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邦題:ディスクロージャー DISCLOSURE 作者:マイクル・クライトン
発行:早川書房 1993.12.15 初版発行 訳者:酒井昭伸
定価:¥2400 ★★1/2

   何だか、デミ・ムーア主演で映画化されるようで、これを機会に読んでみようか、と。どうも変な先入観があって、クライトンがセクハラ小説なんてなんかの間違えじゃないのって、ずっと敬遠してたのですよね(^^;

   『ライジングサン』でムカッ腹立ててもうクライトンなんか読まんぞ、なんて読者もいるんじゃないでしょうかね。実は私もその一人だったのでありますが…。最初はやっぱりセクハラ小説だった(^^; ありゃまと思ったのも束の間、コンピューターやハイテク用語の嵐で、パソ通やってる人だったら思わずニヤリとしてしまうようなシーンの連続で、結構感心してしまったりする。この辺はさすが理科系作家クライトンだけのことはありますな。でもって、このセクハラ騒動の裏にはやはり何かがあったわけで、この辺がスパイスになっていて『ライジングサン』よりはまともな作品に仕上がってるようです(^^)。

   しっかし、米国の訴訟社会ぶりはおっそろしいよね。この物語に出てくる訴訟沙汰は向こうじゃ日常茶飯事だもんね。おおもとは弁護士が多すぎるってことだと個人的には思ってるのだけれど、主張することによって成り立ってる社会は、やはり双方の主張を裁く裁判が必要になるわな、実際。私ゃあいまいな社会の日本人でよかったあと変な感慨を持ったのである。

   この作品の訴訟沙汰で、サンダース以外にも何だか身につまされちゃう登場人物も何人か出てきて、読むのに疲れたりしたのですが、まあ、米国じゃなきゃ成立しない小説ではありますね。でも、クライトンもこんなのばっかりじゃ困るけどネ。<95年1月読了>

邦題:ただ一度の挑戦 THE ONLY GAME 作者:パトリック・ルエル
発行:ハヤカワ・ミステリ1994.12.15 訳者:羽田詩津子
定価:書店で調べて下さい ★★★1/2

   パトリック・ルエルは、言わずと知れたレジナルド・ヒルの冒険サスペンスを書く時のペンネームですが、ルエル名義も今回が最後のようです。今後はヒル一本でダルジール物もサスペンスも書いていくそうなので、ルエル・ファンにとっては、ホッと一息というところでしょうか(^^)。

   『長く孤独な狙撃』は、私にとってオールタイム・ベスト10に入るほどメロメロに惚れ込んでしまった作品でありまして、『眠りネズミは死んだ』もまあ、そこそこ読ませる作品でありましたので、帯に『愛と誇りを勝ち取るために』なんて書かれちゃうと、無条件に飛びついちゃいますよ、やっぱり。

   はっきり言って、前半は大いなる助走であります。ドッグ・シセロ警部も劇的な登場の割には、IRAの後手後手に回って、幼なじみの公安部のテンチ警視にいいように翻弄されてしまう。だが、ここで救いの光を投げかけてくれるのが、ポーカーの世界的名手であるドッグの叔父エンドウが叩き込んでくれた数々の勝負哲学なのですよ。テンチの罠に落ちたドッグの孤独な戦いも、このエンドウ語録が強力なバックアップになってくれるのですが、登場人物が入り乱れて田舎のコテージでクライマックスを迎える第四部あたりから、物語は俄然白熱してきます。

   そうそう、実際のエンドウ叔父も結構渋い味出してますよ。エンドウの呪縛から離れて一人前の勝負師になるための儀式。ドッグの行動にはそんな意志が見え隠れするのです。そしてタイトルにあるTHE ONLY GAMEが、シセロの生死をかけた一世一代の大勝負として、ルエルも勝負をかけるのですよ。「どうだ、面白いだろう」って。この緊迫感、そして真の愛への試練、一か八か、ぎりぎりの勝負に勝ったのは果たして!? う〜む、このIRAの女死神は結構ナイスなキャラクターですね。

   儀式を乗り越えて、一人の勝負師として真の愛をも獲得した、シセロの晴れ晴れとした微笑は印象的であった。新たな人生を賭けての捨て身の戦いは、すべてこの『愛と誇りを勝ち取るために』あったのですね。最後にジェーンに語られる自信に満ちたシセロの言葉が、全てを物語っているのです。「これは新しいゲームなんだ」と。ジワリと心に染み入る作品でありました。<95/01/15 読了>

邦題:ViCAT捜査官 必殺の時 上、下巻 JUST A KILLING TIME 作者:ディレク・ヴァン・アーマン
発行:TBSブリタニカ 1994.9.9 初版発行 訳者:染田屋茂
定価:各¥1800 ★★★★

   さすがに、元政府機関の凶悪犯専門の心理分析官だけのことはあるぞ。プロファイラー対連続殺人者の対決を描く本書でも、随所に感心させられる箇所が出てくる。スコットらViCAT捜査官たちの活動や、深夜の「スロット」席と全米各地の警官たちとのやりとりなんか迫力満点。こりゃ実際に経験した者の強みですね。

   本書がデビュー作ということで、多少荒削りな文章構成が気になるところもありますが、そんな些細な瑕疵など吹っ飛ばす骨太のストーリーで、後半一気読みのジェットコースターでありました。あらら、これはもう必殺仕置き人の世界でありまする。フランク・リヴァーズ刑事の翳りを帯びたキャラクターがなかなかよろしい。両手に45口径を構え、サイコキラーとヤク中キラーの三竦み銃撃戦は、半端じゃない迫力だぁ!

   まあ、こういう結末を持ってくる裏には、やっぱり作者の実体験上のやるせなさみたいなものもあるのだろうな。今の訴訟過剰ぶりの米国では、へたすりゃこいつらサイコどもが証拠不十分で出て来ちゃうんだから、せめて読み物の世界ではこれくらい溜飲を下げさせて貰わないとね。エンターテインメントに徹する作者の姿勢には二重丸。ただ難を言えば、ブラット、コーレス組とドーン、アーマ組の関わりが、もう少し書き込んであれば、それなりに複雑なプロットとなっただろうに、この辺が肩すかし気味。一気にジャッフィー爺さんまでやっつけちゃうかと思いきや、それっきりだし(^^;

   最後もちょっと呆気無かったかな。アーマの線でもう少し引っ張ってくれるのかと期待したのだけれど…。しっかし、スコットの執念は病院のシーンで爆発してくれました。せりふの一言一言がビリビリと読み手に伝わって来ました。凄いです。 <95/01/22 読了>

邦題:チョコレート・ウォー The Chocolate War 作者:ロバート・コーミア
発行:扶桑社ミステリー 1944.4.30 第1刷 訳者:北澤和彦
定価:¥520 ★★★

     新年会オフで、やぶさんにじゃんけんで勝って『果てしなき反抗』をゲットしたもんで、こりゃ当然読まねばならぬ訳であります。結構都内の書店を探し回りましたが、あったあった(^^)。矢吹氏のカバーイラストもなかなかよろしいではないですか。青春物っていうのは、意外に好きなんですよ。で、期待して読み始めたのですが…。

   そもそも、何で私立の学校でチョコレートを生徒が売り歩かなきゃいけないのでしょうか。実際、コーミアの息子がモデルになっているという話だけれど、日本の学校事情に鑑みるとピンと来ないよね(^^; 最初の設定から乗れなかったもんで、最後まで違和感が残ったのは事実ですけど、青春小説という部分では楽しめました。自由を求めた少年の孤独な反乱と挫折。苦悩する少年たちの陰の部分が、救いようのない暗い学校生活に拍車を掛けて行きます。ああ、なんて暗いんだ(^^;

     阪神大震災で吹っ飛んでしまった例のいじめ事件。今も昔もいじめ自体はあったわけで、コーミアの活写するトリニティ校の秘密組織などのアンタッチャブルな部分はビビッドに描けていて、それはそれで十分面白いのだが、ショキングな結末というほどでもないラストに不満が残ったりするのである。ちょっと期待しすぎたかしらん。エスカレートし過ぎたいじめの現実の前には、少しばかり古めかしいフィクションは色褪せてしまったようです(^^; 何しろ、米国の学校では今や、銃器の持ち込み検査までやってるというのだから、もういじめを通り越しちゃってるよね(^^;

   さて、本書の続編である『果てしなき反抗』が、どれだけ楽しませてくれるか、じっくり読んでみることにしよう。期待半分、不安半分ってとこですが…。 <95/01/25 読了>

邦題:汚れた守護天使 BUCKET NUT 作者:リザ・コディ
発行:ハヤカワ・ミステリ 1993.12.15 訳者:堀内静子
定価:¥1000 ★★

   巷じゃ評判いいようですが、私はどうも誉めるのには躊躇してしまう。こんな程度でシルヴァー・ダガー取っちゃうなんて信じられないぞ〜(-_-)。だって、プロットだって大したことないし、ほとんどミステリとは言い難いのである。ただ、主人公のキャラクターが超ユニークであるというところが買いかな。

   彼女の殺伐たる日常生活の部分は結構読ませてくれるのですが、肝心のメイン・ストーリーがこれでは…。ラストの善悪入り乱れてのプロレスの夜は、それなりに盛り上がったっけ(^^)。そう考えるとそう悪くもないかな(^^;このがさつなブスの大女レスラー、エヴァ・ワイリーって、タフな外見の下に実はナイーブな優しさを隠し持っているのだけれど、不器用すぎてうまく表現できないのよね。で、彼女が孤軍奮闘する訳なのですが、私にはやっぱり空回りしてるようにしか思えなかったなあ。この辺で評価が分かれるのでしょうね。

   格闘技ファンの方は、このプロレス・シーンをどのようにお読みになられたでしょうか。チト興味があったりします。実際、こんな駆け引きがあるのかしらん!? <95/01/29 読了>

邦題:果てしなき反抗 Beyond The Chocolate War 作者:ロバート・コーミア
発行:扶桑社文庫 1994.9.30 第1刷 訳者:北澤和彦
定価:¥560 ★★

   チョコレート・ウォーの続編、いわゆる後日談ってやつですね。登場人物はほぼ同じで、今回の主役はアーチーの相棒だったオウビーということになりましょうか。幸福の絶頂から奈落の底へ。う〜む、可哀想なオウビー。作者は青春物のツボを心得ていて、その辺はよく描けてます。だけど…。

   かのチョコレート事件の犠牲者ジェリーも再登場するのだけれど、メインストーリーとはすれ違ったままなのが、不満といえば不満かな。だって一行目の書き出しを読めば、誰だって劇的な展開を想像すると思うのだけれど、結末は何とも肩すかしなのである。『ジェリー・ルノーがモニュメントに戻ってきた日、レイ・バニスターはギロチンをつくりはじめた。』これで、ラストの仕掛けは学園祭の出し物のギロチンとくれば、前作の悲劇的な結末からしてもっと強烈なの期待しちゃうじゃない。

   ところが、ブラザー・リオンも今一つ冴えないし、ヴィジルズの悪さもパッとしない。ラストでアーチーがスマートさを見せつけたのが、せめてもの救いってところか(^^;今年の誓いとして、読んだ本は面白かろうがつまらなかろうが、とにかく感想を全作品アップするつもりですので、つまらないなら感想なんか書くな、なんて石を投げないでね(^^; <95/02/06 読了>

邦題:ブラック・ナイフ SHADOW PREY 作者:ジョン・サンフォード
発行:早川書房 1993.6.30 訳者:真崎義博
定価:¥1800 ★★★

   新潮文庫の『サディスティック・キラー』に続くルーカス・ダヴンポート・シリーズ第二作ということになります。早川が版権買い取ってハードカバーにして稼ごうって魂胆が見え見えで、前作が結構気に入っていたのだけれどなかなか読む気になれず、図書館で見つけてようやく手にすることが出来ました。新潮ではダヴェンポートだったのが早川ではダブンポート。まあ、翻訳者も変わってるので意図的に変えたのでしょうけど、シリーズの読者にとってこういうのは非常に迷惑なのですよね。ストーリーに馴染むまでなかなか違和感が抜けないのでありますよ。

   本作の背景には、インディアンたちの悲しい歴史が下敷きになって物語は進行していきますが、途中からはもうそんなことはどうでもいいやとばかり、ルーカス・ダブンポート警部補の行動にドライブがかかって、ミネアポリス市警の一匹狼ぶりが浮き彫りにされて、ストーリーよりもキャラクターの面白さでグイグイ読者を引っ張って行きます。まあ、このダブンポートって警部補はユニークな男で、刑事のくせに副業でゲームデザイナーなんかして高収入でポルシェなんか乗り回して、TVレポーターとの間には一女をもうけながらも結婚はしておらず、とにかく女が好きであっちの欲求が絶えず女を求めさせるという破天荒さで、今回もニューヨークから来た女刑事とのべつまくなしでXXXしちゃうのだから、呆れたもんだ。

