星の伝承

ここでは、星座(星の名)以外の星一般を対象とした伝承をはじめとして、惑星、太陽、日・ 月食、流星、彗星についてまとめました。それぞれに気象や暮らし、社会、信仰、吉凶の卜占 などの分類を行い、解説を加えてあります。事例については、項目別に北海道から沖縄県まで 都道府県順に示しました。惑星の伝承は、ほとんどが金星に関するものです。星一般を含め、 星の名に関する伝承を扱った事例も混在していますが、分類の関係でここに収録しました。な お、日食と月食に関しては、内容的に分割できない事例が多いことから、一括してとり扱って います。



天の川と気象

かつてはどこでも見られた天の川ですが、伝承となると事例はわずかです。 《事例》 ○天の川がきれいに見えると翌日は晴れる 〔群馬県利根郡〕


金星と漁業

漁業における金星の利用は、イカ釣り漁において顕著です。伝承もその例外ではなく、特に北 日本に集中しています。 《事例》 ○ヨアケノミョウジョウが出るときイカがよく釣れる 〔北海道積丹郡〕 ○夜中やってイカが釣れなくとも、ヨアケボシが出てから釣れることがある 〔北海道古平郡古平町〕 ○アケノミョウジン(明けの明神)の出から日の出にかけてはイカがよく釣れる 〔北海道古宇郡〕 ○晩方の七時からつくのがナドキイカで、メシタキボシ(飯炊き星)の出るころになると朝イ  カがつく 〔北海道古宇郡〕 ○日暮れにはナドキイカがつき、朝イカはヨアケノミョウジョウにつく 〔青森県下北郡〕 ○ヨアケボシ(夜明け星)には朝イカがつく 〔青森県八戸市〕 ○夜明け前、ヨアケノミョウジョウが出てから海面がうす明るくなることをハマジラメといっ  て、このときが朝イカのナツキ 〔新潟県両津市〕 ○朝早く、鯛釣り漁に使うアカエビをとりに行くときは、東の空に出るアサノヒトツ(朝の一  つ)を目あてに船を走らせた 〔千葉県銚子市〕 ○昔は「アケノミョウジョウが出てきたから漁をやめよう」などと言った 〔千葉県銚子市〕 ○朝早く網あげのために出漁するとき、東の空にヨアケノミョウジンを見て夜明けが近いこと  を知った 〔千葉県勝浦市〕 ○イワシのまき網漁では「トンキョボシ(頓狂星)が出たから早く網をあげなければ」という 〔静岡県沼津市〕


金星と農業

調査事例では、金星と農業に関する伝承は多くありません。 《事例》 ○さつま芋掘りのときは、クレノミョウジョウを目あてにした 〔埼玉県所沢市〕 ○ヨアケノミョウジョウを目あてにして野菜の荷売りに出かけた 〔埼玉県浦和市〕 ○ミョウゾウの星に後光がさして見えるとその年は豊作である 〔東京都西多摩郡〕 【解説】金星の輝きから、作物の豊凶を卜う事例はめずらしいといえるでしょう。


金星と暮らし

日常の暮らしでも、明け方の金星に対する伝承が主体です。実際には、伝承以上にさまざま な利用が行われていたものと推測されます。 《事例》 ○東の山の上にトビアガリ(飛び上がり)が出ると起床の時刻 〔埼玉県比企郡〕 ○トンビアガリが出たら朝飯の仕度をはじめる 〔埼玉県大里郡〕 ○明るい大きな星でも、てぬぐいの織り目をとおして見ると四つか五つに分かれて見える 〔埼玉県所沢市〕 【解説】かつては布を透かして星を見ることが実際に行われていたものと推測されます。 ○オオボシ(大星)が上がったらもう夜が明ける 〔千葉県富津市〕 ○昔は明け方になると「小便が近いからそろそろヨアケボシが出るべぇ」などと言った 〔千葉県南房総市〕 ○昔は「アケノミョウジョウが出たら、あとどれくらいで夜が明ける」などと言っていた 〔千葉県勝浦市〕 ○オオボシが出ると夜が明ける 〔千葉県鴨川市〕 ○大きい星は3回出る。朝に出て、お昼に出て、晩にも出る 〔東京都西多摩郡奥多摩町〕 【解説】白昼に見える星は金星で、古記録などにもしばしば登場し、近年までは意識的に観  察されていたようです。基本的な条件として、太陽からの離角が大きく最大光度にあり、  かつその日の気象条件に恵まれることがポイントとなります。 ○夏の朝4時頃にオオボシが上がると「さあオオボシが出たから夜が明ける」などと言った 〔神奈川県横浜市神奈川区〕 ○夜の漁では「オオボシが出たからもう夜が明ける」などと言う 〔神奈川県横浜市金沢区〕 ○オオボシが上がると海の中が明るくなる。これをメアケという 〔神奈川県横須賀市〕 ○オオボシが上がりきると夜が明ける 〔神奈川県横須賀市〕 ○冬の間はオオボシが出ても夜明けは遅い 〔神奈川県三浦市〕 ○メシタキボシ(飯炊き星)は夜明けを知らせる星で、これが出ると朝飯の仕度をする 〔静岡県下田市〕


