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97年度国産作品感想

 

題名:未明の悪夢 著者:谺健二
出版:東京創元社 1997年10月9日 初版  
価格:本体2000円+税 ★★★

   まさしく1995年1月17日の未明の悪夢。神戸の阪神大震災という題材をここまで真正 面から取り上げ、立ち向かい、格闘した作家精神に脱帽するほか無い。驚天動地のトリ ックを引っさげ圧倒的な現実にひれ伏すこと無く読者に挑戦してきたことは、FSUIRI系 読者には堪えられない感動ものかもしれませんねえ。その前にFADV系読者は、すでに風 化したとさえ言われている阪神大震災の、小説と言う衣を纏った現実の姿に、囚われて 目を離せなくなってしまうのであります。作者自身、被災者で、また、そうでなければ ここまで踏み込んで書けないディテイルの迫真性。心が震える恐怖、感動、驚愕。

   こうまでして、このトリックを世に問わなければならなかったのか? 登場人物のそ れぞれの生い立ちから執拗に書き込んでいく熱に冒されたような筆致が、冒頭から悲劇 性を予感させ現実の重みに押し潰されない物語性を生み出しているのは間違いはないと ころなのだが…。あくまでミステリという立場を取る作者の考え方と、読者の質が合致 するか相反するかで評価は分かれる部分かもしれません。ただ、震災だけをクローズア ップしてしまうと、それは単なるルポルタージュになってしまう。う〜む、難しいとこ ろですねえ。だけど、凄いです、これ。このトリックには、トリックのためのトリック としか思えなかった私にも、この物語の重みは凡百の災害小説を足元に平伏させるだけ のポテンシャルを持っていると、素直に感動するほかなかったのだから。

   鮎川哲也賞応募作だから、この方向性は当たり前と言われてしまえばそれまでなのだ けれど、この人に冒険小説を書いてもらいたいぞ。処女作でここまで巨大な題材を選ん でしまったゆえ、第2作の題材選びが困難を極めそうではありますが、変にトリックこ ねくりまわしてる暇があったら頼むから人間を書いてくれい! と声を大にして叫んじ ゃおう。こっちのみ〜ずはあ〜まいぞ、ってなところでしょうかね。とにもかくにも今年の『このミス』BEST10上にランクされるのは確実でありましょう。読むべし!
   (97年10月読了)

題名: 著者:花村萬月
出版:双葉社   1997年7月10日  初版  
価格:本体2300円 ★★★★

   遅ればせながら読みました。凄いっす、これ。いや、凄すぎかも。もう 何度も読むの止めようかと思いましたが、その都度、図書館で借り直して最後 まで正面から味わい尽くしたのであります。読んでるだけで下半身までどんよ り疲れてしまう超問題作でありました。好き嫌いは別として禁忌という観念が ぶっ飛んでしまった花村萬月という作家のコンプレックスと執念が産み落とし た渾身の一作ということは否定のしようがない。それほどまでにズブズブと深 いのか、それとも…。読者が判断すべき部分が多い作品です。いいや、多すぎ ると言っておきましょうか。

 言葉の暴力こそが、萬月が辿り着いた到達点なのであろうか。舞浜響≧花村 萬月か。投影された彼の人格を全否定する読者は少ないと思うのですが、誰の 心の奥底にも潜む舞浜響。目を背けるのは嫌な自分の嫌な部分に対峙するのを 先延ばしにしたいから…。ストーリー自体は他愛のないエログロ・セックスも の(^^;なのですが、哲学するエログロという訳わかんない萬月ワールドに無理 矢理読者を引きずり込むので、余計鬱陶しいのであるな、これが。

 観念の人、舞浜響が終盤、いきなりブレイクしてメタモルフォーゼしちゃう のはやはり反則わざでありましょう。ここまで物語を作り込まなければ商業ベ ースに乗らなかったのなら、無理にも書く作品ではないかもしれません。強引 な終わらせ方に、それでいいのか>萬月と、この作家に対する危機感が沸々と 沸き上がってくるのでありました。それまでの展開にはそれほど拒否感は無か ったのですよ、ワシの場合。弱者としての舞浜に共感すら覚えていたのですか ら…。

 もう別世界に行ってしまった萬月には訣別すべきなのかもしれませんが、い つ現世に復活するかもしれないポテンシャルを残している希有の観念的暴力的 作家ですので、戻って来るならば再び、後ろから前からじっくり味わってみま しょう。そう思わせるパワーは、そこらの作家の数倍はこの分厚い本か ら照射しているのは紛れも無い事実なのあります。一冊でも萬月ワールドに触 れたことのある読者なら、一度は読んでみるべき作品だと思います。ただ、不 快感のみを抱かれても、それはもう、読者の感性の問題だと言うほか無いけれ ど…。(97年10月読了)