   前作でもそうだったけど、ダブンポートの行動基準というか生活律にはすべてゲームという言葉が支配しているようでありますね。ルールに則ったゲーム。犯人を追い詰め射殺するにしても自分を律するルールが、女や自分の子供より優先するすさまじさ。こういう破滅的なキャラクターって好きだなあ。インディアンたちが企んだ連続テロ殺人の謎解き自体はそれほど衝撃的なものではないけれど、ダブンポートとリリーの愛の行方も含めて、今後の展開がシリーズ・ファンには興味深いものになっています。まあ、変に家庭に収まっちゃうよりは、喪失感を抱いた一匹狼の方が面白いに決まってるもんね。<95/02/17 読了>

邦題:アニマル・アワー THE ANIMAL HOUR 作者:アンドリュー・クラヴァン
発行:扶桑社ミステリー 1995.2.28 第1刷 訳者:内田昌之
定価:¥700 ★★★

   ハローウィンの朝、ナンシー・キンケイドは弁護士事務所に出勤するが、誰も彼女をナンシーと認めない。私は誰? バッグには見知らぬ拳銃。そして頭の中を去来する『獣の刻に彼は死ぬ』という言葉。街をさまよう彼女がテレビで見た物は、頭を切り落とされたナンシー・キンケイドという猟奇殺人の犠牲者の名前だった…。

   『秘密の友人』に続くアンドリュー・クラヴァンのサイコ・サスペンスです。ただ『秘密の友人』に馴染んだ読者はチト面食らいそうな作品ではありますね。その強烈なサスペンス度はメーターが振り切れちゃうほどドライブが掛かって、錯綜する謎と相まってサイコ物ファンにはたまらんのですが、前半から後半への副主人公の豹変ぶりが、これはもう反則スレスレではないかと思ってしまったりする構成なのですよ。登場人物が少なくて詳しく言っちゃうと確実にネタばれになっちゃうので、これ以上は口にチャックなのですが、物語の半ばでちゃんとナンシーの謎は後で読むと分かるように書いてはいるのですね。熱に浮かされたような文体に翻弄されて最初に読んだときは気付かなかったけど…。

   なんかこう、絶えず不安に苛まれるような読み心地でありました。患者の脳内に侵入したサイコダイバーにでもなったような感じとでも言ったらいいか(^^;構成上にはいちゃもん付けましたが、ナンシーの描写はなかなか良かった。交互にやってくる喪失感と疾走感が、感度ビンビンのNYを背景にグングン迫ってくるのだもの。こりゃあ凄い迫力でっせ。結構間抜けなオリヴァーや『獣の刻』の謎解きなんかよりも、主役をナンシーに絞って書いてくれた方が読者にもカタルシスがより得られたのではと思うのだけど、いかがなもんでしょう。 <95/03/19 読了>

邦題:アウトブレイク OUTBREAK 作者:ロビン・クック
発行:ハヤカワ文庫 1994.8.31 9刷 訳者:林克己
定価:¥620 ★★★

   近頃話題のエボラ出血熱を扱った医学サスペンスです。ロビン・クック初体験なもので、どんな物かと期待半分不安半分でしたが、どうしてどうしてなかなか面白く読みました(^^)。ただし、後半は星一つマイナスですが…。

   プロローグからして、いかにもって感じで、アフリカのザイールでエボラ・ウイルスの恐怖を読者の脳裏に焼き付けておいて、いざ舞台はロサンゼルスへ。新米女医マリッサが結構いかすキャラクターで、第二、第三の発病の謎解きに猪突猛進する勇ましさは、思わず頑張れと応援したくなってしまうほどです。ただ、ストーリー展開が、途中エボラ出血熱の恐怖から、謀略の方に比重がかかってしまうので、純粋に怖がるのなら『ホットゾーン』を読んだ方がいいようですね。

   なもんで、出血熱の描写自体はサラリと書いているので多少物足りなさが残ってしまったりする訳で、他のクックの作品も皆このような傾向があるのでしょうか。謀略部分のネタが割れちゃうと、な〜んだって少し肩すかし気味(^^;

   そうそう、映画の『アウトブレイク』は原作の謀略部分よりも、エボラの恐怖に比重を置いているようで、サスペンスとしての見応えは映画の方が期待できそうです。なんせ軍隊が街を封鎖して人間ごと殺菌しようとするらしい。主役のダスティン・ホフマンは誰の役をやっているのだろうか、興味津々ですね(タイトルだけで中身は別物?)。さて、次は『ホットゾーン』を読まなくっちゃ。<95/03/24 読了>

邦題:ロシアの核 CHAINS OF COMMAND 上、下巻 作者:デイル・ブラウン
発行:早川書房 1994.7.31 初版発行 訳者:伏見威蕃
定価:各¥1800 ★★★

   デイル・ブラウンって作者は、トム・クランシーより好き嫌いがはっきり分かれそうですが(^^; 私は結構好きだったりするわけで、この作品は『オールドドッグ』組が出てこないノンシリーズの軍事スリラーではありますが、思いっきりハイテクな部分とともに登場人物の人間臭さが前面に押し出されていて、なかなか良いのですよ。多少ステレオタイプであることに目をつぶれば、モデルになってる連中に注がれるブラウンの皮肉な目が利いてて、読んでいて思わずクスクス、ムカムカ、ハラハラと文中に引きずり込まれてしまいます。

   大統領とファーストレディはクリントンとヒラリーだし、ロシアのヴェリチコ大統領はジリノフスキーそのものだもんね(^^; まあ、ブラウンを代表としたタカ派連中は皆こんな目で現政権を見てるのであろうなあと思うけど、なかなか辛辣でこんなこと書いていいのかしらって感じ。ヒラリーが嫌いな人は是非読んでみてネ(^^;

   エピローグのオチでちょっと点数稼いじゃったけど…。核のキノコが何本も傘を広げちゃう展開は、おいおい待ってよとあまり感心しなかったけど、チェチェンがらみのロシア情勢を含めた世界の構図が見えてくるのはさすが。

   この作者のアップ・トゥ・デートな部分はいつも買いですよね。近未来の米軍の予備役中心の編成なども興味深いし、電子戦の迫力はこの人ならでは。ハイテク空中戦も読ませるぞ!邪教集団や無差別テロなど現実がリードする国内情勢に比べて、世界情勢ではこんなの小説の世界だけで済ませて欲しいものだけどこっちには、いつ現実になるか分からない恐さがありますね。貧者の核弾頭も恐いが、富者の核弾頭ももっと恐い。<95/04/03 読了>

邦題:発動!N.Y.破壊指令 THE FIFTH ANGEL 作者:デヴィッド・ウィルツ
発行:扶桑社ミステリー 昭和63年7月21日第一刷 訳者:石森 侑
定価:¥560(古本屋で¥150) ★★★

   陸軍特殊部隊のエリートが事故で精神に異常を来たし、NYを核戦争後のモスクワと錯覚してワンマンアーミーとなって破壊工作の限りを尽くすスティッツアー軍曹。FBIは果たして彼を止められるのか。

   な〜んて粗筋を紹介しちゃうと、ド派手なノンストップアクションかと思うでしょうが、実はじっくりと読ませる肉親の愛情物語であり、心理描写の妙を味わう部分が結構前面に出てきて、陰影の深いサスペンス小説といったところでしょうか。単なるアクション小説に終わってないところが、D・ウィルツの曲者ぶりをいかんなく発揮しているわけで、この後の作品群にも引き継がれているようですね。

   ただ、助走部分が長いかなというのが率直な感想で、いい着想の割に損してるのがこの辺なのですよね。こんがらがった愛憎模様に作者の筆が熱を入れすぎたようで、軍曹のキラーマシンぶりが書き込み不足となって足を引っ張ってしまう。クライマックスの息をも吐かせぬ迫力は、叔父と甥の感動的な情愛と相まってなかなかの盛り上がりですが、100点満点で70点というところかな。スティッツアー軍曹の喪失感と単独行の破天荒さをもっと書き込んでくれたら、もう10点プラスなんだけど…。

   ワンマンアーミーもので『セントラルパークは俺のもの』って作品も探してるんだけど、これがなかなか見つからないのよね〜。こっちの方がちょっと期待できそうなので、気長に探してみようっと。 <95/04/25 読了>

邦題:消えた女 MISSING WOMAN 作者:マイクル・Z・リューイン
発行:ハヤカワ文庫 1994.10.15 発行 訳者:石田善彦
定価:¥640 ★★★

   アルバート・サムスン・シリーズは順不同で、図書館で見つけた順で読んでます。私自身パウダー警部補ものからリューインに入ったため、どちらかというとサムスンよりはパウダーが贔屓だった訳ですが、今ではすっかり逆転してしまったのであります。だってパウダー・シリーズってなかなか続きが出ないんだもん。

   ま、どちらも語り口のうまさはさすがリューインでありまして、読んでいて面白いし、小説として奥行きが深い。そうそう、サービス精神が旺盛で各作品で登場人物がクロスオーバーして現れるところなんざ、思わずニヤリとさせられます。本作にもパウダー警部補が嫌みたらたらでサムスンにちょっかい出したり、アデルがサムスンに重要なヒントを与えたりと、物語にアクセントを加えてますよ。相変わらずリアルな私立探偵像といいましょうか、仕事日照りで事務所も取り壊しで立ち退き命令が出ていたりで、冴えないことおびただしいサムスンなのですが、寄付金集めの女性にはポンとなけなしの5ドルを渡してしまうダンディズムみたいなものが、彼の全てを表しているようにも思えますね。

   基本的には『いい人』なのですが、一旦ことを起こせば有能な職業人に変身するし、失敗もして危うく命を落としそうになったりと、ごく一般的な人間像といえるでしょう。スーパーマンじゃないところがいい。その人間くささがユーモアとなってこのシリーズを包み込んでいるのが、一番の大きな魅力です。そこにスパイスとして加えられた謎また謎、そしてどんでん返し。これまで読んだシリーズと少し毛色が違うのは、なんだかロスマクみたいにもつれた糸がほどけていくとともに、登場人物の過去の悲劇が暴かれていく深刻さが後半から物語を支配してしまう点でしょうか。

   まあ、これはこれで面白く読んだのですが、やっぱり明るいアルバート・サムスンの方が、このシリーズには似合っているような気がします。ああ、早く『豹の呼ぶ声』の続編が読みたいよ〜。 <95/04/26 読了>

邦題:ミステリー MYSTERY 上、下巻 作者:ピーター・ストラウブ
発行:扶桑社 1994.5.30 第1刷 訳者:芹澤恵
定価:各¥1800 ★★★1/2

   一筋縄では行かない作家ストラウブの『ココ』に次ぐ『ブルー・ローズ』三部作の第二作目ということになっていますが、話自体はそれぞれ独立しており、『ブルー・ローズ』という言葉がキーワードとなってこの二作は共通しているようであります。私自身『ココ』は未読のため何とも言えないので、三作目の『The Throat』が出る前になんとか読もうとは思っているのですが…。このストラウブの文体が結構苦痛だったりする部分もあって、他の作品に手を出しにくいところもなきにしもあらず(^^;かの『ゴースト・ストーリー』には泣かされたクチです。面白かったけどね。

   で、『ミステリー』の話。これってサイコ・ホラーかと思ってどんどん読み進んでいたのだけれど、ホラーっぽいのは冒頭『トム・パスモアの死』の部分だけでありました。ところがストレートなミステリかというと、そうでもない。何か人を不安にさせるような描写が第7サティアンの隠し部屋のように(^^;得体の知れない奥行きを感じさせるのでありますよ。この辺の正体は三部作を通して初めて見えてくるストラウブの仕掛けなのでありましょう。探偵見習いのトム少年と、かつての名探偵シャドウの交流が何だか小林少年と明智小五郎みたいでほのぼのとさせる。ってまあ、後々への伏線でもある訳ですが…。

   上巻はトムの青春小説のようでもあり、下巻半ばからの怒涛の展開へのプロローグでもあるようです。とにかく書き出しからして普通じゃない雰囲気なのだが、読み終えてしまえばやはりミステリなのである。だけど、やっぱり変だぞ。この表紙の青い薔薇の意味深な写真は何を表しているのだろうか。すっげ〜気になるんだよね。やっぱり『ココ』を読まねばブルー・ローズの謎は解けないのであろうか。<95/05/03 読了>

邦題:殺意のシーズン TOURIST SEASON 作者:カール・ハイアセン
発行:扶桑社ミステリ 1989.11.24 第一刷 訳者:山本光伸
定価:¥700 ★★★

   まあ、この作品は普通の書店ではもう発見できないでしょうが、古書店で見つけたら即買いで是非読んでみてね。この後に続く作品群へのハイアセン・エッセンスがぎっしり詰まった、言ってみればプロトタイプとでも言うべき一冊です(^^)。面白いことは面白いが、多少こなれてない笑いもあったりするところがご愛敬でありますね。

   ただ、これほど鰐におばあさんは食われるは、爆弾で新聞記者は吹っ飛ぶは、ブローニングで脳味噌バーンなんて、死体がゴロゴロの展開にもさほど悲惨さが感じられないのは、やはりハイアセンの天衣無縫な筆裁きのおかげでしょう。それにしても、チト殺伐とし過ぎるストーリー展開には、あまり感心しなかったのは事実ですが、強烈に捻りの効いたユーモアと奇想天外さはまさにハイアセンの面目躍如でありましょう。ハイアセンか、トニー・ケンリックか、ってなもんだ。電車の中で読んでいて思わず吹き出しそうになったこと数回、このみずみずしいユーモア感覚は天性のものですね。脇役に至るまで登場人物全てに愛情を注ぎ込んだ大胆不敵な犯罪小説に乾杯!