彗星と気象

彗星の出現も非日常的な現象の一つであり、それが大彗星の場合は、民間においても大きな 関心の的でした。各地にのこる近世の日記などにも、その記録を散見することができます。 ただし、伝承としての彗星は、社会的な変事との関係が主体で、気象に関するものは多くは ありません。 《事例》 ○ホウキボシ(箒星)が出ると雨が多くなる 〔埼玉県北埼玉郡〕 ○ホウキボシが出ると陽気が悪い。またその年はよくないことがある 〔埼玉県蓮田市〕 ○ホウキボシが出ると雨が降る 〔千葉県八千代市〕 ○ホウキボシが姿を現すと陽気が悪くなる 〔山梨県北都留郡〕


彗星と暮らし

暮らしや生業のなかで、彗星の出現を捉えようとした伝承もいくつか記録されています。 《事例》 ○ホウキボシが現れると凶作になる 〔埼玉県比企郡滑川町〕 ○ホウキボシが現れると困窮(不作)になる 〔埼玉県大里郡川本町〕 ○ホウキボシが太陽の上がる方角(東向き)に見えるときはよいことがある 〔千葉県流山市〕 【解説】彗星の向きから吉事が生まれるという発想は、めずらしい事例でしょう。 ○ホウキボシを見ると病気になりやすい 〔東京都東大和市〕 ○ホウキボシは高ボウキの形に出る星でめったに見られない 〔東京都西多摩郡瑞穂町〕 ○ホウキボシの出る方角では火事が起こる 〔山梨県北都留郡〕 ○ホウキボシは鍋底に火がついたように見える 〔山梨県北都留郡丹波山村〕


彗星と社会的な変事

彗星の出現を、さまざまな変事の前兆とみなした伝承が広く分布しています。大半は「戦 争が起こる」というものですが、時代の世相を反映した伝承といえます。 《事例》 ○ホウキボシが出ると不吉なことがある。子どものころホウキボシが見えて間もなく日露  戦争が起こった 〔福島県南会津郡〕 【解説】彗星の出現と戦争の関係は、日露戦争のような実体験によって必要以上に誇張さ  れて伝播した可能性があります。 ○ホウキボシが出ると騒動が起こる 〔福島県耶麻郡〕 ○ホウキボシが出ると世が変わる 〔茨城県龍ヶ崎市〕 ○ホウキボシが出ると何かよくないことがある 〔茨城県牛久市〕 ○ホウキボシというのは戦ができる星で、この星が見えると国が荒れる 〔栃木県下都賀郡〕 ○ホウキボシがよく見えるときには災いが起こる 〔栃木県足利市〕 ○ホウキボシが出るとよくない 〔栃木県下都賀郡〕 ○ホウキボシが出るとよくないことがある 〔群馬県各地〕 ○ホウキボシが出ると不吉なことがある。または災い事がある 〔埼玉県各地〕 ○ホウキボシが出ると国に変事あり 〔埼玉県各地〕 ○ホウキボシが出ると戦争が起こる 〔埼玉県各地〕 ○ホウキボシは世の変わり目に出る 〔埼玉県所沢市〕 ○ホウキボシが出るとその年は忌む年だという 〔埼玉県東松山市〕 ○ホウキボシが出ると悪いことがあるので、ぼたもちなどを供えて拝む 〔埼玉県北埼玉郡川里村〕 【解説】日月食のように、彗星そのものを信仰の対象として拝する行為はめずらしいもの  です。 ○ホウキボシが陽の昇る方角(東向き)に見えるときはよいことがある。また北向きに見  えるときは悪いことがある 〔千葉県流山市〕 ○ホウキボシが出ると何かよくないことが起こる 〔千葉県東葛飾郡、印旛郡〕 ○ホウキボシが現れると人の魂が飛んだという 〔千葉県印旛郡〕 【解説】流れ星のように、彗星を人の魂とみた事例ですが、流れ星と混同している可能性  があります。 ○ホウキボシが出ると戦争がある 〔東京都西多摩郡〕 ○ホウキボシが出ると異変がある 〔山梨県塩山市、北都留郡〕 ○ホウキボシが現れると三年もたたぬうちに戦争がある 〔山梨県北巨摩郡、北都留郡〕


