ。分かるでしょ>この感覚。世間的には売れっ子でも自分的にはイケてない作家。例の『秘密』でブレイクした感があるけれど、それ以上にこれまでの殻を打ち破った『白夜行』ってとこでしょうか。読む前は装丁に違和感覚えたけれど、なるほど読後腑に落ちる真っ黄色な表紙は彼らの心象風景だったのね。大阪生まれの作家ならではの大阪原風景が東京者の私には眩しかった。

 国産ミステリのみの読者層には確かにインパクトある作品かもしれません。海外作品では結構こういう裏で操る系の技巧派作品ってそこそこ昔からあったよね。おっと、国産でも京極堂の『絡新婦の理』なんかも範疇か。言ってみれば、天童荒太『永遠の仔』の裏ヴァージョン。いずれもさすらう魂の叙事詩。読者の心に打ち込む楔の重さは作家的力量の証。この辺はさすがです。ライトな文章でも構築する世界観はズシリと手応えありまくり。

 虚無に満ちた二人の行方に横たわる数々の死人。確かに巧緻なまでに設計され尽くしたミステリの皮を被った男と女の逃避行の物語。手練れの筆に唸るけれど、寸止めでサラリと次へ繋ぐのはコーティングして襤褸を隠す甘さに似た物足りなさを感じたのも事実。だから個人的には余計に東野圭吾から距離を置いていたのでしょうね。確かに世に問えば傑作と呼ばれるかもしれませんが、残念ながら極私的には佳作止まりでした。因果応報を求めるか、完全なる勧悪懲善たるエンディングがもう少し切れ味ある結末が欲しかったなあ。桐原には哀切極まりない物語となってしまいましたが、雪穂には罪と罰を明確に与えて欲しかった。尽くす男の哀しさ。最初は贖罪でもやがては愛の形に変わり得たのであろうか。女性読者の感想を聞きたいっすね。(2000年2月読了)

題名:柔らかな頬 著者:桐野夏生
出版:講談社 1999年4月15日第1刷  
価格:本体1800円(税別) 極私的評価:★★★

 前作『OUT』で吹っ切れたんでしょうねえ。ミステリ・リーグからアウトする意図の元、本作品を書き上げた女王様の傲慢なまでの挑戦状。いいでしょう、受けて立ちましょう。女王様はミロ・シリーズでのある種自分の中の限界を感じて、バック・トゥ・ザ・フューチャーでもあった『水の眠り灰の夢』でミステリでの可能性を模索したのであろうが(『ファイアボール・ブルース』なんてのもありましたっけ)、自ら持った閉塞感からの自然発生的な逸脱が『OUT』だったのではないか。ハードボイルドへの傾斜が示すように、もともとはミステリ畑の人ではなかった気がする。アウト・オブ・ミステリ。逸脱することこそ自分の居場所だと腑に落ちたのだろう。

漂流する登場人物。心の中ですでに日常からOUTしている偽りの生活者たち。確かにうまいんですけど、ウェットな男女のしがらみから物語を発生させるのは、ちいとばかし食傷気味ではあるね。そういうものを好む日本の土壌というものも、作者にこっち方面へ筆先を向けさせた一因になってるのかもしれません。まあ、そこからカミングアウトしてどんどんスケールアップしてゆく混沌へ読者を誘う物語構成だからして掴みの部分はこれでいいのかも(私ゃ好きじゃないけれど)。直木賞選考委員のジジイどもには丁度良い塩梅だったんじゃないでしょうかね。

 ついに見せなかった真犯人像。可能性を示唆しただけでの幕切れは、大昔からあるミステリ手法の変形パターンで何ら目新しい試みでは無いけれど、そこに至る人間像をギリギリ掘り下げて作家的企みは成功しているように思う。社会から逸脱する自由。それが例え死に至る病だとしても体制側にいた人間はあくまで逸脱をコントロールしようとするし、逸脱者の系譜はその子供にまで受け継がれる。その心の闇の部分に肉薄した桐野女王様渾身の一作。いや、意外に肩の力を抜いて書き綴った言霊的な作品だったのかもしれません。剛速球かと思ったら手元でグッと落ちる変化球って感じか。直木賞取って変なとこに行かないように、硬軟自在の筆裁きでまだまだ我々ミステリ畑で彷徨いてる人間を見捨てること無きようお願いしたいっすね。(2000年2月読了)

題名:始祖鳥記 著者:飯嶋和一
出版:小学館 2000年2月20日初版第1刷発行 『神無き月十番目の夜』の感想へ飛ぶ
価格:本体1700円+税 極私的評価:★★★

 超寡作家なれど、心に楔を打ち込む筆裁きは読み手を瞠目させる手練れであることは知る人ぞ知る。構想十三年。石をも穿つほどに心血注いだ作品が日の目を見たことは幾久しく待ち続けて来たファンにはまたとない贈り物なのである。出版社が替わっても地味にひっそりと書店の平積みじゃない棚の奥にただ一冊置かれていたりすると、そう、飯嶋和一らしくていいやって、それはそれで納得してしまうのである(大型書店では平積みのところもあるでしょうが…(~_~;)。時代小説が苦手な方には敢えてお勧めいたしませんが、淡々と人をその時代ごと切り取る作者の視点を味わうことは、なかなか得難い読書体験になることは間違いありませんぞ。

 その時代の枠に収まりきれなかった人物記。世界最初の『鳥人』備前屋幸吉の存在を古文書の中から引き出して血肉を与える作家の姿勢がとりもなおさず幸吉と相通ずるところがある『迷わず、おのれを生きること』そのままですね。腐りきった公儀の悪政批判なんかじゃない。もっと遠いところを見据える幸吉。その突出した個性を多面的に活写した飯嶋流スケッチを存分に頭の中に描き出すがいい。途中、主役交代かと思わせておいて、やがて邂逅する人物交差点がやや遠回り過ぎたかなとの留保点もあって★★★の評価止まりにしたけれど、鼓動が高鳴りつつ迎えたクライマックスから熾き火のように読後静かに感動が広がってゆく。これが読書的至福の時。