   そうそう、ハイアセンが新聞記者出身ということで、この作品でも新聞社の内幕が面白おかしく暴露されますが、フィクションだけではなくて、私の周囲を見回しただけでも実際にもおかしな記者連中は存在するわけで、思わずクスクスでありました。月に一回か二回コラム書くだけで、年収ン千万円の某編集委員とか、アルバイトの女の子に手を出して離婚騒動を起こし笑い者のベテラン・スポーツ記者とか、自分の書いた記事が載らないと役員にまで電話を掛けてどうしても載せろとごり押しするわがままゴルフ・コラムニストとか(^^; これだけ揃えば、マイアミ・サン紙の編集局にも負けないくらいだと思うんですけど…。ただ、スキップ・ワイリーほどの破天荒なライターはいないけどネ。たははは。 <95/05/15 読了>

邦題:闇の狩人 CLOSE TO THE BONE 作者:デヴィッド・ウィルツ
発行:1995.1.30 第1刷 訳者:汀一弘
定価:¥680 ★★★

   戦慄殺人を繰り返す伝説的殺し屋も凄いが、彼を追うベッカーFBI捜査官も凄いぞ。精神の暗黒面に捕らわれた者と、かろうじて暗黒の縁に留まって負と対峙する正の者。ただその精神の奥底は深く、誰にも見渡せない。その正と負が逆転しそうになるほどの衝撃的なラストの死闘。これは恐いですねえ。

   プロファイラーなんて生やさしいものじゃなくて、犯人そのものに精神を同調させることで、犯行を追体験し、そして追跡する。犯人と俺は同類なのだと知っていて追うベッカー捜査官。その揺れ動く心の傷が物語のアクセントとなって、このマンハント劇は進行していきます。しつこいまでに書き込むウィルツの筆は登場人物の陰影を浮き彫りにしてくれます。

   プラス性描写。これは『すべてはセックスに繋がる』とのウィルツの主題らしいのだけれど、生命の根源と死を対比させつつ、単なるアクション小説に終わらせない深みを物語に投影しているようです。身体障害者の性を執拗に追い掛けているのも、やはり意図的なものなのでしょう。なんだかウィルツの小説の方向性を追っかけていくと、とんでもないものと遭遇しそうだけれど、でもやっぱり読まなきゃいけない作家なのでありますね。

   先に発表されている『倒錯者の祈り』はこの作品の続編でもあるようなので、早速書店でゲットしてきましたが、このベッカーという主人公の行く末は気になるところです。<95/05/23 読了>

邦題:少年時代 Boy's Life 上、下巻 作者:ロバート・R・マキャモン
発行:文芸春秋 1995.4.20 第二刷 訳者:二宮馨
定価:各¥2000 ★★★★

   ホラー一辺倒だったこれまでの呪縛を解かれたかのように、マキャモンの筆は自由に飛翔し、そいて舞い降りる。自らの少年時代をモチーフに、少々の想像力と作家的テクニックをスパイスにして香り高い青春小説を我々に提供してくれました(^^)。

   モダンホラーというジャンル分けから飛び出した最近のマキャモンですが、この作品もホラーというよりもファンタジーに近いかもしれない。そして、これまでもそうであったように、ここにもキングの影響が深く根を下ろしているようですね。そう、これはマキャモン版『スタンド・バイ・ミー』なのであります。

   作家志望だった少年時代の自分、すなわちコーリーが体験したゼファーという町での四季。そこには、恐竜が棲み、幽霊が町を徘徊し、異星から来た侵略者が隙を窺う素晴らしい魔法の王国が存在し、百六歳になる黒い女王や、剛腕野球少年や、極悪兄弟に、愛犬レベルに、猿のルシファー(^^;らが、セピア色の過去を総天然色で染め上げて、生き生きと見せてくれるのです。万華鏡のようにキラキラと輝く短いエピソードが積み重なって、読者自身の郷愁までも呼び起こしてしまう不思議な空間。

   そんな中に太い縦糸として、他殺体を載せて湖中深く沈んだ自動車の謎が現実との距離を保ってくれるのですが、後半に入ると魔法が後退し、現実の占める割合が多くなればなるほど、過去は再び色褪せてコーリーの記憶の中に戻っていってしまいます。何だか、すごくいい気分の読後感。ハラハラさせてドキドキ、腹を抱えて笑った後にやってくる悲しみ。こういう本を大人だけに独占させておくにはもったいない気がするけど、子供たちにこの本の良さが分かるかなあ。やっぱりマキャモンと同世代の読者層に一番アピールするようですね(^^)。

   猿のルシファーが登場するくだりは、電車の中で読んでると思わず吹き出しそうになりますので、お気をつけ下さいませ(^^)。それにつけても、最後に記されたマキャモンの謝辞には、思わずニヤリですよね。ブラッドベリの短編集って好きだったんだよなあ。自分の少年時代を思い起こしつつ、ではまた諸君! <95/06/07 読了>

邦題:倒錯者の祈り PRAYER FOR THE DEAD 作者:デヴィッド・ウィルツ
発行:扶桑社ミステリー 1993.12.30 第1刷 訳者:汀一弘
定価:¥620 ★★★

    『闇の狩人』の後日談にあたる訳ですが、発表されたのはこちらの方が先でありまして、それにしては、よく辻褄が合っているのにまず感心。過去にこんなことがあったと、断片的にポツリポツリと語られる部分は、そのまま『闇の狩人』で描写されており、両作品を読むと主人公ベッカーの特質がより理解されやすいでしょう。

   犯人の意識に入り込んで、精神を同化させ追跡する。特殊な捜査能力を持つ元FBI捜査官ベッカー。彼もまた、サイコキラーと皮一枚隔てた精神の持ち主であることを自覚しており、皮一枚の部分での葛藤がこのシリーズの面白さであるわけですが、この闇の狩人がラストの犯人との対決では、さて!?

   この作品でのもう一つの読みどころは、サイコキラーであるダイスの人物造形に、ベッカー以上に筆が費やされている点でしょう。この二人はコインの表裏であるということがより強調されてくるのです。これほど、異常心理にこだわった作品を書き続けるウィルツという作家も相当変わってるよね(^^;

   どっちを先に読むか。発表順でいえば『倒錯者の祈り』→『闇の狩人』でありましょうが、物語の進行順でいえば『闇』→『倒錯』だからねえ。ただ、犯人が地味な『倒錯』に比べて『闇』はテロリストのチャンピオンみたいなバホウドが登場しますので、地味な方から入る方がいいかもしれないかな。<95/06/09 読了>

邦題:狂信者 上、下巻 THE SCORPIO ILLUSION 作者:ロバート・ラドラム
発行:新潮文庫 平成7年6月1日発行 訳者:山本光伸
定価:上¥640、下¥680 ★★1/2

   このところ絶不調だったラドラムの最新刊ですが、どうも帝王老いたりという感じがなきにしもあらず(^^; 波瀾万丈、読んでいる間は次から次とページを繰るのがもどかしいほど錯綜したプロットと、激しいアクションシーンの連続で息吐く隙がないほどなのですが、読み終わってみると、「?」なのですよね。

   孤独で美貌の天才テロリスト、バハラットなんて設定からして、う〜むなのであ〜る。現実のアラブ系のテロリストを考えれば、あながち荒唐無稽とは言い切れないが、チト作り事めいて拒否反応が出てしまったのでした。それはまだよしとしよう。んで、彼女を支援する闇の組織『スコルピオ』の存在。なんじゃこりゃ。そんな世界中に組織の手の者が都合良く現れていいものでしょうか(^^;

   登場人物はバタバタ死んじゃうし、ラストの世界中の暗殺ネットワークの方はどうなったのでしょうか。「すべての権力者に死を」なんて各地のテロ組織で雄叫び上げてたはずなのに…。久々のラドラムで期待しすぎたのがいけなかったようですが、変な先入観持って読まなければ、なかなか楽しめる波瀾万丈物語ではあります。あとがきにあったかの傑作『暗殺者』以来というのは大袈裟だけど、このスピーディでパワフルなラドラム節は健在であります。そうそう、ジャクソン・プールっていうキャラクターは結構気に入ってます。 <95/06/15 読了>

邦題:影の十二使徒 THE DISCIPLES 作者:ジョーゼフ・J・アンドリュー
発行:福武書店 1994.7.5 第一刷発行 訳者:中江昌彦
定価:¥1500 ★★★

   意外なところに意外な面白さを秘めている作品とでも言いましょうか(^^;オフビートっぽくて結構読ませてくれるんだな、これが。いまさら冷戦終結やソ連崩壊にからむ謀略スパイ物なんて〜、と毛嫌いすることなかれ。世界を巻き込んだ驚くべき『影の十二使徒』の壮大な構想=スーパーマリオの裏ワールドみたいに広げられた大風呂敷に、あなたも包まれてみてはいかがでしょう(^^;

   情報機関NSAの情報官スティールは、引退して金持ちの妻の財産で悠々自適の毎日。が、ある事件をきっかけに長官からの要請で、急遽現場復帰することに…。その事件の発端は『レベッカの謎』であった。いかにも没個性的なNSAでの、情報官たちのドロドロした人間関係や色恋沙汰で世界を震撼させるトップシークレットがいとも容易にスパイからスパイへ伝わっていく様は、普通の謀略物に比べて逆に新鮮で面白い。物語のスタイルもスティールの視点から回顧録風に書かれていて、単なるラブアフェアのはずが、転がる雪玉のように銃撃戦、誘拐、二重スパイ、冷戦終結、そしてドンデン返し。十二使徒が揃えば、裏切り者ユダは…。

   結婚を決意しスパイを引退しようとしゃかりきに頑張っちゃうレベッカというキャラクターもナイスだし、億万長者の奥さんに食わせて貰ってる元スパイって主人公も相当変わってるよね(^^)。そうそう、ベルトに付けられた盗聴マイクのくだりは結構笑えますね。ベルトに付いてるってことは、当然トイレに行くときも…(^^;ベネッセのミステリ・ペイパーバックス・シリーズは、意外な拾い物があるのでチェックするのを忘れないようにしなくちゃ。 <95/07/20 読了>

邦題:バビロンの影 Shadow Over Babylon 上、下巻 作者:デイヴィッド・メイスン
発行:早川書房 1994.8.15 初版発行 訳者:菊池光
定価:各¥1800 ★★1/2

   元軍人さんのデビュー作ということで、結構ガチガチの戦争物かと思ってたんでですけど、意外や意外、作戦実行者たちのそれぞれの愛の形の方が読ませてくれるんですね、これが(^^)。まあ、助走距離が長いぞと言ってしまえばそれまでなんですが、そこへ至る過程で物語に多少なりとも膨らみを持たせているのは正解でしょう。作戦自体にいまいちノリが悪いので、枝葉の方で面白がらせてもらいました(^^;

   スパイ衛星で作戦を追っかけてメンバーを陰ながら応援しちゃうNROのカーウィン君はユニークなキャラクターでした。でもなあ、サダム・フセイン暗殺作戦がこんな結末迎えるとは思わなかったぞ(^^; 現実にはまたぞろ湾岸戦争の再発かなんて新聞紙上を賑わしているのだから、絶対失敗したと思うじゃない、『ジャッカルの日』みたいに。ところが…なのである(^^;

   ハラハラドキドキの冒険活劇ではないけれど、秋の夜長を手持ちぶさたで過ごしていらっしゃるあなた! ジョニイとジェリイの愛の物語だけでも読む価値はあると思うのだけれど…。な〜んて薦めている私自身が上巻途中でクィネルに浮気してしまったので、あくまでお暇ならという限定付きお勧め本であります(^^;<95/09/09 読了>

書名:情況証拠 Compelling Evidencve 上、下巻 著者:スティーブ・マルティニ
出版:角川文庫 平成六年七月三十日 三版発行 訳者:伏見威蕃
値段:上巻640円 下巻680円 ★★★★

   著者名からしてイタリア系で、主人公の名前もイタリア系っぽいポール・マドリアニときたら、こりゃ絶対こってり濃厚な法廷ミステリって先入観持ってしまいますよね、やっぱり。スパゲティばっかり食ってて髭剃り跡の濃い主人公。そういうの勘弁してよね、なんて、この歳になると胃の具合と読書傾向が相似形を描くようになっちゃったりするのであります(^^;

   ところが、読んでみると大違い。なんでこんな面白い作品を読み逃していたんだろうという後悔よりも、まだまだこの作者の未読の作品群が控えているという喜びの方が大きい訳でありまして、早速『重要証人』を仕入れてくると、おお、主人公は同じくポール・マドリアニではないか。ふーむ、これはシリーズ物だったのですね。いいぞいいぞ。そんなに濃い主人公ではなくて、結構爽やかっぽいではないですか(^^)。