太陽と気象

月暈と同様に、日暈も雨の前兆としてよく知られています。太陽が暈をかぶると、その環 上に偽の太陽が一つあるいは二つ現れることがあり、幻日と呼ばれます。本物の太陽を加 えると、合計三つの太陽を見ることができるわけですが、この現象は古くから記録に表れ ています。 《事例》 ○日暈は近々雨になる兆し 〔福島県いわき市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が近い 〔福島県いわき市〕 ○お天道さまの水上がり(太陽が水際から上ること)は雨が降る 〔茨城県北茨城市〕 ○太陽がお暈をかぶったら雨になる 〔茨城県ひたちなか市〕 ○「太陽の水上がり」といって、まわりに雲がない状態で太陽が水平線から上がると、一  日か二日後に雨か風となる 〔茨城県東茨城郡〕 ○お天道さまがお暈をかぶると雨が降る 〔茨城県潮来市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔栃木県佐野市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔群馬県沼田市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔埼玉県比企郡〕 ○太陽の脇に小さな虹が出ると海が荒れる。これをコヒという ・太陽や月のまわりに暈ができると雨の前兆 〔千葉県富津市〕 ○太陽が暈をさすと風が吹く、あるいは雨が降る 〔千葉県安房郡〕 ○ヒヨウトリの西風も日が沈むと凪 〔千葉県旭市〕 【解説】ヒヨウトリは日雇いのことで、日中にいくら西風(北寄りの風を含む)が吹いて  も、太陽が沈めば凪になるという意味です。 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔千葉県いすみ市〕 ○太陽が水際から上がると風が吹く 〔千葉県夷隅郡〕 ○お天道様や月がお暈をかぶると二、三日後に雨が降る 〔千葉県夷隅郡〕 ○お天道様が水際から上がると雨が降る 〔千葉県勝浦市〕 ○太陽や月が暈をかぶると翌日は雨が降る 〔千葉県勝浦市〕 ○めったにないが、太陽の両脇に虹のような光が見えることがあり、これを「太陽がコシ  をとる」という。これが現れると陽気がわるくなる 〔千葉県勝浦市〕 ○太陽の両脇に現れる虹のような光を「太陽のコシ」と呼び、これが出ると二、三日たっ  て天気がわるくなる 〔千葉県勝浦市〕 ○朝の太陽が雲の上ではなく水際(水平線)から上がると天気が悪くなる 〔千葉県鴨川市〕 ○太陽のまわりに暈ができると翌日は雨が降る 〔千葉県鴨川市〕 ○太陽が水(水平線)から出ると時化が近い 〔千葉県南房総市〕 ○日の出の太陽が赤くなり、水をもつと雨が近い 〔千葉県南房総市〕 【解説】"水をもつ"というのは、出現した太陽の下部が「ハ」の字状になって海面とつな  がって見える現象で、蜃気楼の一種と考えられています。 ○お天道さまが西へ動いて、あと二、三時間でお昼になろうかというとき、少し雲が出て  くるとお天道さまの右と左にコヒがみえることがある。これが現れると「アメナレェに  なる」といって、一、二日のうちに海が荒れた(北東の風が吹いて雨が降る) 〔千葉県南房総市〕 【解説】コヒ(おそらく小日)は、いうまでもなく幻日のこと。この現象に注目した伝承  は少ないようですが、静岡県では類似の伝承がいくつか記録されています。 ○太陽のまわりに虹の輪ができると翌日か二日後に雨となる 〔千葉県南房総市〕 ○太陽のそば(多くは右側)にもう一つの太陽のような光が見えることがある。これをコ  ヒといって「コヒが出ると明日は時化る」と言われた 〔千葉県銚子市〕 ○太陽が暈をかぶると雨 〔東京都青梅市〕 ○めったにないが太陽の脇に虹を切ったようなコビが出ることがある。そうするとニシジ  ケとなり、これが北に出た場合はナレェジケ(北風が吹いて時化ること)になる 〔神奈川県鎌倉市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔神奈川県三浦郡〕 ○太陽や月のまわりに大きな虹の輪(デェマルと呼ぶ)ができると雨が降る。またデェマ  ルが濃いほど陽気がわるくなる 〔神奈川県横須賀市〕 ○太陽や月がまるとうなる(日暈、月暈のこと)と三日位で雨が降る。そして暈の色が濃  いほど早く降る 〔神奈川県三浦市〕 ○太陽のまわりに虹ができると天気が変わる 〔神奈川県三浦市〕 ○日の出のとき、太陽のまわりが赤く染まると陽気がこわれる 〔神奈川県三浦市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔神奈川県茅ヶ崎市〕 ○太陽の両側にコビが現れると陽気がわるくなる ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔神奈川県中郡〕 ○夕方の日暈は、雨が降るといって嫌った 〔山梨県北都留郡〕 ○太陽のまわりに虹が出ると翌日は雨 〔静岡県伊東市〕 ○お天道さまが暈を背負(しょ)ったら海が時化る 〔静岡県伊東市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔静岡県沼津市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨か風になる 〔静岡県静岡市〕