 次作までまたしても構想十数年だったら、作者も私らも生きてはいないかも知れませぬ(~_~;)。これだけの水準を保つにはこれだけの時間が必要なのかもしれませんが、出来得れば『空飛ぶ表具師』を超える奇想、天を動かすような作品をコンスタントにとは言いませぬが、数年後にでも再びこの世に送り出して頂きたいものでありますなあ。我々読者の声が飯嶋和一氏の元に届くことを期待しようではないか。(2000年2月読了)

題名:王妃の離婚 著者:佐藤賢一
出版:集英社 1999年8月16日第6刷発行  
価格:本体1900円+税 極私的評価:★★★

 佐藤賢一らしさは確かにある。歴史エンターテインメント作家として認知されてきた『傭兵ピエール』『双頭の鷲』を経て、ついにこの作品で直木賞を受賞した経緯は、佐藤賢一の作家的変貌と大いに関わっているのではないか。いつも主役は破天荒な軍人であった。ピエール然り。デュ・ゲクラン然り。血湧き肉踊らせる男たちという点では確かに共通点はあるけれど、本来ならカニンガムがフランソワに替わって主役を務めているはずの佐藤賢一ワールドが、武の分野から知の分野にフィールドを換えて知湧き肉欲踊る(~_~;)物語にフワリと軟着陸したようだ。

 大学院で中世フランス史を専攻していただけあって、歴史に血肉を分け与える作業はお手の物である。15世紀末のフランスに法廷サスペンスを持ち込んで、ペリー・メイソンさながらの胸のすく弁護人の冴えを存分に読者に語り掛ける職人芸。そこから生まれ出るロマンスにホロリとさせつつ、武人カニンガムの獅子奮迅の大活劇こそ端折られてしまいましたが(古いファンとしては大いに不満ではあるぞ(~_~;)、起伏に富んだ物語=パリの市民が熱狂した離婚裁判に知らず読み手ものめり込む仕組みなのだ。

 確かに『知』の部分は『武』の部分より書き手の成熟が求められるであろう。古くからのファンを惹き付ける磁力。エンタメ系に持って行くにはさらに『知』の深みに磨きを掛けなくしては彼のらしさを失いかねない。メジャー・リーグへの階段に足を踏み出したのか>佐藤賢一。古くからのファンとしては一抹の寂しさも感じないと言ってしまえば嘘なるけれど、作風の微妙な色合いの変化が意図したものであるのかそうでないかは、次作『カエサルを撃て』を読めばある程度仄見えてくやもしれませぬ。結論を出すにはもう少し距離を置こう。個人的にはデュ・ゲクランを超える中世フランスの武人を発掘して佐藤賢一流にたっぷりと血肉を与えて欲しいのである。(2000年2月読了)

題名:ハサミ男 著者:殊能将之
出版:講談社ノベルス 1999年12月15日 第4刷発行  
価格:本体980円(税別) 極私的評価:★★1/2

 主人公が『ハサミ男』って言うからてっきりサイコスリラーかと思っていたのですが、ツイストしまくりのパズラー的要素満載の新本格系読者向きの作品でした。法月綸太郎が帯で推薦文書いてるから嫌な予感がして出版当時は見送っていたのですが、我が本能のおもむくままに自分で読む本決めときゃ良かったなあ。書評書くヤツの嗜好をしっかりチェックしておかなければババを引くという良い見本でもあるね(~_~;)。でもまあ、一日で読めちゃったから『Hannibal』途中の息抜きにはちょうど良かったかも知れません。妙なユーモア感覚が結構サイコ・パズラーには思いの外フィットいたしますので、シリアル・キラーものにどっぷり浸かりすぎた読者には適度に脳をほぐしてくれる訳だ。そういう意味ではこの作者、ペンネーム通り『特殊な能力』ありって感じだな。

 ほとんど反則スレスレだもんなあ。こういう二重三重に入り組んだ構成って、読者が「うまく乗せられた」って感心するか、「テメエこの野郎馬鹿野郎」って激高するかのどっちかだもんね。なるほど読み返してみればミスリードまでは行かないスレスレのところで読者の追及をかわしてくれるのだな。ただねえ、ネタ割った時の唐突感と読者的に物語を再構築するまでに時間が掛かるのがちょいと問題ではあるな。タイトルからして引っ掛けなんだもん(~_~;)。トドメは『わたし』の使い方ね。ミステリ・リーグの方々におかれましては、こういうとんでも技巧派小説って喝采を持って迎えるんでありましょうか。使い古された手法を寄せ集めて現代的なシリアル・キラーものに集約した作家的手腕には脱帽いたしますが…それ以上の評価は出来かねますな。

 ティム・バートン監督の傑作映画『シザーハンズ』ってXTCの『Scissor Man』より前の作品ですよね、多分。この辺の影響が薄っすらと『ハサミ男』のユーモアと哀しみに感じ取れるのは気のせいか。しっかしまあ、こんがらがった謎を解きほぐしてみれば、一番可哀想だったのは日高光一クンだったってことか。こんなのが『このミス』ベスト10に入っちゃうんだから、いやはや世紀末ミステリですよねえ。新たなるミレニアムを迎えた今、こっち方面の畑はこういう作風がしっかり植え込まれてデビューを待ってる作品群が春先にでも芽を出すのであろうなあ。出ても、まあ読まないでしょうけど…(~_~;)。(2000年1月読了)

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