   緻密な法廷戦術の妙。サスペンスフルでいて、ユーモアも忘れない。キャラクターのバックグラウンドの書き込みも十分だし、アップテンポで出てくる女も色っぽいとくれば、言うことないじゃないですか。おっと忘れちゃいけない。頭が痛くなるような法律用語も、平易にこなれていて読めば自然に英米法の勉強になるという一石二鳥の法廷ミステリってところか。なんてチト誉め過ぎかな(^^; でも、それほど面白かったと言いたい思いの丈を分かって下さいませ。

   ポールの法廷戦術が、事件を追う毎にシャープさを増してドライブがかかって行く様は圧巻ですね。これは元刑事弁護士という経歴が物を言ってますね。といって弁護士出身の作家がすべて筆が立つとは言い切れないし、やっぱり才能なのでありましょうね。よくよく考えてみれば、事件自体は他愛のない痴情殺人ではないかと言えるのですが、一つの事件の裏側のよじれた紐を元に戻していくように解明していく作品構造は、単なる推理サスペンスと異なり事件に隠された人間ドラマを浮き彫りにしてくれます。これがじわじわと効いてくるのですよ。途中から真犯人はこいつしかいないじゃないか、と思わせておいて、実は・・・。 このどんでん返しにもちゃんと伏線が引いてありまして、後で振り返ればいちいち納得(^^;

   しっかし、犯罪を裁くというよりも、裁判のための裁判のように一種ゲーム化しているような虚々実々な法廷戦術に、現実のシンプソン裁判がオーバーラップしてきて、人が人を裁く怖さを感じてしまった部分もありました。だけど『疑わしきは罰せず』っていう法の精神にも簡単には納得できないんだよねえ。限りなくクロに近い灰色を野放しにしていいの?ってのが正直な感想だったりします。陪審員制度も善し悪しで、日本の風土には合わない制度だという気はしてます。ドラマとしては面白いんですけどね(^^;<96/04/21読了>

書名:重要証人 PRIME WITNESS 上、下巻 著者:スティーブ・マルティニ
出版:集英社文庫 1994年7月15日 第2刷 訳者:白石 朗
価格:上下各640円 ★★★★

   『情況証拠』の続編であります(^^)。 スティーブ・マルティニという人は読者のツボを心得ていて、巧みに押したり突いたりと、変幻自在のストーリーテリングでしかめっ面しい法廷ミステリに新鮮な息吹を吹き込んでくれます。これが一度取り込んだ読者を掴んで離さない理由なのだな。右に左に揺さ振りを掛け、最後にどんでん返し。たまりませんな、こりゃ。無味乾燥の法廷風景が俄然色を帯びて、弁護側が、検察側が、そして判事が生身の人間像を垣間見せる。これこそがマルティニ愛好家の得られる醍醐味と申しましょうか。陳さんならずとも声高に、読め読め読めと叫んでしまおうじゃないの。

   主人公はポール・マドリアニ弁護士。いや違った、主席検事でありました。前作から一変、今回は正反対の立場で猟奇殺人の謎に挑みます。主人公を困難な状況に追い込むのは作家の常套手段といってもいいけれど、まあまあ今回も盛大に足を引っ張ってくれる登場人物には事欠きませんです、はい(^^; このキャラクターの書き分けが良いですよね。被害者の親戚にアーマンド・アコースタがいるなんてのは、ポールにとっては青天の霹靂。前作からの読者はニヤニヤ、物語のアクセントになるには十二分であります。

   ハイテンポで二転三転する物語は、法廷での駆け引きに入り俄然熱を帯びて来ます。検事対弁護人、検事対判事。これらが産み出す法律的混沌こそが、この作品の美味しく味わうべき部分なのでありますが、等身大の主人公の魅力の部分も大きいように思います。家庭人として悩めるポール・マドリアニ。苦悩し翻弄される検事マドリアニ。素直に感情移入出来ちゃうのでありますよ。そして暴かれた真相の意外性こそが、本作品をリーガルサスペンスの一級品としている点であろうと考えます。

   その辺のプロセスを有り難がって読めるかどうか、一部では評判になった作者ですが、法廷物と聞いて読まず嫌いの読者層をうまく掘り起こしてツゥローやグリシャムのようにメジャーな作家になれる要素はOKだと思っているのですが、さて、爆発的に売れるのはいつのことになるのでしょうか。文庫版のリリースが足を引っ張っているのかなと邪推したりしますが、これだけの作品を文庫版で封切りしてくれる方の喜びが大きいかもしれません。

   さて、続く『依頼なき弁護』でのポール・マドリアニ弁護士の危なっかしげな行く方に想いを馳せつつ、またまた二ッキーとの関係にヒビが入っていたりする予感に、物語の構成上大いにありえるぞ、と思ったりしている『重要証人』の読後感でした。うーむ、可哀相なポール君(^^;<96/04/29読了>

題名:依頼なき弁護  上、下巻 著者:スティーブ・マルティニ
出版:集英社文庫 1996年1月25日 第1刷 訳者:菊谷匡祐
価格:上下各700円 ★★★

   松戸OL殺人で逆転無罪を勝ち取った小野容疑者が、第二第三の殺人事件で再び新聞の社会面を賑わしておりますが、この松戸事件は不勉強にして詳細を知らないのですが、どうやら真相は限りなくクロに近く、支援者もしくは弁護団は体よく騙されていた可能性が高い、という結論に達しそうな状況・・・というのが、私のこの小野容疑者に関しての認識ではあります。

   刑法と刑事訴訟法は別物だ、とうのが、本作『依頼なき弁護』を読んでの正直な感想ですね。実際手を下した犯人とは別の次元で、仮想犯人を法廷上で裁きに掛ける。手続きだけの問題のように進行してしまう怖さを感じてしまいました。これは法律家のゲームじゃないか、ってね。限りなくクロに近い小野容疑者ですら、法律家のゲームでシロと判定されていたのですから・・・。いやいや、法律家のゲームというのは、日本国内では言い過ぎかもしれないですね。訴訟法大嫌い法学生であった小生は、裁判上の手続きには過敏に反応してしまいますが、アメリカ国内ではどうもゲームというか、スポーツに近いプレー対プレーという感がなきにしもあらずですね。裁判のための裁判というか、本筋を離れた別次元をこれでもかこれでもかと掘り進む様は、滑稽であったりします。物語としてはその辺が読みどころであったりしますが、何だかなぁ(^^;

   作品自体は面白いのですが、妙に現実の事件にリンクしてしまって訴訟法のあり方なんぞ考えて、屁理屈っぽい感想になってしまいましたが、今回のラストシーンは衝撃的でもあり、どんでん返しとしてもなかなかではありました。ただ前二作と比べるとカタルシスという点で、留保点を付けざるをえない。真相の明かし方とその後の彼らの行方をどう方向づけるのか、こんな風に読者に心配させて後を引く終わり方をマルティニが狙ったのか分からないけど、あんまりいい後味ではなかったなぁ。

   さて、日本の訴訟法でも一事不再理なんて条項があったと思うけど、小野容疑者の場合、松戸事件の再審ってのはもう無理なのかな。限りなきクロに近い灰色容疑者のまま終わるのであろうか。訴訟法なんてのはほとんど忘却の彼方ではありますが、まあ、別口で最高量刑を食らうでしょうから、実務面では問題ないかもしれないけど、被害者の家族からすれば、どういう思いでいるか。法律といえばそれまでだけど、血の通わない条文が遺族らにとってこれほど恨めしいと思えることは想像の限りではありません。裁判がゲームであっては絶対いかんと思う。クロい容疑者にはクロとはっきり判決を出して欲しい、などと柄にもなく正義感に駆られた読後感でありました。やっぱり訴訟法って嫌いなんだよなぁ。学生時代の刷り込みが尾を引く今日この頃ではありますね。<96/05/03読了>

題名:密閉病室 THE SELECT 著者:F・ポール・ウィルソン
出版:早川書房 1996年1月31日初版発行 訳者:岩瀬孝雄
価格:2000円 ★★★

   ナイトワールド・シリーズなどで一部カルト的な人気を誇っているF・ポール・ウィルソンでありますが、こんな作品も書いてるんですねえ。本職が実はお医者さんだったなんて、すっかり忘れておりました。医者の身でありながら、あれだけのイマジネーション溢れるホラー作品を量産するなんて、うーむ、やっぱりこの人の才能なのでありましょうね。んでもって、この作品も実体験を生かして医学生たちの青春群像を、なんて想像してたらスッコーンと足元掬われました(^^;

   確かに若き医師の卵たちの青春してる部分と同時進行で、密かに進行している陰謀がスリラー仕立てで、大風呂敷き広げた様がなかなか良い匙加減でグイグイ物語の中に引き込まれてしまうのであります。題材としては有り勝ちな部分を差し引いても、登場人物の魅力と後書きにもあるグリシャムの『法律事務所』の医学版という面白さで後半は突っ走ります。

   秀才でありながら苦学生のクィンと博覧強記の天才派ティムの好対照の学生生活、悩める医学生たちの医者としての倫理問題(この辺は後々メインストーリーにからんできます)、エリート医大での授業風景などなど。ウィルソンの筆裁きの妙で面白く読めました。スリラーにしなくても医大生の青春物語でも十分一本立ちするほどの出来ですが、やはり曲者ウィルソン、そう簡単には問屋が卸さない。大詰めのアクションシーンは結構手に汗握りまっせ。何せ、武器がXX器一本だけなんだから(^^;

   クィンとティムが互いに惹かれながらも、反発しつつ青臭い議論で正義感を前面に押し立てて正論を堂々と展開する清々しさに、世俗の垢にまみれたオジサン読者は目を洗われる思いがしたのでありました。いいよねー、青春してて。一服の清涼剤ってとこかな。クィンの女心の揺れ動く様もなかなか読ませてくれますねえ。ティムも最初は嫌な奴と思ったけど、いい奴じゃありませんか。職業的なバックグラウンドがあると作家もいざという時に強いよなあと痛切に思った、ウィルソンの医学スリラーであります。<96/05/22読了>

書名:暗闇の囚人 AFTER DARK 著者:フィリップ・マーゴリン
出版:早川書房 1996年2月29日初版発行 訳者:田口俊樹
価格:2200円 ★★★

   『黒い薔薇』のストーリーテラーぶりに惹かれ一作読んだだけでファンになってしまったマーゴリンでありますが、第二作の本作品でもそのストーリーテラーぶりは健在で、ステレオタイプと批判された人物造形も今回はじっくりと書き込んであり、読者の予想を裏切って展開する手に汗握るサスペンスはこの作者ならでは、でありましょう。導入部分でガッチリ読者のハートを掴んでしまうのでありますよ。

   悪に容赦しない美貌の女性検事補アビゲイル・グリフン。氷の女。うう、たまらんぞ、こういうの小生の趣味でござる(^^; やがて来る悲劇を予感させて、背筋ゾクゾクの展開であります。まさしく作者の術中にはまったってんだろうな、こういうの。本読みならではの至福の時であります。当局側の女性主人公VSサイコキラー。この辺の図式は『羊たちの沈黙』以来ポピュラーになり過ぎたきらいはありますが、マーゴリンは一ひねりも二ひねりもしてあって、読者を渦巻く権謀術数の世界に叩き込みます。惜しむらくはサイコキラー・ディームズが当局側に付くという驚天動地の展開に、逆にキャラクターの脆弱さが表出してしまったことかな。あくまでサイコキラーにはサイコキラーの王道を歩んでもらいたいよね。迫力減には魅力減ですよ、やっぱり。この辺がレクター博士との差なんだろうなぁ。でもまあ、作者の主眼が女性主人公に置かれているために、サイド・ストーリーがおろそかになってしまうのも致し方ないところか。

   まさか、このままでは終わりはしないだろうとの予想通り、最終章で大どんでん返しのパフォーマンスを見せてくれますが、「うーむ」と結論を留保せざるをえない。面白いんだけど、それまでなんですよね。ストーリーテラー作家の陥りやすい罠といいましょうか、説得力の薄い悲劇性が前面に出て来て、そんな結末でいいのかって疑問符だらけの大団円を迎えてしまいます。ちょっと技巧に走り過ぎた、そんな気がしちゃいますねえ。

   ラストでカタルシスを得られなかった分だけ、前作『黒い薔薇』より星一つマイナスというのが今回の評価になってしまいますが、キャラクターの書き分けにに格段の進歩が見られる分だけ、次回作に大いに期待しているのは私だけではありますまい。願わくばハーレクインっぽい展開からの脱却なんてのも、読者側からの虫のいい願いではありますが、法廷サスペンスものとなると恋愛がらみは避けられないネタかもしれないなぁ(^^; もっとハードな展開を期待しつつ・・・。<96/06/20読了>

題名:女彫刻家 THE SCULPTRESS 著者:ミネット・ウォルターズ
出版:東京創元社 1995年7月20日 初版 翻訳:成川裕子
価格:2600円 ★★★

   ラストのエピローグさえなければ、フーダニットの正統派ミステリと言えたでしょうが、やっぱり一筋縄ではいかない作家のようでありますね、ミネット・ウォルターズ女史。名前からしてオリーブだなんて、いかにも細くて小枝ちゃんみたいで、その実、180cm、165`以上の怪物女ときたら、いきなりぶちかました作者の仕掛けにほほうと感心するしかないじゃない(^^)。ただ読み手としての私の場合、いまさら正統派ミステリなんか求めやしないので、物語の焦点をロズからもう少しオリーブに比重を掛けてもいいのじゃないかなどとツラツラ思ったのであります。まあ、ロズのロマンスも武闘派(^^;っぽくて、それはそれでなかなかロマンティックではありましたが…。