日暈(暈の内側は暗い)


太陽と暮らし

太陽をめぐる暮らしとの関係では、日の出(夜明け)や日の入り(日没)などを中心とし た伝承がいくつかみられます。 《事例》 ○冬の夜明けはアケアケ三里 〔千葉県勝浦市〕 【解説】これは、東の空が白み始めてから太陽が上がるまでに三里も歩くことができると  いう意味で、逆に春の夜明けは早く、また秋の夕日はつるべ落としといわれます。


太陽と信仰

信仰の対象として、あまりに身近な存在だからでしょうか、特に伝承というかたちではの こされていません。わずかに、オテントウサマへの素朴な信仰の名残が窺える程度です。 《事例》 ○お日さまが沈むところは見るものでない(もったいないことである) 〔埼玉県所沢市〕 ○昔の人は、朝起きると必ず太陽を拝んでいた 〔埼玉県入間郡〕

幻想的な朝の風景


日食・月食と暮らし

暮らしとのかかわりでは、より現実的な伝承が多くみられます。また、実際に日食を体験 した話も少なからず記録されています。 《事例》 ○日食や月食のときは外出をしない 〔埼玉県比企郡〕 ○日食のある年は温度が上がらなくなるのでよくない 〔埼玉県北埼玉郡〕 ○日食のときは直接太陽を見ないでタライの水に映して見る 〔東京都武蔵村山市〕 ○若いころ山で日食を見た。八分ほど太陽が欠けたので、星もいくつか見えた 〔東京都西多摩郡〕 ○大正時代にあった日食は、太陽が八分以上も欠け、辺りが夕暮れどきのように暗くなっ  て、目だった星もいくつか見ることができた 〔東京都西多摩郡〕 ○子どものころに、八分ほど欠けた日食をみたことがある。あたりが夕方のように暗くな  った 〔山梨県北都留郡〕

オーストラリア日食(撮影:箕輪敏行氏)