題名:黒い家 著者:貴志祐介
出版:角川書店 平成九年六月三十日 初版発行  
価格:1500円(税別) ★★★★


   第4回日本ホラー小説大賞を取った作品です。確かに恐いです。でもね、現実がもっと恐かったりしちゃうこのご時世に、この分野に球を投げ込んだのは幾分損したかな、って感じもなきにしもあらず(^^; 現実にA君は猫を100匹も殺していたなんて噂が飛び交うほどのサイコ系少年ゆえ、想像力がどこまで太刀打ち出来るかという勝負風に読まれてしまう部分もあったりするのよねえ。

   平凡な日常から一気にサイコな風景に加速する物語は、ズブズブと深いです。人間心理の奥底が見えない怖さ。どんでん返しとなってブレイクする辺りからパワー全開で力押ししてくる作者には好感もてました。生命保険業界の内幕が結構読ませるし、主人公の日常のディテイルが支える物語の導入部を飽きさせることなく読ませる力量に感心しました。前回佳作止まりだった作者の大いなる成長が大賞を取らせた訳ですが、ただこれからは題材の選び方が今後の課題になってくるだろうという予測は付くんですよね。フリーになる前が生保業界に籍を置いていた訳だから、ここまで詳しく書き込めた部分が見え隠れするのですが、次回作の題材への踏み込みが、メジャーになれるかの分かれ道になって行くのでしょう。期待してます。

   書かれていることが現実に社会生物学の学説として世間に通用しているのか、不勉強にして無知をさらけ出しますが、金石の口にした理論になんだか妙に納得してしまったんですよねえ。生物としての人類の遺棄戦略者の占める割合の増加というのが、現実の事件増に反映してリアリティを感じざるを得ない部分が、また、この本作のリアリティを支えている幹でもあったりするのですが…。サイコパスはこれからも続々登場する予感を孕んで、フィクション部分以外にもホラー気分を味わわせてくれる、読んで二度美味しい作品ではあります。

   ラストのターミネーターみたいなサイコパスの怖さは本編の白眉でもあり、未読の方は是非お読み下さい、とストロングスタイルでお勧めしちゃいます。こういう客商売って、現実にサイコパス相手に知らないで応対している可能性もある訳で、ほら、今あなたの後ろに!ってナイフの刃がキラリと光ったら、若槻の恐怖感が生で味わえるかもね〜(^^;  97/07/10(木) 読了

題名:神無き月十番目の夜 著者:飯嶋和一
出版:河出書房新社 1997年6月25日 初  
価格:本体1800円(税別) ★★★★

   到底、時代劇の枠に収まりきらない戦慄の巨編ゆえ、この会議室に書き込むことにする。硝煙と血の臭い。死臭漂う依上保の大虐殺現場から展開する悪夢への過程をつぶさに書き込んだ飯嶋和一入魂の一作。滅びの詩とも言うべき、江戸初期の一つの村の消滅を、ただ一つの古文書から書き起こした想像の産物。だが、そこには、歴史上から抹殺された裏日本史の真実の姿が垣間見れるかもしれない。徳川治世の永き平和の陰に流された血糊の流れ込む先は、いつの世にも現れる暗き闇。

   戦の臭いがここまで生々しく迫ってくる作品は時代劇では稀であろう。血の臭いは銅の味。具足を突き破る鉄砲の威力と逃げ惑う女子供を突き殺す槍の一刺し。淡々と進行する殺戮場面に目を伏せず凝視できるのは、先に持ってきた殺戮の後の死屍累々の場面のショック度がメーターを振り切っちゃったからに他ならない。

   死屍累々場面の読み辛さを乗り越えると、そこには、時代小説ならではの颯爽とした騎馬武者・藤九郎のパートが結構読ませるので、感情移入しやすいのでありますが、そうは問屋が卸さないのが飯嶋和一なのですよ。う〜む、ここでこういう風に展開するとは、想像だにしなかったぞ。このテイストは、60年代の後半ひっそりはやったマカロニウエスタンのダークサイド作品セルジオ・コルブッチの『殺しが静かにやって来る』のラストの衝撃と共通する物があるようなないような…。

   明るさの欠片も無い小説、と言ったら言い過ぎか(^^; でもね、産まれてくる子供さえも、やがて来る滅びの日に未来の芽は摘まれてしまうのだ。御田に流れ込む用水の色が茜色に染まった日が蜂起した百姓たち最期の日。諸行無常の理を、読み手の心の奥底に深く刻み込む、劇薬にも似た時代小説を超えたハードボイルドな作品でありました。凄いぞ、これ。(97/10/01読了)

題 名:頭弾 著 者:樋口明雄
出 版:講談社  初版発行 97.05.25  
価 格:\1800 ★★★★

   出た当初、新宿紀伊国屋で平積みされているのを見て買おうかどうしようか散々迷った一作ではあります。給料日前で懐に余裕が無くて、買うの見送ったのが一生の不覚でした(^^; 図書館経由で今になってやっとこ読了いたしました、ふーっ。いいよね〜、柴火のモーゼル捌きなんざ、最高だあね(^^)。