  モンスターの創造は成功しました。ミステリとしての骨格も英国らしい重厚さでズッシリ手応えありますし、否応無しに巻き込まれていく探偵役のロズのキャラクターもステレオタイプじゃなくて人間味溢れるタイプ。まあ、個性的だよね。それでいてあと一歩、なんか物足りないのだよねえ。そう思っちゃうのは、やはりラストのエピローグの仕掛けのせいかもしれませんねえ。前半からためにためていたデーモニッシュな不安感をここで一気に止めを刺したって感じでしょうか。そのための効果を狙いすぎて、真犯人とされた人物の描写をラストで省いてしまったのは、ちと納得いかないぞ。

   主題は『一人を騙しさえすれば、みんな騙せる』なのですが、そのための後味の悪さが足を引っ張ったのか。後半急に殊勝になるオリーブの豹変ぶりに拒否反応が出たのか。この作品、ストレートなラストで終わらせてくれた方がすっきりするように思えるのですが、この辺、賛否が分かれるところなのでしょう。娑婆に出たオリーブのその後が、行間から滲み出るようで、結構恐いラストではあります。ロズとハルの名コンビはなかなかいい味出してるので、次回作が再度このコンビで楽しませてくれると面白いシリーズになりそうですよね。<96/08/11読了>

題名:友よ、戦いの果てに 原題:The Mexican Tree Duck 作者:James Crumley
発行:早川書房 1996.7.31 初版 訳者:小鷹信光
価格:書店で調べて下さい ★★★★1/2

  やっと新規購入の許可が下りたらしく、図書館から新品の『友よ、戦いの果てに』が我が手元にやって参りました。待った甲斐があった第一章なのだよなあ。そうそう、これが読みたくてクラムリーが筆を取るのを延々と待っていたのだから。

  ダールグレン兄弟の登場シーンなんて、もう抱腹絶倒なのであった。この辺の呼吸はやっぱりローレル&ハーディからなんだろうね(^^)。クラムリー一流のギャグで思い出すのはブルドックのファイアーボール。確かミロじゃなくてスルーの方に登場したと思ったのですが、おっと本当はシュグルーだっけ。ノーマン登場以降これほどハードに展開するとは予想してもいなかったけれど、これだけワイルドで淫らなロードノベルはなかなかないぞ。火傷するほどホットなテキサスの中年オヤジがハードボイルドしてると、脇役もスピードでハイになってまさに破滅に向かう暴走特急のようでした。

  半端じゃないバイオレンス・シーンに、ふと感じたのですが、シュグルーにも語らせている「殺したくない」という、ベトナム以降米国人が抱え込んでしまった深刻な後遺症が、米国人に対しては微妙に抑制されて笑いを伴ったライトなアクション・シーンとして処理されていますが、チカノのに対してはストレートにグロックの引き金を絞るシュグルーに米国人の正義とは何かという光と影の影の部分をチラリと垣間見た気がしました。ま、こんな小説で深刻ぶる気は毛頭ないのですが…。この辺がテキサス的というか、何というか(^^;

   語り口が派手でありながら、底辺を流れるヒューマンな味わいは格別でありますな。登場人物皆が抱える諦観にも似た生活信条。エージェント・オレンジの腫瘍を抱え、ガンに虫食まれようともクレージーな突撃に託した変わらぬ友情。こんなのに弱いんだよね。皆が引き摺るベトナムの後遺症が本作品のネタ元でもあるのだけれど、ロスマクでも描きそうな複雑な家族の悲劇が、クラムリーのフィルターを通すとこんなになっちゃう、という良き見本でもあったりする(^^;本当にミロとシュグルーの競演が楽しみであります。<96/10/04読了>

題名:呪われた血脈  THE DANCING MEN 作者:ダンカン・カイル
発行:原書房 1996.8.2 第1刷 訳者:東江一紀
価格:\2000 ★★★

   あれれダンカン・カイルが原書房から新刊? と思ったら『踊らされた男たち』の改訳版をハードカバーで出したようです。なぜ今頃と不思議に思ったのですが、そうか、来る大統領選をにらんで一発便乗しようと考えたのかしらん(^^; 丁度よかった、未読だから読んでみよう。それにつけても図書館でピックアップしようとしたら、すでに次の予約が入っているらしく係員に「返却期日はお守りください」なんて念押しされてしまった。う〜む、腐っても鯛ってところか。ダンカン・カイル、知ってる人は知ってるのね。

   ただ冒険小説というより、語り口はあくまでソフトな英国ならではのオーソドックスなスリラーで、そこに系図調査員を絡ませるところが新味を出していて、一本筋の通った小説の骨格と、こういう展開もありだよなぁ、と作者の目の付け所になるほどと感心。ストーリー自体は大して目新しくないのだけれど、順を追って薄皮を剥いでいくように大統領候補の祖父の過去が現代に白日の下に晒されていく過程は圧巻であります。こういうのって結構知的な興奮を呼び起こしますねえ。ウチの爺さんの系図も調べてみようか、なんて気になりますもの。

   ただ、かつての冒険小説作家とは思えないほど、登場人物が甘口でなんだかのほほんとした主人公ぶりが緊迫感を多少削ぎ気味ではありあすが、調査員トッドとロビンのロマンスなど女性読者にも受けるのではないかな。なんだかんだ言って二人が絶体絶命のピンチに陥る場面もあったりして、ハラハラさせて読者を引っぱり込むカイルの冒険小説的手腕もそれほど衰えを見せてはおりませんので、冒険小説派の方も安心して読める作品に仕上がっています。

   大統領選挙の裏側も読み所のひとつですが、本書の登場するジョン・ライデン大統領候補の清廉潔白ぶりって、ちと誇張されすぎじゃないかな。こんな政治家、どの国探したっていないと思うぞ(^^; ラストなんか、特にねえ…。<96/09/19 読了>

題名:頭上の脅威 STORMING HEAVEN 著者:デイル・ブラウン
出版:早川書房 1996年6月30日 初版発行 訳者:伏見威蕃
価格:2600円 ★★★

  デイル・ブラウンの最高傑作と呼ぶにはチト異議ありなのですが、相変わらずハードな航空アクションは健在ではあります。まあ、軍事スリラーの第一人者であるからにはハード面でのディテイルは完璧なのでありましょうが、過剰すぎるのもいかがなものか、と最近ブラウンには多少辟易することがないではない(^^;

   んで、主人公はハードキャッスルかと思いきや、これはやはりアンリ・カゾーでありましょうね。この辺にサスペンス度の薄さが起因していると思うんだよね。深く静かに潜航する秘密作戦にこそ読み手は手に汗握るところなのに、結構饒舌なカゾー中心に物語が進行してしまうので、次ぎどうなる?という展開が見えてしまうんだなぁ。安直に米軍基地から気化爆弾なんか盗み出しちゃうし。こんな簡単に盗めるんだったら、世界中テロリストだらけになっちゃう(^^;カゾーの性格設定も極端すぎて、存在自体が荒唐無稽に思えたりするのがマイナス点ですね。簡単に人を殺し過ぎるぞ。いくらテロリストだろうとここまで性格破綻者だと思いっきり白けちゃう場合もなきにしもあらず。

  作中登場する大統領夫妻は、どう見てもクリントンとヒラリーだよね。『ロシアの核』でも確か同じく登場したと思うんですけど、もうボロクソに貶すところなんざ、ブラウンの鷹派的性格がモロ出てますねえ(^^; 民主党大嫌い共和党員が作家やってるようなもんだったりして。まあ、軍隊上がりが民主党員なんて訳ないもんね、やっぱり。ふふふ。こういうところのブラウンの茶目っ気が結構気に入ってたりします。さて次は『レッドテイル・ホーク』だな。<96/10/24読了>

題名:敵手 COME TO GRIEF 著者:ディック・フランシス
出版:早川書房 1996年10月31日 初版発行 訳者:菊池光
価格:¥2000 ★★★★

   しばらく待ってみたのだけれど、どなたも感想をアップされていないようなので、先陣を切ってウダウダ書かせていただきます(^^; パーカー会議室でも以前出たのですが、私も最近の菊池光には異議ありなクチであります。今回も最初ノれなかったのは、自分の読解力のなさを棚に上げて、フランシスの書き出しの時制の出たり入ったりが読み手を混乱させたというだけでなく、妙に直訳っぽくなってしまった菊池氏の訳にもあると個人的には思っています。菊池ファンには申し訳ないけど…。

   犯人がいきなり割れてしまいます。えっ。大丈夫、そこからがフランシスのフランシスたる所以で、近来最高の出来でお馴染みシッド・ハレーが等身大の苦痛と勇気で読者のハートに侵入(break in)してきます。うまいなぁ。生身の人間としてのシッドのストイックさがファンにはたまらんぞ。犯人には逆な意味でたまらんけどね(^^; 脇役たちの息遣いが心に響くのですよ。白血病少女レイチェルとの心温まる交流。憎むべき犯人とさえも心を通わせてしまえるがためのシッドの深い絶望感と喪失感がエピローグでじわりと立ち昇ってくるのであります。

   エリス・クイントのキャラクターの創造が本作の成功を導いたといっても過言ではないでしょう。三度シッドを登場させた理由は、エリスのサディスティックなキャラに対応できるのは過去の登場人物中でも一二を争うストイックさを読者にイメージさせるシッド・ハレーしかいない、ということに尽きると思う。片腕をなくしたシッドに対して、エリスの使うのは骨まで切り裂く剪定用の大鋏とくれば、シッドの恐怖感は書かれたもの以上に過去二作のバックグラウンドが読者をして想像力で倍加してくれるのであります。

   読者サービスというか、フランシス自身老いて益々盛んというか、パソコンから携帯電話の使い方までアップトゥーデイトな作品へも生かし方が老作家に似合わず、フットワークが軽いことに驚きを覚えますね。大阪でHORNBLOWERさんと話した時も話題に上ったのですが、96年度MWA賞最優秀長編賞を取ったほどの輝きがフランシスの最後の残り火の輝きでないことを祈りつつ、また来年のOCTOBERを待ちたいと思います。 <96/11/07 読了>

題名:冬の獲物 WINTER PREY 著者:ジョン・サンドフォード
出版:早川書房 1996年6月15日 初版発行 訳者:真崎義博
価格:2000円 ★★★

   お馴染みルーカス・ダヴンポート・シリーズ第5弾であります。何だかんだ言って読んでる私は、多分、『PREY』シリーズのファンと言ってもいいようですね、やっぱり(^^)。『獲物の眼』は未読ながら絶版になる前にしっかり文庫版で押さえてありますので、図書館にリクエスト中の『夜の獲物』が回ってくる前に手を付けなきゃと思いつつも、他の未読本に浮気する1996年大詰め一歩手前といったところでしょうか(^^;

   FADVでこのシリーズ読んでるのは、あと誰かいますか〜? そういえばシュンさんも読んでましたっけか。何だか地味なんだけど妙にしっくり来て大作と名作の間に読むにはぴったりだったりする本。可もなく不可もなく、と言ってしまえば身も蓋もないんだけど、残念ながら本作品はその域を出てはくれない佳作スリラーということになりますねえ。

   ミネアポリス警察からリタイアしたダブンポートは、ウィスコンシンの田舎町でゲーム作家で糊口をしのいでいるのだけれど、刺激の乏しい生活にそろそろ飽いてきたところに降って湧いた連続殺人事件。保安官連中には荷が重い事件で、当然のようにダブンポートが保安官補にスカウトされる展開となります。追っかける犯人アイスマンの造形も取りたてて感心するほどではないにしろ、ツボを押さえた作劇法はさすがベテラン作家と言っていいでしょう。

   ただ、それだけじゃふりの客は飛びつかないでしょうねえ(^^; シリーズ読者でもない限りお勧めいたしかねます。ハードカバーにしちゃった早川書房がいけないのだ。文庫版でしっかり読ませてくれれば、それで大いに満足しちゃう読者を忘れては困る。こういう作品で商売っ気出されちゃ、ますます読者が離れていくぞ。そろそろ文庫封切りに戻してくれい。てなこと言いつつ、次回作ではダブンポートがミネアポリス警察に復帰するとのことなので、シリーズ読者の私としては、図書館からの入荷の便りを首を長くして待っているのであった。<96/11/27読了>

題名:夜の獲物 NIGHT PREY 著者:ジョン・サンドフォード
出版:早川書房 1996年11月30日 初版発行 訳者:真崎義博
価格:2200円 ★★★

   順番から言うと『冬の獲物』の次にくる作品ですが、1年の間に200円も値上がりしてるぞ>早川書房。と奥付見てムカッ腹立てたけど、『PREY』シリーズではなかなかの出来でシリーズ以外の読者にもお勧めなのだ。ベッカーに続く出色のサイコの登場が、ダヴンポートの魅力を際立たせているのだな。サイコな犯人にはクールなデカという図式が、このシリーズではピッタリはまっている訳で、それ以上にサンドフォードがダヴンポートに付加したキャラクターの色合いが作品を追うごとにいい色に染まってきたというバックグラウンドがシリーズ読者に安心感を与えていることは見逃せない。