日食・月食と信仰

日食や月食は、非日常的な天象において人々の暮らしに対し大きな影響力をもった現象の 一つです。とくに食分の大きな日食は、文字どおり天変地異として受けとめられていまし た。民間伝承では、このような現象に対して、太陽や月が病気になったとする見方が一般 的です。しかも、多くは人間の代わりに病気を患っているとの認識がその根底にあります。 したがって、伝承のタイプとしては、現象の認識について説明したものと、次のステップ である現象への対応行動を説明した二つの類型が認められます。 《事例》 ○日食のときは、お天道さまが病気で悪いことがあるから、ローソクを立てて太陽を拝ん  だ 〔茨城県北相馬郡〕 【解説】太陽や月が病気になった状態と捉えた見方は各地にあり、一つの典型的な伝承パ  ターンを形成しています。 ○日食や月食のときには、年寄が太陽や月を拝んでいた 〔茨城県新治郡〕 ○日食や月食が起こるのは、人間が悪いことをするとお天道さまやお月さまが怒って隠れ  てしまうから 〔茨城県北相馬郡〕 【解説】この事例は、人間の行動によって太陽や月が姿を隠すというパターンを形成して  おり、類似の事例はほとんどみられません。 ○日食というのは、お天道さまが天の岩戸に隠れてしまうもの 〔栃木県下都賀郡〕 ○日食というのは、太陽が少し病気になったので暗くなる 〔埼玉県羽生市〕 ○日食は太陽が病んでいる。また月食は月が病んでいるといい、そういうときにはご飯な  どを供えて太陽や月を拝んだ 〔埼玉県児玉郡〕 ○昔は、日食があると庭に線香を立てて太陽を拝んだ 〔埼玉県各地〕 ○日食というのは人間の代りに太陽が病気になってくれるものなので、堆肥場などにムシ  ロをかけた 〔埼玉県深谷市〕 【解説】病気型にその対応行動が付加されたパターンで、行動自体にもいくつかのバリエ  ーションがあります。この事例では堆肥場に莚をかけるとしていますが、他にも井戸や  田畑など、人の暮らしの重要な場所に覆いをするという行動が伝えられています。これら  は、病気を感染させないための防衛策と考えられます。 ○日食のときには太陽を拝み、井戸になどをかけて蓋をした 〔埼玉県本庄市、児玉郡〕 ○日食や月食のときには、ご飯などを供えて太陽や月を拝んだ 〔埼玉県児玉郡〕 ○大正時代までは、日食や月食のときに井戸に筵やゴザをかぶせていた 〔埼玉県大里郡〕 ○月食というのは月が病むものなので、その晩は井戸にカサ(どんな笠でもよい)をかぶ せた 〔埼玉県秩父郡〕 ○月食のときには、つり井戸に莚をかぶせて蓋をした 〔埼玉県秩父郡〕 ○日食や月食のときには、灯りをあげて月や太陽を拝んだ 〔埼玉県秩父郡〕 ○日食は、太陽が病気になることなので、どこの家でも井戸に蓋をした。また井戸端にツ  ケギを置いた家もある 〔埼玉県比企郡〕 【解説】ツケギは、火を焚きつけるための「つけ木」のことです。10a×4aほどの薄い  木片に硫黄を塗ったもので、かつては商店で販売されていました。これを井戸端に置く  意味についてはよくわかりません。 ○日食というのは、人間が浮世の中で苦しんでいるのを太陽がその苦しみを和らげるため  に自分で苦しんで人間を救っている。だから太陽はほんとうにありがたいものだ 〔埼玉県所沢市〕 ○日食というのは太陽が厄を祓うものである 〔埼玉県所沢市〕 ○日食のときにはお日様さまが隠れるところを見るものではない 〔埼玉県所沢市〕 ○日食や月食というのは、太陽や月が人間の病気を患ってくれているので手を合わせて拝  む 〔埼玉県各地〕 ○日食や月食は、みんなの代りにお天道さまや月が病気になってくれているものなので、  そういうときにはお天道さまや月を拝んだ 〔千葉県東葛飾郡〕 ○日食はお天道さまが病気をしているので見てはいけない。もし日食を見たら病気になる 〔東京都東大和市〕 【解説】この事例では、病気説を飛躍させ、人への感染を忌む内容となっています。その  背景には、日食をみてはいけないという基本的な姿勢が窺えます。 ○昔は、日食があると年寄りたちが「暗くなった世の中が再び明るくなるように」と太陽  を拝んでいた 〔神奈川県津久井郡〕 ○日食や月食のときは井戸にふたをした 〔神奈川県津久井郡〕 ○日食はお天道さまが国民に代って病んでくれるもので、もっとも欠けたときにはいちば  ん苦しいときだからといってみんなでお祈りをした 〔山梨県北都留郡〕 ○月食のときには洗面器に水を入れ、これに映して見ると月の病が早く治る 〔山梨県南都留郡〕 【解説】月食という特異な現象に対して、通常の月がもつ以上の力(霊力)を感じたので  しょうか。