   伊達順之助との三度目の対決にシビレました。惚れましたぜ、柴火姐さん(^^; 大昔に見た英国製スパイ・サスペンス映画『殺しの許可証』でトム・アダムスが格好よく背中のホルスターから引っこ抜くようにして使っていた、軍用モーゼル拳銃が強く印象に残っていたので、ことさら柴火の使うモーゼルに反応してしまいました。あんなごっつい拳銃を自在に操る女馬賊。敵は日本軍なのだけれど、気が付くと知らず知らず、柴火ら抗日義勇軍側に組して読んでる自分に驚くくらい熱中度の高い面白冒険小説といっていいのではないでしょうか。

   泣かせるツボを心得ている作者がにくい演出をみせてくれます。弟兄たちとの今生の別れのシーンにはもうタマりません。これぞ冒険小説という熱い血潮が脈打つ大冒険活劇ですな。久々、ああもう読み終わっちゃうのかとため息の読後感でした。その後の柴火の辿った数奇な運命を、ぜひ続編として世に送り出してもらいたいものです>樋口明雄殿。
(97/10/13読了)

題名:奇跡の人 著者:真保裕一
発行:角川書店 平成9年5月25日初版発行  
価格:本体1700円 ★★★

   出た当初、題材的に読む気が起きず放っておいたのですが、個人的に親類に奇跡の人になり損なった子供がいるもので、気には掛かっていたのです。世評も概ね好評のようでしたし、私自身、真保ファンだし全作品をフォローしているということも相俟って、恐る恐るページを繰り出したのでした。

   冒頭、感動を無理矢理呼び出そうという感じの母親のレポートに胡散臭いものを感じつつ、読み進むとそれはそれでなかなかの闘病感動路線かとおもいきや、やはり、そこにはそれだけでは収まりの付かない真保裕一という作家の企みがあったのです。そうかそうか、君はこういう結末を書きたくてここまで引っ張ったんだね。

   脳性麻痺。私の従姉妹の子供は、幼年時に発した高熱がそのまま大脳のほとんどを焼き尽くし、目が覚めると言葉も行動の自由も失ったまま、木偶人形のような変わり果てた姿になってしまったのです。藁にもすがる思いで辿り着いたのが、福永騎手でお馴染みになったドーマン療法でした。その子の母は自分の一日のほとんどを犠牲にして繰り返す療法に奇跡を信じて適えられぬ日々。それでもリハビリは毎日続くのです。

   失ってしまった記憶をたずねて周囲を裏切り続ける主人公に感情移入など出来ませんでした。なんて嫌な奴なんだろうって、そう思っていたら、失われた記憶の持ち主の真の姿とのギャップにさらに嫌悪感を覚えてしまったのであります。そう簡単に消滅した脳細胞は戻りはしないのだよ。復活して以降の主人公の模索する姿があまりに不自然で作為的でどうにも感心出来ませんでした。まっさらになった脳細胞に過去の蓄積である昔の性格がそなまま投影されるものなのであろうか。勝手に償わせて自己完結させるなんて作家の傲慢である、とさえ思ってしまった結末でした。いろんな意味での問題作ではあります。ただ、個人的にそう思っただけですので、何の予備知識もなく読めばそれなりに感動出来る作品だとは思ってます。
                                                                                        (97/07/10読了)

題名:孤独の歌声 著者:天童荒太
出版:新潮文庫 平成九年三月一日発行  
価格:520円 ★★★

   タイトルが『孤独の歌声』じゃなかったらもっと早く手に取っていたでありましょう。まさか天童荒太が歌謡サスペンスなんか描く訳ないと知りながら、何となく手を出しそびれていたのですが、作者自ら改稿してあるという惹句に引かれて手に取ったら最後までノンストップのサイコホラー・ミステリに、仕事をおっ放り出してまでどっぷり漬かりました。ううむ、凄いぞ、これ。

   衝撃の大作『家族狩り』には及ばないものの、この作品のインパクトも相当な衝撃度を伴って、他の作者に比すべきモノがないほどの圧倒的な迫力。ねっとりとまとわりつくような作者独特の濃厚で行間から立ち上ってくる瘴気がズブズブと読者の心臓に刺し込まれるようで、痛みすら感じてしまう文章が凄いです。きっと来るであろう悲劇の予感が、頁を繰るのが止めてしまいたいほどの高まりとなるのでありますが、研ぎ澄まされた作者の描く孤独感がひしひしと感じられる中盤からラストでのバトンタッチした開放感が殊の外明るいのにホッした。ハッピーエンドといっていいかもしれない。う〜む天童荒太、もう一ひねりあってもよかったかもしれない。