   ミネアポリス市警に副本部長として復職したルーカス・ダブンポートに相対するは、腺病質とは程遠いムキムキ・マッスルのサイコキラー、ロバート・クープ。まずこのアンバランス感覚が物語の底辺に漂う不安感を増幅して読者をサンドフォードの世界へグイッと引きずり込んでくれるって寸法だ。掴みはOKとなるとお次はサブのキャラクター。州警察からやってきた女捜査官ミーガン・コンル。ダブンポートと必然的にコンビを組む訳ですが、彼女、訳ありでえらくファナティックな捜査ぶりとフェミニストぶりにダブンポートもたじたじになる。

   この辺の味付けが、映画『ダーティー・ハリー』シリーズのハリー・キャラハンと女刑事を思い出してしまうんですが、そこはそれ、ダブンポートらしくクールに突き放しちゃう。たとえ彼女がガンに冒されて余命半年であっても、「俺の前をちょろちょろするな」ですもんね(^^; オートマグをぶっ放したりはしないけど、キャラクター的にはほとんどダーティー・ハリーと言ってもいいかもしれませんね。

   んで、クープの獲物はってえと、キャリアウーマンのセーラ・ジャンセン。これがいい女なんだ。彼女を覗くためにここまでやるかっていうぐらい八面六臂のクープの破天荒さがなかなかなのだよ。まさしく今流行のストーカーってやつですな。このゾクゾクするような感覚は映画『誰かが見ている』のミミ・ロジャース(トム・クルーズの前の奥さん)を思い出してしまうぞ。

   こういういい女が周囲を取り巻くダブンポート。前作登場した女医さんと同棲してるのに、TVリポーターにグラリときちゃう浮気性ぶりも世の男性読者の共感を得るのかも(^^;米国で人気のあるシリーズだってことは分かりますが、日本でもハードカバーでこれだけ早川書房が力入れて出版続けているからには、そろそろ人気が出てきた証拠でしょうか。まだあと二作が未訳なので楽しみ楽しみ(^^)。 <97/01/19 読了>

題名:獲物の眼  EYES OF PREY 著者:ジョン・サンドフォード
出版:ハヤカワ・ミステリ文庫 1996年2月29日発行 訳者:真崎義博
価格:700円 ★★★

   PREYシリーズ出色のサイコキラー・ベッカーが登場する衝撃のサイコサスペンスとの謳い文句なのでありますが、交換殺人を企てる理性的な男としての最初の登場の仕方がサスペンス度を薄めているのだよなぁ。サイコ度が徐々にパワーアップするところなんかは、うむうむ、なかなか良いぞと思ってしまうのであるが、作者としてみれば、普通人(^^;

   ベッカーがどのようにして狂うかという過程を描きたかったのかもしれませんね。いかにも直線的に薬漬けってところがアメリカンなテイストではありますが…。先に『冬の獲物』の方を読んでしまっていたので、ミネアポリス警察とダヴンポートとの関係がようやくしっくり腑に落ちたのでした。そうかそうか、そういう訳だったのね。んで、ベッカー。この作品の次に控えし『沈黙の獲物』ではさらにハイテンションで異常人格殺人者の道を歩んでくれるようなので、ダヴンポート・ファンとしては期待しない訳が無いじゃないですか。まあ、この作品は『沈黙の獲物』への大いなる序奏とでもいうべき作品と個人的には解釈してます(^^;

   シリーズ読者は必読ではありますが、サンドフォード初体験の人にはそこそこ面白いが、期待しすぎると裏切られるかもしれません。相変わらずのダブンポートのキャラは破天荒で好きです。いよいよゲーム作家専門に引退するのかダブンポート、と読者をハラハラさせて次回作に繋げるテクニシャンでもあるなぁ>サンドフォード。<96/12/25読了>

題名:沈黙の獲物 SILENT PREY 著者:ジョン・サンドフォード
出版:早川書房 1996年1月15日 初版発行 訳者:真崎義博
価格:2000円 ★★★

   『獲物の眼』の続編です。冒頭、裁判所から脱走するベッカーに高まる期待感。何かやってくれるという、ダークサイドのスーパースターですね、彼(^^; ただ、今回はベッカーに絡んで、別件の犯罪が進行中でいわゆるモジュラー型の警察小説として物語は進行して行きます。どっちかというとそちらの方がメインかもしれないですねえ。それゆえ、深く静かに潜行するベッカーという恐怖の存在が、さらにクローズアップされるプラスの副作用があるかもしれません。

   NY市警にスカウトされたダブンポートも、NYという権謀術数渦巻くコンクリートジャングルの中でベッカーへと続く道を見失わないのは、硬派刑事の面目躍如といったところでしょうか。相変わらず、あちこちの女性たちに種を蒔き続けるダブンポートの精力お盛んさには多少辟易いたしますが(^^;

   適度なエロチシズムもこのシリーズの読みどころですもんね。ベッカーもロビン・フッド事件も大詰め段階。バラバラだったパズルが徐々に組み上がっていくようで、これがなかなか読ませるんですよ〜。警察の裏をかくベッカーとその裏をかくダブンポート。虚々実々。そこへロビンフッドの黒幕が炙り出されてさあ大変。前作『獲物の眼』よりこちらの方が登場人物の陰影が深く読み応え十分。シリーズ読者ならずとも読んで損はないと思うんだけど、今年の『このミス』じゃ上位には入りませんでしたねえ。

   さて、図書館にリクエスト出してる『夜の獲物』が待ち遠しいぞ。ウチの近所ではほかに読む人が少ないようなので、多分新規購入で私の手元に回ってくるだろうな。こういう時って、図書館使える幸せっつうものを噛締めてしまいます(^^)。
<96/12/25読了>

邦題:サン・カルロの対決 SIEGE OPF SILENCE 作者:A.J.クィネル
発行:新潮文庫 昭和61年10月25日発行 訳者:大熊 栄
定価:¥560 ★★★1/2

   剛球投手かと思っていたクィネルに思ってもいなかった変化球を投げられて、見逃し三振を食らった9回表二死満塁ってところでしょうか。一人称単数のいわゆる主人公が三人いて、それぞれが違った視点で物語を進行させていく実験小説的色合いの濃い、冒険小説というより心理小説とでもいった方がしっくりくる不思議な作品でした。

   ピーボディとホルヘの疑似親子関係のような心理的拷問を通しての絆に重点を置いたクィネルの狙いは正解だと思います。ただ、スローカム大佐の救出作戦を多少味気ないものにしたのはチト残念でありましたが、救出劇にページを割きすぎても物語全体の焦点がぼやけてしまい、これはこれでクィネルならではの作劇法といいましょうか、ベテラン作家の味わいが微妙な平衡感覚を保っておりまする(^^;

   ただ、心理的カタルシスの薄さは主役の一人の早過ぎる退場であると言い切ってしまいましょう。悪役とも中立ともつかぬ際だったキャラクターは得難い存在でもあるし、心理劇の火花散る構図もさることながら、彼の精神構造を時間を追って見せてくれた作家的技法に喝采を送ってしまおう。それだけに、もったいないと思うのは私だけでしょうか。最後まで見せ場を作って欲しかったなぁ。フォンボナなんてどうでもいいのよ、実際。

   スローカム大佐のキャラクターも尋常ならざる匂いがぷんぷん。心理的饒舌さとでも言ったらいいのか、軍人の内面の葛藤が垣間みれて結構興味深いよね。しかもわざわざ黒人を配役したところに、クィネルの曲者ぶりを見ましたね(^^;「なんで救出作戦が遅れたんだ?」「だって、責任指揮官がスローカムってくらいだから」な〜んて小話を一発(^^; そこのあなた、石を投げないように!正攻法で書き込んでくれれば、サン・カルロ侵攻作戦もそれなりの迫真感が出たのでしょうが、残念ながら後半はページが足りなくなったのか駆け足過ぎて期待したほどのラストではなかったけれど、当時の作品群の中にあって、これほどの実験小説をここまでの水準に持ってきたことを評価したいと思います。<95/09/25 読了>

邦題:ニードフル・シングス 上下巻 作者:スティーブン・キング
発行:文芸春秋 1994.6.1 第一刷 訳者:芝山幹郎
定価:各¥2700 ★★★1/2

   サブタイトルのラスト・キャッスルロック・ストーリー、確かに過去のキャッスルロック物の登場人物総棚ざらえで、しかもこの結末では、やはりこの物語を最後にしざるを得ないでしょう。読み終わってしばし呆然、行間から立ちのぼるキングの毒にどっぷり浸った一週間でありました。

   ねっとりまとわりつくようなキングの文体に辟易しながらも、登場人物の体臭までもが匂ってきそうな描写には、さすがキングとうならされます。淡々とした日常の描写から、最初は小石が転がって最後には雪だるま式に、これでもかこれでもかと厄災が雪崩を打っていく様は凄いの一言。最初は平凡な人物たちの平凡な物語を、ここまで読ませちゃうのは、やはりキングならではですね。まあ、最初は平凡でも、後では非凡になっちゃうのですが…(^^;

   上巻ラストの決闘は、やがて訪れる惨劇の幕開けでしかなかった。これまで淡々と進行してきた物語はここでブレークします。ここの部分でも十分凄いけど、下巻に入ってからはもっと凄いですよ。そうそう、上巻のストーリー展開をグイグイ引っ張ってきてくれたウィルマこそ、『ミザリー』から『トミーノッカーズ』のあのおばさんへとスピンアウトしてきた、くそったれ婆の系譜をしっかり受け継いでおりますですな。悪意丸だしの、このくそったれキャラクターぶりは、読んでいてぶん殴ってやりたくなるほどの存在感で、キングにしか描けないでしょう、このウィルマっていうキャラは。

   ゴーントさんの正体は読み進むうちにすぐ分かってしまうけれど、彼が求める物を得る手段が目新しい。そのためのニードフル・シングスの店開きであり、商売の駆け引きがストーリーの大筋であり、それほどの万能ぶりを見せつけながら、下巻ラストでの慌てふたむく様は、正体を現したゴーントさんにしては、ちと不満かな。確か映画でゴーント役をやっていたのは、マックス・フォン・シドーだと思ったけど、結構イメージ通りで似合っているように思いましたが、本書を読んだ方はどう思ったでしょうか。あの温厚そうな顔がみるみる変形していく様をどう表現しているのか、評判はいまいちのようですが、映画の方も早く見てみたい。読み終わってすぐ、品川の港南口から水産大学の前を歩いていたら、目の前の電線に鈴なりの雀の群れ。不気味に反響する鳴き声に、う〜む、『ダーク・ハーフ』を思い出して、背筋がゾクゾクしたのでありました。<94/10/11 読了>

書名 夜明けのヴァンパイア INTERVIEW WITH THE VAMPIRE 著者 アン・ライス
出版  ハヤカワ文庫  1987年9月30日初版 訳者 田村 隆一
価格  660円 ★★★★

   いや〜、長いことかかりました(^^; なんせ昨年暮れから読み出してようやく読み終わったんだから、自分でも呆れてしまうのですが…。しっかし、パリ編に入ってからは一気呵成に電車の中だけでラストまで。やっぱり面白いよ、これ。

   最初は鬱陶しかったレスタト、クローディア、ルイの関係も、パリのヴァンパイア劇場で激情の炎が燃えたぎるのよね。耽美的な吸血鬼たちの闇社会の掟と、人間的な感情を捨て去れなかったルイの悲劇が、あますところなく読者の想像力に黒い触手を伸ばしてきます。邪悪な者たちの邪悪な意思。人間であることを止めることと引き替えに手に入れる永遠の命へのパスポート。

   ここで語られるペシミスティックなドラキュラたちの行く末は、実生活で実子を白血病で亡くした当時の作者の厭世的な人生観が支配していて、実に負の作用が作劇上では大いにプラスになっているようだ。ルイがクローディアに求めた愛の行方の本当の姿を知ったときの衝撃。こういうの好きです。そしてライスはクローディアに自分の子供の面影を投影させたのでしょうか。う〜む、暗くてたまらなくいいぞ。

   ただ、続編の『吸血鬼レスタト』はチト食指が動かないなあ。ラストのレスタトの絶望的な姿を見るとねえ…。次は読みかけの『魔女の刻』シリーズにとりかかろうか(^^; ああ、シモンズが手招きしてる(^^; <94/02/05 読了>

題名:殺戮のチェスゲーム原題:CARRION COMFORT 作者:DAN SIMMONS
発行:ハヤカワ文庫  1994.11.30 訳者:柿沼瑛子
価格:各 \720 ★★★★★

   いや〜、こいつは掛け値なしに凄いと断言してしまいましょう。ここまでホラーならぬホラ話の大風呂敷を広げてくれたダン・シモンズに素直に脱帽するしかないじゃありませんか。

   暴力へのカウンターメッセージが暴力であったか。否、超暴力の悪循環を断ち切るための悲しき暴力。過激なバイオレンス描写の奥底に潜む弱者としての人間の強さ、生への限りない肯定がキラリと光ります。ああ、なんて切ないんだ。ソールがヘインズに対する回答を下したときの哀しさ。これは復讐なのか、それとも復讐を超えた義務感がそうさせたのか。