星と気象

総体的な星と気象に関する伝承は、その瞬きと風について説明したものが主体です。ほぼ 全国的な伝承であり、観天望気の代表といえるでしょう。 《事例》 ○「星に風をあてる」といって、星がキラキラするときは風が出る 〔福島県いわき市〕 ○星がチカチカ光ると風が出る 〔茨城県北茨城市〕 ○星がキラキラ光ると風が吹く 〔茨城県ひたちなか市〕 ○夜朝に空を見て、いつもより星が光ると風が出る兆しである。そうするとナリ(海鳴り)  を聞いてその風向きを予測した。南のナリが強ければ南風が、北のナリが強ければ北風  が吹く 〔茨城県東茨城郡〕 ○星がチカチカするとその翌日は風が吹く 〔茨城県神栖市〕 ○西にある奥山の平らな稜線の上にいくつか星が見えると、翌日は入道雲が出て天気が変  わる 〔群馬県沼田市〕 ○星がピカピカ光ると風が出る 〔千葉県浦安市〕 ○星が強く光る(またたく)と風が出る 〔千葉県木更津市〕 ○冬の間、テンパレで星がチカチカすると風が吹く 〔千葉県富津市〕 ○星がチカチカすると風が吹く 〔千葉県安房郡〕 ○星がはっきりと見えチカチカするときは、上空の塵が吹き払われている証拠なので、や  がて風が出る 〔千葉県南房総市〕 ○星のまたたきが強いとよい天気が続く 〔千葉県南房総市〕 ○寒に入り、星がピカピカ光ると翌日は南西の風が吹く 〔千葉県鴨川市〕 ○星がチカチカまたたくと風が出る 〔千葉県勝浦市〕 ○冬、夜空が天晴れとなり、いつもより星がチカチカすると翌日は風が出る 〔千葉県勝浦市〕 ○夜によく光る星がまたたいて見えると、その星がある方角から風が吹く ・宵の口に星がキラキラしていると翌日は風が吹く ・星が光ると翌日は風 〔千葉県夷隅郡〕 ○星の光が強いと、やがて風が吹いてくる 〔千葉県いすみ市〕 ○星がギラギラ光ると翌日は風が出る 〔千葉県山武郡〕 ○星がいつもよりチカチカすると翌日は風が吹く 〔千葉県山武市〕 ○星がチカチカしていると風が吹き、どんよりしていると凪になる 〔千葉県銚子市〕 ○星がキラキラすると時化になる 〔千葉県銚子市〕 ○夜、星がぎらついて見えると翌日は風が出る 〔東京都江戸川区〕 ○星がうるむと雨か雪が降る 〔東京都西多摩郡檜原村〕 【解説】星がうるむとは、空にうす雲がかかって光が弱くなって滲んで見える状態をさし  なすが、これを「潤む」と表現したものでしょう。 ○星がうるむと天気が変わる 〔東京都西多摩郡五日市町〕 ○星がキラキラ光ると風が出る 〔神奈川県横浜市金沢区〕 ○星が透き通って見えると風が吹く 〔神奈川県横須賀市〕 ○夜、上空で星がチカチカするときは風が吹く 〔神奈川県横須賀市〕 ○夜に風が強いと星がチカチカする 〔神奈川県三浦郡〕 ○星がチカチカすると上(空)は風が吹く 〔神奈川県鎌倉市〕 ○天竺がきれいだと風が吹く 〔神奈川県鎌倉市〕 【解説】「天竺がきれい」とは、夜空が澄んで星がギラギラ輝く様子を表現した言葉です。 ○星がキラキラすると風が出る 〔神奈川県中郡〕 ○「星に風がかかる」と星がチカチカする。そして風はその方角から吹く 〔石川県鳳至郡穴水町〕 【解説】星の瞬きが、風の影響によるものという認識に立った見方です。 ○星のまわりに雲があると風が吹く。その雲が東に流れると天気になり、西へ流れると雨  になる 〔山梨県北都留郡上野原町〕 ○星の光がキラキラときれいに見えると翌日は西の風が吹く 〔静岡県伊東市〕 ○星がキラキラ瞬くと風が出る 〔静岡県沼津市〕 ○星がチカチカすると風が出る 〔静岡県静岡市〕 ○冬なって、星がよく光って見えると翌朝は冷える。また風が出る 〔静岡県焼津市〕