   ここまで練り上げた擬似家族の構成を若い女性だけで完結しようとする犯人の精神構造にはチト異議ありだなぁ。パパやママや愛犬は代用品で済ますのはどうかなあ。この辺、踏み込みが足りないんじゃないかな、な〜んて言ったらファンにはぶっ飛ばされそうですが…。まあ、サイコパスの精神構造など誰にも本当のところは分かりはしないのだから、大きなお世話か(^^; 読んでて途中まではてっきりミイラ化した家族が犠牲者をお出迎えしてるのかと思ってたもんで、後半、部屋の中の光景が見えてきた途端にガクっと肩透かし食らったのでした。

   でもまあ、そんなことは些細なことで、サイコ野郎の造形以上に、主人公の苦悩とその孤独が生み出す疎外感が相乗効果で物語に奥行きを与えているようです。ロッカーがコンビニの兄チャンという卑近な設定が今風で結構はまってるんだよね。ありがち。でも、それが物語に厚みを加えているんだから良いのです。ごく普通の日常がブレイクして、一枚めくるとその下には異常な日常が潜む恐怖。こういうのが私は一番恐い。

もうすぐ木の芽時。本物のサイコパスが出たら恐い季節になりました(^^; (97/03/19読了)

題名:山妣 やまはは 著者:坂東眞砂子
出版:新潮社 1996年11月20日発行  
価格:2000円 ★★★

   直木賞を取ったからって読もうと思った訳じゃないのですよ。『蟲』以来読みはぐれていた坂東ワールドに復帰するキッカケにたまたま『山妣』を選んだだけ。読み始めて新聞に、候補にリストアップされたのを見て 「うーむ」 「もしかして」「やっぱり」 。予想に違わず直木賞を射止めたという偶然。でも予想通りなら必然か。でも、そっちに行ってもらっちゃ困るんだよなぁ〜。ホラー系読者としては純文学の流れに身を任せてしまって欲しくはないのですよ(^^;

   『死国』ではまって『狗神』で肌合いが微妙に違うなと感じ始め、『桃色浄土』は読む機会がありながら「この次ね」って抛っぽっておいたのは、やはり何だか坂東眞砂子を敬遠しているのは明らかなのですが、こうして『山妣』に手を出したのは、自分の中ではまだ浮上する機会を狙っている坂東ワールドの潜在的愛好者だなんて思っている部分も見え隠れする訳ですが、篠田節子もホラーから遠ざかりつつある現状を眺めるにつれ、やはり読まねばと緩やかな強迫観念があったりする事実は認めちゃいましょう。要するに坂東眞砂子という作家は、我が読書生活における好悪の境界線上にいる作家という区分けが自然と出来上がっていたのであります(^^; やれやれ、自分ながら回りくどいっすね。ポリポリ。

   んで、本編の感想は、まず一言 「長いよ〜」 。新潟の方言が全編の三分の二は占めているので、登場人物が何言ってるんだか類推するほか致し方なく、鬱陶しい限り。東京から扇水や涼之助が登場してホッと一息。それにつけても物語の半分まで、東映の五社英雄監督の時代物でも見てるようで、それはもう苦痛でございました(^^; ワシこういうの苦手なのでござるよ。ふ〜。土俗的な閉じた円環の中で起きた事件が、ふとしたことから綻びて開いた円環からこぼれた者たちが再び閉じかけた円環に飲み込まれて行く。不思議な無常感を漂わせながら円環を突き破った涼之助は再びこの円環に飲み込まれる予感を半ば残しつつも、閉じたところでこの物語は終わっています。円環が閉じかけたところからホラー色が滲み出てきて一気に盛り上がりますが、直木賞選考委員たちが評価したのは、あの暗くて長い新潟の田舎の山間生活の描写が延々と続く前半部分なのだろうなぁ(^^;

   坂東女史の作品は当分こういう傾向が続くのは当然予想されますので、次の作品が出ても当分手が出ないだろうなぁ。でも、本作みたいな物の怪に憑かれた男たちの土俗的な怖さをキッチリ書き込まれちゃうと読まざるを得ないかぁと思い悩む読後感ではあります。でもよくこの年齢でここまで書き上げるもんだと、この才能には脱帽するしかないですね。やっぱり作家は粘りと根気なのね〜(^^;  (97/01/25読了)

題名:SINKER沈むもの 著者:平山夢明
出版:トクマ・ノベルス 1996年6月30日 初刷  
価格:\820 ★★★★

   心の闇とその“温度の低さ”こそが、サイコ・ホラー作品の存在価値の中核をなす。と、断言してしまおう。そこから導き出される戦慄。読んだ者が皆あれはレクター博士のコピーだと指弾するであろうプゾーの、それでもなおコピーを超越したその存在感。それは圧倒的である。惜しむらくは脇役としてのバイプレーに終始してしてしまって、『羊たちの沈黙』のレクター博士ほどの活躍の場を与えられなかったのがマイナスポイントか。サイコキラーとしての集大成たるレクター博士を超えるキャラクターを創造することがいかに至難であるかの証明に他ならないが、プゾーに次回作以降でどのようなオリジナリティが付加されるかが、この作家の勝負球になる予感がする。骨格は出来たのだからディテイルで我々読み手を驚愕させて欲しいぞ。