   圧巻だったのは、最後の最後、悪夢の人間チェスですね。最初のネタをここまで引っ張ってくるシモンズの力技。う〜む、ゾクゾクするぞ(^^)。大佐と対決するソールの対抗策、心に焼き付けた数々の人格が大佐と対決して追い詰めていくシーンに圧倒されました。これぞ非暴力の、人間としての尊厳の、善なる力が悪の力を駆逐する象徴的なワンシーンでした。これを書きたいがために、シモンズはここまで壮大な物語を書き上げたのでしょうか。

   それにしても、メラニーってのはすさまじいキャラクターでしたね。邪悪を通り越して獰悪狡知なとんでもない婆だぜ、まったく。でも、こんなキャラって意外に好きなんですよね、私(^^; キングの一連の憎まれ婆さんキャラに劣らぬ強烈なクソったれ加減は、ラストのエピローグで頂点に達する訳ですが、シモンズもこの婆さん結構気に入って書いてたんだろうなあ。ニヤニヤしながらタイプライター打ってる姿が想像で出来るのですが…(^^)。

   今年読んだ作品の中では、確実に五指に入る傑作だと思います。『スワンソング』以来の衝撃の読後感でした。まだ、ぼ〜として次の本を読もうという気になれない。それにしても上中下3巻は読みごたえ十二分でしたね(^^; <95/02/22 読了>

邦題:バッド・プレース THE BAD PLACE 作者:ディーン・R・クーンツ
発行:文春文庫 1994.4.10 第一刷 訳者:中川聖
定価:¥720 ★★★1/2

   文春のクーンツ作品ってちょっとお上品で、ハヤカワや扶桑社の頃のパワー全開のB級だけど突っ走るぞ、みたいな破天荒さに欠けるかなって思ってたけれど、この作品は凄いぞ! 最初は吸血鬼ものかと思わせておいて、何だ何だこの展開は!?

   う〜む、『ウィスパーズ』の頃のクーンツの力技を久々堪能しました(^^)。ここはどこ私は誰状態のフランク・ポラードの登場から、ボビー&ジュリーを巻き込んで怒涛の展開を見せる中盤以降は、陰のキングに対比して語られる陽のクーンツならではの筆裁きとでもいいましょうか、ほのぼのダコタ夫妻とポラード兄弟の獰悪さはクライマックスの悲劇を予感させて、ビンビンの緊迫感を読者に提供してくれます。

   ダウン症のトーマスの存在がいいんですよねえ、本当。クーンツってこういうのうまいなあといつも思うんですが、トーマスの心の奥の扉から悪いところにいる悪いものとの善対悪の対決、そして登場人物たちのそれぞれの死を通しての死そのもののへのクーンツが持つイメージを圧倒的に見せつけてくれます。バタバタみんな殺されちゃうんだけど読んでいてそれほど悲惨さを感じさせない。この辺が陽のクーンツといわれる由縁かもしれない。

   ポラード兄弟の出生の秘密と言いましょうか、父親の秘密と言いましょうか、こりゃあ凄い。ここまではさすがに考えもつかなかったぞ(^^;すべてはここから始まった訳ですから、一筋縄では行かないラストは当然の帰結でありましょう。フランク対キャンディの最後の対決。おお、よくぞここまで、文字どおりグチャグチャにしてくれたと感動もの(^^;

   SFでありホラーでありサスペンス・アクション、しかも恋愛小説でもあったりする訳で、サービスてんこ盛りのクーンツ節を満喫したのでありました。やっぱりクーンツには、こういう疾風怒涛のB級アクションホラー路線をひた走ってもらいたいものであります。 <95/05/12 読了>

邦題:サマー・オブ・ナイト  SUMMER OF NIGHT 作者:ダン・シモンズ
発行:扶桑社ミステリー 1994.12.30 訳者:田中一江
定価:上¥700、下¥680 ★★★★

    『夜の子供たち』を買ってきて、後書きを読んでいてふと気が付いた。マイク・オルークはシカゴ教区の神父としてこっちにも登場してるじゃありませんか。だったら『サマー・オブ・ナイト』から読まなくっちゃ。ムンク叫美さんもFATIMAさんも絶賛してたけど、私も便乗しちゃおう(^^)。

   こりゃ凄いわ。特に下巻の怒涛のアクションは、ちょっとジュブナイル系を創造してた読者の度肝抜いてくれるでしょう。さすがダン・シモンズ、一筋縄じゃいかないぜ。キングの『イット』、マキャモンの『少年時代』に対比出来るスタンスの作品だと思いますが、自身の青春時代を幾らかでも反映してるとすれば、シモンズってハードな小学生時代を送ったんですねえ(^^;

   45口径からショットガンまでぶっ放す小学生たち。モダンホラーの巨匠たちのバックグラウンドが垣間見えて興味深いですが、バイオレンスに傾斜しがちなシモンズのルーツはやっぱりこの辺にあるのかしらん。でもメインはベトナムなんだろうけどネ。ラストのオールド・セントラルに乗り込んでいく少年たちは、60年代のベトナムに送り込まれた農家の跡継ぎたちへのオマージュみたいな側面もあるようだけれど、そんな御託なんぞ忘れちまうほどのパワーがここにはあります。少年たちのキャラクターの描き分けが抜群なのよね〜(^^)。

   そういえば、『夜の子供たち』に出てくるマイク・オルーク神父はベトナム還りって設定だったなあ。う〜ん、マイクがそんなに成長を遂げて、再び読者の前に現れるなんて感無量なのであ〜る。登場してくるモンスターたちの蘊蓄も程良く書き込んでくれると、もっと奥行きが出たのに、その辺が残念と言えば残念ですけど、でも面白ければ全部許しちゃうのさ(^^)。さて次は『夜の子供たち』だな。 <95/06/26 読了>

題名:ヴァンパイア・レスタト THE VAMPIRE LESTAT 上、下巻 著者:アン・ライス
出版:扶桑社ミステリー 1994年11月30日第1刷 訳者:柿沼瑛子
価格:各680円 ★★★★

   『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の続編である。というよりもヴァンパイア・クロニクルの絢爛たる歴史絵巻に踏み込んだ第一歩とでもいうべきか。圧倒的なイマジネーションの世界。ここまでヴァンパイアの起源に踏み込んだホラー作家は寡聞にして知らないぞ。

   悠久の歴史絵巻の側面を魅力たっぷりに見せつつも、そこに描かれるのは究極の愛の形なのである。米国でゲイの人たちに圧倒的に支持された小説であるということは、読めば一目瞭然(^^; 愛を求めて止まぬレスタトのスピリチュアルな求愛行動は人類愛のメタモルフォーゼでもある。決して孤独を逃れるためだけではない。レスタトのヴァンパイア以前の人間の記憶がそうさせるのか。

   前作のイメージとは随分懸け離れた善きヴァンパイアぶりに、違和感を覚えるのもほんの一瞬。いつしかアン・ライスの世界にどっぷり浸っている自分に気付くという寸法だ。ルイもアルマンも、そして伝説のヴァンパイア・マリウスまでもが登場し、驚くなかれ、レスタトは現代にロックシンガーとして復活するのである!!

   意表を突く展開に呆気に取られている暇はない。舞台はヴァンパイア以前のレスタト、パリのヴァンパイア劇場のレスタト、世界を放浪するレスタト、カイロのレスタト、ニューオリンズのレスタト、そしてロックスター・レスタト。読者はレスタトとともに彼の精神世界を伴って世界を放浪するのである。数千年に渡る暗黒の歴史を問う旅。辿り着いたヴァンパイアの起源に、アン・ライスの想像力に、ただ脱帽するのみ。改革者レスタト。

   旧弊な掟に縛られたヴァンパイアたちとの対決もさることながら、始祖とも言うべきアカシャとエンキルの登場が過去と現在が密接に繋がり、物語が急展開します。この辺の呼吸がアン・ライスの真骨頂でありましょう。もう目が離せないのだ。エピローグでのロックバンド『ヴァンパイア・レスタト』の大ブレイクに引き続き、真打ち登場。おお、ついに…の展開。うーむ、映画のレスタト役をやったトム・クルーズはまさに適役。イメージぴったりなのだなぁ。

   悲劇あり活劇あり、の一大叙事詩『ヴァンパイア・クロニクル』はまだ続きます。『呪われし夜の女王』から『肉体泥棒の罠』まで、レスタトたちの運命に思いを馳せ、夜の読者たちは静かにそのページを繰るのであります。<96/11/05読了>

邦題:ビッグ・ノーウェア The big Nowhere 上、下巻 著者:ジェームズ・エルロイ
出版:文芸春秋 1993.11.25 訳者:二宮馨
価格:各2200円 極私的評価:★★★★

 ずしりと重い小説でした。『ブラックダリア』に続くLA四部作の第二作になるのですが、この暗くドロドロした情念渦巻く、狂気と暴力の世界はエルロイの独壇場ですね。登場人物が多すぎて相関関係がよく分からなくなってくるのですが、どいつもこいつもトラウマに突き動かされた異常性を秘めた主人公ばかりで(~_~;)、とんでもない猟奇殺人と50年代の奇怪なアカ狩りが同時進行するトワイライトゾーンに読者を誘います。この雰囲気が好きな人にはたまらないでしょうなあ。私らの世代にはピンと来ないところもあって、アカ狩りの描写部分には結構ノレなかったりするのだけれど、終盤、この辺が複雑に入り組んでくるのです。

 キーワードは『ホモ』ですね(~_~;)。これでもかこれでもかとエルロイの筆は畳みかけてきますが、ついには究極のホモの形態へと到達するのである。うあああああ!勘弁してくれの世界でありまする。面白くなってくるのは下巻の半ば過ぎからです。ある登場人物の自殺から事件は急転、殺人事件同士のつながりから一気に犯人との銃撃戦まで展開して行くのですが、腐敗した警察とギャングどもも巻き込んで、大いなる虚無の世界ということでありましょうか。

 それにつけてもアップショー保安官補の秘密とは何だったのかよく分からなかったのだけれど、やっぱりホモ絡みだったのかしら。ハリウッドってこんなひどいところだったのかねえ。本当、一番の悪党ミークスのまともに見えること! トラウマとは無縁に本能の赴くまま純粋に生きているからかも。この作風はやっぱりエルロイ本人の凄まじい実体験に根付いているのだろうなあ(彼の母親は幼年時に惨殺死体で見つかり犯人も見つかっていない)。辟易するほど濃厚な50年代の毒気にどっぷり浸かった一週間でありました。あ〜疲れたぁ(~_~;)。(94年8月読了)

邦題:悪童日記 La Grand Cahier 著者:アゴタ・クリストフ
出版:早川書房 1993.9.30 12版 訳者:堀茂樹
価格:1600円 極私的評価:★★★★★

 これは凄い。主人公の双子の少年とその祖母の戦時下の人間離れした生活が、『ぼくたち』の目を通して、飾り気無く淡々と必要最小限の言葉で書かれているのですが、傷口をむき出しのまま晒しているような視点には戦慄すら覚え、極限状況の中で人生の非常な現実を突きつけられた中での乾いたユーモアには苦い笑いがこみ上げてくる。これほどの衝撃を受けたのは久々であった。大人のための寓話とも、子供が主人公のハードボイルドな冒険小説とも、読みようによっては取れる希有の小説といえよう。

 ハンガリーの片田舎。ある若い母親が双子の息子を祖母の元に疎開させに来るのだが、この祖母がとんでもない婆さんで、どうやら夫を毒殺した過去があり、それを知る近隣の人たちから魔女呼ばわりされている。そうした恐るべき環境下で双子は天才を発揮し、地獄の光景から目を逸らさず、子供ならではの倫理を身につけていくのですが、『適者生存』これに尽きるようだ。なまじの教育など爆撃の彼方へ肉片として吹っ飛ばしてしまう現実の前に、現代人の倫理など通用しない。ショックを受ける前に、アゴタ・クリストフの作り出した仮想現実であるナチ支配下のハンガリーを存分に味わうべきだろう。

 恐るべき成熟を遂げた少年たちの一面は、母親との邂逅、父親との別離で頂点に達する。ここまでハードな現実には凍り付いたようなブラックなユーモアを感じざるを得ない。各章に登場した死、安楽死、性行為、サディズム、エゴ、悪意、暴力、差別、強制収容所、ジェノサイドなどの総決算として、神の拳を振り上げ、自分たちの未来への橋を架けたのであろう。

 本書は三部作でありまして、『ふたりの証拠』『第三の嘘』と続きますので、少年から若者に成長した双子に待ち受ける運命に思いを馳せるのだ。そういえば、個人名が一つも出てこないが、これはより寓話性を高める効果があったように思う。東欧から現れた新しい才能を見逃していたなんて、凄く損した気分でありました。今頃読んでて旬を逃した感じだけれど、この夏一番の収穫!(94年7月読了)

邦題:音に向かって撃て BLIND MAN'S BLUFF 作者:デイヴィッド・ローン
出版:新潮文庫 1994.7.1 訳者:平岡敬
価格:760円 極私的評価:★★★