星と凶事

事例はわずかですが、星の出を凶事と捉えている伝承があります。 《事例》 ○星が三列に並んで出ると、よくないことがある(たとえば米がとれなくなるなど) 〔埼玉県北埼玉郡〕 【解説】星の特定はできませんが、三つあるいは三列の星の出が不吉な前兆として捉えら  れている点は興味深いものがあります。


星と生業

農業や漁業において、特定の星を対象としない、あるいは星を特定できない伝承が記録さ れています。 《事例》 ○秋口になると、夜明け前に南の中空に出る明るい星を目あてに出漁した 〔茨城県北茨城市〕 ○秋に斗マスの形をした星が出ると豊作になる 〔埼玉県南埼玉郡宮代町〕 【解説】斗マスとは、穀物などを計量する一斗桝のことです。これには、開口部が四角形  や円形、さらに楕円形をした斗桶などがあり、一概に四角形の星の配列をあてることは  できません。 ○昔は、日が暮れて星が見えはじめると、その星を目あてに海へ網を入れた。これを二番  ガイという 〔千葉県安房郡〕 【解説】当該地では底立網、底曳網、浮流し網、定置網、刺網などの網漁が行われていた  ようですが、この伝承が特定の漁に限られたものかどうかは不明です。また、目あてと  なる星は宵の明星などの明るい星が考えられます。因みに、一番ガイは昼間の網入れで  す。 ○かつて、館山湾内で漁をする磯舟の漁師らは、ある特定の星と山のシルエットを合わせ  ることによって漁場の識別を行っていた 〔千葉県館山市〕 【解説】湾内は、複雑な地形によってさまざまな生きものが生息し、それぞれの漁に適し  た漁場の把握が必要であったと推測されます。 ○秋の麦播きは、星を頼りに時期を定めた 〔神奈川県津久井郡〕 【解説】周辺地域の事例から、この星はからす座の四辺形かうしかい座のアルクトゥルス  などが想定されます。 ○イカがどの星の出につくかは日によって異なる。星の出に間があるときは寝て待った 〔新潟県両津市〕

楕円状の斗桶


木星と暮らし

金星以外の惑星では、木星に関する伝承がわずかにみられる程度です。 《事例》 ○ヨナカノミョウジョウ(夜中の明星)が真上にくると夜中になる 〔埼玉県秩父郡〕 【解説】内惑星である金星は夜中には見られないので、この場合の明星は木星のことにな  ります。


流星と気象

流星の出現を気象の変化と結びつけた伝承は各地にありますが、調査では数例だけ記録さ れています。 《事例》 ○流れ星が東へ流れれば東から、沖へ流れたら沖の方から風が吹く 〔千葉県いすみ市〕 ○星が流れると雨か嵐になる 〔東京都西多摩郡五日市町〕


流星と吉事

流星を幸運の星と捉えた伝承が各地に分布しています。多くは、流星の出現時にとるべき 行動が主体となっており、いくつかの類型がみられます。 《事例》 ○流れ星が自分の方へ向かって飛んでくればお金が入る 〔埼玉県所沢市〕 ○流れ星が消えないうちに「・・・・・一升」といえばお金が入る 〔埼玉県入間郡〕 【解説】流れ星を見たときに、願い事をしたり、きまり文句を唱えたり、特別な動作をす  るとそれらが叶うという伝承は各地にあり、さまざまなバリエーションがみられます。 ○流れ星を見たら、それが消えないうちに願い事をいうと叶えられる 〔埼玉県東松山市、比企郡〕 ○流れ星を見るとよいことがある 〔千葉県印西市〕 ○流れ星を見ると何かいいことがある 〔千葉県成田市〕 ○流れ星を見つけたら、それが消えないうちに「ヨビャアボシ、ヨビャアボシ・・・・・」と  何回も唱えると縁起がよい。昔はこれをやって博打で儲けた人がいる 〔東京都西多摩郡〕 ○流れ星を見たらそれが消えないうちに願をかける 〔神奈川県津久井郡〕 ○流星に願いごとをすれば叶う 〔山梨県北都留郡〕 ○流星を見ると運がよい 〔山梨県北都留郡〕