   SINKERすなわちサイコダイバー。夢枕漠ファンにはお馴染みでありますが、他人の『内部』に入り込み、その意識をコントロールする特異な能力の持ち主ビトーが、超絶のサイコキラー、ジグと相対するぶっ飛び展開。介在するプロファイリング捜査官キタムラ。荒唐無稽と言うなかれ。心の闇が血に染まる時、悪寒が走るほどの冷血、すなわち“温度の低さ”が驚愕の異常犯罪を導き出す。おお、ゾクゾクする設定ではないか。主要な登場人物をカタカナで統一したのは、現実離れしたストーリー展開を異世界での出来事のように突き放した冷静さを保つためであろう。さほどに、常軌を逸したサイコな展開に気の弱い読者は目を背けるほどであるが、その異世界性ゆえに不思議と血生臭さを感じなかったのは作者の作戦勝ちか。あまりに突出した異常性を描き込んだため、構成にやや難有りと文句の一つも付けたくなるけれど、それを補って余りある圧倒的な迫力である。作者のエネルギーである。これは作者の持つ心の闇の部分の披瀝なのかもしれない。

   警察官僚をデフォルメし過ぎて浮き上がった部分もあるし、ビトーのSINKERとしての哀しみの部分をもっと掘り下げて描き込んでくれたら物語に厚味が出来てよかったのでは、とか、ラストの対決シーンにもっとSINKERとしての細工を施してくれたら・・・。注文は色々ありますが、アンハッピーエンドの大団円は良いです。『SINKER』の続編がある限りビトーとプゾーは必ずや再登場してくれるはずだと確信しています。本作で描き切れなかった異常者たちの人間の部分を抽出してくれれば、十分にハードカバーでの出版にも耐え得る作品になるだろうと思うのですが・・・。(96/07/09読了)

題名:ゴサインタン --神の座-- 作者:篠田節子
発行:双葉社   1996.9.  第1刷発行  
価格:\1800 ★★★


   喪失と再生の物語と申しましょうか。生き神様の淑子は淑子であってカルバナ・タミではなかった。神は淑子の姿を借りた結木家の先祖の霊だったのか。いやいや、やはりアニミズム信仰に近い神を顕現させたものでありましょうね。篠田節子女史の宗教感がこういう物語を描かせたのか、作家の精神世界が垣間見れてこの辺は面白い。単にフィクションにしても何らかの下地がある訳で、特定の宗教団体を想定した部分は突き放した存在として距離を置いて描いているけれど、自然界に宿る神々へのアプローチは直線的なのだなぁ。ここから先を描きこんじゃうと高橋克彦みたいになっちゃうから、まあ、こんなラストでもいいんじゃないかな、と最近の篠田女史なら納得しちゃうのだ(^^; 結構評判悪いラストだと聞いていたのではありあますが…。

   ネパールからの外国人妻を迎えた輝和の精神的な揺れ動きがよく描けていたと思います。四十過ぎの農家の跡取り息子。名家としての財産を玉葱の皮を剥いでいくように消費していく様は滅びの美を見ているようで、一種爽快感を覚えました。貧乏人の子せがれとしてはこういう感想を持つのが一般的なのだろうけど、金持ち系の読者がこの件を読んだらぞっとするだろうね(^^; それだけ異様な迫力がありあました。

   淑子からカルバナ・タミへの変貌が唐突すぎて違和感が付き纏いましたが、神々がネパールから出張してきたのか、それとも別の神の存在が輝和を日本からネパールへ突き動かしたのか。その辺の神々の勢力範囲が不明であったりするけれど、こういう屁理屈考えるのはへそ曲がりの私ぐらいでありましょうか(^^; なぜ結木家にだけ再生の機会をもたらしたのか、必然性というか説得力がチト弱いかな、というところが正直な感想だったりします。色々な分野に挑戦する篠田節子女史には素直に感心していますけど…。(96/11/11読了)

題名:奪取 著者:真保裕一
出版:講談社 1996年8月20日 第一刷発行  
価格:2000円 ★★★★

   本年度国産ミステリNO1に決まりですね、これ(^^)。愉快痛快コンゲーム、ハラハラさせてやがてホロリ。たっぷり身の詰まった美味しい果実でありました。ラストではペンネームの『真保裕一』でオチが決まって、ははは、やられたって感じ。これまでの硬派系作品から一歩も二歩も前進して『朽ちた樹々--』での不調を一気に挽回する新生・真保裕一を骨の髄まで味わわせて頂きました。満足。