 前作『音の手がかり』で生き残って、刑務所に服役中の誘拐犯スタークが脱獄、復讐に燃える殺人機械と化して、再び盲目の元音響技師ハーレックに襲いかかる! 確か前作では、少し頭の弱い幼児性愛者だったスタークが、今回はサイコキラーのチャンピオンにパワーアップしての登場には多少引っ掛かりますが、そんな些細な瑕疵なんぞ吹っ飛ばすド迫力。前半はほとんどスタークが主役で、悪党としての造形が見事。これでもかこれでもかと書き込まれる異常性は、ラストでのカタルシスを得るには十分すぎるほどで、特に少年時のエピソードはキングっぽくていい雰囲気出してました。

 ハーレックの活躍は後半以降で、それまではスタークにいいようになぶり者にされるのですが、暗号解読からオヘア空港での大喝劇へと緊迫度は頂点へ。ほとんどターミネータターと化したスタークとハーレックの対決は、タイトルの部分でネタ割れしているので、もう一捻りあるかと期待したのですが、まあ、こんな物かな。『音の手がかり』を楽しんだ人には、読んで損はない作品でありますね。並じゃないスタークの悪党ぶりをご覧あれ。(94年7月読了)

邦題:処刑前夜 The Red Scream 作者:メアリー・W・ウォーカー
出版:講談社文庫 1994.7.15 第1刷 訳者:矢沢聖子
価格:880円 極私的評価:★★★

 いわゆる冤罪ものなのですが、まず犯罪ライターのモリーのキャラクターがいい。40代で離婚歴あり。娘が一人。取材対象に食らいついたら離さないと根性おばさんで、暇を見ては娘とエアロビクスで腹筋30回にヒーヒー言っているところが如何に持って感じで、元旦那だった警部補や勤務先の上司との愛人関係に悩む娘が絡んで、このメロドラマぽい設定がなかなかgood。90年代らしいヒロインの登場と言えるでしょう。

 11年前の連続殺人の犯人の処刑が一週間後に迫り、その事件を本に書いたモリーが立会人として指名され、再度調査して記事を物にしようと張り切るとそこへ横やりが入り、新たな殺人事件が…。真犯人は他にいるのではないか、私の書いた記事は真実ではなかったのか。死刑廃止論者のモリーは、良心の呵責に悩みながらも謎に肉薄していく。

 取材して記事を書く場合よく取材することが両刃の剣で、詳しく聞き出して書いたのはいいけれど、裏を取るのを怠るとえらい目に遭うという見本。だけど、その裏が真実で無かった場合、何処まで書くことが許されるのだろうか。ブロンクの証言の真実と嘘の狭間に翻弄される、モリーの悪戦苦闘ぶりには身につまされる物がありますね。挙げ句の果てに命まで狙われるなんて、うーむ、ヒロインはいたぶられればいたぶられるほどよかったりなんかする(~_~;)訳で、なかなか読ませてくれます。家族の絆が戻ったモリーたちの今後は、続編に期待することにしよう。

 そう言えば、モリーの使っているパソコンってマックのようでありますね。フライング・トースターを眺める場面では、思わずニヤリとしてしまった。多分、作者のウォーカーもマックユーザーなのであろうな。(94年8月読了)

邦題:切り裂き魔の森 Mrs.White 著者:マーガレット・トレイシー(アンドリュー・クラヴァン)
出版:角川文庫 平成6年6月15日3版発行 訳者:中野圭二
価格:520円 極私的評価:★★1/2

 いきなり犯人が実名で登場してしまうのは困るではないかとと思ったのですが、作者の意図はサイコ・ミステリの恐怖よりも、夫の秘密を知ってしまった妻の葛藤とその恐怖に重点を置いていたのですね。

 確かにミセス・ホワイトの幸せそうな家庭の団欒が、一転してミセス・ホワイトの内部で音を立てて崩れていく家庭の描写のうまさはさすが。表面上何もなかったように進行する切り裂き魔の夫との家庭生活、特にベッドを共にするシーンは喉元までこみ上げてくるようなおぞましさが、これまでの愛のある生活からの対比を際立たせています。

 犯人を匿名にして、最後の最後に読者に知れるようにすれば、サスペンスはぐっと盛り上がったのだろうけれど、これはこれでミセス・ホワイトの恐怖、困惑、葛藤の部分に厚みが出て作者の意図も成功しているように思う。そしてラストの血塗られた結末は、うーむ、なかなか。最近のサイコ物に比べ比較的短めですので、食い足り無さはありますが、さくさく読めてそこそこ怖がらせてくれる佳作ではあります。(94年8月読了)

邦題:サクリファイス Sacrifice 著者:アンドリュー・ヴァクス
出版:早川書房 1993.5.30 初版発行 訳者:佐々田雅子
価格:すまん、忘れた(~_~;) 極私的評価:★★★

 『凶手』を読む前に、私自身決着を付けなくてはならなかったバーク・シリーズの最終編である(その後続編が出ました)。底辺に見え隠れする幼児虐待テーマに多少食傷気味であったため、読むことにためらいを覚えていたのだが、扉を開ければ、1ページ目からヴァクスの世界にどっぷり浸ってしまう。マックスもプロフもモグラもすべてが懐かしい。シリーズ物はこれだから止められないんだな。バックグラウンドがしっかり頭の中にインプットされていて、馴染みの顔が出てくれば出てくるほど心地よい。ヴァクスの特徴でもある各章の短い文体の独特のリズムが、アウトロー探偵バークの行動の切れ味の良さとよくマッチしていて、これでもかこれでもかと書き込まれた魔都ニューヨークの暗黒面を色々な切り口で見せてくれる。

 人類の悪行に絶望したヴァクスの人生観と、そこから救いを求めるために生まれてきたバークの存在意義が、クラレンスという「息子」とクイーンによってその道標として示されることによって、物語は一つのピリオドを迎えたわけで、タイトルも『フラッド』から続く女たちの名前から変わって、今回は『サクリファイス』すなわち「悪魔」たちから「犠牲者」を救おうというストレートなメッセージが、 バーク・シリーズの掉尾を飾るにふさわしく、そこかしこに溢れている。ストーリー自体はさほどスリリングな訳ではなく、多重人格ネタもサブプロット止まりだけれど、バークの熱い叫びが、閉じていく円環の中で確実に読者を魅了して止まない。バークはヴァクスの分身なのだ。このメッセージ性の高さが分岐点になって評価は分かれるだろうが、シリーズを追ってきた読者にとっては納得の最終編ということになるだろう(このまま終わってれば、ねえ(~_~;)。

 そうそう、パンジーとバーコの熱愛の結末はどうなったのだろうか。犬たちの話を楽しんで書いているように見えるのは、ヴァクスの人間不信の裏返しなのかな。ラストのバークの独白…新たに自分の霊が歩き出すとき、新しいバーク自身の物語が再び始まることを期待しつつ、新作『凶手』への入り口をくぐろうかと思う。(94年8月読了)

邦題:キス KISS 著者:エド・マクベイン
発行:ハヤカワ・ミステリ 1994.4.30 訳者:井上一夫
価格:1300円 (税別) 極私的評価:★★

 言わずと知れた87分署シリーズの最新刊ですが、私にとっては『死んだ耳の男』以来のキャレラたちとの再会になります。プロットもそう複雑ではなく、キャレラの父親の事件の裁判と同時進行していくのだけれど、訴訟法社会と化したアメリカの異常性が浮き彫りにされていて、いかにも病める現代アメリカの警察小説らしくて何か身につまされるものがありますねえ。

 現実社会とあまりに卑近すぎて、敬遠していた87分署シリーズだけど、本作もその例にもれないみたい。殺人事件の裁判も何でこんなドライな結末を迎えるんだ。これが現実なんだって言われればそれまでだが、小説の世界までこんな現実に支配されたくないよね。だから、デフ・マンなんか登場すると逆にホッとしたりする。

 裁判での証人喚問シーンなんか、訴訟法大嫌い人間だった私にはうんざりなのですが、このアメリカの弁護士ってのも、仕事とはいえ、紳士面して悪党を弁護するんだから、どうにも好きになれないのであります。キャレラたちの捜査も淡々と進行するし、あまりヤマ場は来ないので、電車の中で読んでいて寝てしまったのでありました(~_~;)。

 やっぱりマクベインは苦手だ。警察小説では、トマス・チャスティンの『ヘイスティング警部』もの、マイクル・Z・リューインの『パウダー警部』ものが、一押し二押しであるぞ。彼らもマクベイン並みにぜっぜと書いてくれればいいのだけれど、ここんとこご無沙汰気味で読めないのが何とも遺憾であるね。(94年8月読了)

邦題:旅行者 上、下巻 著者:ジョン・カッツェンバック
出版:早川書房 1989.5.31 初版発行 訳者:堀内静子
価格:各1500円 極私的評価:★★★1/2

 一線を越えるのは、機会なんですよね。心の奥底に秘められた暗黒が表に現れる機会。日常が死と隣り合わせの写真家ダグラスが、死を自ら演出しようとサイコキラーへの道を歩むことが不思議ではないと納得させる、カッツエンバックの筆先の説得力はなかなかです。一線を越えてなお写真家であろうとするダグラスは、やはり完全には狂人とはいえないし、あえて言うならアメリカ社会の狂気の具現とでもいうのであろうか。不幸な生い立ちと弟への愛が、より深い陰影を出して常人の持つ狂気の質を際立たせてくれるのだ。本書が書かれた1989年当時よりも今の方がよく実感できますよね、これだけ事件が多いと(その後90年代後半、さらに猟奇事件が続発してるのは周知の事実ではある(~_~;) 。

 殺人者、被害者、刑事、肉親が、殺人と復讐を一種隔離された世界で繰り広げるわけですが、特に被害者アンの心理描写がいい。生と死の間を揺れ動く感情の起伏が、ダグラスの行動の狂気のバロメーターになっていて、誘拐されてから記録者としてダグラスの心理を理解していく過程の、ある意味での正当性のある行為に戦慄を与えるのです。アメリカ社会の真実、銃社会=殺人社会の日常描写が即サイコキラーの物語なってしまうのですから。戦場での死との隣り合わせと街中での死は、何ら変わりはしないと断じてしまうダグラスは、日本人の我々から見ると狂人なのだろうけど、自分のルールを忠実に守り、衝動の度合いが計算された冷静さを超えていないのは、アメリカで常人の犯罪と言えるでしょうね、やっぱり。この辺が怖いですよ、アメリカは。

 何かとりとめもなく書いてしまったが、バレン刑事の執念も一種、偏執狂的でどっちかというとアブノーマルで、ダグラスに敵対するのにふさわしい。ラストの銃撃シーンではもっと派手にやらかしてくれるかと期待していたのに、肩すかし気味だったのはちょっと残念でありました。(94年9月読了)

邦題:将軍の娘 THE GENERAL'S DAUGHTER 著者:ネルソン・デミル
出版:文芸春秋 1994.5.25 初版発行 訳者:上田公子
価格:2700円+税 極私的評価:★★★★

 早川書房の『バビロン脱出』を書いたネルソン・ドミルと作者は多分同一人物だと思うのですが、この重厚な筆致は『誓約』までで『ゴールドコースト』からガラッと変わった作風がファンを楽しませてくれます。一人称ポールの饒舌な明るさと相棒シンシアとの掛け合い漫才みたいなやり取りが、救いようのない現実の重さを少しでも軽減するのに役立っているようです。

 我々にあまり馴染みがない陸軍犯罪捜査部(CID)の世界も詳しく書けていて面白い。フォート・ハドリー内部にすでに3人のCID捜査官がいて、さらにプラスアルファ。これがエッと驚かせてくれます。このポール・ブレナーという捜査官は有能なのですが、少々破天荒なところがありまして、補佐役のシンシアのハラハラさ加減と恋愛模様が色を添えて、結構シリアスなフーダニットなっていて読み手を飽きさせないのはさすが。この辺の呼吸は『ゴールドコースト』で会得したものでしょう。

 こんなにたくさんのキンタマ(原文通り)が引き起こした、基地中を巻き込んだレイプ殺人。しかも被害者は基地の将軍の娘だった。陰惨な殺人事件なのに、悪人らしい悪人は出て来ずに、敵は個の陰に隠れた体制の悪であるとデミルの筆は告発します。過去の悪夢が引きずり出した腐敗の凄まじさは呆気に取られるほどで、これほどまでに爛れた空気の基地内での行きそうで行かないポールとシンシアの関係は、なかなか微笑ましかったりする。そんなもんで、ラストの州間高速での二人のやりとりは何だかほのぼのとしてしまうんですよね。

 そうそう、この典型的な南部人のヤードリー署長のキャラクターも捨てがたいな。ファウラー大佐やスペシャリスト・ベーカーやら脇役人の造形がしっかりしてるから、本書は米国でベストセラーになるのも頷けるところです。日本でも、もっと人気が出ても不思議じゃないんだけどなぁ。『ゴールドコースト』より本書の方が、ミステリ仕立てである分だけ私には楽しめました。このポールっていうキャラクターを、この一作だけにしちゃうのは如何にももったいないと思うのですが…。(94年8月読了)

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