流星と凶事

凶事との関係では、人の死や火災などに結びつけた伝承が主体となります。 《事例》 ○星が流れると人が死ぬ 〔群馬県多野郡〕 ○流れ星を見ると不吉な予感がする 〔群馬県利根郡〕 ○流れ星が飛ぶと人が死ぬ 〔埼玉県飯能市〕 ○流れ星が飛ぶと縁起がよくない 〔埼玉県秩父郡〕 ○流れ星が飛ぶと山火事が起こる 〔東京都西多摩郡〕 ○星が流れるのはヒトダマで、これが見えると不幸や災害が起こる 〔東京都西多摩郡檜原村〕 ○流れ星を見ると人が死ぬ 〔山梨県北都留郡〕 ○ヌケボシ(抜け星)が屋根に落ちるとその家では悪いことがある 〔長野県上伊那郡〕


流星と暮らし

日々の暮らしのなかで、流星とのかかわりを捉えた伝承が記録されています。 《事例》 ○流れ星は手前(自分の方)にはこないで先へ流れる 〔埼玉県吉川市〕 ○流れ星は秋に多く飛ぶ 〔埼玉県秩父郡〕 ○ヨバイボシには赤いものと青いものがあり、赤いヨバイボシはよいが青いのはよくない 〔東京都西多摩郡〕 ○ヨバイボシは流れずに落ちるものだから、藪で拾った人もある 〔東京都西多摩郡〕 ○流れ星は空を流れてほかの星にくっつく 〔東京都西多摩郡〕 ○尾をひいて流れる星があるが、これは鳥が飛んだときにその尾が光るからである 〔東京都西多摩郡〕 ○流れ星は朝方に多く飛ぶ 〔神奈川県横須賀市〕 ○星が横に流れるのをヤマドリが飛ぶといい、上から落ちてくるものを流れ星という 〔神奈川県津久井郡〕 【解説】流れ星を、ヤマドリやキジなど尾の長い鳥が飛ぶ姿に見立てた事例は少なくあり  ません。山間地では、小鳥が夜空を飛ぶときに光って見えるので、流星と見間違えたと  いう伝承も聞かれます。 ○ヨビャアボシは、今あった星がひょこっと落ちる 〔山梨県北都留郡〕 ○星が流れるのは尾長鳥が飛ぶからだ 〔長野県上伊那郡〕


流星と人魂

流星を人魂とみている伝承は古く、各地に分布しています。地域によっては、これを流星 の色で呼び分けている伝承もあり、その場合は青色と赤色が一般的です。 《事例》 ○流れ星は、人の魂が飛んだもの 〔栃木県下都賀郡〕 ○流れ星を二十歳前に見ると、その後は人の魂が流れるのを見ることができる 〔埼玉県行田市〕 ○流れ星は「人の魂」だという 〔埼玉県比企郡〕 ○流れ星を見ると「ヒトダマが飛んだ」という 〔埼玉県大里郡〕 ○夜空を火の玉が飛ぶとき、赤いのを飛玉、青いのはヒトダマという 〔埼玉県入間郡〕 【解説】この伝承は、色によって火の玉と人魂を呼び分けている事例です。 ○流れ星はヒトダマという 〔千葉県野田市〕 ○赤い火の玉はカネダマ、青い火の玉はヒトダマという 〔東京都西多摩郡〕


その他の伝承

天体あるいは気象のいずれとも判断しがたい事例を集めてみました。 《事例》 ○明け方の東の空や夕方の西空に短い虹が立つことがあり、アサゴシあるいはヨイゴシと  呼ぶ。これが現れると一日か二日で時化になる 〔千葉県鴨川市〕