   綿密な取材が生きております。私自身も印刷業界に片足突っ込んでいる関係でいちいち腑に落ちるのでありますが、印刷関係から製紙、銀行ATMまで多岐にわたっての取材はさっすがプロの作家ですねえ、と感心しきり。分厚い背景が物語に厚味を加えるのは本書を読めば一目瞭然。加えてキャラクターのユニークさが実にいいよねえ。颯爽と登場するじじいが抜群なのだな、これがっ! 幸緒の可憐さもグッとくるよねえ。悪役・江波ですらもそう。この憎ったらしさ。登場人物が皆、生き生きしてるのがこの作品の活力源でもあります。

   ふと気が付くと、物語が三部構成ではありませんか。あれっ、手塚道郎が主人公のはずなのに…。そうかそうか、こういう仕掛けか。うまいですねえ、真保裕一。一度分かってしまえば、保坂仁史の次に鶴見良輔が来るということは、確実にもう一波乱ありだな、と感付いてニヤリと来る寸法だ。コンゲームの主役として確実に成長する道郎青年の最後の大勝負は映画『スティング』を見るようで、なかなか楽しかったぞ。まさか、そのまま美味しい目を見て終わる訳がないよな、と思って読み進むと案の定、こんな奴にとんびに油揚げたぁ、道郎青年もやっぱり、まだ青いなってとこで、クスリと落としてくれました。

   しっかし、偽札一つ作るのにもこれだけ手間がかかるのですねえ。いやいや、本物のお札もそれだけ手間掛けて作ってるということか(^^; 今まで気にしなかったけど、読み終って一万円札をしげしげと眺めてしまったのは私だけではあるまい。偽札業界もマエストロの世界であることは間違いないですなぁ。これ実感。(96/11/15読了)

題名:あした蜉蝣の旅 著者:志水辰夫
出版:毎日新聞社 1996年2月25日発行  
価格:1950円 ★★★

   おやっ、思いのほか久々明るいシミタツ節に戸惑うオープニングにではあります。結構冗長な『わたし』の、若いくせに老成した性格設定に作者の老いを感じつつも、シミタツならではのコクの深さを味わわせていただきました。韜晦しつつも行動を伴った我が道を行く『わたし』。なんだか、シリアスな現実世界をいつも斜に見ているようなアウトサイダー的な主人公になかなかノれずに、いつしか物語は佳境に差し掛かってる。えっ、こんな一気のターンオーバーなんてありかよ〜的な宝捜し物語は、実は中年男の愛を求める旅であったのか、なんて妙にこじんまりとした結末というかエピローグに、やれやれとため息を吐くのでありました(^^;

   週刊誌連載ってのがやはり足を引っ張ったのか、榊原夫婦の登場は蛇足としか思えないんですけど…やはり宝捜しは文明と国吉のじいさんで打ち止めにしておいて欲しかったなぁ。このじいさんたちいい味出してましたよね。この辺はさすがシミタツ。ひとりひとりの造形が見事。キャラクターが際立ってます。ただ、菊池美伽の辿った道筋は私は違うルートを取って欲しかったな、と痛切に思いますね。何もここでここまですることはないではないか。メインキャラでもないのに…。幸せと悲しみが交互にやってくる、人生とはこういうものと達観した年齢層の読者には腑に落ちるかもしれないけど、まだそこまで到達していない小生には重過ぎる結末かもしれない。最高潮に達しようとする宝捜しのクライマックスで、まさかの天変地異だもんなぁ(^^; まあ、シミタツにとって宝捜しも所詮、サブストーリーの小道具に過ぎないのかもね。主眼は別にあったということか。

   なんだかんだ言っても、そこそこ面白かったのはシミタツならでは。線香花火のように儚く燃え上がった、文明の男の見せ場は渋く決めてくれたし、昂子の水商売然とした八方美人的なキャラクターにも惹かれるものを感じたし、男同士の壊れやすい友情の危なっかしさも微笑ましく読めました。『わたし』みたいにある年齢でリタイアして田舎で晴耕雨読する生活は、われわれ世代には理想だよね。現実には、アクセクあと何十年都心のオフィスで閉塞感を味わうにしても…。(96/11/15読了)

題名:蒲生邸事件 著者:宮部みゆき
出版:毎日新聞社 1996年11月1日 第11刷  
価格:1700円 ★★★

   『火車』以来遠ざかっていた宮部みゆきですが、「このミス96のベスト10に絶対入るよ」 との宮部ファンのワイフの一言に引き摺られるようにして計らずも読んでしまいました。どうもSFっぽい設定への傾斜傾向に以前から違和感があって手を出しそびれていたのですが、本作品もタイムスリップがメインプロットで舞台が二・二六事件ときては、むむむのむ。背伸びして(^^;じっくり軍部の行動を逐一描き込んでくれるのかな、と一瞬期待しましたが、まさかね。

   この売れ方を見ていると宮部ファンには絶大な人気といってもいいでありましょう。待ちに待ったというところかな。確かに語り口はうまいです。物語の柔らかさが女性層にはフィットするのは分かります。だけどそこが弱点でもあり、ハードな物語を求める男性層には物足りないかもしれませんね。でも実際、そんなの求める奴は宮部みゆきなんか読まないか(^^;

   唐突な設定。持って生まれたタイムトラベラー能力ってのが、まず引っ掛かって乗れない導入部に、読み続けるのに結構苦労しました。時制の移動はあっても場所的移動がなくて何となく閉塞感が感じられたのも理由の一つかな。読んでいて展望が開けないのでありますよ、これ。主人公も浪人生を持ってくるあたり、いかにも宮部みゆきだな、と思ってしまったのですが、このジュブナイルっぽい展開も腰が引けちゃった理由だったりする。かつてハインライン『夏への扉』や広瀬正『マイナスゼロ』などタイムトラベル物に感動した新鮮さが再現できるのか。使い古されたテーマにどう新味を織り込むかが勝負と言えるでしょう。タイムパラドックスにどう対処するのか等々。で、その結果は…。

   なんだかんだ文句ばかり言ってきましたが、エピローグで結構ホロリとさせられたりなんかして(^^; やっぱり宮部みゆきは人間を描くのがうまいのよね〜。じわりと広がるハートウォーミングなエンディングが最後に点数稼ぎましたね。だけどワシは、もっとハードに展開する物語を求めて止まぬアクション志向読者ゆえ、宮部みゆきはしばらく読むこともないでありましょう。(96年12月読了)

題名:傭兵ピエール 作者:佐藤賢一
発行:集英社 1996.2.29 第一刷発行  
定価:¥2600 ★★★★

  こんな面白い本がこの会議室(FADV#3)で話題に上っていなかったなんて不思議なくらいだ。なんで気が付かなかったんだろう。好きです、こういうの。勧めて下さったアーメン天野さんには感謝。知らなきゃ手を出さないですよ、これ。シンプルな装丁に、扉には粗筋さえ書かれていないのだから、ましてやあとがきすらもなく、ただ本読み人の勘に頼るのみ。だが、その素気なさが好もしいぞ。変に出版社が色気出さずに、内容だけで勝負してくれるだけ、こっちもその直球の切れ味を体の真ん中で味わおうじゃないの。う〜む、これぞ冒険小説。ズシリと手応えありですな(^^)。

  ピエールのキャラクターが出色なのである。飄々と女を犯し略奪し傭兵稼業に精を出す。この自然体が魅力。時の流れに身を任せつつも一本芯の通った硬骨漢は滅法強いチャンバラの達人なのさ。それでいて女にゃからっきしときたら、朴念仁かと思うでしょうが、ただ愛する一人の女を求めての大冒険に、男が男に惚れる名シェフの物語がグングン迫ってくるのだよなあ。大の苦手の中世フランスのいわゆる世界史に、血と肉を掻き集めて再構築した生身の男と女の物語として目の前に大皿で給仕されたようで、さあ食え、さあ読め、って感じでこういうストロングスタイルの小説は主人公に感情移入して読むに限るのだ。学校の勉強じゃ味わえなかった風味豊かな歴史の美味しさを味わって欲しい。

 日本人の作家にここまで書き込まれちゃうと脱帽するしかありませんね。佐藤賢一って、どういう経歴の持ち主なのだろう。フランスの救世主ジャンヌ・ダルクと傭兵ピエールの愛の形の変遷に溜息を漏らしつつ、火刑場の露と消えたジャンヌの史実とこの物語との整合性の競争にハラハラしながら、その裏のドキドキの冒険談に溜飲を下げるのであります。エピローグの哀愁漂うエンディングも心地よく、最後までピエールは、傭兵のシェフであるところのピエールなのだな。こうでなくちゃいけないよ、冒険小説ってのは。まず人物ありき。現実の歴史をバックグラウンドに想像力の翼を広げて我々読者をここまで魅了してくれた作者には感謝したくなるほどの会心作でありました。 (97/02/26 読了)

題名:ひまわりの祝祭 著者:藤原伊織
出版:講談社 1997年6月13日 第1刷発行  
価格:1700円(本体価格) ★★★

   国産ハードボイルドって好きじゃないんですよ。妙にセンチメンタルでウェットですぐヤクザが出てきて主人公は陳腐な一人よがりのせりふを並びたてる。自己完結の世界に浸り込んでるのを邪魔しちゃ悪いなって気になっちゃって避けていたわけ。んで、藤原伊織の直木賞受賞第二作目。『テロリストのパラソル』も一部世評より悪いともいいとも思わなかったのだけれど、ぎこちなく交わされる臭いせりふに、ああやっぱりとの思いも残しつつ、拒絶反応がそれほど大袈裟に出なかったのは、肯定の印かもしれない。じゃなきゃ、新刊本が出て即ゲットするわけもないか(^^; でも一応迷ったのよ、レジの前で。ずるずる国産のその他大勢ハードボイルド作品群の中に埋没しちゃう安易な作劇姿勢なんてのも想像しちゃったもんで。だって藤原さん、雑誌の麻雀大会やらそっち方面で活躍してて、本業の電通のお仕事もあるし、作家家業はいかが致しているのかと…。ところが、そんな杞憂を吹っ飛ばしてくれる会心の三塁打で我らの前にその雄姿を再びみせつけてくれたのでありました。パチパチパチ。

   イチローを狂言回しに今時の世相を物語の背景に貼り付ける手法は言わずと知れたチャンドラーの『さらば愛しき女よ』のマーロウつぶやくディマジオの連続ヒットのパクリでありますが、この辺、伊織さん、テレずにもっと活用するのも手じゃなかったかな。中途半端な使い方であまり効果を上げていないように思う。そんな中で登場人物の個性が勝負を決めましたね。こういう複雑な彼系の主人公を中心に据えたお陰で、まわりの脇役までなかなかの造形でした。じじい系はステレオタイプな感じがなきにしもあらずだったけど、原田がシビれますねえ。インテリやくざでモーホーなとこなんざ、ヒネッてくれました。ただ薔薇族系のドロドロっとした部分なんかもっと掘り下げてくれても美味しかったかも。新聞配達の炸裂系兄ちゃんのユニークさも特筆されるでしょうね(^^)。作者自身がばくち打ちだから、ばくちの場面(当然ラストの銃撃戦も含む)の冴えが、ズバッとストライクを取ってくれました。

   散発的な事件と過去の思い出が、後になってすべて集約されて行く様は、「おお、そうであったか」と納得の試合経過。登場人物の出塁率も 「おお、なかなかよいではないか」 の大団円ってところかな。感傷の街角に、皆勢揃いオールスターキャストでの銃撃戦がバシッと物語のラストを締めてくれました。なかなか渋いっすよ〜。主人公のストイックなまでの自分の生きざまが最後まで貫かれる。偉いぞ>藤原伊織殿。三作目もこういう路線を突っ走るのかまだ分かりませんが、あっと驚く新機軸を見せてくれるにせよ、読者の期待を裏切らない作品を再び供給してくれることを願って止まない読後感であることよ。その時こそが本塁打をかっ飛ばしたと手放しで褒められるのではないかな。(97/06/20読了)

題名:カノン 著者:篠田節子
出版:文芸春秋 1996年4月25日 第1刷  
価格:1600円(本体1553円) ★★

   何だか数年前のFADV内の篠田節子人気指数と比べると格段の差の賑わいで、おお、#3に地道に感想をアップして来た甲斐が…(^^; などと感慨にふけっておりますが、直木賞なんぞを取ってしまうと、篠田女史のホラー系の感性に惚れ込んだワシとしましては、枝分かれした道を辿るメジャーな作家としての姿勢は当然予感していたわけで、自然と最近の作品群からは遠ざかっていた訳であります。といいつつも、機会があれば読むつもりはあったのですよ。だから、直木賞以前だけど、こうして手に取った『カノン』であり、図書館で借りた『斎藤家の核弾頭』なのですねえ(^^)。でもやっぱり、女史の本質はホラーにあり、としつこく迫るホラー作家としての篠田節子に期待せざるを得ない我が刷り込みっつう部分がワシの灰色の脳細胞内に幅を利かせているのだな、これが(コマッタモンダ)。

   で、読みました。う〜む、どう感想を言うべきか。帯にあった『書き下ろしホラー』と宣伝している割には、ホラーっけが足りないのではないかな。単なる青春三角関係二十年後清算物語なんて言っちゃうと身も蓋もないか(^^; 取って付けたようなバッハのカノンの旋律が戦慄を呼ぶなんてこともなく、ホラーを気取って書いた部分が浮いちゃってるんですよねえ。特にホラーっぽい書き方する必要もないストーリーと言い切ったらぶっ飛ばされるかな(^^;

   状況が閉塞空間というか、康臣の張り巡らした蜘蛛の糸の上での主人公たちのあがきが読みどころな訳ですが、妙にリアリスティックな女主人公の醒め方に、人生の後半戦に差し掛かった女の生臭さなんぞをふと嗅いでしまったので、ストーリー自体よりそっちの方が気に掛かる部分がなきにしもあらず。同世代感覚が妙に身につまされるのですよね。篠田女史が生身の本音を吐露しているようでもあり、等身大の女性の匂いが行間から立ち上ってくるのだな。ホラーとして期待しないで読む分には、なかなか読ませる佳作ではあります。ただ、『聖域』や『神鳥』の切れ味を期待するマニアックな読者にはアピール不足としか言いようがない作品だったりもします。篠田ファン以外の方にはお勧めはいたしません、と言っておきましょう。さて、次は『斎藤家の核弾頭』だな(^^)。 <97/09/15 読了>

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